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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二章

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戦乙女の舞踏

 シュウイチです。


 人生最大のフラグを自らへし折ったとです。


 シュウイチです。


 ハーレムルートはなかなか難しいとです。


 シュウイチです。


 女心がわからなさ過ぎてへこんでいる所です。


 シュウイチです、シュウイチです、シュウイチです・・・。


「なんだ、ただ迎えに行っただけなのに随分とへこんでるな何かあったのか。」


 ウェリスが心配して声をかけてくれる。


「自分の不甲斐なさに落胆しているところです。」


「どうせ女がらみでへこんでいるんだろうが女なんて星の数ほどいるんだ、そんなことでうじうじしてるんじゃねぇよ。」


「今まで女っ気が全くなかった人のせりふとは思えませんね。」


「これでも昔は浮名の一つや二つ流したさ、ここ最近ご無沙汰だっただけよ。色町には行ってたけどな、あそこはいいぞ乳もでかいし具合もいいし。」


 真昼間から猥談とはさすがだな。


 でも今日はそんな気分ではない、一人静かに部屋の隅で泣くことにしよう。


 でも今日攻め込むんだったか。


「世の中にはセクハラという言葉がありますから注意したほうがいいですよ。」


「なんだそりゃ。」


 そうか、こっちの世界にはそういう言葉はないのか。


 伝えるのが難しいからさらっと流しておこう。


「今戻った。カムリ、作戦とやらを詳しく聞かせてもらおうか。」


「畏まりました。」


 分団長室に入りいつも通り作戦会議に入る。


「先ほど斥候部隊も戻ってまいりまして正確な場所と武装状況の確認が取れております。ウェリスの話の通り先の渓谷入り口に巨大な城壁を発見。城壁上部に弓兵を3人視認できたそうです。渓谷上部への進入路は発見できず内部の状況は不明のままです。」


「ウェリスは偽情報を流しておらんかったということか。」


「さすがの俺もそんな馬鹿らしいことはしません。」


 それはそうだ。


 嘘をついたところで自分にはマイナスしかないわけだしな。


「内部への進入方法はどうか。」


「イナバ殿発案の方法にて計画を進行中です。ただし、この作戦には私の権限で決定できない事案が含まれますので分団長の許可をいただきたく思います。」


「今回もイナバ殿の作戦か。さすがというべきかそれとも我が騎士団が不甲斐ないと嘆くべきか。」


「そのことにつきましては面目次第もございません。」


 いやそんなに優秀な作戦ではなくむしろ行き当たりばったりのところがあるので、これ以上責めてあげないでください。


「イナバ殿説明いただいてもよろしいか。」


「畏まりました。」


 イケメン副団長からバトンを受け取り説明に入る。


 なんだろう、プレゼンしてる気分だ。


「今回の作戦ではウェリスの協力を借りて正面の門から堂々と潜入します。ただし、最初は私とウェリスそれと部下の皆さんが物資を持ち込んで帰って来たという体で進入します。その際、武術に秀でた方が物資の中に隠れ搬入後単独で塀の上の兵士を排除。状況に応じて外部から援軍を迎えいれて開城する予定です。」


「正面突破とはずいぶんと大胆な作戦を考えついたな、しかし何故イナバ殿がウェリスと共に現地に行かねばならんのだ。」


「ウェリスは昨日騎士団とやりあったばかりで敵地に逃走する可能性があります。それを危惧している兵も多いようですので逃走防止の為に私が同行する運びとなりました。実際に敵のリーダー二人とやりあうにはウェリスではなかなか難しいと思いましたので私が直接話をしようと思っています。」


「それはカムリや私では勤まらんという事か。」


 いや、そういうわけではないんですけど。


「お二方は相手にも顔が知られておりますので、ウェリスと共に行っても開門してくれない可能性が高いのです。今回の作戦は相手がまだ裏切っていないと思っているウェリスなら中に入れるという条件を逆手に取ったものですので、警戒されない為にも私が行くほうがよろしいかと思います。」


「確かに一理ある。では最初に内部に侵入するのは私にやらせてもらう。」


 いやいや御大将直々に敵地のど真ん中はさすがにまずいでしょう。


 何かあったらどうしてくれる。


「さすがにそれは危険すぎませんか。お二人には騎士団を回すという大事な役目がありますので何か有った場合には・・・。」


「何か起きた時にこそ武のあるものが必要なのだろう。実際城壁の上にいる弓兵をすぐに始末せねばならん技量があるとすれば私とカムリぐらいだ。カムリにはいい加減私の代わりに騎士団を動かしてもらわねばならんからな、良い訓練になるだろう。それに・・・。」


 まだ何かあるのか。


「いつまでもイナバ殿に頼りきるというのは私の気持ちが許さなくてな。たまには何も考えず前線で戦うのも悪くない。なに、イナバ殿一人ぐらいだったら守りきる自信はあるぞ。」


「しかしながらシルビア様。」


「最終決定権は私にある、そう言っておったな。つまりは私にはその役を決める権利がある。その権利を用いて私は私を推薦する。異存はあるまい。」


「・・・確かにそうなります。異存ありません。」


 ここでの最終決定者は分団長であるシルビア様だ。


 騎士団に身柄を置いている以上その慣習にならう必要がある。


 まさかシルビア様が同行することになるとはちょっと考えてなかった。


 それにもう一つ。


 エミリアが反論してこない。


 また危ない橋を渡ろうとしているので怒っているのではないかと思っていたのだが、エミリアの方を向いても特にそういうそぶりを見せない。


「次だ。潜入し開門したとして向こうの戦力はどうなっている。団員をみすみす死なせるような作戦であれば私は許可しない。」


 石ころの命をみすみす捨てるような人でないのはわかっている。


「ウェリスの部下には砦内に待機しているウェリス派の仲間に声をかけ寝返りを促す予定です。他の者同様に労働奴隷になれば命を助けるという条件で持ち掛けます。もちろん全ての仲間が寝返るとは思っていませんが予定では20人の部下が寝返ると考えています。」


 当初は30人と踏んでいたが念の為少なく見積もっておく。


 増える分には一向にかまわないが減る分には問題がある。


「向こうの戦力はどれほどと想定している。」


「ウェリスの情報によれば現在80名程。休息日の後はもっと増えますのでタイミングとしては今しかありません。造反したものを勘定してこちらが70名向こうが60名。騎士団の戦力を二倍で勘定すれば戦力としては申し分ないと考えております。」


「あまり余裕はないか。できれば犠牲を出さずにという甘い考えでは難しそうだな。」


「できる限りの対応はするつもりですが準備期間が少なすぎます。臨機応変に行くしかないかと。」


 今回の作戦は不確定要素が多すぎる。


 相手が人である以上致し方ないのだが、良い方にも悪い方にも転ぶ可能性があるというのは厄介だ。


 できれば犠牲を出したくないという甘い考えでは恐らく難しいだろう。


「さすがのイナバ殿であっても今回の作戦には些か無理がありそうだな。」


「本業は商人ですので申し訳ありません。」


「責めているのではない。むしろ武人でない者を戦地に送り出さなければならんことに問題があるのだ。」


「作戦立案者としての責務です。後ろでのうのうと胡坐をかいていられるほど人間ができておりませんので。」


 不安でいても立ってもいられない。


 動物園の動物のように同じ所をうろうろしてしまう事だろう。


「なに、それぐらい無鉄砲のほうが守りがいがあるというものだ。エミリア、今回の作戦について異論はないか。」


「シルビア様がお守りいただけるのであれば私は何も言いません。シュウイチ様の独断は今に始まったものではありませんので。」


 文句がないのではなく諦めの境地でしたか。


 そりゃあ何も言わないよね。


 シルビア様がいるからオッケーしたという苦渋の選択なんだろう。


「その代わりと言っては何ですが今回の襲撃には私も参加させていただきます。自分の身は自分で守りますのでお気遣いなく。」


「自分で何とかするのであれば構わんだろう。こちらとしても魔術師がいるというのは非常に安心できるものだ。」


 あーあ、シルビア様がオッケーだしちゃったら俺からだめですって言えないじゃないか。


 そもそも自分は勝手に敵地のど真ん中に行くんだから来るなというのも無茶か。


 できれば安全な所で待っていてほしいんだけどなぁ。


 お互い普通の商人なんだし。


「騎士団50名というのはカムリの人選か。」


「町の治安維持も考えて判断いたしました。少なかったでしょうか。」


「なかなかに良い判断だ、今後も同様に頼むぞ。」


「ありがとうございます!」


 イケメンが褒められている。


 副団長に指揮を移行したいというのは本当のようだ。


 本気で結婚を考えているのかもしれないな。


 フラグ、へし折ったけど。


「ウェリスの方はどうするつもりだ。」


「裏切りのおそれのない忠臣のみ4名を連れていきます。ケガも少なく物資の運搬ぐらいであれば問題ないかと。」


 さすがにシルビア様の前では敬語か。


「運搬する物資の選別は任せる。私が入る入れ物はさぞ上等なのであろうな。」


「残念ながら輿は用意できませんので窮屈かと思いますがお許しください。」


「物資の資金はどうするつもりだ。騎士団としてはみすみす奴らにくれてやれるつもりはないぞ。」


「それに関しては接収した金がありますのでそちらを充てます。元は奴らの資金ですのでこちらの懐が痛むことはございません。」


 ふってわいた資金だ。


 どう使っても罰は当たらないだろう。


「接収した以上騎士団の持ち物になるが、まぁいいだろう。」


「買い付けはネムリに頼んでおります。夕刻までには準備できるでしょう。」


 ネムリには町の中のアジト壊滅の知らせをすでに伝えている。


 大喜びしていたそうだ。


 奮発して仕入れてくれることだろう。


「ふむ確認としてはこれぐらいか。いや、一つ残っていた。」


 まだ何かあるのか。


 さすがのシルビア様も今回の作戦に対しては慎重だな。


 それもそうか、領主直々の命でもあるから失敗は許されないもんな。


 失敗したときはどうなるんだろう。


 作戦立案者の首が飛ぶとか。


 うーん、今回はやっぱり貧乏くじな気がする。


 何をしてもハズレのくじを引いているようだ。


「イナバ殿、この作戦に勝算はあるのか。」


 勝算。


 正直に言って楽勝ではない。


 でも不可能ではない。


 やり直しができない作戦で準備時間は皆無。


 その中でできることを全力でやったとしても7対3がいいところだろう。


「やるからには負けは許されません。その為には少々運に頼る部分もありますがそこを含めても騎士団が負けることはありません。」


「その言葉を信じてよいな。」


「負けるとわかってわざわざ敵陣に行きたがる人はいませんよ。」


 ド素人が戦場のど真ん中に突っ込んでいくんだ。


 ただ死にに行くわけではない。


 敵地に行くからにはそれなりの活躍をしなければ怒られてしまうからね。


 それに、無事に帰らなければ何を言われるかわからない人もいるし。


 チラっとエミリアの方に目を向ける。


 目が合ってしまった。


 最初は少し驚いていたがそのままニコッと笑う。


 敵わないなぁ。


 私がいるから大丈夫と言わんばかりだ。


 こんなことしてると何のためにこの世界に来たか忘れてしまいそうだが、


 俺がこの世界に来たのは商店連合の雇われ店長になる為だ。


 けして勇者や英雄になる為に来たわけではない。


 来てからちょっとトラブルに巻き込まれる頻度が高いだけだ。


 うん、早く終わらせて元の生活に戻ろう。


「みすみすその命を捨てさせるわけにもいかんからな。私もしっかりと駒として使ってくれることを願っておるよ。」


「シルビア様には十分すぎるほどの活躍を期待しております。」


「久々に胸が躍る戦いができそうだ。」


 やはり分団長は激しいのがお好きなようだ。


 敵を血祭りにあげる戦乙女か。


 絵的には非常にいいが現場は大変だろうな。


 主に血の匂いで。


「それではこの作戦でよろしいでしょうか。」


「全騎士団員に連絡、各自中度演習装備にて準備ができ次第東門前に集合。敵盗賊団砦の殲滅作戦を開始する。」


 中度演習装備ってなんだ。


「畏まりました!」


 シルビアの命令にカムリが飛び出していく。


「俺は部下に物資の準備をさせてくる。それと作戦のおさらいだな。」


 続いてウェリスが部屋を後にする。


 残されたのは女子会メンバーと俺というわけだ。


「イナバ殿は何か武器など使えるのか。」


「恥ずかしながら全くですね、この剣も飾りのようなものですから。いざとなれば振るう覚悟はしているつもりです。」


「人を切るのは魔物を切るのとはまた違う勇気が必要だ。もちろんそうならぬよう私が全力でお守りしよう。」


 昨日といい今日といい女性に守られてばかりだな。


「よろしくお願いします。」


「なに、それぐらいさせてもらわねば気が済まぬのでな。エミリア安心して良いぞ。この私が最前線で戦うのだ、イナバ殿には指一本触れさせぬ。」


「よろしくお願いいたしますシルビア様。なにせ勝手に決めてしまう無鉄砲な方ですので。」


 なんで二人にディスられてるの!


「シルビア様は最前線で戦っておられたんですか。」


 重要なポジションにいるのだからそれなりの武勲は挙げているのだろうが、まさか最前線で戦っていたとは思っていなかった。


「シュウイチさんはご存知ありませんよね、シルビア様は『戦乙女』と呼ばれていたんですよ。敵陣の中央で踊るように敵を翻弄し撃退する姿は『戦乙女の舞踏』と称されています。」


「昔の話だ、あの頃は私も血の気が多くてな。ついやりすぎてしまったのだ。」


 昔の話って年下なんですが、いったいいつから戦場を駆け回っていたんでしょうか。


 そしてスピード出世で分団長か。


 すごいな。


「それで今は分団長ですか、さすがですね。」


「正確には手に余るので左遷されたのが正しいのだがな。そうでなければこの年で分団長の座に就くことなどありはすまい。」


「ですが、シルビア様が就任なさってからこの地域の治安は改善し魔物の襲撃も減っています。サンサトローズの商人が安心して商いが出来るのもシルビア様のおかげです。」


「そう言ってもらえると心が休まるな。私がしてきたことが無駄になっていなくてなによりだ。」


 このまま手元においていればいずれ自分が抜かれてポジションを奪われるので左遷か。


 どの世界もお役所や官庁は不正の温床というわけだ。


 まぁ武官だけがのし上がっても良い組織にはならないから文官ががんばらないといけないのだろう。


 そしてその文官が不正を行って結局組織は衰退する。


 この分団の統率力が高いのはそういう不正とは無縁の組織だからだろう。


 もっとも、別の理由で団を抜けたものが盗賊になりそれを討伐に行かなければならないというのは皮肉なものだ。


「サンサトローズの治安の為にも盗賊は根絶やしにしなければなりませんね。」


「イナバ殿の作戦に期待をしよう。よろしく頼む。」


「臨機応変にがんばらせて頂きますよ。」


「私も後ろにいますから安心してください。」


 後ろが安全だからこそ戦では前に進むことが出来る。


 エミリアがいると思うだけで心が落ち着く。


 それに今回はシルビア様も一緒だしな。


 盗賊風情おそるるに足らず!


 なんて高らかに宣言すれば格好がつくかもしれない。


 戦乙女の庇護を受けていざ盗賊退治に出陣じゃ。


 なんてね。

いよいよ敵本拠地突入です。

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