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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二章

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作戦名:他力本願100%

 シルビア主導の下作戦が始められた。


 本作戦にあたって重要な山場は三つ。


 一つは無事に攫われるが出来るかというところ。


 抵抗するつもりは無いが、まったくの無抵抗というのもおかしい。


 命をとられない程度に抵抗をして、なによりこの町アジトまで運んでもらわなければならない。


 その次がエミリアによる探索。


 これはもうエミリアに全力でお願いするしかない。


 わかりやすい目印とはいえ、見知らぬ場所で他の反応と間違えずに探し出すのは非常に困難なことだろう。


 それをさらっと自分の命という犠牲をちらつかせてやってもらうのだ。


 われながら卑怯な男だと思う。


 そして最後。


 シルビア率いる騎士団の面々による迅速かつ的確な救助と殲滅。


 これも騎士団分団長シルビアの実力を遺憾なく発揮して頂くしかない。


 襲撃されたとわかり人質を手にかける可能性だって十分ある。


 その前に見つけてもらって外に連れ出してもらわなければならない。


 正直に言おう。


 100%他力本願であると。


 掴まってから出来ることは何も無い。


 殺されないように穏やかに過ごすしかないのだ。


 出来れば情報収集もしたいところだが不審に思われて場所を変えられたり、消されたりされては元も子もない。


 なので助けに来てくれるまでは本当に出来ることは何も無い。


 全て他の皆さんにお任せだ。


 作戦名は他力本願100%で決まりだな。


「それでは改めて作戦の概要を説明する。」


 場所を分団長室から作戦司令室のような広い会議室に変更した。


 黒板もホワイトボードも無いので全て口頭での会議となる。


 意志伝達ミスは無いのだろうか。


 作戦会議にはシルビア、カムリを筆頭に総勢25名の兵士が集まっている。


 エミリアと俺は後ろのほうで待機だ。


「本作戦は商店連合所属イナバシュウイチ殿の発案を分団長シルビアの責において発令した。イナバ殿は先日のキラーアント襲撃事件においても犠牲者を出す事無く事件を解決している。今回の作戦でも同様の結果になるだろう。そのためにも諸君らの働きに期待したい。」


 いや、この前もそうだったけれど必要以上に持ち上げないでほしい。


 今回だって100%他力本願の作戦ですから。


 よろしくお願いしたいのはこちらのほうだ。


「作戦はイナバ殿の誘拐を確認後開始する。同じく商店連合所属エミリア殿の力を借り、イナバ殿の居場所を突き止める。おそらくその場所が犯人のアジトであることは間違いない、先行部隊の索敵完了後一気に中に進入することになる。突入後の目的は二つだ。一つはイナバ殿の救出、もう一つは敵の殲滅である。抵抗する者には容赦するな、必要な情報集まり次第撤収する。以上だ。」


 相変わらず派手な作戦ですこと。


 索敵殲滅サーチアンドデストロイ


 俺まで殲滅されないようにお願いしたい。


「先行部隊、殲滅部隊は現場で振り分ける。アジト探索中はエミリア殿の護衛、周囲の警戒ならびに不審者の尋問に当たれ。」


 作戦の詳しい振り分けは副団長の仕事だ。


 エミリアのみは全力で守るようにお願いします。


「アジト発見後はエミリアは後ろで待機していてもいいからね。中に突入するのは騎士団の仕事だから。」


「状況が許せばそうします。でも、私のことですから一緒に入ってしまうと思います。」


 いや、入らないでってお願いしているんだけど何でそうなるのかなエミリアさん。


「あー、うん。無理のない範囲でお願いします。」


「シュウイチさんも抵抗しないでおとなしく捕まっていてくださいね。間違っても下手なことして状況を悪くしちゃダメですからね。」


 そんなことするように見えるのだろうか。


 みえるんだろうなぁ。


「助けを待つ王子様になっておとなしくしていますよ。」


「それ素敵ですね。私憧れだったんです、助けられるばかりのお姫様じゃなくて助けるお姫様になるのが。まるでプリメラ皇女の冒険のようですね。」


「プリメラ皇女?」


「体の弱かったお姫様が精霊の力を借りて悪者をやっつける童話です。エルフィーだったら一度は聞いたことのある由緒あるお話なんですよ。」


 ピーチ姫じゃなくて直虎でしょうか。


 でもピーチ姫って実はむちゃくちゃ強いからやっぱりピーチのほうか。


「面白そうですね、それはご両親から聞いたんですか。」


「エルフィーは皆両親から聞いていると思います。その家々で話は違うそうなのですが、各家々にプリメラ皇女の物語は受け継がれているんです。」


「それではエミリアもいずれ子供に語り継ぐんでしょうね。」


「そうですね、語り継いでいきたいです。」


 誤解しないでほしい。


(俺と)語り継いでくれといっているわけじゃない。


 未来の話だ。


 未来の。


 夢見る乙女の顔になっていますよエミリアさん。


 現在は作戦会議中ですので凛々しいお顔でお願いします。


「作戦開始は本日未明、それまで各自武器の手入れを怠る事無く詰所にて待機して頂きたい以上だ。」


「「「全てはサンサトローズの栄光の為に!!」」」


 シルビアに向かって全員が敬礼をする。


 こちらも慌てて敬礼を真似た。


 気合十分って感じだな。


 やっぱり騎士団はこうあるべきだ。


 皆の憧れである様に振舞うべし。


 騎士道というやつだな。


 ゾロゾロと兵士が会議室を後にする。


 その全員に向かって頭を下げて過ぎ去るのを待つ。


 残されたのはいつもの4人だった。


「それではエミリア殿はこちらにて待機。イナバ殿は不審なやつらの動きが確認で来次第、白鷺亭より裏通りを進んでくれ。連絡はハスラーに伝える。以上よろしいか。」


「裏通りを色町とは逆方向に。方角で言えば西側にでしたね。」


「あくまで推測だがやつらのアジトは西側地域にあると考えている。攫われたときの移動距離を考えるとやつらもそのほうが好都合だろう。その分被害にもあいにくい。出来るだけ抵抗はせず我らを信じて待っていてほしい。」


 待ちますとも。


 信じられるのは自分とエミリアだけではない。


 他にも25人の精鋭が向かってきてくれるのだ。


 これ以上心強いものはないだろう。


「シュウイチさん、くれぐれも気をつけてくださいね。」


「わかってるよエミリア、信じて待ってるから。」


 まるで子供を諭す母親のようだな。


 素敵な母親になるんだろうな、優しくて綺麗でそんでもってボインな。


 ここテストに出ます。


「作戦開始だ。よろしく頼んだぞ二人とも」


「「よろしくお願いします。」」


 こうして他力本願100%作戦は開始したのだった。



 そして時は過ぎ太陽は地平線の向こうへと落ちて夜になった。


 正直暇だ。


 緊張感が無いと怒られてしまいそうだが仕方ない。


 なにせやつらが動き出さないことにはこちらとしては何も出来ないのだ。


 あまりにも暇すぎて支配人から読み書きの本を借りてきたぐらいだ。


 アルファベットでも日本語でもないがせめて数字ぐらいは読めるようになっていなければならない。


 幸い10進法であるようだから数の数え方や位の上がり方は問題ない。


 数字さえわかってしまえば後は何とでもなる。


 関数でも分数でもお手の物だ。


 でも三次関数は無理。


 二次関数も正直微妙。


 因数分解とかならまだいけるかもしれない。


 社会に出るとあんなに勉強したことも忘れてしまうんだなぁと実感する。


「イナバ様、騎士団より周辺に怪しい人影が出たとの連絡です。ご準備ください。」


「わかりました、すぐに行きます。」


 いよいよだ。


 後は運を天に任せるしかない。


 あ、あとエミリアとシルビア様。


 よろしくお願いしますよ。


「それでは行ってきます。仮に身代金を要求する者が現れたら出来るだけ引き伸ばしてください。それと、そのためのお金も預けておきます。」


 全財産を渡しておく。


 最悪これを渡してしまったとしても後々で十分回収できるはずだ。


 渡さなかったからと報告されてややこしくなるのもかなわない。


 まぁそうなる前にこの辺りに配置されている兵が捕まえてくれるとは思うのだが。


「責任を持ってお預かりいたします。どうかくれぐれもお気をつけください。」


「ありがとうございます。掴まるだけですから大丈夫ですよ。」


 目印の短剣を見える位置にぶら下げて白鷺亭を後にする。


 大通りもこの時間になると人影もまばらだ。


 そのままわき道に入り裏通りへと抜ける。


 街灯も無く月明かりのみが足元を照らしてくれる。


 人気は無い。


 無いはずはないのだが、おそらく気配を消しているのだろう。


 武術の達人などではないのでその辺は全くわからない。


 予定通り裏通りを西方面に歩き続ける。


 特に襲われることも無くただ時間だけが過ぎていく。


 どのぐらい時間が経っただろうか。


 ふと、月明かりが消え暗くなった。


 上を見上げると月に雲がかかったようだ。


 そうだよな、LED電球も無い世界なんだから月明かりがなくなると一気に暗くなるんだよな。


 元の世界とのギャップにしみじみしながら視線を元に戻したその時。


 強い衝撃が頭の後ろから前に走りぬけていく。


 痛みを感じるまもなく、薄れ行く意識の中床が迫ってくるのだけが見えた。



 そして鈍い痛みと共に目を覚ますと、どこかわからない建物の椅子に縛り付けられていたのだった。


 何がどうなったかわからないけど、とりあえずどこかの建物の中につれてこられたのは間違いないな。


 手は動かない。


 椅子に座らされて後ろ手に縛られてるのか。


 おそらく武器は取られて蜜玉も奪われてるだろう。


 下を向いたまま目をつぶり辺りの様子を聞く。


 騒がしくは無い。


 会話も聞こえない。


 誰もいないのか。


 顔を上げてみるとどこかの倉庫だろうか、乱雑に物が積まれていた。


 周りには誰もいないようだ。


「無事生きて運ばれてきたようだけど参ったねこりゃ。」


 思わず独り言が出てしまう。


 何も出来ないとは思っていたが、本当に何も出来ない。


 情報を聞きだすことも出来なければ伝えることも出来ない。


 生きて攫っているのだから身代金目的だろうけど、あれからどのぐらいの時間が経ったんだ。


 周りに窓が無い為朝かよるかもわからない。


 いや、朝だったらもう救助されているか殺されているかのどちらかだ。


 ということは夜だろう。


 どうにかして逃げ出すことは出来ないだろうか。


「お、気がついたか。」


 逃げ出そうともぞもぞしているとドアが開いて一人の男が入ってきた。


 若すぎず老けすぎず、年齢はおそらく同じぐらいだろうか。


 ランプで顔を照らされ、眩しさに目がくらむ。


「私をどうするつもりですか。」


「抵抗されると厄介でね、荒々しく攫ってしまったことをまずは詫びよう。」


 まさか誘拐した張本人に詫びを入れられるとは思っていなかった。


 想像していたほど粗暴な人間ではないのかもしれない。


「詫びは結構です、私をどうしたいのかを聞きたい。」


「攫われたって言うのにずいぶんと冷静だな。まるで攫われたことがわかっているかのようだ。」


 そうか、普通は慌てふためくものなのか。


 いまさら慌ててもおかしいし、このまま通すことにしよう。


「いきなり襲われてこうやって椅子に縛られている。攫われた以外に何があるのでしょうか。」


「それもそうだな。お前さんにはこの町で得た資金を俺たちに提供してもらおう。コッペンのところで蜜玉を換金しているはずだ、確か金貨14枚だったかな。」


 ずいぶんと口の軽い男のようだ。守秘義務というのは無いのだろうか。


「次回からはあの方と取引をするのはやめたほうがよさそうですね。」


「次があるかどうかはお前さん次第だが、そうだなあまりお勧めはしないな。」


「それで、お金を全て渡せば私が持っていた物は全て返して頂けるのでしょうか。」


 ダマスカスの短剣に蜜玉がない。


 正確にはそれしかもって出ていない。


「あれはいい短刀だな。無事に終われば短刀の方は返してやってもいいがもう1つのブツはだめだ。」


「コッペンに買取を求められているのでしょう。おそらく金貨12枚ほどで。」


「いい線を行ってるな、金貨11枚だ。」


 こういう相手にもやつはふっかけているのか。


 どういう相手でも所詮は金次第なんだろうな。


「では、身代金とは別に金貨13枚出しますので返して頂くことは可能でしょうか。」


「お前さんが持っているのは金貨14枚のはずだ。それ以上は無いはずだがどうやって金を出す、魔法でもつかってありもしない場所から出せるとでも言うのか。」


「国に帰ればそれぐらいの資金は用意できるでしょう。そうですね、夏の節までお待ちいただけるのであれば買い取らせて頂きますよ。」


 どこに国があるのだろうか。


 とりあえず今はハッタリでもいいから時間を延ばさないといけない。


 そうすれば見つけてくれる可能性が高くなる。


「それは魅力的な提案だな、だがダメだ。俺たちは夏まで待てないし待つつもりも無い。即金で買取してくれるっていうやつが近くにいるんだそいつのところに持っていくさ。」


「金貨15枚、それでもダメですか。」


「自分の立場がわかっていないようだな。お前は今俺たちに捕まっている、その命を握っているのも俺たちだ。今すぐお前の短刀でその首掻っ切ってやってもいいんだぜ。」


 少々刺激しすぎたか。


 ここは少しひいたほうがいいかもしれない。


「身代金を奪う前に殺すということですか。」


「もちろんいただく物はいただいてからだ。しかし、お前さんの生死は関係ない。生きているとだけ言っておけばこちらの手の中には納まるだろう。それで、どうやって身代金を出すつもりだ。」


「白鷺亭にお付の者が待機しています。今頃帰りの遅い主人を待ってあたふたしている頃でしょう。事情を説明すれば金の準備ができますが、私の生命が約束できないのであれば渡すことはありません。こういった事態を想定して訓練していますので。」


 正確にはお付の者ではなく支配人が待機している。


 事情を説明し今回の作戦の手伝いをしてもらっているのだ。


 盗賊が身代金を要求して来たらできるだけ時間を伸ばしてほしいと。


 自分の身に危害が及びそうな場合は預けてある金貨を渡して良いことにもなっている。


 もっとも、渡したところで騎士団に捕縛されるのがおちだが。


「なるほど、ではその証明はどうやってする。まさか連れていくなんて馬鹿な真似させるんじゃないだろうな。」


「そんな必要ありませんよ。今ここで身代金を支払うまでは殺さないと約束してくれさえすればいい。私の体の中には魔力を発生する小さな石が埋め込んであります。私が死ねばその魔力が途絶え死んだことが分かる仕組みです。お付の者がこの魔力を感じることができる限り要求には応えてくれるでしょう。」


「つまりはお前の命が身代金受け渡しの条件になるわけか。随分と手の込んだ仕掛けを用意したもんだな。」


 いやそんな仕掛けなんてどこにもないんだけど。


「これだけの金品を動かしているとこういった場面に遭遇することも考えておかないといけませんからね。命さえあればお金はまたなんとでもなるんですよ。増やすだけの自信が私にはありますから。」


「それは随分と強気だな。ただそれぐらい強気の方が商売ってもんは上手くいくのかもしれないな。」


「駆け引きも重要ですが最後は度胸ではないでしょうか。」


「度胸ね、そら確かにそうだ。」


 男は妙に納得したようにうなずく。


 いや、共感してほしいわけじゃないんだけどなんか納得してくれたのならいいか。


「私の命を保証する代わりにそちらは金貨を手に入れることができる。悪い取引ではないと思いますよ。」


「そのよくしゃべる口さえなければ十分いい取引だと俺も思うがな。いいだろう、白鷺亭に使いを出す。戻って来て金を確認したらその命だけは助けてやる。ただし、蜜玉は俺のものだ。わかったな。」


「ではせめて、私の手からはなれるまでは近くに置いておいてください。私が苦労して手に入れた一級品です。愛でる時間をいただいても罰は当たらないでしょう。」


「金持ちには変な奴が多いというが、お前も十分変な奴のようだな。」


 男は肩をすくめ近くの箱を部屋の中央に置きその上に蜜玉を置いた。


「最後の別れだ、せいぜい楽しむんだな。」


 そう言って男は部屋を後にした。


 情報は集めることはできなかった。


 しかし命を拾い、蜜玉を手元においておけるのは非常に大きい。


 あとはエミリアにすべてをかけるだけだ。


 身代金が払われないことにしびれを切らすのが先か、


 はたまたシルビア様の部隊が突入するのが先か。


 琥珀色に輝く蜜玉をただ見つめながら待つしかなかった。


 永遠にも感じる程の長い時間がこれから過ぎようとしている。


 いつになるかもわからぬ救助をただエミリアを信じて待つ。


 今の俺にはそれしかできないのだから。

現在物語の最後まで必死に書き進めております。

しばらくは毎日昼12時に投稿予定です。


のんびりお待ちください。

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