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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二章

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その人にしかできないこと

「それで、具体的に騎士団は今どういう情報を持っているんでしょうか。」


 出されたお茶を一口飲む。


 うん、エミリアの入れてくれた香茶と同じような種類か。


 茶葉が違うのか少し風味が違う。


「元騎士団員のうち所在が分かっていないものが3名いる。そんなに優秀な者ではなかったのだが、それぞれに武器・訓練・情報を扱う部署にいた者達でな。もし仮にこの3名が手を組んでいたのであれば騎士団の基本はすべて筒抜けになっていると思ってもいい。」


 小さい騎士団を作ろうと思えば作れる人間が集まっているのか。


 しかし動機が分からない。


「その3人は何か不正をして退団したのでしょうか。」


「1人は騎士団のやり方が合わず上の者と揉めて退団したが、他の2人に関しては家庭の事情と病気ということになっています。」


 シルビアとカムリが交互に答える。


 大まかな説明をシルビアが、細かい情報はカムリか。


 さぞ優秀な副団長様なのだろう。


 ぐぬぬ。


 イケメンめ。


「物資の不正や不足、訓練情報などの漏えいは。」


「今調べさせているが物資がなくなっている感じはない。先日の魔物討伐の時も奴らが不在のうちに暴れたという情報は入ってこなかった。情報が洩れているとは考えにくいな。」


 ふむ、ということは今回の件は元騎士団員の不祥事ということか。


 それじゃあ次のカードを切っていこうかな。


「ここについてから市場と商店でいろいろ聞いていたんだが、怪しい商人についての情報があった。それはこちらで把握していますか。」


「なんと、それはどういうことだ。カムリ知っているか。」


「いえ、商人の情報までは調べておりません。申し訳ございません。」


 一本取ったり。


 内部の情報は洗っていたが外部の情報収集は大っぴらにできず手を伸ばせなかったんだろう。


「イナバ殿その商人とやらを詳しく教えていただけるか。」


「この情報は高くつきますよ。」


 冗談を言ってみる。


 うん、そんなこと言ってる場合じゃない目をしてるな。


 どうもすみません。


「よかろう、それも含めて改めて明日話すとしよう。」


「現在町の市場で小汚いが異様に金払いのいい商人が目撃されています。騎士団が遠征に使用した武器屋と同じ店で弓に槍、そこそこの剣をまとめて買っていったそうです。」


「それだけか?」


 そんなわけないじゃないか、もう少しおとなしく聞いておくれ。


「そのほか複数の商店で薬や火薬、木材などを買い付けています。恐らくは盗賊団の一味が身分を隠して売買しているか、商人を雇っているかのいずれかと。」


「イナバ殿、なぜその商人の存在に気付いた。」


「奪われた品の多くは彼らが日常的に消費するものです。食料に油、酒、どこかで隠れて生活するには十分な量がある。しかし不足するものは買い付けなければいけない。そこがおかしいんですよ、他の村々へ行商するために皆が買い付ける物をその商人は一切手を付けていない。明らかに目的が違うんです。」


「それで、その商人の存在に気付いたと。」


「買い物をしない客にはなかなか教えてくれませんでしたから、おそらく他にも情報は眠っていると思います。他の商人に紛れてますのでなかなか尻尾を出さないでしょう。そこで・・・。」


 話を少し止め、ネムリの方を向く。


「ネムリであれば商人たちから情報を仕入れることができるのではないかと思うのです。」


「わ、わたしですか!」


 呑んでいたお茶を吹き出しそうになるネムリ。


 そんなに驚く事ではないだろうに。


「商いの道は商いに通ずか。」


「その通りです。新参者の私ではなく古参のネムリであればなじみの商人から情報を仕入れることも可能でしょう。」


 こればっかり場自分にはどうにもならない。


 先ほどの話のように、商売は信頼関係が大事だ。


 盗賊を探すからと言えば恐らく答えても呉れるだろうが、それでは盗賊に情報が筒抜けになってしまう。


 ばれない様にしっぽをつかまなければならない。


「何か手はあるのか。」


「彼らが商品を仕入れるためには資本が必要です。それは奪ってきた物の中から回収するだけでは些か心もとない、となれば資本を増やす必要があります。彼らが奪ったものの中で一番価値のある物、それは・・・。」


「種ですね、シュウイチ様。」


「さすがエミリア。正解です。」


 ここまで話せばエミリアにはわかったか。さすがメルクリアのお気に入りなだけある。


 可愛いだけでなく頭も切れる。


 後でご褒美に飴ちゃんあげようか。


「この時期に種を購入せず逆に売りさばいている奴がいます。恐らくそいつが盗賊か、雇われの商人でしょう。まずはそいつを探し出して口を割らせるのが先決かと思います。」


「よくぞそこまで考えた。なるほど、まずは尻尾を探すということか。」


「トカゲのしっぽのように切られたりはしないでしょうか。」


 カムリが心配そうに問いかける。


「それは十分あり得るでしょう。しかし奴らが資本を仕入れる方法はおそらくそれしかない。そうなれば別のやつを使うまでですから、ひそかに監視を続けていれば難しくはないはずです。」


「その役目を私がするということなのですね。私のようなものに出来ますでしょうか。」


「むしろネムリだからこそこの役目を任せられるのです。この町で自由に動き回って情報を集めても怪しまれない人物は他にいませんからね。」


 ネムリにはあまり危険な役目を与えることは出来ない。


 それにネムリが盗賊側の人間ではないという確証もない。


 ただ言えるのは、ネムリほどの商人であればどちらに付けば儲かるかを間違えずに判断できるだろうということだ。


 騎士団に目を付けられて壊滅に向かっている盗賊側に付くほどバカではないと思っている。


 念のために護衛という名目で監視をつけてやればいい。


「私たちはどうすればよろしいんでしょうか。」


「エミリアは商店連合のほうで情報収集をしてください。最近になって消費が増えたものであったり受注が増えたものがあれば確認をしてもらえると助かります。いろいろな商人に品物を卸している商店連合だからこそわかる部分もあるでしょう。」


 出来る限りエミリアには安全な場所で動いてほしい。


 今回の件はこの前のアリのようにすんなりとはいかないだろう。


 何せ相手は人間だ。


 モンスターよりもずる賢く知恵の回る生き物が相手だ。


 何をしでかすかわかったものじゃないからな。


「シュウイチ様はどうされるんですか。」


「私は少しエサを撒いてみようと思います。」


「エサ、ですか。」


 エミリア含め全員が怪訝そうな顔をする。


 そんなに不服そうな顔をしなくてもいいと思うんだけどな。


「奴等になにか旨いエサを与えるという考えでよろしいのかな。」


「まぁそんなところです。先手を打っておかないと後々面倒なことになっても困りますからね。」


「それはこの私にも言えぬことか。」


「今はそのようにお考え下さい。」


 そうとしか言えない。


 敵を欺くにはまず味方からとはよく言ったものだ。


 100%情報が漏れないという証拠は今ここにはそろっていない。


 ならばできるだけ手は隠しておく方がいい。


「些か分団長の前で失礼が過ぎるのでは。」


 イケメンがプレッシャーをかけてくる。


 イケメンだからって調子乗ってるんじゃないぞ。


 言えないものは言えない、それぐらい察しろ。


「よい、イナバ殿には考えがあってのことだ。」


「しかし分団長。」


「カムリ、くどいぞ。」


 怒られてやんの。


 まぁこれもシルビアを尊敬しての発言だろうからバカにしたら怒られるけどな。


「ご理解いただき感謝します。」


「その分間違い無い成果をあげてくれるのであろう、楽しみにしているぞ。」


 鋭い眼光で釘をさしてくる。


 どっちに転ぶかはやってみないとわからないけど、やらないよりかはましだろう。


「まだ時間はありますね。それでは行動に移りましょうか、ネムリ、エミリアお願いします。」


「ネムリ殿には騎士団の護衛をつけよう。変装させ近くで見守らせてもらう。」


「護衛までつけていただけるのですか!なんとありがたいことでしょう。」


 それ、護衛じゃなくて監視だからな。


 ネムリは感動してるけどわかってないんだろうなぁ。


 まぁ身の安全が保障されているならそれに越したことはない。


「終わりましたらここに戻ってくればよろしいのでしょうか。」


「そういえば宿を決めていませんでしたね。」


 肝心の拠点が決まっていなかった。


 屋根があって暖かいベットがあって美味しい食事が出れば最高だ。


「騎士団の宿舎をと思ったがそれでは相手に気付かれる可能性があるか。」


「白鷺亭の主人に私の名前を出してくだされば案内してくれるよう手配しておきましょう。」


「そこがいい、イナバ殿をもてなすにはそれぐらいの場所でなければな。カムリ後は任せたぞ。」


 白鷺亭ね。


 和風料亭みたいだな。


 この際ゆっくりできて安全な場所だったらどこでもいい。


「それでは夕刻まで各自情報収集をお願いします。」


 皆立ち上がり部屋を後にする。


 シルビアだけが部屋に残るようだ。


「イナバ殿、少しよろしいか。」


 あ、俺も残るのね。


 カムリは入り口待機か。


 さて、何を言われるのやら。


「エミリアは予定通りよろしく。こっちも予定の時間になったら宿に向かうから、先に宿に入っていても構わないよ。」


 心配しないように声だけかけて部屋の中に残る。


 5人いると少し狭く感じたが、いざ二人っきりになるとだいぶ広い部屋だとわかる。


 グラマラスな美女と二人きりなんていうと煽情的な雰囲気があるが、残念ながらそんな雰囲気とはかけ離れた空気が漂っている。


「先ほどの件、どうしても説明できぬか。」


「はい。たとえシルビア様であっても申し上げることはできません。時期が来たらお答えさせていただきます。」


 この作戦はあまり口外したくない。


 この場所では特に。


「よほど大事な作戦と見える。その為にカムリも外させたのだがな。」


「私の国に『敵を欺くにはまずは味方から』という言葉がありまして。」


「なるほど。味方すら騙してしまわなければ上手くいかないのだな。」


「どこに敵の耳があるかもわかりませんので。」


 壁に耳あり障子に目ありってね。


 ここは対策本部でもあり、敵の手の中でもある。


 そんなところでおいそれと情報を出していいものではない。


 情報は金と同じ価値がある。


 それぐらい大事なものなのだ。


「一度策を練ると人の話を聞かぬ兄のようだな、イナバ殿は。」


 なに、兄がいるのか。


 たしかに一人っ子って感じではないな。


「ご兄弟がおられるのですか。」


「兄が一人な。イナバ殿のように考えを巡らせるのが好きでなぁ、一度思案を始めると飯も食わぬと父がよくぼやいておった。」


 なんとなくわかる。


 自分も集中すると寝るのも惜しんでしまうタイプだ。


「ご兄弟様も騎士団におられるのですか。」


「いやいやあやつに騎士団は務まらんよ、細すぎて剣も持てぬような棒切れだ。今は領主様のお側で補佐をしておる。」


 かたや騎士団分団長、かたや領主の右腕。


 村長、あんたの子供どうなってるんだよ。


 エリートの中のエリートじゃないか。


 もしかして、ああ見えて昔はすごいエリートだったんだろうか。


 村長、恐るべし。


「それはそれは。なるほど、今回の件もそのご兄弟から依頼されたのですね。」


「うむ、あやつの命は領主様の命でもあるからな。断わるわけにもいかんのだ。」


 こっちはこっちで苦労しているようだ。


 けどその苦労に巻き込まれてるんだけどな。


 まったく迷惑な話だ。


「心中お察しします。」


「苦労を掛けるがどうかよろしく頼む。我々も全力で手伝うことを約束しよう。」


「それではシルビア様また明日お待ちしています。」


 一礼して部屋を後にする。


 さて、これからが本番だ。


 ネムリが情報を集めて来るのを待ってもいいけど別ルートで種まきをしておいた方がいいだろう。


 いずれ芽が出てくるに違いない。


 ただの雑草か、それとも豆の木か。


 罠を仕掛けるときはどんな獲物がかかるか楽しみで仕方ないな。


 え、性格が歪んでるって。


 それは自覚してる。


 人には役割ってものがある。


 その人その人にしかできない特別なものがあるんだ。


 純粋無垢なエミリアにしかできないこと。


 まっすぐなネムリにしかできないこと。


 グラマラスなシルビアにしかできないこと。


 イケメンのカムリにしかできないこと。


 くそ、イケメンが。


 そして、このひねくれた俺にしかできないことももちろんある。


 俺にしかできないからこそ、全力でやるまでだ。


 火力ガンガンの赤マナも好きだけど、


 やっぱり青マナでしょう。


 黒も捨てがたいけどね。


 何の話かは、分かる人にはわかります。


 それじゃあまぁ。


 いっちょやったりますか。

本編が少しずつ動き出しました。

終わりまで後は書き進めるだけです。


のんびりお付き合いください。

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