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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二章

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城塞都市サンサトローズ

 幸いにも毛皮は良く干され、肉も燻製にしてあるおかげで悪臭はなく道に不満がある以外は快適だ。


 当たり前だが舗装されていない。


 所々くぼみがあり、露出した石があり、森から枝が飛び出してきている。


 アスファルトがあるわけではないので当たり前だけど、これは酔うな。


 あまり乗り物には強くない。


 飛行機に乗ればエチケット袋をスタンバイし、船に乗れば欄干のそばが定位置になる。


 唯一大丈夫だったのは自分の運転だけだった。


 速度は体感時速20kmぐらい。


 荷物を積んだ馬車としてはこんな物だろう。


 もう少し道が改良されれば速度が出るのだろうけれど、こんな田舎まで石畳を引くほどのメリットがないのだろう。


 いずれ町が出来たら舗装してもらえる日が来るかもしれない。


 いやまてよ、自分でしろと言われるかもしれない。


 そうでないことを祈ろう。


「エミリア疲れていませんか。」


「私は問題ありません、シュウイチさんこそ大丈夫ですか。」


「大丈夫です。それにしても結構離れているんですね。」


 大丈夫じゃないとは口が裂けてもいえない。


 男のプライドが許さない。


 たとえそれがちっぽけなプライドだったとしても。


 馬車が走り出してそろそろ2時間ぐらいか。


 確か町までは馬車で3~4刻ぐらいだといっていたな。


 時間の概念は大体同じぐらいなのだろうか。


「このまま何もなければサンサトローズまでは後1刻程でつくと思いますよ。」


 ネムリがすぐに答えてくれる。


 いや、聞いてないんだけれどありがとう。


 1時間=1刻なのか、はたまた30分=1刻なのか。


 一度スマホで時間を合わせておくほうがよさそうだな。


 今後はこっちの単位が自分の目安になる。


 まずは情報収集だ。


「サンサトローズの町には何があるのでしょうか。」


「そうですね、必要最低限のものは全てそろっています。宿場、様々な商店、飲食店、両替商、運送業、自警団と騎士団も分団として常駐しています。他にはギルドと教会、ここ一帯の領主様の館もありますね。」


「つまりは町の基本が全てそろっている。そういうことですか。」


 今後町を作っていくなかで見本となるのがこの町というわけだな。


 サンサトロール。


 何か白ひげで割腹の良い赤と白の服を着たお爺さんを彷彿とさせる。


 気のせいだ。きっとそうに違いない。


「お二方が所属される商店連合の事務所は南門のそばにございます。この街道は村の西から町の東門に繋がっておりますので、到着後は中央の噴水広場を抜けて南に降りられればすぐかと。」


「今日から休息日ですのでたくさんの人がいると思います。場所によっては市も立っているとか、楽しみですね。」


 中央に噴水広場。


 そこそこ広い町ということだからさぞ立派なものが建っているのだろう。


 領主の館に騎士団。


 単語から思いつくのは中世ヨーロッパ時代に普及した円形状の町だな。


 中央に教会が置かれ、そこを基点に上下左右にメイン通りがつくられる。


 町は四分割され、居住地や商業地、工業地と上流階級の家と分かれている。


 町の周りは農民の居住地が作られる。


 これが一般的な円形都市もしくは城塞都市の造りだ。


 イメージは進〇の巨人で大きな人が掴んでいた町だな。


 現実ではカルカソンヌやネルトリンゲンなどがわかりやすいと思う。


 よくわからない人はグー〇グル先生に聞いてみてくれ。


「それは楽しみですね、見たことのないものも多そうですのでしっかり勉強させてもらいましょう。」


「私の商店も南門にございますが、この積荷を捌いてからになりますので昼の中休みの鐘までには戻れると思います。その頃にお越しくださいませ、店の者には良く言い聞かせておきます。」


「昼の中休みの鐘ですね、わかりました。」


「宿はもうお決めになられていますか。」


 ネムリのマシンガントークはとまらない。


 先程までは静かに馬を引いていたがそろそろ飽きてきたのだろう。


 もしくは今後の商機を見越して営業トークを仕掛けてきているのか。


 どちらにせよこちらとしてもネムリから得られる情報は貴重なので気にしない。


 情報は商いの要。


 金の卵を産む雌鳥と同じだと昔のえらいさんが言っていたな。


「買い物をして帰るつもりでしたが夕刻出れば到着は夜になるのか。なるほど、宿を取るほうが良いかもしれないな。」


「是非一言お声掛けください。良いお宿を紹介させて頂きます。」


「見つからない場合はお願いするかもしれない、なにせやらなければならない事が多いのでね。」


 ここは含みを持たせておくほうが良いかもしれないな。


 向こうのペースで全て決めてしまうのはあまりよくない。


 イニシアチブを握りたいのだろうが、こちらとしても全てやられっぱなしというわけにもいかない。


 相手がどういう人物なのかの情報がない以上、本当に信用できるのかを見極めなければぼったくられる可能性だってある。


 親切にしておいて実は・・・。


 なんてことは良くあることだ。


 それがわかったのだろう、ネムリはにこやかに頷くと何事もなかったように前を向いて黙った。


「狐と狸の化かし合いか。」


「シュウイチさんの世界の言葉ですね、どういった意味なんですか。」


「今は内緒です。」


 内緒といわれてすこしふくれたエミリアもまた可愛い。


 いかん、最近エミリアへの印象が可愛いしかない。


 これはまずい兆候だ。


 乳に惑わされてえらい目に合い、仮面を付けて過ごさなくなってしまった飛行気乗りを俺は知っている。


 彼は言っていた。


『魔の乳であった』と。


 そう、大事なのは乳だけにあらず。


 気立てや器量も大切だ。


 うん、ばっちりじゃないか。


 こんな奥さんいたら最高なのにな。


 エミリアがエプロンを付けてお帰りなさいと振り向いてくれる。


 エプロンは二つの丘で押し上げられ、ミニスカートのような短さだ。


『ご飯にしますか、お風呂にしますか、それとも・・・。』


 赤くなった顔でエミリアが何か言おうとしたその瞬間、ガタンと大きい音を立てて馬車がはねた。


 先程と違い石畳の上を走っている。


 振動が減り、心なしかスピードが上がったようだ。


 昼間から危険な妄想に走ってしまった。


 本人を隣において何をしているんだか。


 気を引き締めないといけないな、まだここは屋外だ。


 せめて夜になってからじゃないと。


 え、夜でもまずい?


 そんなことはない、夜がむしろメインだろう。


「ここまでくれば一安心ですね、あの丘を越えれば町が見えてきますよ。」


 緩やかな上り坂。


 丘の向こうにはいよいよ目的のサンタクロース、もといサンサトローズの町か。


 そんな時、街道の先に1台の荷車と人影が見える。


「おや、あんなところに人が集まっているな。」


「何かあったのでしょうか。」


 街道の右横に止められた荷台はおそらく馬で引いていたのだろう、しかし肝心の馬の姿が見当たらない。


 こんなところでトラブル発生か。


 考えられるのは3つ。


 一つ目は荷車の事故。へこみや石に当たって脱輪や破損などしてもおかしくない。


 二つ目はモンスターの襲撃にあい馬が逃げてしまったパターン。この場合まだ近くにモンスターがいる可能性がある。


「見慣れない荷車ですね、町の業者にしてはギルドの紋章がありませんが。」


「こっちに向かって手を振っていますね、何か困っているのかもしれません。」


 うーん、違和感あるよな。


 町まであともうちょっと、たしかダンジョンから離れれば離れるほど安全なはずだしあれだけ人がいれば町まで助けを呼びに言っても良いと思うのだが。


 それに、故障の割には見た目綺麗だしなぁ。


 明らかにおかしい点がある。


 そもそもあれだけの人数が必要なのか。


 呼び止めてどうしようというのか。


 よく考えろ。


 ここは異世界であって現実ではない。


 治安も良くないだろうし、何がおきるかなんてわからない。


 現実でも引ったくりや恐喝がおきるんだ。


 そういう悪いことばかりを考えると思いつくことはひとつしかない。


「ネムリ、止まらずに行こう。」


「どうしてですか、明らかに困ってるようですけど。」


 親切で良心に満ち溢れたエミリアはそういうだろう。


 それでいい、穢れてないのがすばらしい。


 だが、世の中の半分はそんな綺麗事では出来ていない。


 世の中は綺麗なことと見えない汚いことで構成されている。


 今回は後者のほうだ。


「石畳に入ったし今よりもスピードは出せるか。」


「まだ馬は元気ですから丘の先ぐらいまでは大丈夫だと思いますが、良くないことでしょうか。」


「おそらくはそうだと思う、ネムリはさっき紋章がないと言っていたな。」


「えぇ、町で運送業を営む為にはギルドの許可が必要です。私の馬車にも駆ける黒き猫の紋章を入れています。」


 クロヒョウじゃなくて黒猫だったのか。


 やっぱり宅急便と同じだなって今はそれはどうでもいい。


「よその町で商いをしているからという可能性は。」


「他の町でもギルドに入らないと仕事が出来ません。ですので別の紋章があるはずです。」


 あるはずの紋章がない。


 不必要な人間がいる。


 見た目に綺麗過ぎる荷台。


「近づいたフリをして一気に駆け抜けろ。」


「わかりました。」


「エミリアはしっかり掴まって。振り落とされないように。」


「わかりました、シュウイチさんの思うままにしてください。」


 答えは三つ目の可能性。


 盗賊が罠を張っている。


 故障していると見せかけて親切な人が寄ってきたところを一斉に襲い掛かる。


 荷物を奪い取り、女は手篭めになんてのがよくある話だ。


 盗賊でないなら別に問題ない。


 ただ馬が言うことを聞かず走り抜けてしまった。と謝れば済む話だ。


 しかし、もしそうだった場合にはリスクが大きすぎる。


 常に最悪のことを想定すべし。


 善良な市民ばかりの平和な国である可能性はおそらくない。


 ここは剣と魔法の世界だ。


 今までいた世界とは違う。


 そう思わないといけない。


 人を疑ってはいけないよ、なんて甘い言葉で生きていけるような世界ではない。


 そう思っておくほうが良い。


「合図を出したらでいい。気づいてないフリをして近づいてからだ。」


 手を振って向こうに気づいているとアピールする。


 少しだけ速度を下げてやる。


 それだけでやつらは気づいたと勘違いをして身を潜め準備をするだろう。


 そして隠れたところを全力で逃げ出すのだ。


 そうすればいきなり目の前に飛び出してきて邪魔をすることもできない。


 幸い広い街道で隠れるところは荷馬車の裏ぐらいしかない。


 もしくは反対側の森の中か。


 それでもよほどの脚力がないと難しいだろう。


 残る問題は駆け抜けた後に弓か何かで攻撃してこないかだ。


「荷物、少しぐらい傷が入っても良いよな。」


「え、それはどういうことでしょうか。」


「いや、そうならないことを祈っていてくれ。」


 祈るしかないよな。


 荷馬車に近づいていく。


 もうすこし、もう少しだ。


 早すぎると邪魔をされる。


 ほぼ真横まで来たところで走り抜けるんだ。


「ネムリ、いくぞ。3.2.1・・・今だ!」


 合図と共に馬に鞭を入れる。


 驚いた馬が急激に速度を上げて坂道を登っていく。


「バレたぞ、捕まえろ!」


 横を駆け抜けたときに聞こえてくる怒号。


 やっぱり盗賊だったか。


 慌てて飛び出してくるも後の祭り、後ろを振り返ると6人程の男たちが武器を抜いてかけてくるのが見る。


「そのまま丘を駆け下りて町まで行こう。脱輪だけはしないでくれよ。」


「任せてください。大事な荷物1つたりともあんなやつらにくれてやるものですか。」


 いや、荷物じゃなくてわれわれの身の安全を考えてほしいんだけど。


 商人にとって荷物は命の次に大事な物だからな。


 いや、そうなると命のほうが先じゃないかなぁ。


「シュウイチさん体を小さくしてください、弓で狙われています。」


 ほら、やっぱりいたよ弓兵。


 風を切る音と共に横に矢が着弾する。


 弓兵は二人。


 登りでは辛いが下りになれば問題ないだろう。


「丘の先まで抜ければ大丈夫だ。荷物の後ろに隠れてやりすごそう。」


 荷馬車に当たる音がするも、こっちは荷台の前だ。


 よほどがないとあたらない。


 馬のスピードが落ちかけた頃、一気に丘を上り終えた。


 上った先に見えるのは巨大な城壁。


 城壁は近くの山のすそ野までを囲み大きな円形状をしている。


 山の中腹に見えるのが領主の城かなにかだろう。


 想像していたよりもはるかに大きい城塞都市が目の前に現れた。


 大きい。


 それしか言葉が出てこなかった。


 中心に広場があり、城のほうに教会らしき大きな建物も見える。


 城壁内、城を北とすれば西側から白い煙があがっているのが見える。


 あっちが工場エリアか。


 ということは南が商業エリア、東は住居エリアかな。


 漫画やゲームでしか見たことのない本物の城塞都市にテンション上がりっぱなしのオタクが一人。


「入り口まで走り抜けますよ。」


 猛スピードで坂道を下る馬車に揺られ、もとい跳ね上がりながら三人は城塞都市へと向かっていった。


 とりあえず言えるのは1つ。


 どうか、吐きませんように。


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