名探偵シュウイチの名推理
やばい、完全に寝過ごした。
今何時だ。
え、11時。
もう昼だよ。
どんだけ寝てるんだよ。
今日が一番大事な日なのに何してるんだよ。
いくら疲れているからって寝すぎだろ。
そうだ、エミリアはっていないし。
起こしてよ。
なんで自分だけ先に行くんですかエミリアさん。
(お疲れのようですので起こすのが忍びなく、そのまま出かけました)
とかなんとかいうんだろうなあの子は。
とりあえずジャケット着て、寝癖は、ええいそのままでいい。
「おはようございま!って誰もいないし!」
それはそうだ。
俺が起きるまで村長が家で待っているはずもない。
恐らくエミリアと一緒に蜜玉を探しに行っているはずだ。
オッサンは堀の方と罠の方にかかりっきりだろうし。
みんな働いている間に一人爆睡とか最低だ。
申し訳なくて顔を合わせずらいが、そんなこと言っている暇もなく村長の家から飛び出す。
「よう兄ちゃんやっと起きてきたか。随分お疲れだったようで、あれか、あの子と楽しくやりすぎたか。あっはっは。」
朝から下ネタ全開で何言ってるんだこのオッサンは。
そんなうらやまけしからんことできるわけがないじゃないか。
「すみません、盛大に寝過ごしました。残念ながらドリスさんの思っているような事情で寝過ごしたわけじゃないですよ。」
「なんだ、同じ部屋に寝といて何もしてないのか。意外に情けない奴だなぁまだ若いんだからやるときはガツンとやらんとダメだぞ。」
何をやるんだよ、ガツンとどうするんだよ。
物事には順序っていうものがあってだな。
こちとらセクハラで首が飛ぶ立場なんだって。
「エミリア達はどこにいるんでしょうか、寝過ごした事謝りにいかないと。あぁ、そうだ油はどうなりましたか。罠の方も。」
「そんなに慌ててあれこれしなくても大丈夫だ。罠の方は兄ちゃんの目印通りに大方終わっている。油は手の空いている奴に取りに行かせているが、荷車を何台かもっていかせたからもう着くころだろう。油が届き次第罠の方に確認ついでにもっていってくれ。」
「何から何まですみません。」
「なに、わかりやすいようにしてくれていたのでこちらも助かった。そういえば、油を商店の前に運ぶ馬車がさっき通ったんだが面白い絵を描いていたな。幌に大きな猫の絵を描いていたぞ。」
まさかの黒〇ヤマトさんですか。
いやいや、ここは異世界だしいくら何でもヤマトさんが出張ってくることはないと思うんだが。
こちらの世界のヤマトは俺みたいな現代から来た人が始めたのだろうか。
商店連合お抱え輸送業、ヤマト急便。
意外に黒猫に見えて黒豹だったりして。
どっちも猫科だし。
「面白いですね、元いた世界にも同じようなマークがありました。」
「なんだ、案外そっちの世界の奴がやっているのかもな。」
商店お抱えの運送業であればいずれお会いすることもあるだろう。
「シュウイチ様、ドリスさんここに居ましたか。蜜玉の在処がわかりましたのでこちらに来てください。」
オッサンと話していると、村長の裏の方からエミリアがかけてきた。
時間内に無事蜜玉が見つかったらしい。
「ありがとうございますエミリア、大変だったでしょう。寝坊してしまい申し訳ありません。」
「ニッカさんが見つけたようなものなんですけどね。起こそうと思ったのですがお疲れのようでしたので起こさずに出てきてしまいました。」
ほら、やっぱり予想通りの回答。
こういう日はたたき起こしてくれてもいいんですよ。
エミリアの優しさが今日はちょっと悲しい。
「そっとしてくれたんですね、ありがとう。蜜玉はどこにあったんですか。」
「村の北にある納屋の中に隠してありました。冬の備蓄用の納屋のようで春になるとあまり人が立ち入ることはないそうです。」
隠すとしたらもってこいの場所だな。
冬の間だと人の出入りがあるが春になると用がなくなる。
隠した時期とアリの出現時期がぴったりだ。
部外者だとここが冬専用の納屋かどうかの見分けはつかないだろうし、やはり内部の人間が犯人の可能性が高いな。
「おいおい、ここはうちが管理している納屋じゃないか。ニッカさんこいつはいったいどういうことなんだ。」
遅れて来たオッサンが納屋を見て驚きの声を上げる。
まさかここはオッサンの持ち物なのか。
ここにきてオッサンの犯人説が急浮上、してくることはないだろう。
このオッサンに堂々と白を切ることができるとは思えない。真っ先に顔に出てしまうタイプだ。
しかし実際ここはオッサンの持ち物のようだし、そうなると犯人は身近な人間ということになる。
「おお、ドリス来たか。納屋の奥でこの小壺の中に入っておった。水を入れておらんかったから匂いが漏れていたんじゃろうな。」
「この納屋は俺と息子ぐらいしか使う奴はいないんだ。しかし妙だな、ここにそんな小さな壺置いた覚えはないんだが。」
「ということは、別の誰かが壺に入れてここに隠しに来たってことか。」
ここの管理者はオッサンとその息子。
中には普段あるはずのない小さな壺か。
「ドリスさん、ここには普段カギをかけているんですか。」
「春の節が来てからはカギをかけて秋の節が来るまでは開けることはないな。」
「ここのカギの収納場所を知っているのは。」
「俺と息子、それとニッカさんぐらいだ。村の連中は自前の納屋を持っているしここは遠いから使う奴もいないな。」
もう犯人は絞れているというか、消去法で行くとオッサンの息子しかいない。
単なる消去法で決めつけるわけにもいかないが、とりあえず確認はしないといけないな。
「息子さん、最初の襲撃でケガをされたんでしたっけ。」
「ああ、右手をアリに引っかかれてな。そんなに深いケガではなかったみたいで今は油を取りに行かせている。」
とりあえず戻ってきてから話を聞くことにしよう。
「帰ってきたらお話を聞くとして、とりあえず見つかってよかった。原因がこれであると決まったわけではないですが大きな可能性のあるものがこうして見つかったわけですから。今日の襲撃を撃退することができればその次が起きる可能性はこれで少なくなりますね。」
問題はこれを返しておとなしくアリが返ってくれるのかということだ。
回収はしたもののそのまま襲撃してくる可能性も十分残っている。
「エミリア、ニッカさんとりあえずお疲れ様でした。犯人捜しは今日の襲撃を終えてからでもできますし、後は息子さんに事情を聴いてから考えましょう。」
残るはアリの撃退のみ。
油到着次第、罠の準備と火矢の準備。
松明の作成といざというとき用に東西の門に油を配置しておこう。
「見つかったのはいいものの妙な所から出てきたもんだ。」
「まぁまぁドリスさん、悩んだどころで答えは見つかりません。とりあえず次の準備に向かいましょう。」
悩むオッサンをなだめて村の広場へ向かう。
すると、商店に油を取りに行っていた人たちが戻ってきていたようだ。
「大甕10個たしかに。お疲れ様でした皆さん少し休んでください、夜まではまだ時間がありますから。」
取りに行ってくれた人にねぎらいの言葉をかけ、こっちはこっちで準備を始める。
「私は罠の確認と配置をしてきます。3つほど持っていきますので、残った甕のうち二つずつを東西の門の裏側に。南門の火矢用に一つ、残り二つ明かりの松明に使ってください。」
「私はどうしましょうか。」
「エミリアはドリスさんと一緒に南門へ向かってください。戦闘が始まれば他の方々と一緒に弓の斉射に参加してもらいます。エミリアの魔法、頼りにしていますよ。ドリスさん、櫓の配置も含めて人選お任せします。」
「おう、任された。息子の方折を見て話を聞いておく。」
甕の乗った荷車を引っ張り南の広場へと坂道を下ってゆく。
こぼさないように慎重に。
ここでこぼしてしまったら元もこもない。
広場の罠は掘り終わり、あとは油を注ぐだけだ。
適当に線を描いただけなのに綺麗にできるものなんだなぁ。
罠に油を注ぐとちょうど全部空っぽになった。
この甕何か他の事に使えないかな。
かぶる。
入る。
転がす。
かぶってエミリアの着替えを覗くとしても匂いでばれそうだし、
中に入っても特にすることはない。
エリクサー頂戴とかいうぐらいだが、このネタだれかわかるのだろうか。
後は転がすか。
坂道を登ってきたアリに向かって転がしたらどうだろう。
ゴロゴロゴロ、ストライーク。
うん、ないよりましか。
ん、なにか東門の方が騒がしいけど何かトラブルでも起きたのか。
甕の後始末を考えていると門の方から怒鳴り声が聞こえてくる。
もうすぐアリが襲って来るかもしれない恐怖から誰か暴れているのだろうか。
それとも単なる痴話喧嘩かな。
お、右ストレートがクリーンヒット。
若い奴が吹っ飛ばされた。
殴ったのは、おお、オッサンか。
なんだなんだ、何事だ。
野次馬の如く近くまで言って様子をうかがう。
「お前、自分が何をしたかわかっているのか。」
「だから、俺はそんな壺知らないって言っているだろうがクソ親父。」
どうやら息子と殴りあっているようだ。というか、オッサンが一方的に殴っているようにもみえる。
「ドリスやめんか。まだこやつが犯人と決まったわけではなかろう。」
「このバカ息子以外にだれがいるっていうんだ。」
オッサンvs息子。
明らかにオッサン優勢だが、どうやら蜜玉を隠したのが息子だと思って怒っているようだ。
「ドリスさん落ち着いて、まだ犯人だって決まったわけじゃないでしょ。それにここで大怪我されると夜の戦力が減るからそれ以上の暴力は勘弁してください。」
「兄ちゃん止めてくれるな。俺の家族がしでかした責任は俺がとらないといけないんだ。」
「だから、納屋に置いてあったそんな小壺なんてしらないっていってるだろうが。村長も何とか言ってくださいよ。」
ん、こいつ今なんて言った。
「ドリス、息子の言い分ももっともじゃ。ここはもう少し落ち着いて話を聞いてもいいのではないか。」
「ニッカさんまでこいつの肩を持つのか。どう考えてもあの場所にあった以上俺か息子しか考えられないんだ。俺じゃないってことは残るはこいつしかいないんですよ。」
まぁ消去法で言ったらそうなるな。
あの場所に入れるのはこの二人と村長だけだし。
「わからない親父だな。俺は知らないって言ってるだろ。大方どっかの誰かが俺に責任を押し付けるために納屋に隠したんじゃないのかよ。」
いや、だからなんでだ。
こいつは何を言っているんだ。
「息子さん、本当に知らないんですね。」
「あぁ、知らない。納屋の中に壺があったなんてしらないし、蜜玉があったなんて俺は初めて聞いた。それなのにこのクソ親父は俺が犯人だって決めつけやがるんだ。」
うんうん、そうだな、その通りだ。
決めつけるのはよくない。
良くないんだが、どうしてだ。
「よく、壺の中身が蜜玉って知ってましたね。たしかエミリアと村長、それにドリスさんしか知らないはずなんですが。」
「それは、村の中で村長が探し物をしてるってさっき村の奴から聞いて。」
確かに、村長とエミリアは昨日から蜜玉を探している。
何を探しているか聞き取り調査をしていてもおかしくない。
「そうですか。では、どうして貴方が蜜玉が小壷に入っているのを知っているんですか。」
「それはさっき親父が壺を俺に見せながら聞いてきたからだよ。お前この壺が何か知ってるよなって。」
うんうんなるほど。
たしかにドリスさんが壺について問いただしていたなら、蜜玉と関連付けることもできるよね。
「では、どうして貴方が小壺が納屋に入っていることを知っているんですか。」
「それは、さっき納屋で見つかったって村のやつが・・・。」
そう、ここだ。どうしてこいつが納屋にあることを知っているんだ。
こいつはさっきまで商店に油を取りに行っていたはずだ。
エミリアが呼びに来た時には他に誰もいなかったし、まだ商店から荷車は戻ってきていない。
納屋から解散した時に、ちょうど油を積んだ荷車が村に到着したはずだ。
「おかしいですね、納屋にあったという話はまだ誰にもしていませんし、ほかの誰も知らないはずです。それに、貴方はドリスさんに言われて油を取りに行っていたはず。合わないんですよ。到着した時刻と我々が納屋で蜜玉を発見した時刻が。貴方が知るタイミングなんてなかったはずなんです。なのに、なぜ貴方は蜜玉が納屋の中の小壺に入っていたと知っているんですか。」
知る事のできないタイミングで見つかった事実を、どうしてこいつが知っているのか。
それはただ一つ。
こいつが犯人に他ならないからだ。
「そ、それは、ほかのやつに、聞いたからだって。」
「いい加減認めたらどうですか、自分が蜜玉を取りに行って隠したんだって。」
状況証拠だけでは認めないか。
なら、もしこの考えが正しいのなら。
「正直に言いなさい、今なら私やドリスで事を収めることもできる。」
息子にプレッシャーをかける村長。
睨みつけるオッサン。
「ドリスさん、息子さんは最初の襲撃で手にケガをしたと言っていましたね。アリに攻撃されたと。」
「あぁ、そう言っていた。俺が駆け付けた時にはもう包帯を巻いた後だったが。」
やっぱりだ。
ということは、物証がそこにある。
「息子さんの包帯をほどいてください。おそらく、手にはアリにひっかかれた傷ではなく蟻酸でけがをした跡があるはずです。巣に取りに行ったときに負傷した傷を、襲撃の時に負った傷とごまかしているのでしょう。」
「おい、やめろ親父、まだ怪我は。」
「いいから黙ってろ。ここにある傷がお前の無実を証明してくれる、そうだろ。」
そういって息子の腕をつかみ、包帯をほどいていく。
そして、解いた先に出てきたのは火傷のように爛れた手の甲だった。
「これで言い逃れできませんね。蜜玉をあそこに隠した犯人は貴方です。」
状況証拠に物証がそろえば言い逃れはできまい。
あとは、どう裁くかだが。
「なんてことをしてくれたんだお前、お前のせいで何人怪我をしたと思ってる。もしかしたら死人が出てるかもしれないんだぞ。お前は自分がしでかした事の重大さがわかっているのか。」
「俺はただ、蜜玉を取って来れば、高く売れると思って。」
「高く売って町で遊ぶつもりだったんだろうがこの馬鹿野郎が。」
ドリスさんのストレートが炸裂すると思いきや、振り上げられた拳はそのまま降ろされた。
「村長、うちの息子のしでかした事でこんな大ごとになってしまった。どう責任取ればいいかわからない。こいつの処遇、村長にお任せします。」
「うむ、先ほどの納屋に連れて行ってカギをかけておきなさい。処遇は今夜の襲撃が無事終わってから考えることとしよう。」
これにて一件落着とは、言い難い終わり方だな。
自分の村から犯罪者が出て、しかもその犯人のせいで村に危機が迫っている。
この世界の法がどうなっているかはわからないが、その事について俺が関知する事でもない。
「イナバ殿、世話をかけましたな。」
「村長、自分はあくまで事実を述べたまでです。こういう結果になりましたそれはこの村の中での事。後はお任せいたします。」
「兄ちゃんすまなかった。俺の息子がバカな事しでかしたばっかりにこんなことになっちまって。」
元気のないオッサン。
それもそうか、自分の息子がこんな大ごと起こしてしまったんだから。
自分せいではないけれど、自分の事のように攻めてしまうのも仕方がない。
「おい、オッサン。今日はまだ終わったわけじゃないんだぜ、これからガツンとやらないといけないんだ。オッサンがその調子だと調子狂うぜ。」
そういって、オッサンの肩を思いっきり叩く。
驚いた顔をして顔を上げるオッサン。
これからがメインイベントだ。
このオッサンには全体を仕切るという大仕事が待っているんだ。
へこんだままでいてもらうわけにはいかない。
「兄ちゃん、俺をオッサン呼ばわりとはいい度胸だな。」
「オッサンにオッサンと言って何がおかしいのやら。まだまだこれからですよ、頼みますねオッサン。」
「そうだな、息子の不始末俺がカタつけないといけないわな。」
むさい中年同士がっちりと手を組みあう。
絵面的に非常にきれいなものではないが、男の友情ということで。
「さぁ、最後の準備だ。これから忙しくなるぞ!」
オッサンは大声を出して気合を入れた。
そうだ、そうこなくっちゃ。
これからがメインイベントだ。
打倒、アリの軍団。
やれるだけの事、やって見せようじゃないか。
「シュウイチ様、頑張りましょうね。」
そういって、手を握ってくるエミリア。
この柔らかい手、温かく伝わってくる体温。
これを守らずして何が男か。
頑張って見せようじゃありませんか。




