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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第一部 第一章

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臆病者の戦い方

「俺は反対だ。ここを捨てて逃げるぐらいなら俺はここで戦って死ぬぞ。」


「逃げるのはあくまで最終手段です。ニッカさんに頭を下げられた以上引くに引けませんからね、出来る限りのことはさせて頂きます。それでも最悪の場合は常に想定しておいてください。くだらないプライドだけで生きていくことは出来ませんよ。」


 やると決めた以上できる限りのことはするつもりだ。


 もちろん、逃げるという選択肢もその中に含まれる。


 しかしながら撤退はけして終わりではない。


 命さえあるのであればいくらでも再起することは可能なのだから。


「蜜玉の方はエミリア達に何とかしてもらうとして、こちらはこちらで無い知恵絞って頑張るとしましょうか。これから忙しくなりますよ。」


「確かに俺には出す知恵なんかないが、俺たちにできることがあるなら何でも言ってくれ。アリなんかにこの土地を追い出されるなんてご先祖に示しがつかない。」


 異世界に来てもご先祖様は大事にされているらしい。


 農業をする人ほど土地に対する愛着が強いんだろうな。


 実家の土地がどうのとは気にしたこともないが、田舎から出てきた同僚は田舎の土地を大事にしていたしちゃんと家に帰っていたりもする。


 実家、もう何年帰ってないことやら。


 こっちに来てしまった以上、もう実家に帰ることもできないのか。


 まぁ、帰るつもりもないけれど。


「とりあえず、動ける人を塀の強化と堀の採掘に当ててください。先ほど話したように堀は1m程の深さがあれば十分ですが幅は2mぐらいほしいですね。塀と合わせて3mが理想です。」


「わかった、堀のほうに人を多く回しておく。他はどうすればいい。」


「東西の門の内側にバリケードを作ります。この前のように乱戦にならないよう、道を作るように家具でも何でもいいので置いてください。門を突破された時にバリケードの隙間から槍などで攻撃できますし、散らばって乱戦になるのも防げます。最悪燃やしてしまえば壁にもなりますから。」


 門を突破された時は撤退するときだ。


 撤退戦はスピードが命だ。


 時間は稼げるだけ稼いでおきたい。


 できるだけ時間を稼ぎ、なおかつダメージを与えることができれば上々。


 蜜玉が発見できなかったとしても奴らはこの村に留まって探そうとするはずだから追撃される可能性も少ないだろう。


「ニッカさんとおたくのお嬢さんが見つけてくれれば話が速いんだがな。」


「言いましたように、見つけて返したからと言ってそのまま撤退するとは限りません。本当に蜜玉がここにあるとしたら彼らの大切なものを奪ってきていることになります。怒って仕返しに来るかもしれませんから。」


 蜜玉はあくまで可能性だ。


 二度も襲撃され、しかも撃退している。


 アリに知性があるとは考えにくいが、帰ってこない仲間を探しに来るかもしれない。


 これが人であれば可能性を絞ることができるのだが、アリの考える事なんかさっぱりわからない。


「どうしてこんなことになっちまったんだろうな。蜜玉だとしたら犯人の奴ぶっ殺してやる。」


「殺すのはアリだけにしておいてください。私たちも外に出て準備を始めましょう。」


 家の中で考えを巡らせていても意味がない。


 ただ考えているよりも、何かしていた方が考えがまとまるタイプだ。


 それに、外に出て何か使えるものを探さなければ大量のアリを処理する方法がまだ見つかっていないのだから。


「店長職に就くために異世界に来たはずなのに、なぜアリ退治をしているのだろうか。」


「なんだ、兄ちゃん商店に就職したばかりか。」


「えぇ、就職したものの店は廃墟、寝るための宿も無し、宿を探せばアリ退治。初日にしてはイベント盛りだくさん過ぎると思いませんか。」


「俺はこの村からあまり出たことはないしどこかに勤めるなんてことはてんで分からんが、そうかあの廃墟に赴任したのか。それは残念だったな、あっはっは。」


 おっさんは大声で笑いながら肩をバシバシたたいてくる。


 いてぇよ、こちとら引きこもりのオタクだっての。


 天然ガチムチ農夫の力じゃ肩はずれるわ。


 体育会系の連中はどうしてこうも加減というものを知らないのだろうか。


 オッサン、ついさっきキレながら俺の胸倉つかんできたんだぞ、変わり身早すぎるだろ。


 文句言うのもあれだから、村長の家を出て改めて周りを見渡してみる。


 中央に広場があり、広場を背にして12時の方向が村長の家、6時はそのまま南門までストレートに道が続いている。


 東西はそれぞれ3軒ずつ家があり、その奥に門が見える。


 そして3~9時にかけて塀が設けられている。


 南門は閂をして封鎖中。上部には櫓が二つ。


 上から攻撃するならあの場所からか矢で正面から来るアリを迎撃しつつ、塀を上ってきそうなアリにはそれなりの石を上から落とせば多少時間を稼げるだろう。


 二人も入ればギュウギュウだしあまり期待はしない方がいいかもしれないなぁ。


 人のように梯子をかけてこないだけましか。


 塀や城壁には梯子をかけて登って攻略するのが中世のころはメジャーだった。


 守る側ははしごを外すか上から油や石を落として迎撃したそうだ。


 日本の城でも同じようなことをしていたようだし地域関係なく発生する攻城方法なのだろう。


 襲って来るのがアリでよかったかもしれない。


 盗賊とかだったらこんな塀すぐに越えられておしまいだもんな。


 村長の家の裏は住居と畑、その奥が森か。


 撤退するなら北側の森しかないが、森に逃げた後ちょっと迂回して街道に出れば何とかなるかもしれない。


「町は西の門を進んでどのぐらいで着きますか。」


「馬車で3~4刻。徒歩だとほぼ半日だな。生憎この村には馬車はないし次に来る定期便は休息日までない。」


 夜に村を逃げ出して半日歩いて町までというのは事実上不可能か。


 怪我人に女子供と老人。


 森の中を抜けて街道に出た場所で野営。


 日が明けてから動ける人を町までは走らせて救援を求めるのが限界だろう。


「騎士団や自警団はその町にありますか。」


「自警団はあるがあまり期待しない方がいい、どの自警団も自分たちの町は守るが他の村を守るほどの余裕はない。騎士団が駐在しているのはそこよりもさらに一つ先の町だな。」


 救助を求める案も難しいか。


 逃げるのも選択肢と思っていたが、あまり得策ではないかもしれない。


 やっぱりここで決着つけないとまずいか。


 籠城戦に撤退不可の白兵戦。


 地獄絵図だなぁ。


 マジでいい案見つからないとここで死ぬな、間違いなく。


「ドリスさんは他の人に指示お願いします。塀の強化とバリケード労働に参加できない人には武器の整備をしてもらってください。矢はできるだけ多めに、剣よりも槍と酸も吐くようですから簡易の盾があるといいかもしれません。」


「なぁ兄ちゃん、なんでそんなにあれこれ思いつくんだ。自分の村でもないし、ましてやこの世界の人間でもないんだろ。」


「よくわかりますね、この世界の人間じゃないって。」


 自分の村の人間ではないはわかるが、この世界の人間じゃないと言われると思っていなかった。


 このオッサンただものじゃないのか。


 ただのガチムチ農夫だと思ったら、実は裏で暗躍するエージェントか何かなのかもしれない。


 都合の悪いもの見てしまったらピカっと光る棒で記憶を消されたりするんだろうか。


 ガチムチ農夫姿は世を忍ぶ仮の姿で、サングラスをつけて弾丸を避けるほうのエージェントなのかもしれない。


「そりゃあ、見たこともない服を着てるからな。そんな上等な服この世界のどこにもありゃしないだろ。」


 そうか、今スーツだった。


 超絶ファンタジーの世界、しかも田舎の牧歌的雰囲気の街中でスーツ着てネクタイ締めてたらそりゃ異世界から来たってわかるか。


 オッサンはただのガチムチ農夫だった。


 うん、ちょっとカッコよく見すぎた。


 オッサンごめん。


 オッサンはやっぱりオッサンだよな。


「そうか、それもそうですね。でもエミリアも同じような服着てますよ。」


「あの子はエルフだろ。商店連合の奴らはみんなあんな服着てるが兄ちゃんはただのヒューリンだ。亜人でもエルフでもないしな。」


 ヒューリンはあまり恵まれた種族ではなかったな。そんなやつがこんな服着ていたらそうなるか。


 あまり多くは召喚されてはいないと言っていたが、異世界から来た人がいるというのはあまり秘密ではないようだ。


「異世界から来た人は多いんですか。」


「大昔はそこそこいたと聞いているが最近は見かけないな。大きい街に行けばいるかもしれないが、俺は兄ちゃんが初めてだ。」


 いつかご同輩に出会うこともあるかもしれない。


「いつか会えるのを楽しみにしていましょう。それとさっきの質問の返事ですが、あれこれ思いつくのはただ死にたくないからですよ。怖くて逃げだしたい、死にたくない。死にたくないからどうすれば生き残れるのか必死に考えているんです。ただの臆病者ですよ。」


 俺は軍師でも英雄でも勇者でもない。


 ただのオタクサラリーマンだ。


 ビビりで臆病なチキン野郎だ。


 死にたくない。だからこそ、そうならないために頭を使うしかない。


 今までの経験と漫画やゲームや本で知りえた知識をすべて使って、ただ生き延びたいだけだ。


「臆病者がそんなにあれこれ考えつくかよ。兄ちゃんは今、立派に戦ってるじゃないか。胸を張れよ、そして俺たちが生き残るための考えを編み出してくれ。」


「思いつく限り、やらせてもらいますよ。」


 こんなところで死にたくない。


 そのために、今できることを必死に考えよう。


 臆病者には臆病者の戦い方っていうものがある。


 幸いファイ〇ーエムブレムやF〇タクティクスなどのSRPGで鍛えたチキンプレイの知識は伊達じゃない。


 被害を最小限に最大限の防衛を。


 皆に卑怯と言われようが勝てば官軍。生き残れさえすればいいのだ。


「それじゃあ俺は指示を出してくる。何かいい案浮かぶように期待してるぜ兄ちゃん。」


 そう言ってオッサンは広場に集まっている人に指示を出しに行った。


 プレッシャーかけていかないでほしい。


 チキン野郎は心もチキンなのだ。


 なんて、ビビってないで俺にできることをしていこう。


 とりあえず塀の外の様子、それと堀の深さでもみておくか。


 南門のほうに何か有効利用できる地形があるかもしれない。


 落とし罠やトラバサミみたいなもので足止めできる可能性もある。


 あー、モンスター用の罠はないんだったか。


 熊用とかないのかな。


 とりあえず、やるだけやってみよう。


 こんなとき諸葛孔明とかのSランク軍師とかなら素晴らしい案が浮かんだりするんだろうけど。


 残念ながら、ただの一般人には何も思いつかないんだよな。


 今です、風は吹きました、火計を仕掛けなさい。


 なんてね。


 ん、火計。


 火計か。


 これ、使えるかもしれないな。

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