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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第一部 第一章

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クエスト発生中

 一触即発。


 不必要に触れようものならすべてがこっちに飛び火してきそうな緊迫感。


 そんなピリピリとした空気が村中に漂っている。


「なにか、非常にまずいときにきたような気がするんだけどエミリアはどう思います。」


「なんでしょう、皆さん殺気立ってますね。何か良くないことでも起こるのでしょうか。」


 そんなに大きな村ではない。


 住居が10棟。


 北側の住居の裏から森にかけて畑が広がっている。


 ど真ん中にある少し大きな建物が恐らく村長の家だろうか。


 どこにでもある普通の村のような感じだが、この異様な感じは何だ。


 吉野ヶ里遺跡のごとく周囲を浅い堀と木で組まれた塀で補強されている。


 北を森のある部分として、今入ってきたのが東の門。


 南と東にも同じような門があるが、南の門のほうがずいぶんと重厚に作られている。


 各門の上には櫓が二つ、見張り櫓か。


 普通はこんな堀や塀なんか作らないが、モンスターが出る異世界の村はこんな物なんだろうか。


 それでも北が丸々空いているし、完全に囲っていないというのもおかしい。


「おい、お前らどこから来た。よそ者だな。」


 村の入り口で突っ立っていると中から一人の男性が歩いてくる。


 男の声と共にそこらじゅうから集まってくる視線。


 何か有名人になった気分だが、刺さる視線には殺気のようなきつい物がほとんどだ。


「私たちはダンジョンスマート商店連合の者です。村長様にお会いしたいのですがどちらにいらっしゃいますでしょうか。」


「ダンジョン商店ってダンジョン近くの廃墟の持ち主か!お前らのせいで村が大変な目にあってるんだどうしてくれる!」


 そう言いながらいきなり胸倉を掴んでくる男。


 いや、何がなにやら良くわからないんだだが、とりあえず因縁を吹っかけられているということは間違いない。


 やはりダンジョン商会にあまり良い印象は持っていないようだ。


 なんて言って商店を作ったのは知らないが、放置して廃墟にする相手に良い感情を持つことは少ないだろう。


 いやな予感は当たるときはあたるんだなぁ。


「暴力はやめてください、いったいどういうことですか。私たちが何をしたっていうんです。」


「お前らが作ったダンジョンのせいで俺たちの村はモンスター共に襲われているんだ。最近まで何てことなかったのに種期の辺りから急に見たこともないようなモンスターが増えやがった。お前らが管理しているダンジョンから溢れたに決まってるじゃないか、どうしてくれるんだ。」


「どうしてくれるもなにも、本当にダンジョンから出てきたんでしょうか。証拠はありますか。」


 クレーマーには謝ってはいけない。


 正確には自分の非がある部分以外謝ってはいけない。


 それ以外の部分を認めてしまうとなし崩し的にすべてを認めてしまわなければならないからだ。


 現状、原因不明の言いがかりをつけているのであればまず何が問題になってどういう状況なのかしっかり見極めなければならない。


「証拠も何もここいらでモンスターが出てくる場所なんてあそこしかないだろ。そうでもなきゃ、長年ほったらかしにしてた連中が急に出てくる訳ないじゃないか。大方事態の収拾に来たかなにかなんだろ。こっちとしてはいい迷惑だ。」


「ですから、いきなり言いがかりをつけられても困るんですよ。こっちは宿がないからただ近くのこの村に来ただけなのに、いい迷惑なのはこっちだ。詳しく状況を説明してもらわないとわけがわかりませんよ。とりあえず村長のところに案内してもらえますか。貴方じゃ埒が明かない。」


 クレーマー対策その2。


 相手にする場合は中途半端な役職が相手をせず上長がしっかり出てきて話をまとめる。


 店長出せ。なんてよく聞くけれど。私が店長ですというと急に態度が変わる場合が多い。


 その時にも曖昧な態度を取らず、一貫してこっちの非のみを詫びそれ以外の要望は受けつけないのが基本だ。


 ちなみに今回の場合はさっさと上長と話をつけさせろというクレーマーの立場から村長を呼んだ形だ。


「お前、自分たちじゃないと白を切るつもりか。こっちはこの前の襲撃で息子がケガして気が立ってんだ、

 逃げずにさっさと何とかしやがれ。」


「だから私たちのせいでもなければ、そもそもどういう状況かわからないから話をさせろと言っているんです。感情だけで話をされてもこっちとしては迷惑なだけなんですよ。」


「お前偉そうに!何様のつもりだ。」


「やめんか二人とも。ドリス旅人に失礼であろう、仮に当事者であったとしても言いがかりをつけるとはなんてことだ。」


 胸ぐらをつかみ、今すぐ殴り掛からんとする男を初老の男性が諫める。


 話し方、納め方からすると身分の高い人物である可能性が高い。


 というか、大抵の場合はこういう人物が村長だ。


 ナイスタイミング村長。


 ケンカが苦手なオタクじゃ農業でバリバリ鍛えてるオッサン相手にかなうはずがない。


「しかし村長。こいつら以外に誰があのアリを呼んだっていうんです。こいつら以外あり得ないでしょう。」


「いい加減にしろドリス。息子がケガをしてるからと言ってやっていい事と悪い事がある。旅の方失礼した、私はこの村で長をやっているニッカと申します。少々立て込んでおりまして皆気が立っているんです。お許しください。」


 やはり村長だった。


 名前については思うところがあるが、まぁ今は置いておこう。


「初めましてニッカ様。ダンジョンスマート商店連合所属エミリアと申します。こちらは新しくダンジョン商店の店長として赴任いたしましたイナバ様です。詳しくお話などお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか。」


 エミリアがさっと間に入って笑顔で挨拶を済ます。


 紹介されると同時に自分も頭を下げておく。


 何事も第一印象が大切だ。


 芸能人は歯が命。商人は笑顔と信頼が命だ。


「ほう、商店連合の方でしたか、立ち話もなんですから詳しい話は私の家までお越しください。ドリス、お前も来なさい。他の者は堀の掘削と塀の確認を。日暮れまで時間がありませんよ。」


「「はい。」」


 村長の掛け声と同時にほかの村人はスコップや紐などを持って去っていった。


 堀と塀を強化しているのか。


 にしても、日暮れまでに時間がないとはどういうことだ。


 盗賊か、モンスターか何かが襲ってでも来るのだろうか。


 アリがどうのとドリスと言う男が言っていたが、うわ、まだこっち睨んでいるし。


 よっぽど強い恨みでもあるのだろうか。


 言いがかりも甚だしいが事情も気になるな。


 農具のほかに槍や剣のようなもの、弓矢も見える。


 明らかに何かと戦う準備をしている感じだな。


 これは、非常にまずいことに巻き込まれているのではないだろうか。


 ラノベ主人公の如く次々と厄介事に巻き込まれていくとかごめんだ。


 自分は飲んべんたらりと過ごして、綺麗なお姉ちゃんたちをはべらせたいだけなのに。


「どうぞこちらへ。今、お茶をお持ちしますので。」


「シュウイチ様、奥の席をどうぞ。私は立ったままで大丈夫です。」


「エミリアこそ座ってください。ここまで歩き通しでしたし、どうやらすぐ済む話ではなさそうですから。」


 殺気だったオッサンの近くにエミリアを置いとく訳にはいかない。


 とりあえず安全そうな奥の席が一番だろう。


 壁には何かの動物の毛皮。


 その下には暖炉。


 中央に大きな一枚木のテーブル。


 樹齢何年ぐらいの木だろうか、こんな大きな木は見たことないな。


 典型的な実力者の家って感じだ。


「ドリス、お前は私の隣だ。」


「ニッカさん、どうしてこんな奴ら招待するんです。この時期このタイミングで来るなんてあきらかにおかしいじゃないですか。」


 まだまだケンカ腰で絡んでくるなこのオッサン。


 事情を話せ事情を、まずはそれからだってのに。


「カッカするなドリス。お前がその調子じゃ話が進まん。それに、お前を呼んだのは事情が事情だった場合に対処するためじゃ。それぐらい理解してもらわんと困るぞ。」


「つまりは、その事情が事情だったら逃がさないでどうかするつもりということだな。」


「そんな私たちは何も知りませんし、いったいどういうことなんですか。」


 状況があまり飲み込めず慌てるエミリア。


 うん、慌てた顔も可愛いぞ。


 何でこんなに冷静になっているかわからないが、今、自分がしっかりしないと非常にまずいことになるようなきがする。


 いや、気がするんじゃなくてなる。


 まちがいない。


 今しっかりしないでいつするの、今でしょ!


「ホホ、そこの方はよく理解しておられる。改めて村長のニッカと申します。商店連合のイナバさんでしたな。こちらに来られた事情をお聞きしてもよろしいですかな。」


「イナバシュウイチと申します。イナバとお呼びください。事情も何も先ほどお話しした通りですよ。こちらとしては一晩の宿をお借りできないものかとダンジョンができた際にご縁のあったこちらの村を頼りにこちらにきたのです。それが、村に入ったとたんにこの始末。こちらとしても詳しく事情をお聞きしたいぐらいです。」


 ここはお互いに紳士的に。


 しかし、腹の中ではどうやって本音を聞き出してやろうと腹を探りあっている感じだな。


 顔はニコニコしてても腹の中では何考えているかわからない感じだ。


「『訳が分からない』ということですか。ですが、それではこちらの事情がうまく収まらないんですよ。事の始まりは冬の節が終わり春の節になった、種期最初の聖日の夜。三匹のキラーアントが村に現れたのです。最初はそこにいるドリスの息子がケガをしたものの、何とか撃退できました。」


「ところが、次の週の聖日に今度は十匹以上のアリ共が襲ってきやがった。村中の男たちが死力を振り絞って何とか追い払うことができたが、これから農作業って時に怪我人ばかり増えちまった。農作業も進まずアリばかり増えて、この先この村はどうなっちまうんだ。これまでアリなんて一匹も出たことないのに、お前らのダンジョンから出てきてないっていうなら、いったいどこから出てきたっていうんだよ。」


 春になったら急にアリに襲われた。


 息子や男衆がケガをして仕事にならない。


 お前たちのせいだどうしてくれる。


 つまりはこういうことだろう。


 うん、どう考えてもとばっちりだな。


 寝る場所探してここに来るんじゃなかった。


 もう、あの廃屋で野宿でよかったんじゃないだろうか。


「アリが出てきた事とダンジョンが原因だっていう説明がついていませんよ。ダンジョンのせいだというのはあくまでもそちらの仮説。直接確かめられたわけではないんですよね。」


「確かめたも何も、モンスターが出てくる場所なんてそこしかないだろうが。」


「モンスターは森の中にも出てきますし、なにもダンジョンだけではないでしょう。運悪く魔力だまりが出きてそこから発生したということも考えられます。確認もしないで決めつけるのは些かナンセンスなのでは。」


「そ、それはそうだが、ここに住んで30年以上たつがここがモンスターに襲われたことなんて1度もないぞ。」


 見たことがないから、森のはずがない。


 何とも自己満足な考えだ。


 食べられないのは酸っぱいからに違いない。


 そんな狐の話を思い出してしまう。


「見たことがないから全てを他の可能性に決めつけるのはこじ付けではないでしょうか。」


「じゃあ他に何が原因だっていうんだよ。ダンジョンじゃなきゃどこからあのアリはやってきたっていうんだよ。」


「いい加減にせんか。ここで怒鳴りあっていても何も解決しないじゃろう。」


 つい、からかいすぎてしまった。


 あまりにもすぐ爆発するものだから、導火線に火をつけてしまう。


 そんなとき。


「ダンジョンから出てくることは私もないと思います。ダンジョンは確かにモンスターを産み出します。しかしながらダンジョンが産み出すモンスターの中にキラーアントは存在しません。キラーアントは蟻塚と呼ばれる独自の巣を作ってしまうのでダンジョン内ではうまく生きていくことができないのです。それに、もし仮にモンスターが外に溢れだすようなことが起きた場合には速やかに警報が鳴り、商店連合の警備部が討伐に参ります。以上の事から今回の件に関してはわが商店連合は無関係だと思います。」


 エミリア、ナイスアシスト。


 そうなのか、ダンジョンでは発生しないモンスターもいるのか。


 これはまた詳しく聞いておかないと、ダンジョン開発に差しさわりが出るな。


 それに警報装置か。


 よそ様に迷惑をかけないというしっかりとした管理体制ができてるんだな。


 おそるべし商店連合。


「エミリアさん、それは間違いないのですね。」


「はい。もし仮に警報が壊れているのであればもう他のモンスターにこの村は襲われているはずです。ですが、30年以上1度も襲われたことがないということですのでその可能性はないと断定できます。」


「じゃあ、あのアリはどこからきてなんの為に襲ってきてるっていうんだよ。」


 それはアリに聞いてみるしかわからないだろう。


 聞いても答えることはないと思うが。


「エミリア、キラーアントの生態について詳しく知っていますか。」


「えっと、キラーアントは森の中か岩場に蟻塚という巣を作り出します。一匹の女王アリを中心に多くの働きアリが巣の中で生きています。主に果実や花の蜜などを主食としていますのであまり攻撃的なモンスターではありません。ただ、巣を攻撃された時などは蟻酸という強い酸をかけて攻撃してきます。蟻塚からは蜜玉という蜜の塊が採れますのでそれを目当てに挑戦する駆け出し冒険者もいます。大抵追い立てられて失敗することが多いですけどね。」


「あまり強いモンスターではないんですか。」


「一匹一匹はあまり強くはありませんが、巣の中に何百というアリがいますから数で来られると太刀打ちができません。普段は煙玉などで働きアリを追い出してからばれない様に採取をして逃げるのが一般的です。キラーアントは自分たちの匂いに非常に敏感で、10キロ先の蜜玉の匂いを感じて追いかけてきます。ですので蜜玉は水かお酒につけて隠すように運ぶんです。」


 キラーアントっていう割には地味だな。


 初心者キラーっていう意味なのか。


 うーむ、なんか引っかかるな。


 駆け出しの冒険者が挑戦するぐらい弱いモンスター。


 弱いけれど、匂いをかぎとって追いかけてくる。


 犬かよ。


 いや、アリだけどさ。


 追いかけてきて回収して帰るんだろうな。


 まてよ、もしかして。


「これ、蜜玉目当てにアリが来てるっていうことは考えられませんかね。」


 こう考えるとどうだろう。


 村人の誰かが蜜玉を取って来たが、隠し方がわからず垂れ流された匂いを頼りにアリが追いかけてきた。


 襲いに来たのではなく、返してほしくて追いかけてきただけではないのだろうか。


「村に蜜玉がありそれを目当てにキラーアントが来ていると、そうイナバさんとやらは思うというわけじゃな。」


「急にアリが襲って来るとしたらそうとしか考えられない。もともと非攻撃的なモンスターがわざわざ村までくる理由がそれぐらいしか見当たらないからな。最初の三匹は斥候。斥候が戻らず数を増やして探しに来たと考えるほうが自然だ。次に来るときはもっと大量に来るかもしれない。」


「なんだって、毎週聖日に来ていることを考えると明日がその日じゃないか。この前以上にアリが来たらどうすればいいんだよ、この前だって死人が出ないのが奇跡だったんだ。それ以上に来たら、この村はもうおしまいだ。」


 大の大人が大慌てだな。


 まぁ、他人事だからあんまり危機感ないのかもしれないが。


 このままここに泊まるとそのアリに襲われる可能性があるな。


 しかし、今から町まで歩く事を考えるとそのほうが危ないかもしれない。


 夜の森は歩きたくない。


 それに、ここまで事情を聴いてほったらかしにするのも嫌な感じだ。


「エミリア、商店連合の警備部に来てもらうことはできないんですか。」


「難しいと思います。警備部はあくまでダンジョン近辺の管轄になりますので村や町は自警団や騎士団の管轄です。今から騎士団を呼んでも明日に間に合うかどうか。」


「いったいどうすればいいんだ。誰がここにアリを呼んでいるんだ。」


 そこだ。


 誰が何のためにここにアリを呼んでいるんだ。


 正直こんなところに呼んだところで何の意味もない。


 ただの農村だし、この土地を目当てにしたとしてもここにアリが住み着けばそれこそ面倒なことになる。


 メリットがない。


 ということは、損得ではなく単なる偶然が起こした事件なのではないのか。


 真実はいつも一つ。


 じっちゃんの名にかけてこの事件を解決してやるぜ。



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