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ハッピーエンドの材料はどこにある?  作者: 岩月クロ
レシピ7.精霊王がいる世界
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17.何故私はここにいるの? 後編

 しばらく呆気にとられていたファンクスは、不意に堪え切れなくなったように笑い始めた。

「前にも思ったけれど、きみは……やっぱり、少し彼女に似ているね」

 優しい視線に不覚にもドキリとする。自分に向けられたものではないと、知っているにも関わらず。

 ぺし、と横に並んだカーダルに頭を叩かれた。いたい、と小さく文句を言う。

「良いよ。きみに託そう」

 そう告げた彼は、今にも消えそうで。慌てて口を開く。

「ええ、だから貴方も、しっかり見届けてください。賭けの結果を知る前に消えたら駄目です。アイレイスさんに黙って消えるのも無しです。この場を一番に望んだのは彼女です。必ず会ってください。その後は貴方の好きにしていいので」

「……その後は、良いの?」

「はい」

 きっと、アイレイスさんが許さないと思うので。

 雛㮈はその言葉をそっと胸にしまう。そんなことは、今知らなくても、後で嫌という程分かることだ。

「きみも、それで良いのか?」

 視線はカーダルに向いている。彼は視線を逸らしながら、「あんたのことは、一生許すことはできない」と答えた。

「……でもあんたがここでただ死ぬことも、許すことはできない」

 そこまで言うのが限界だったのか、カーダルは唇を噛み締めた。せっかく仲直りしたカーダルとアイレイスの間に、埋めようのない溝ができたようで辛い。いつかそれが埋まれば……否、それは過ぎた望みだろう。雛㮈は静かに目を瞑る。

 ただ、──いずれは、と。その未来を望むためにも、今時点で雛㮈がするべきことはひとつだ。

「精霊の王様、契約を」

 真っ直ぐに精霊王を見る。会話を見守っていた精霊王は、ふわりと優しく笑った。

「……ヒトの子よ。君は、自分で道を決めたんだね」

 伸ばされた手が、雛㮈の頭を撫でる。

「在るべき場所で、在るべきように。不安定だった君という存在は、消えてしまうかとも危惧していたが、……あぁ、やはりヒトの子は不思議だね」

 私は消える瀬戸際だったのですか、とは聞けなかった。なんとなく、怖くて。

 顔を青褪める雛㮈から視線を外した精霊王は、ファンクスを促すように見る。

「長く私の我儘を聞いて頂き、ありがとうございます。契約の破棄を望みます。契約破棄の罰は慎んでお受け致します」

 恭しく頭を下げたファンクスに、精霊王が目を細める。楽になさい、と手を振った。

「私自身も、かの一族には辛い役割を与えた。……けれど、そうだね、ケジメは必要か。どうだろうか、私の眷属になるというのは」

「眷属……ですか」

 このメンバーにも、眷属がいる。精霊獣たるラルク、それから悪魔であるディーだ。

 うむ、と頷く精霊王は「精霊獣になるには、資格が足りない」と言った。つまり、悪魔になるということか。

「ヒナよ、君の悪魔を借りて良いかな」

「え? あ、どうぞ。私はしばらくいませんし」

 むしろ主たる雛㮈の監視がつかない分取り扱いに困るところだ。簡単に権利を受け渡した雛㮈を、ディーが忌々しそうに見た。こ、怖くなんて、ない。

 精霊王に呼ばれたディーは、面倒そうに近寄る。何でしょうか、と偽りの笑顔で訊ねるディーに、場違いにも「度胸があるなぁ」という感想を抱く。

「さあディー、久し振りの“お願い”だ。彼の面倒を見てあげておくれ」

「……は、仰せのままに」

 にこー、という笑顔を崩さないまま短く返事をしたディーを見ながら、ニキとラルクがにやにや、こそこそと話している。

「あれさ、絶対嫌だって顔だよなぁ」

「いい気味じゃのう」

「聞こえていますよ、そこの獣二匹」

 冷戦が勃発している傍らで、精霊王とファンクスの契約破棄の儀式が始まっている。雛㮈が視線を滑らせたゴールには、難しい顔をするカーダルがいた。

 そっとその肩に触れる。

「──勝手に決めて、怒っていますか?」

 いろいろな感情を吐き出すように、重々しいため息を吐く。

「怒ってない」

 うそつき、とは思ったが、口には出さない。口には出さなかったが、顔には出ていたようで、カーダルはくしゃりと顔を崩した。

「本当だ。お前には怒ってない。……自分の無力さに腹が立っただけだ」

「そ、そんなことないですよ! さっき言った通りですから。カーダルさんがいるから、私は行って来れるんです」

 ふわりと笑えば、切羽詰まったように、きつく抱き締められる。

「……待つことは慣れてる。ずっと、待っていたからな。でも、必ず戻ってきてくれ。帰って来ないのは、耐えられない」

 失うのはもう嫌だ、と。まるで雛㮈が消えてしまうと思っているかの如く、強く掻き抱く。

 宙にあった手を、そっと背中に伸ばした。離さないのは、自分も同じだと伝えるために。

「はい、約束します。必ず戻ります」

 更に腕に力がこもる。かと思えば急にふっと力が抜け、身体が離れる。至近距離で視線が絡まる。好きだ、と言葉が紡がれたように見えたのは、願望が映した出来事だったか。

 重なる唇に、ありったけの想いを乗せた。同じように温かい気持ちが流れ込んでくる。

 唇を離すと、コツリと額を合わせる。手を、指を、強く繋いで。

 契約破棄の合図がした。


 ──さあ、行こう。


 名残惜しいと感じながら、身体を離す。

 ここは、深層世界。『アイレイスの元へ』。そう望めば、繋がる。ファンクスが深層世界を渡っていた要領と同じだ。

 一歩、二歩、と下がる。望むだけでそこに行けるのに。だから、これはただ時間を稼いでいるだけの行為だと、嫌という程、自覚がある。


『お行きなさい。ヒトの子よ。在るべき場所に行くために』


 大きな大きな、精霊王が笑う。契約破棄のために、本来の姿に戻ったのだろう。

「彼女を頼みます」

 ファンクスが深々と頭を下げた。その隣で、ディーが妖しげな笑みを浮かべている。

「愉しみにしていますね」

 失敗を望んでいるような顔ですね、と心の中で苦笑する。最後まで、悪魔らしくブレない。

「待ってるからなー。また買い物行こうぜ」

「うむ。あんまりにも待たせると、我が美味しいものを全て食べてしまうぞ」

 にしし、と笑うニキの足元で、ご馳走を想像したらしいラルクが舌舐めずりしている。

「いってらっしゃい」

 カーダルは、笑って手を振った。

 胸が詰まる。


 顔をくしゃくしゃにして、笑った。

「いってきます!」

 そして、雛㮈は闇の中に身を投げた。




次回更新日は、明日となります。

(わたしが更新を忘れていなけれ、ば!)

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