815
その反応にロッテリゼの胸中に不快感が沸き起こる。
「何?」
『いやいや、勝てないのが不思議といった様子だったのでそれがおかしくてね?』
「どういう事かしら?」
アメリアは応えずに映像を再生させる。
それはホーコートがニャーコというプレイヤーに敗北した瞬間だった。
バトルライフルからマシンピストルへと武器のスイッチのタイミングを完全に盗まれている。
『これ、何でやられたと思う?』
「モーションのパターンが盗まれたからでしょ」
『その通り。 バリエーションを増やしたのはいいけど、機体っていう制限があるからどちらにしても挙動に制限が出るからどっちにしろ読み合いに長けたプレイヤーには通用しない』
じゃあとアメリアは映像を切り替えた。 本戦二回戦「思金神」戦だ。
Aランクプレイヤー「キュムラス」との戦闘。 本来なら霧で見えないはずだが、フィルタリングによって挙動がはっきりと目視できるようになっていた。
ホーコートはキュムラスのドローンをEMPで無効化しつつニードルでマーキング。
磁界を発生させて弾丸を誘導するといった流れで仕留めた。
『これは何で勝てたと思う?』
「……MODで相手の動きを先読みしたからよ」
『そう、その通り。 貴女のMODは大した物だよ? 対プレイヤーとしては』
アメリアはホーコートの機体をフォーカス。
『これの最大の強みはこれまでに集積したプレイヤーの戦闘データを基に戦い方を自動で組み立てる。 だから相手に対して常に最適解に近い動きを行えることにある』
ただと付け加える。 そこには嘲りの色が濃い。
『データが少ない相手に対しては効力を余り発揮しない。 このニャーコっていう子は乗り換えたばかりだから戦闘データの蓄積が足りなかった。 だから、穴をテンプレートで埋めた結果あっさりとそこを衝かれて負けた。 逆にキュムラスって子は長い事Aランクプレイヤーとして戦ってきたからデータの蓄積が充分だった事もあって勝てた』
映像が切り替わる。 その前の戦いであるユニオン「ライラプス」戦だ。
『これに関してはちょっと笑ってしまったわ。 同じMOD、同じ機体を使ってるから両方とも全く同じ挙動を取るんだもの。 ――で、そのまま相打ち。 当然よね? 全く同じなんだから』
じゃんけんのあいこみたいなものねと言いながら映像を閉じる。
『――で? 特別にMODを与えたこの子だけど、特別な能力がある訳でも尖った装備に適性がある訳でもない。 唯一の特記事項はミツォノロプロフのサンプルってだけ。 しかも、人格フォーマットの経過観察用のゴミじゃない。 何を血迷ってこんなのに支援したの?』
アメリアはそう言って小馬鹿にしたように笑う。
ロッテリゼは何も言えなかった。
彼女としてもホーコートが素材として落第レベルなのは理解している。
それでも支援したのは本命が別でいたからだ。 アメリアはそれすらも見透かしたように笑う。
『まぁ、知ってるんだけどね? 本命はこの子達でしょ?』
表示されたのはヨシナリ、ユウヤ、ベリアルの三人。
『他の子も中々に良い素材だけど、この三人は特にいい。 中でもこの子――ヨシナリってプレイヤーが本命かな? 突出した技能はない代わりに学習能力と応用力に関しては非常に高い数値を出してる。 この子ならMODを本当の意味で使いこなせるって思ってるんじゃない?』
「えぇ、そうよ。 この子ならMODを本当の意味で扱う事ができるでしょうね。 適性値だけなら私の見た中でもトップクラスよ」
『でも、1%以下なんでしょう? ――あぁ、見てあげる。 あっはっは、御覧なさないな! 0.0005%ですって下がってるんじゃないの? 貴女の作戦、全っ然ダメじゃない!』
アメリアは心底から愉快と言わんばかりに笑い続ける。
流石のロッテリゼも我慢が出来ずに「黙りなさい」と低く呟くように口にした。
ピタリと笑い声が止まる。
『まぁ、からかうのはここまでにしておくとして、今回は警告だ。 これ以上の介入は止めなさい。 ICpw日本サーバーの管理責任者としてこれ以上の勝手は看過できない。 付け加えるならウチの犬に変な物を食べさせるのも止めなさい。 元々、αチームはMOD運用じゃなくてオビディエンスフレームの装備検証用の実験部隊よ。 それにあんなクソみたいなMODを食わせてるなんて許可した覚えはないんだけど?』
「別に良いじゃない。 MODのデータも集まって装備も試せる一石二鳥じゃない。 それに警告? アンタ程度に何ができるっていうの?」
『馬鹿か? 何かするのは私じゃなくて上だよ。 分かるように簡単に言ってあげるわ。 偉い人に言いつけてやるって話よ。 確かにMOD運用に関してあなたは評価はされている。 そこは認める。 ただ、オーバーSランク育成のタスクはそれ以上の優先度。 言っている意味分かる?』
つまりアメリアはMOD運用とオーバーSランクの誕生は並び立てない。
MODユーザーではその域に至らないと言っているのだ。
だがとロッテリゼはそれを否定する。
「そちらの考えは分かったわ。 ただ、MODを使いこなした者こそ更なる高みへ至れると私は信じている。 文句のない成果を出せばいいんでしょう? それを見てから判断しなさいな」
アメリアはそう?と小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、「好きにすればいい」と言い残してその場から消失。
残されたロッテリゼはしばらくの間、何もできずに拳を握る事しかできなかった。
あふとアメリアは欠伸をしながら廊下を歩く。
ロッテリゼという身の程知らずに警告するという人生でトップクラスに無駄で面倒なタスクを消化した彼女はペタペタとスリッパ特有の足音を響かせながらぼんやりと考える。
日本サーバープレイヤーについてを。
数こそ少ないが粒揃いと自負しており、そろそろ二人目のSランクの誕生が近い。
正確には既に誕生しているのだが、早々に負けてAに落ちるのだ。
いい加減に昇格した瞬間にラーガストに挑んで返り討ちに遭うのは止めて欲しい物だ。
能力的にオーバーSランクに至る可能性はあり、期待値は高かった。
特にワールドレイドが実装される以上、可能な限り強くなって貰わないと困る。
「あ、居た。 チーフアメリア。 ちょっといいですかー?」
不意に後ろから声をかけられ、アメリアは不機嫌そうに振り返る。
赤毛が特徴的な女性が走り寄って来る。 オペレーターのジョゼだ。
「おや、もう謹慎は解けたのかしら?」
「いやぁ、こっぴどく怒られましたけど許してもらいました」
そう言ってジョゼはへへと笑う。
彼女は前回の防衛イベントにてイベントのレギュレーションを無視した装備を使用した事で謹慎を言い渡されていたのだ。
その戦闘ログはアメリアも見たが、素晴らしい戦いだった。
最低でもSランククラスのプレイヤーを用意しないと勝てないと言えるほどの戦力差だったにも関わらず撃破してみせたのだから。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!




