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食いついて追いかけているが雪華の動きは明らかにアイロニーの様子を探っているような印象を受ける。
「タクティカル。 私についての情報が少ないから見に徹しているといった所だろう」
「そうなんですか?」
「――だろうな。 そこのチビはAに上がってそんなに経ってねぇ。 だから『思金神』の連中も詳細なデータを持ってなかったんだろうよ」
答えたのは意外な事にユウヤだ。 それを聞くとなるほどと思う。
確かにアイロニーの機体は初見では何をしてくるか分からない怖さがある。
ヨシナリ自身もそうだったが、見てから対処を決めるのはそこまでおかしなことではないのか。
「――というか無所属でジェネシスフレームを作ったんですか?」
「プラクティカル。 計画的に貯蓄すれば何とかなる物だよ」
アイロニーは苦笑しながら「何度もAとBランクを往復する事になったがね」と付け加えた。
それに短期間ながらユニオンに所属した事はあったが、馴染めずに早々に抜けたとの事。
集団戦でも慣れた様子だったのはこの経験が活きていたのだろう。
そんな話をしながら視線は映像へ。 雪華というプレイヤーは誘い込まれている事を察してはいた。
それでも乗ったのはステルスに特化した機体を自由にさせる事の危険性を理解しているからだ。
最低限、居場所を把握しておかなければ何をしてくるか分からない。
特にチーム戦では猶更だろう。 この時点で二機やられているのだ。
不確定要素は早めに潰しておきたい。 そんな焦りに似た気持ちが伝わって来る。
それでも上位のランカー。 立ち回り自体は冷静だ。
反応を偽装される事を警戒してか携行武装のエネルギー式の突撃銃でアイロニー本体を狙いつつ、周囲の地形にも撃ち込んでいた。
「上手いな。 砂埃や崩れた岩とかと接触した時の反応で真贋を見極めようとしてるのか」
反応は誤魔化せても移動の痕跡や地形から受ける影響まで誤魔化すのは難しい。
ステルス機の炙り出し方を理解している動きだった。
「タクティカル。 厄介な相手で警戒を削ぐのに随分と時間がかかってしまったよ」
警戒を削ぐ? どういう事だと画面を注視していると途中で気が付いた。
「あ、入れ替わった」
ふわわも気付いたのか小さく呟く。 グロウモスも気が付いていたようで視線が物語っている。
「え? 何? 分からん」
マルメル、ホーコートは分からなかったのか首を捻っている。
ヨシナリは問題のシーンまで巻き戻すと一時停止。
「ここだ」
映像を拡大するとよくよく見るとぼんやりと見えるアイロニーの機体のシルエットだけでなくもう一つあった。 アイロニーはそのまま地面に伏せ、もう一つが移動を開始。
「中身がスカスカなのを上手に使いましたね」
アイロニーはふふんと笑って見せる。
「どういう事だ?」
「アイロニーのドローンって球が三つが三角形を作るような感じで布の中に入って機体に見せかけてるんだ。 そこまでは分かるな」
あぁとマルメルが頷くとヨシナリはそのまま話を続ける。
「で、あれは何をしたかって言うと、事前に先行させたドローンを地面に設置しておいたんだ。 地面に転がしておくと形が崩れて分からなくなるからな」
その状態で通り過ぎるタイミングで入れ替わったという訳だ。
雪華が居場所を把握する為にあちこちに弾を撃ち込んでいた事も気付けなかった要因として大きい。
入れ替わりのタイミングも秀逸だった。
敵機の斉射に合わせ、回避先にドローンを伏せていた場所に調節したからだ。
重なった所で本体は地面に伏せ、ドローンが移動を開始。
「あぁ、なるほど。 こりゃ気付かねぇわ」
入れ替わりの個所をスロー再生した所でマルメルが納得したかのように呟いた。
この先の展開に関してもある程度ではあるが想像は可能だ。
アイロニーの進む先はフィールドの端。 つまりは行き止まりだ。
それは追い込んでいると思っている雪華も理解している。
何かしらの罠を張っているであろう事。 いくらアイロニーの情報がなかったとしてもこれまでの行動傾向を見れば絡め手で来るタイプという事は理解しているはずだ。
敢えて乗る事にしたのだろう。
地形を活かすなら追い込んだと見せかけて全方位からのアンカーでの拘束か。
――と敵が判断するだろうからその裏をかく感じかな?
映像ではちょうどマップの端に追いつめられた所だった。
アイロニーは停止と同時に煙幕を噴射して視界を奪いにかかる。
ご丁寧にドローンが吐き出している所を見ると事前に仕込んでいたのだろう。
雪華は即座に反応。
突撃銃を連射しながら放物線を描くように上昇しているのは地形になにかしらの仕掛けがあると判断したからだろう。
無数のワイヤーアンカーが雪華を捉えるように飛ぶが、針に糸を通すような繊細な挙動でその全てを掻い潜る。 上手い。 目が良いのもあるが視野が広いのだ。
器用にすり抜けるように躱し、その眼は崖を登っている本体――と思っているドローンを正確に捉えていた。
「これだけやって見失わないのか」
ここだけを切り取るなら素晴らしいと褒め称えたいレベルなのだが、入れ替わりを見た後だと何とも言えない気持ちになってしまう。 突撃銃を連射。
無数のエネルギー弾はドローンを正確に捉え、同時に背後から音もなく飛び掛かって来た本体に組み付かれて注射針を撃ち込まれていた。
マルメルがそっと目を逸らす。 気持ちは分からなくもない。
見事なプレイだからこそ道化のように踊らされたのは少し気の毒だった。
「お見事です」
「タクティカル! 我ながら変わり身に関しては中々の物と自負しているぞ!」
ふんすと鼻を鳴らして胸を張った。
実際、あの入れ替わりに関しては見事としか言いようがない。
戦闘中にやられてどれだけのプレイヤーが気付く事ができるのか。
完全にアイロニーの作戦勝ちだった。 雪華は決して弱くはない。
それでも完勝できたのは周到に準備をした結果だろう。
「――さて」
そう前置きをして映像を撒き戻す。 これから問題のシーンに入るからだ。
タカミムスビ。 優勝を狙うからには高い確率で当たる相手だと思っていた事もあって割と早い段階から仕留める準備はしてきたのだ。
情報も集め、流石に100%とは行かなくても嵌まれば勝率は四から六割は行けると思っていたのだが、どうやら見積もりが甘かったようだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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