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『やるじゃないか! これは読めなかった!』
ウエポンコンテナが破壊されたというのにタカミムスビは嬉しそうに笑い出した。
ユウヤは突き刺した大剣を引き抜くと大きく振りかぶって横薙ぎに振るう。
タカミムスビは笑いながら機体の口を開けると噛みついて止めるが、ユウヤは構わずにギミックを起動。
丸鋸が飛び出し、唸りを上げて回転する。
「このまま顎ごとぶった切ってやる」
『やって見給え! ――まぁ、無理だがね?』
次の瞬間、アマノイワトのカメラアイが妖しく輝くと細いレーザーが一瞬、瞬くように放たれ、ユウヤのアバターが焼き尽くされた。 僅かに遅れて右側のウエポンコンテナが爆発。
これにはタカミムスビも驚いていたが、ヨシナリにははっきりと見えていた。
ユウヤを仕留めに行くタイミングでふわわが野太刀の鞘を飛ばしたのだ。
胴体は警戒されていると判断して武装を剥ぎ取りにかかった。
だが、これでエーテルの阻害は使えない。 ヨシナリはアノマリーにエーテルを注ぎ込んで強化、畳みかけるように連射。
タカミムスビは喰らうと不味いと判断したのか動きの悪くなった右腕でガードしながら乗り手を失って動かなくなったプルガトリオを振り落とし、無事な左腕でふわわを牽制。
ヨシナリにはレーザーを撃ち込むがアイロニーが再度スモークを展開してレーザーを封じる。
それに感謝しながら身を晒してエーテルの弾丸を連続して叩きこむ。
大きく減衰している事もあって直撃を貰っても大きなダメージはないので、身を晒してとにかく撃ちまくった。
頭部、胴体と次々に被弾するタカミムスビはこれは防げないと判断したのか反射板を間に差し込んで防ぐ。 即座に移動して隙間を縫うように狙うが、反射板が抜かりなく射線を塞ぎに入る。
その間にふわわが反射板を切り刻みながら文字通り、道を切り開く。
野太刀は使えない。 ナインヘッド・ドラゴンを使う隙は無い。
なら、肉薄して太刀と小太刀で直接切り刻む。 この状況に対しての最適解と言える動きだ。
「さーて、充分に近寄ったと思うけど、ウチにまだ何か言う事ある?」
ふわわの挑発的な物言いにタカミムスビは鼻を鳴らして笑う。
『あるとも。 君の自信は確かな実力に裏打ちされたものだ。 素晴らしいよ。 君はその有り余る才覚で成功を積み重ねたのだろう。 だが、自信という物は得てして傲慢を孕んでいる。 理解できないんだろう? 自分より劣る者、自分が息をするようにできる事をできない者の事が。 だから取るに足らないと切り捨てる、意に介さない。 その欠落を正しく認識しているかしていないか。 それが今の君と私の差だよ』
右の斬撃を掻い潜り、左腕にしたように関節に斬撃を入れて動きを鈍らせた後、腕を踏み台に跳躍。
目の前、ふわわは既に斬撃の態勢。 躱しようがない。
――はずだったのだが、彼女の機体が突如、空から落ちた雷に打たれたのだ。
「は?」
流石にこれはヨシナリも想定できずに思わず上を見る。
そこには小さな雷雲がゴロゴロと唸るように瞬いていた。
『これは私にも言える事なのだが、傲慢な人間はこうして足を掬われるものだよ。 君の反応の良さは知っている。 だが、意識の外からの攻撃――つまりは想像力の外側の攻撃に対しては無反応。 つまりはそこが君の死角で限界という訳だ。 己を知れ小娘。 君はつまらない』
ふわわは何かを言おうとしていたがタカミムスビの固めた拳にコックピット部分を打ち抜かれ、言葉は形にならずに霧散する。 機体が僅かに遅れて爆散。
それを見てヨシナリは驚きを通り越して恐怖すら抱いていた。 対処に無駄がなさすぎる。
――完全に術中だった。
霧散させた後、一切使う素振りを見せなかったのもふわわを仕留める為に温存していたとすら思える。
いや、そうなのだろう。 明らかにタカミムスビの動きには余裕があった。
恐らくは最初から――
『そう、最初からだ』
思考を読んだかのようにタカミムスビがそう口にする。
『私はね。 君達の事を高く評価しているんだ。 個々の技量もそうだが、何よりも欲望が強いのがいい。 そんな美味しそうな獲物、独り占めにしたいと思うのは当然だと思わないか?』
「……最初から一人で俺達全員を相手にするつもりだったって事ですか?」
『その通りだ。 でもそれをやると霧ヶ峰達がうるさくてね。 だから君達を切り離すだけで我慢したのだよ。 返り討ちにするならそれも良かったのだが、これだけの数が突破してくれたのは嬉しい誤算だった。 あぁ、彼等の名誉の為に言っておくが、別に手を抜いてはいな――ここは手を抜いていたといった方が面子を保てたのかな?』
言いながらレーザーを発射。 乱反射したレーザーがアマノイワトの周囲を薙ぎ払う。
アイロニーが配置したドローンが一瞬で全滅。 通信からアイロニーが僅かに歯噛みする声が聞こえる。 どうやら話している間に包囲しようとしていたが読まれていたようだ。
『まったく、日本エリア最強のユニオン。 その一軍がこうもあっさりとやられるのだから、情けないと叱責してここは発奮を促すべきだろうか? それともこの日本サーバーに頼もしい新星が現れたと喜ぶ所かな? 君はどう思うかね?』
タカミムスビは何事もなかったかのように話を続ける。
ヨシナリにはこの状況が理解できなかった。 何故、タカミムスビはお喋りを始めたのだろうか?
彼が本気になればヨシナリもアイロニーも終わりだ。 あまりにも都合が良すぎる。
加えて時間はヨシナリの味方でもあった。
アイロニーに注入されたナノマシンがまだ効果を発揮しており、ゆっくりとだが確実にホロスコープの損傷を癒している。
タカミムスビもシックスセンスと同等に近いセンサーシステムを積んでいる筈なのでこの状況を理解していない訳がない。
「――どういうつもりですか?」
『おや? ここは話に乗って引き延ばす場面じゃないのかな?』
タカミムスビはまぁいいかと呟く。
『私は君達を高く評価しており、中でもヨシナリ君。 君は特別だ。 だからこうして君と一対一で戦える機会を狙っていたんだよ。 ――そうだね。 君のやる気を引き出す為に簡単に言おうか。 私は君の事を舐めているんだよ。 待っててやるからさっさと損傷をどうにかしてかかってきたまえ』
言いながら爪を一閃。 隠れていたアイロニーの機体が袈裟に両断される。
「クリティカル。 やはりダメか」
『君も悪くないが、今の私はヨシナリ君に夢中でね。 何をしていたのかは敢えて問わないが、もう充分だろう? そろそろ引っ込んでいてくれたまえ』
幸運な事に爆発こそしなかったが、アバターが半壊している事もあって脱落まで秒読みだ。
「――わざと、か」
そんな二人のやり取りも聞こえてはいたが、タカミムスビの正面からの言葉で頭がいっぱいだった。
ここまで正面からお前を舐めていると言われた経験がなかった事もあって、新鮮な経験であるといった思考とぶっ殺してやるといった純粋な怒りが鬩ぎ合った結果、感情の表面張力が発生。
表面上は無反応といった奇妙な状況になったが、修復可能なエラーメッセージが全て消えた事でその均衡が崩れた。 溢れた感情はたった一つ。
タカミムスビをぶっ潰して舐めた事を後悔させる事だ。
「上等だ」
『準備ができたようだね。 さぁ、かかってきたまえ』
「そりゃこっちのセリフだよクソ野郎。 来い! 対Sランク用の切り札を見せてやる」
ヨシナリはそう言ってとある操作を実行した。
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