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『随分と動きがよくなったね? 悪い魔女に新しい魔法でも教わったのかな?』
ホーコートは旋回して即座に死角に回り込む。
ヨシナリとセンサーシステムをリンクしている事でフィールドの密度が薄い場所を狙ったのだ。
『……君のような人間ですらない狗には興味がないんだ。 私の前に立ちたいのなら最低限、自我ぐらいは持ってから出直したまえよ』
タカミムスビは心底からつまらなさそうにそう言って背面からレーザーを発射。
ホーコートは躱すが即座に背後から飛んで来たレーザーに貫かれる。
反射板と自機の間にホーコートを挟むように誘導したのだ。 全身を穴だらけにされたホーコートはそのまま爆散。 脱落となった。
その間にユウヤとケイロンが挟む。 ユウヤは大剣を、ケイロンはハルバードを一閃。
ユウヤの斬撃を尾で絡め取り、ケイロンの攻撃を爪で受ける。
足が止まった所でヨシナリ達が肉薄。 アトルムとクルックスを連射。
可能な限り接近し、エーテルを注ぎ込んでのフルオート射撃。
たった数秒の連射で二梃拳銃は破損して使い物にならなくなったが、効果はあったようでタカミムスビの機体のあちこちに損傷を負わせる。
『ははは、効いたよ!』
タカミムスビが腕を振るうとパワー負けしたケイロンが吹き飛ばされ、尾を振り回し、大剣を取られまいと踏ん張ったユウヤのプルガトリオを地面から引き剥がすとそのまま遠くへと投げ飛ばす。
そしてヨシナリには両肩のガトリングガンで弾幕を張る。 転移で回避。
死角は足元か背後だが、反射板の位置を意識しなければならない。
『君の判断材料は私の死角、反射板の配置、それと自分達が効果的に攻撃できる位置――という所かな?』
転移先はタカミムスビの背後斜め下なのだが、目の前に居るはずの敵機の姿はなく、代わりに背後に転移反応の痕跡。 信じられない。
ベリアルの転移するタイミングに合わせて転移を被せて来たのだ。
ヨシナリとベリアルの思考を読み解いてその上を行かれた。
ここまで完璧に読み負けた経験がなく、ヨシナリの思考にほんの僅かな空白が生まれる。
遅れて反応したが横薙ぎに振るわれた尾を躱すのは難しい。 代わりにベリアルが咄嗟に結合を解除。
分離しながらヨシナリを蹴り飛ばす。
お陰で直撃は避けたが、背面に掠ってエネルギーウイングが破損。
何とか足の推力偏向ノズルで姿勢制御を行う。 立て直しは出来たが、ロックオン警告。
「く、そ――」
負ける。
そう確信できるタイミングだったが、発射前にタカミムスビは機敏な動きで後退しながら手の爪を一閃。 ベリアルが肉薄した結果、攻撃対象を変えたのだ。
空間転移で背後に回り込んでエーテルでブレードを形成して斬りかかる。
タカミムスビは尾を利用しての刺突。 一撃、二撃と弾くが数が多く、後退する。
その間に立て直したケイロンが対物ライフルを撃ち込む。 大口径の質量弾が飛来。
距離があった所為か斥力フィールドで逸らされ、地面に着弾。
防がれる事は織り込み済みで本命はユウヤだ。
大剣を変形させたハンマーを叩きつけてフィールドを無効化。
そこでケイロンは待ってましたと言わんばかりに更に撃ち込む。
躱せないと判断したタカミムスビは反射板を射線に割り込ませて防御。
タカミムスビは盾に使った反射板にレーザーを撃ち込んで反射させ、地面、空中とジグザグの軌跡を描いてケイロンへと襲い掛かる。
「舐めるな! この程度で俺が怯むと思ったか!?」
ケイロンは臆せず前に出る事でタカミムスビの予測を凌駕。
レーザーは展開されたエネルギーフィールドを貫通したが、機体を掠めるだけに留めた。
『いいね! 流石だケイロン君。 ――それにしても君がヨシナリ君に付くとは意外だったよ。 何か心境に変化でも?』
「そんな大層な物ではない。 俺は騎士として彼等の力になると決めただけだ」
『いつも言っている騎士道って奴かね?』
「笑うか?」
『まさか、形はどうあれ私は他者の意思を尊重するよ。 君の騎士道はベリアル君の矜持と同じで芯の入った物だ。 素直に立派だと称えるとも』
――クソ、何とか動かないと――
そんな会話を聞きながらヨシナリは大急ぎで機体をチェック。
背面装甲に大きな損傷。 これはどうでもいい。 エネルギーウイング全損。
こちらはかなり不味い。 推進装置はあるのとないのとでは機動性に大きく差が出る。
エーテルの形状変化でも補えるが、所詮は再現品だ。
幸いにも足の推力偏向ノズルは無事だった事もあって戦闘自体は可能だが、アシンメトリー、アトルムとクルックスは全損。 武器がイラしか残っていないのは更に不味い。
相手が相手だったとはいえ安易に切り過ぎた。 この状態で接近戦は自殺行為に等しい。
何かないか? 何か――
周囲を見回すとふとそれが目に入った。
――畜生。 強い。
ユウヤは狭い視界の中、不利を悟っていた。
タカミムスビがここまで強くなっているとは思わなかったからだ。
ランク戦での対戦経験はそこそこあったのだが、ここ最近はマッチングしなかった事もあってあんな事になっているとは思わなかったのだ。
アマノイワト。 ユウヤが最後にランク戦で当たった時はまだ通常サイズの機体だった。
バランスのいい汎用機体といった印象で、目立った欠点もない代わりに突出した強みもない。
そんな機体だった。
ただ、戦い方に関しては巧みで、こちらをよく見て対策を講じて来る事もあって厄介な相手ではあったのだ。
よくよく思い返すとヨシナリに近い挙動かもしれない。
その後にユニオン機能が実装され「思金神」が発足。
効率よく金を稼ぐ方法でも編み出したのか気が付けばあんな怪物にまで成長していた。
タカミムスビというプレイヤーは最も早く、効率よくこのゲームの環境に適応したのかもしれない。
機体もあの巨体で通常機並みの挙動という反則じみた性能をしており、こちらは自分とベリアル、ケイロンまでいるのに拮抗どころか押し込まれているのだ。
ベリアルが攪乱、ケイロンが中距離での射撃で反射板を削っている。
その間隙を突いて接近戦を試みているのだが、中々近づけない。
『近づいてこないのかね? 私はここにいるぞ?』
ユウヤの思考を読んだかのようにタカミムスビが煽って来る。
怒りでそのまま飛び込みそうになったが、何とか理性を働かせて踏みとどまる。
代わりに散弾砲を撃ち込んだ。 何とか懐に飛び込めばアケディアが使える。
そうすればこいつの厄介な武装を封じる事ができるのだが、近寄る隙が無い。
失敗は敗北に直結する。 通ると確信できる隙が欲しい。 隙が――
誤字報告いつもありがとうございます。
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