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タカミムスビに関しては不明な点が多い。
イベント戦等で目立つ事もあって露出自体は多いのだが、その底を見せた数は少ない事もあって全容を知っている者は少なかった。
――それに――
前回のサーバー対抗戦の時と比べて明らかにサイズが変わっていた。
30メートル近くのサイズだったのが、今は明らかに40メートルを超えている。
アップグレードを済ませてこのイベントに臨んだようだ。
――金あるなぁ。
ベリアルやユウヤを見て来ただけあってアップグレードの費用を捻出する事の難しさは理解していた。
それにも関わらずこうもほいほいと強化できる資金力は少し羨ましいと思うが、金を出せば勝てると勘違いしているのならここで叩き潰してその認識を改めてやると戦意を燃やす。
観察を続ける。
鐘のようなデザインに左右に浮遊する10メートル前後の巨大な掌のような攻撃ドローン。
重装甲に指からレーザー、ミサイル、エネルギーフィールドの展開装置と盛れるだけ盛ったといった印象の攻撃ドローンだ。 挙動から自立制御の可能性が高い。
次に本体。 強固な装甲にドローン以上に詰め込んだ各種砲口から放たれる様々な攻撃。
戦い方は非常にシンプル。 圧倒的な火力による蹂躙。
カカラの上位互換といった印象が強い。 シックスセンスでエネルギー流動の分布を見れば明らかで、凄まじい大きさのエネルギー源を複数抱えている事が分かる。
――というか流動が複雑すぎてどうなってるのか分からねぇ……。
かなり複雑な仕組みをしている事しか分からない。
攻撃範囲は前方180°だが、ミサイルの発射口などから完全な死角がない事は明らかだ。
基本的に絶対に防げないレーザー系の射線から逃れつつ、弾速の遅い実体弾は機動で回避。
弾速の早い実弾に関してはエーテルの密度を上げて防御する。
無事ではあるが、細かな攻撃は被弾している事もあって時間をかけすぎるとこちらが保たない。
ベリアルも回避に専念している事もあって口数が少なかった。
とにかく手数が多く、反撃ができない。
タカミムスビは最低でも三人以上で当たらないと処理が難しい相手だ。
ヨシナリとベリアルの役目はタカミムスビを抑えている間、他のメンバーが残りの敵を片付けてくれるまで生き残る事。 六対八の状況を活かせば決して勝てない相手ではないと思っていた。
――頼むぜ。
ヨシナリはそう祈って視界を埋め尽くす攻撃に対処する為に機体を加速させた。
「オラオラオラァ!」
マルメルは吼えながら二挺の銃を連射する。 彼の居るのはケイロンの背。
推進装置を全開にして全力で彼の機体を押し込みながら借りた銃を肩に乗せて撃ちまくっている。
推進力だけ提供して機動、回避の全てをケイロンに任せ、マルメルはただひたすらに引き金を引く。
重機関銃と対物ライフルが凄まじい反動を伝えるが、ケイロンの肩を銃座替わりにする事で反動を大幅に軽減。 本来なら使うと腕が壊れてもおかしくない代物の使用を可能としていた。
彼等のターゲットは「篠突」、多脚が特徴の中衛機だ。 特徴は圧倒的な手数。
腰裏に積んでいる装置によってその辺の岩やコンクリート建材などを吸い込んで弾丸に変換する。
その為、弾切れの概念が存在せず無尽蔵に撃ち続けられるという代物だ。
当然ながらその辺の岩やコンクリート片を変換しているだけあって威力自体はそこまでではない。
一発なら。 だが、篠突のガトリング砲は両肩、両腕に二基ずつ。
つまり合計で八セットの束ねた銃口が毎分数千発といった弾丸を吐き出すのだ。
そんな物に長時間晒されればどんな重装甲でも削り殺されてしまう。
彼の武器はそれだけに留まらず、背面のミサイルランチャーから次々と発射音と共にミサイルが飛んでくるのだ。 銃弾の雨に足を止められればミサイルの餌食となる。
二人はとにかく接近しつつ応射という正面からの殴り合いとなっているのだ。
被弾しながら障害物を避けての接近。 篠突は弾をばら撒きながら多脚の走破性を活かして後退。
――あの見た目で思ったよりも速いな。
重量機という事もあって簡単に捕まえられると思っていたが、こうして追いかけると中々追いつけない。 単純な速度は二機分の加速を利用しているマルメル達の方が上だが、ここは渓谷ステージで地形はかなり荒い。 つまり真っすぐに走れないのだ。
木々、岩、様々な障害物がマルメル達の足に本領を発揮させない。
それでもケイロンは可能な限り、ロスを減らして障害物を突破する。
実の所、マルメル達は焦っていた。 「思金神」との戦いは短期決着が望ましい。
――というよりはそれしか勝ち筋がないのだ。
総合力の差は明らかで正面から戦うと高い確率で負ける。
それを覆すには最短で取り巻きを撃破し、全員でタカミムスビを袋叩きにするのがヨシナリの作戦だ。
だからこそ、真正面から最短距離で篠突を仕留めるという事になった。
相手もこちらの狙いを看破しているのか明らかに後退に力を入れている。
そんな前のめりな気持ちでマルメルは弾をばら撒き続けるのだが――
「気持ちは分かるが焦るな。 奴はまだこちらの狙いに気付いていない。 もう少し慎重に弾を撒け」
「うっす」
ケイロンの言葉にそう返し、少し引き金にかけた指の力を抜く。
視界の端にはタカミムスビがもう虹のような何かに見えるカラフルな攻撃をばら撒き、ヨシナリとベリアルが神がかった操縦でそれを躱し続けている。
逃げに徹しているのは手数が違いすぎるという事もあるが、それ以上に下手に刺激して反転してマルメル達にターゲットを変えられる事を恐れているからだ。
現状はタカミムスビの気まぐれという危ういバランスの上に成り立っている。
直接対峙していないマルメルですらここまで焦りに襲われるのだ。
ヨシナリ達の焦りはこの比ではない。
「もう少しでフィールドの端だ。 そこで勝負をかける。 残弾に気を付けろ」
ケイロンの冷静さに感謝しながらマルメルは空になったマガジンを交換。
替えのマガジンはケイロン機体の脇腹の収納スペースに格納されており、装甲の一部が開いて飛び出したそれを受け取る。 交換したと同時にケイロンが小さく舌打ちして挙動を変えた。
制動をかけたのだ。 同時に視界が真っ白に染まる。
「キュムラスか!」
ケイロンがその正体を即座に看破。
「思金神」メンバーの一人、キュムラスとその機体「ネーフォス」だ。
「こっちに来たのかよ!」
マルメルは時間ねぇってのにと愚痴を零しながら手榴弾を周囲に放り投げる。
落下音から少し遅れて連続した爆発が轟いた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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