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「――取りあえず何戦かして分かったのはあんたは追い込まれた時の動きが単調になる」
ズバリな意見にマルメルは仰る通りですとしか返せなかった。
これでもかなり矯正は進んでいると思ってはいたが、アリスに言わせるとまだまだのようだ。
ヨシナリに指摘されたのは引く癖で、これに関しては自覚があった。
マルメル自身、自分が追い込まれる、または咄嗟の判断が要求される場面になると引く。
それに関しては克服したつもりではあったが、アリスに言わせればばら撒きという慣れた挙動に頼るとの事。
内容にこそ差異はあるがヨシナリもアリスも指摘している事は全く同じだった。
――やっぱ、直さねぇと不味いんだよなぁ……。
立場の違う二人から全く同じ意見が出ている時点でそれは疑いようもない。
「確か今使ってるプラスを組んだのはお友達だったのよね?」
「はい、ヨシナリが組んでくれた奴を改良しながら使ってる感じですね」
「ふーん。 ちょっと見せて?」
マルメルは自機の構成をウインドウ表示させると可視化させてアリスに見せる。
アリスはウインドウ内のアウグストのデータをぐるぐると回して装備、機体構成を確認。
「これもしかして最初はエネルギーウイングの可動範囲絞ってた?」
「はい。 ――ってか何で分かったんです?」
「スラスターとかの補助推進装置の付き方で分かる。 旋回性能上げたいならこっちも弄らないと」
そう言ってアリスは気になった事があれば次々と疑問を投げかけて来るが、予想がほとんど当たっている事もあってマルメル「そうです、その通りです」としか言えなかった。
「――まず分かったのはあんたの友達は大したものって事ね。 推進装置の可動範囲を制限したのはあんたが追い込まれると決まった挙動しかしないから選択肢を減らす事で事故を防ごうとしたって所か。 他人の機体構成でここまでやれるのはしっかり見ている証拠よ」
アリスはいい友達じゃないと付け加えた。
できる事を敢えて制限する事で咄嗟の判断を誤らないようにするといった配慮だったようだ。
少なくともそのお陰で逃げ癖は克服できた。 ヨシナリには感謝しかない。
「ただ、それはあんたのお友達が付けた補助輪みたいな物よ。 動きが制限されるという事はプレイスタイルに幅が出なくなるって事だから。 それが分かってるから可動域を変えたんでしょ?」
「はい。 いい加減に苦手だからって逃げるのは違うかなって思いまして」
「その判断は正しい。 ケイロンを倒したのは大したものだけど、あの様子だとしっかりと専用の対策を練った上でそれが綺麗に決まったからでしょう? 多分、次やったら確実に負ける」
まったくもってその通りだった。
アリスの指摘は否定できる要素が欠片も存在しない。
「今の調子でやってもBまでなら充分に通用するとは思う。 でも、Aには食い込めても直ぐに落ちる事になるでしょうね」
マルメルはもう曖昧に笑う事しかできなかった。
アリスも一通り言うべき事を言ったといった様子だが、さてと前置きして露骨に前置きをする。
「ダメ出しはここまでにして次は改善案。 今のあんたに必要なのは大きく二つ」
アリスは手を突き出すと二本の指を立てる。
「まず一つ。 咄嗟の判断力を身に付ける。 私の経験で言うなら接近戦の得意なプレイヤーと何度も戦って勝負勘を養いなさい。 傾向的にあんたは近寄られるといつも判断に迷う。 上手くすれば近寄られた時の処理も身に付くからやって損はないはずよ」
近接スキルを磨くのではなく、苦手な状況に身を置く事で欠点を克服しろという事だろう。
「中距離での立ち回り自体はそこまで大きな問題はないから不味い所を直せば成績は勝手についてくるはずよ。 ――で、二つ目」
アリスは可視化されたウインドウを指差す。
「これは簡単。 武装と構成の見直し。 まずは武装、メインで使ってるアノマリーって実弾、エネルギーの複合銃は明らかに手に馴染んでるみたいだしこれは良いわ。 ただ、予備で使ってるのは使用頻度を考えるとアノマリーが壊れた時か手数が要る時だけでしょ?」
その通りだった。 アノマリーが使い易過ぎて手放せなくなっていた。
その為、予備の突撃銃はアノマリーが壊れた時か、意識しないと使わないのだ。
「えーっと、使う事を意識しろって感じですかね?」
「それでもいいけど、頻度を上げたいなら用途の違う武器にしなさいな」
「――と言いますと?」
アリスは別のウインドウを可視化させるとマルメルの前へと持って行く。
「この辺とかがお勧めね。 最後に構成なんだけど、縦だけじゃなくて横の動きを増やしなさい。 それだけで捉え難くなる」
アリスの寄越したウインドウに表示されていたのは武器とパーツのリストだ。
マルメルはそれを見て彼女の意図を理解し――なるほどと頷く。
脳裏には自分の可能性が広がり、まだ自分が強くなれる手応えを感じて拳を握った。
――俺から言えるのはお前にやる気がある限り、見捨てる事はしない。 ただ、お前がそれを重荷に感じるのならきつい言い方だけど、ここは向いてないと思う。
ヨシナリの言う事はまったくもってその通りだ。 彼の言葉がホーコートの脳裏で何度も響く。
目の前のⅡ型相手に得意の右旋回で側面に回り突撃銃で撃破。
心は落ち着かないが、右旋回を使えば機体は勝手に動く。 リザルトを確認。
気が付けばEランクだ。
右旋回は通用する相手には刺さる事もあって、使い続ければ勝てはした。
ただ、ヨシナリ達のレベルに付いて行こうとしたいのなら全くの不足と言わざるを得ない。
ヨシナリは手放せと言ったが、ホーコートにはその勇気はなかった。
ただでさえ役に立たない自分が、チートを手放したら更に評価が落ちてしまう。
今の時点で価値がないと思っている事もあって、ホーコートは自分でも形が分からない焦燥感に追いかけられるようにランク戦にのめり込んだ。
いくら戦っても出口の見えない迷路に迷い込んだような錯覚。
どうすればいいのだろうか? ホームに戻って自室でぼんやりと天井を眺める。
分からない。 何が分からない事すらも分からない。
またランク戦に潜るかとウインドウを操作しようとした瞬間だった。
狙いすましたかのようなタイミングでメッセージが入った通知がポップアップ。
何だと確認すると――
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