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端末にはジスルフィドに対する研究データも残されていた。
数値や専門用語の羅列は理解できなかったが、実験体の挙動などの観察日誌には興味深い記述がある。
それはジスルフィドの行動傾向だ。
基本的に飢餓感に襲われている事もあって一定以上の質量を持った物体、生物に即座に喰らいつくといった点から嗅覚や触覚だけでなく、視覚などで三次元的に周囲を捉えている事は明らかだった。
寄生した生物の器官を利用していると思われるが、検証中だった事もあって正確な点は不明だ。
――ただ、捕食して大きくなる性質上、獲物に対する優先順位は必ず存在する。
それを見たグロウモスはこれまでにプレイして来たゲームのクリーチャーの行動ルーチンを参考にジスルフィドの優先攻撃対象は何かを考えたのだ。
結論、活きの良い獲物。 根拠はこのクリーチャー達は厳密に攻撃行動を取っているのではなく獲物を効率よく摂取する為の捕食を念頭に置いているからだ。
つまり、こいつ等には食欲しかない。
だったら、食料として目立つ印象を植えつければ勝手に寄って来ると判断したのだ。
そしてその考えは正しく、ジスルフィドはグロウモスに狙いを定めて動き出した。
グロウモスは突撃銃を連射。 味方は居ない。
その為、闇雲撃つのは賢い選択肢ではないからだ。 弾は有限。
最小の消費で最大の効果を狙わなければならない。
敵は強靭にして強大。 それだけだ。
グロウモスは得意なゲームは何かと尋ねられると迷わずFPSと答えるだろう。
ファーストパーソン・シューティングゲーム。
様々なゲームに触れて来た彼女だったが、このジャンルが一番手に馴染んだ。
FPSと一括りにしているが、内容は様々だ。 グロウモス自身、かなりの数のタイトルに触れて来た。
紛争地帯を模したフィールドで実際の行軍から作戦行動までこなさなければならないストーリー進行タイプ、狙撃手となり様々な要人を暗殺する純粋なシューターゲーム。
人間離れした身体能力を駆使し、地形を活かす形で他のプレイヤーやエネミーを処理するアクション寄りのゲーム。
ジャンプができない、ジャンプを駆使しなければ生き残れない、実銃を扱う、架空の銃を扱う、変わった物だとエイムが出来ないというタイプもあった。
チーム戦の類が余り得意ではなかった事もあって対人系――チーム戦を主体としたゲームでの成績は余りよろしくなかったが、個人技が重視されるタイプのゲームでは彼女は非常に優秀だった。
そんな事もあってこのミッションに対してグロウモスが感じたのは「ジャンル違いじゃない?」ではなく「得意分野だ」と笑う事だったのだ。
さて、そんな経験豊富なグロウモスはこの状況をどう料理するのか?
普段なら適当に気を引いて外に誘導するのだが、目の前のジスルフィドはここで何人か喰らった所為か通路の出入り口よりも大きい。
引っ掛けて動きを封じるという選択肢もあったが、コンソールの方に興味が移っても困る。
彼女の本領は遠距離からの一方的な射撃である事は変わらない。
――が、グロウモスにはこのICpwで培った経験がある。
まず、基本は壁に沿って動く。
そうする事により、死角を削りつつジスルフィドの全体を視界に収める。
拳銃で牽制しつつ、突撃銃のマガジンを交換。 目的は反応炉停止までの時間稼ぎ。
撃破は必須ではない。
その為にコンソールに張り付いているテロリスト達には生きていて貰う必要があった。
要は終わりさえすればこいつ等が死んだ所で何の問題もない。
触手が槍のように伸びて突き刺しに来る。
一撃、二撃と躱し、次々と壁に突き刺さった内の一本に飛び乗り、踏み台に跳躍して回避。
このアバターの運動性能は優れており、かなり動きに自由度がある。
その為、こんなアクロバットじみた真似もできるのだ。
ジスルフィドは触手攻撃は獲物の動きを止める為の行動で、本命は本体による体当たり。
壁に突っ込んで穴を開ける。 これを待っていた。
グロウモスはパンツァーファーストを両手で腰だめに構えて発射。
本来なら一発ずつ慎重に当てたい所だが、この距離なら両方当たる。
それに長物は荷物になる事もあって早めに使い切っておきたかったのだ。
二発の擲弾は狙いを過たずにジスルフィドに突き刺さるように命中し、爆発。
壁に突っ込んだ状態で喰らった結果、大きくめり込んで半分ほどが壁に埋まる。
その間に命中した個所のダメージを確認。 大きく抉れており、一応は効いているようだ。
だが、仕留めるには至らずに穴が徐々に修復されている。
取り込んだ質量を用いて損傷部分の補填を行っているらしい。
当然ながら黙って見ている訳もなく、大きく口を開いた損傷部分に手榴弾を放り込む。
二個、三個と綺麗な放物線を描いて吸い込まれるように飛び込む。
穴が塞がるが爆発によって再度、傷口が広がった。
そのまま手榴弾を使い切り、突撃銃を連射しながら後退。
落ちていた散弾銃を拾い、散らばっている中身の入った散弾を慣れた手付きで込める。
ぼこぼことジスルフィドの表面が波打ち新しい触手が生え、グロウモスの下へと飛んできた。
僅かに身を屈めて躱し、触手に至近距離で散弾銃を発射。
弾の種類がよく分からなかった事もあって試し打ちも兼ねての事だった。
一粒のスラグ弾か大型のバックショット辺りだとありがたいなと思っていたが、触手が千切れ飛んだ所を見ると前者のようだ。
――触手は一発で千切れる。
再度、ジスルフィドの表面が波打つ。 今度は複数本の触手が飛んできそうだ。
動きに関してはもう見た。 知能はお世辞にも高いとは言えない事もあって狙いは非常に素直だ。
三本。 纏めて飛んで来た。 大きく横に飛んで回避。
その間にジスルフィドは壁から脱出して姿勢を戻す。
動き出す前に散弾銃で触手を破壊。 残りの弾を本体に叩きこんで、散弾銃を投げ捨てる。
突撃銃を連射。 意識をグロウモスに固定させる。
ちらりとコンソールへと視線をやるとテロリストが何やら操作を行っている最中だ。
――早くしてよ。
モタモタしやがってと思いながらもう少し時間を稼ぐかと動きを脳内で組み立てていると、不意に手の空いていたテロリストが攻撃し始めた。
しかも最悪な事に複数で固まって銃撃した結果、ヘイトがグロウモスから移ったのだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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