707
正直、これは想定していなかった。
目の前にはボーンヘッドと鹵獲Ⅰ型が一機ずつとテロリストらしき存在が数十体。
ざっと見た限り50前後といった所だろう。
ボーンヘッドとⅠ型が前後を挟む形になっている事とテロリストの大半が非武装で服装から明らかに非戦闘員だ。 流石に相手側もヨシナリ達がいきなり現れた事に驚いているようだ。
ヨシナリは僅かに迷ったが、銃口を下ろして敵意がない事をアピール。
音声が途切れる。 テロリストのボーンヘッドから通信が入っているからだ。
雰囲気から誰何されている感じがするが、聞き取れない以上は適切な反応ができない。
ヨシナリは首を振るように聞こえないと示す。 ここからは相手次第だ。
攻撃態勢に入るなら非戦闘員を狙って相手の気を逸らしてから戦い方を組み立てる。
そうでないならこのままやり過ごしたい。
正直、仕留めてもいいが、燃料や弾薬はあの化け物相手に温存しておきたかったからだ。
ヨシナリは相手に警戒させないようにそっと道を譲るように通路の端へと寄る。
これで意図は伝わったと思いたいが、相手の出方が読めない。
「いいの?」
「仕掛けた方がよかったですか?」
グロウモスの質問にそう返すと彼女は特に何も言わなかった。
このボーンヘッドは継戦能力が極めて低い。
普段と同じように手当たり次第に戦っていたら早々に何もできなくなる。
テロリストの一部は気が付いているようで、あからさまに警戒している者が居た。
ただ、仕掛けてこない点から向こうも戦いたくないといった様子が見て取れる。
――なら、こっちが消えれば無難にやり過ごせそうだな。
刺激しないようにゆっくりと移動しようとして――ズンと不意に衝撃。
ここでそんな派手な登場する存在は一つしかない。 例のクリーチャーだ。
巨大な塊が二つ連なった胴体に無数のⅠ型の上半身が張り付いている。
それだけでなく表面にはのっぺらぼうで分かり辛いが人の顔らしき物が無数に張り付いていた。
肉塊とも金属塊とも取れる悍ましく醜悪なその姿は合理性の対極と言えるだろう。
幸いにも上で見た個体よりも小さい。
咄嗟に反応して撃とうとしたが、鹵獲Ⅰ型が射線に入って撃てなかった。
小さく舌打ちして僅かに横にずれて射線を確保。 そこでようやくⅠ型のパイロットが反応した。
遅すぎる。 振り返って肩に吊っていた大型のライフルを構えようとしていたが10メートルもない状態でそれは悪手だ。 クリーチャーが腕のような塊を一振り。
咄嗟に後ろに跳んで躱そうとしたが、躱しきれずに吹き飛ばされる。
そのまま近くの壁に叩きつけられて動かない。 残ったボーンヘッドが気を引く為か非戦闘員から離れて砲撃。 左右で二連射。
砲弾は命中してクリーチャーの一部を抉るが明らかに効いていない。
その間に武装したテロリスト達が非戦闘員を逃がそうとしていた。
どうやらリフトの縦穴から上に逃がすつもりのようだ。
ボーンヘッドは砲撃しながらガトリングガンで牽制。 明らかに気を引く動きだ。
同時に武装したテロリストがボーンヘッドの反対側に回って銃撃。
非戦闘員達は必死にメンテナンス用の梯子を上って上層へと向かう。
動きからテロリスト達の狙いは読めていた。
恐らくだが、あのクリーチャー達を使ってプレイヤー達を足止めし、その間に外に出るつもりだったのだ。 来る時に使った連絡通路は完全にノーマークだった事を考えると狙いは悪くない。
プレイヤー側の作戦目的も基地の制圧に重きを置いている事は動きを見れば明らかだ。
――多分、この状況はテロリスト側の本意ではない?
あのよく分からない化け物に関しては明らかにテロリストの手に余っている。
誘導するだけでこれだけの犠牲者を出しているのだ。
恐らく内部の暴走か何かだろう。 少なくとも総意ではない。
何故なら陽動だけならテロリストの機体だけでも充分に可能だからだ。
さてとヨシナリは考える。 自分はどう動くのがベストなのかを。
逃げる? 実を言うとこれが一番無難な選択肢だった。
テロリスト達が狙いを散らす為に分散しているのでクリーチャーの意識も散漫だ。
今なら脇を抜けて下層へと迎える。 あの化け物の特性上、通った後には何も残らない。
つまりこいつの通った後は安全なのだ。 最低でも三層までは問題なく辿り着けるだろう。
何故、迷うのかというとあのサイズなら撃破が現実的だからだ。
少なくともヨシナリは充分に殺れると思っていた。
「あー、グロウモスさん。 正直、このまま逃げるのが無難なんですが――」
「報酬欲しいし、殺しとこっか」
グロウモスは分かってると言わんばかりに頷き、最後に「ヒヒッ」と笑って見せる。
それを見てヨシナリも思わず笑顔になった。
変に気を遣うより無心で敵を屠った方が気楽だよなと思ったからだ。
「開けて」
「分かりました」
即座に意図を察したヨシナリはコックピットを開放。
「俺の銃を持って行ってください」
グロウモスは突撃銃と拳銃を持ってすぐに飛び出す。
彼女が着地したタイミングでボーンヘッドの出力を一気に上げる。
消耗を抑える為に出力を絞っていたのは地味にストレスだったからだ。
クリーチャーがテロリストのボーンヘッドに飛びつこうとする直前に反対から回り込んでガトリングガンで銃撃。 気が逸れてヨシナリの方へと意識が向く。
その隙にテロリストのボーンヘッドが後退しながら砲を二連射。 胴体部分に命中する。
ダメージは少ないが体勢を大きく崩す。 それに合わせてガトリングガンで軸足を破壊。
それにより完全に転倒するが、あちこちから手足が生えている事もあって即座に立ち上がろうとする。
――が上半身が殴られたかのように大きく仰け反って再度転倒。
振り返るとさっき吹き飛んだⅠ型が立ち上がり、持っていた大型のライフルが銃口から煙を立ち昇らせていた。
銃の構え方だけで乗り手が変わった事が分かる。
「行けそうですか?」
「うん、レバーとフットペダルだから動かすの難しいけど何とか行けそう」
グロウモスは武器を突撃銃に持ち替えて連射。
「ここは閉所でいつものように三次元的には動けません! 相手を中心に円を描くように連携を!」
「分かった!」
グロウモスとは散々、連携を磨いてきたのだ。 動けば合わせてくれると信じていた。
細かい打ち合わせは出来なかったが、情報は揃っているのだ。 充分にやれるはずだった。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!




