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地面から飛び出したレーザーによって平八郎の両腕と槍が破壊された。
「何!?」
動揺しつつも平八郎は立て直そうと後退しようとするが、そのコンマ数秒の隙は致命的だった。
槍を使う為に半端に間合いを詰めていた事も彼を追い込む要因となり、敵機は無言で腕を向けてエネルギーの散弾を放つ。 躱しきれず、まともに喰らった平八郎の機体は大破。
脱落となった。 敵機はぐるりと戦場を見回す。
ヨシナリにはその無機質な頭部が「そろそろこちらの番だ」と言っているように思えた。
それに一瞬、気圧されそうになったが、思考を分析に回す事で動揺を噛み砕く。
何が起こったのかは理解していた。
敵機は逃げ回りながら地中にドローンを仕込んでいたのだ。
そう、今作ったのではなく、事前に仕込む事で精製の反応を探知させなかった。
加えて地中に仕掛けるという発想がヨシナリの頭になかった事も反応が遅れた要因だ。
「平八郎!」
アドルファスがドローンで敵機を包囲。
平八郎が抜けた穴を埋めるべく攻撃を開始したが、敵機のバイザーが不自然に明滅する。
この感じには覚えがあった。 ハッキングだ。
通信対象は――何をしているのかを察してヨシナリは咄嗟に叫ぶ。
「アドルファスさん! ドローンの動力を切――」
遅かった。 アドルファスのドローンは唐突に反転して主である彼に銃口を向ける。
制御を奪われた。 流石のアドルファスもこれは完全に想定外だったのか反応が遅れていた。
エネルギーが充填されると同時にいくつかのドローンが破壊される。
「ボケっとすんな! さっさと下がれ!」
ユウヤだ。 散弾砲でドローンの包囲に穴を開け、他のドローンに電磁鞭を叩きつけて黙らせる。
「わ、悪い。 クソ、こりゃ使い物にならねぇな」
アドルファスはそう言って残りのドローンを自爆させて破棄。
奪われるぐらいなら捨てた方がいいとの判断だろう。 思い切りが良い。
リカバリは出来たとは思いたいが、平八郎が脱落した事で敵機の包囲に綻びが出来てしまった。
いくつかのドローンが精製、ベリアルが片端から落とすがユウヤがアドルファスのフォローに入った事で処理にリソースを割けない。
ヨシナリが咄嗟に撃ち落とすが、敵機の狙いはそこではなかった。
動きが変わったのだ。
さっきまで逃げ回っていたのが嘘だったかのように前に出る。
小さく舌打ちしてユウヤが止める為に動き出した。
明らかに狙いは後衛だ。
敵機はこちらの布陣を順番に削っていくつもりのようだが、当然ながら黙って見ている訳がなかった。
横薙ぎに振るわれた電磁鞭を上昇する事で躱し、回避先に斬り込んだモタシラの斬撃を腕で受ける。
――が、防御に使った腕がモタシラの刀に巻き取られて跳ね上げられる。
敵機は態勢が崩れる前に腕を自切。 腕だけが飛んでいく。
上手い。 体が流れる前に腕を切り離してバランスが崩れるのを防いだ。
元々、あの腕はドローンなのだ。 切り離した所で独自行動させればいいとでも判断したのだろう。
逆に弾きに行ったモタシラが隙を晒す結果となってしまった。
だが、そう好きにはさせない。 跳ね上げられた腕は動き出す前にマルメルがハチの巣へと変える。
残った腕をモタシラに向けようとしたが背後から縦に両断しようと振り下ろされたふわわの野太刀の一撃を躱す。
「う、うぉ!? あ、危ないな!」
モタシラごと斬るコースだったので彼も何とか躱していた。
「モタシラさんなら大丈夫やと思ってから」
「お、お前、まさかとは思うが根に持ってないだろうな!? 清算なら済んだだろうが!」
「あっはっは、ウチはそんな事せぇへんよ~」
ふわわは野太刀の柄を戻し、流れるような動きでナインヘッド・ドラゴンを一閃。
敵機を取り囲むように転移反応。 恐ろしい事に九つ全てが直撃コースだ。
転移刃の出現と同時に地面からレーザーが飛び出し全てを打ち落とす。
――またか!
いい加減に鬱陶しいと地面をスキャン。
ドローンの位置を把握しておかないと不味いと判断したのだが――
「おいおい、何だこれ?」
敵機を中心に半径100メートル範囲内の地中に無数の反応。
どうやら逃げ回っている間に仕込んでいたようだ。
回避に専念しているように見えたのはドローンの埋設にリソースを割いていたからだ。
だから躱すのが難しい攻撃を防ぐ為だけに使うようにしているのだろう。
ミサイルや転移刃は処理が難しいからドローンで対処、このタイミングで晒したのは無駄撃ちになるリスクを回避したからか。
だが、これからはそうもいかないだろう。 こちらが気付いた事に相手も気付いたはずだ。
積極的に使って来る――いや、もっと効果的な使い方がある。
これまで小出しにしていたのは迎撃に使う意味合いも大きいが、それ以上に――
ヨシナリの思考を肯定するかのように地面に埋まっている全てのドローンから高エネルギー反応。
――この野郎ぉ!
この状況でヨシナリ達がやられて最も困る事は何か?
距離を取られる事だ。
あの敵機はドローンを精製する事で手数を増やしながら相手を制圧する事が基本戦術。
加えてラーガストとまともに戦えるレベルの反応にプレイヤースキル。
完全にSランク相当の敵だ。
ヨシナリ達もそれを理解しているからこそ強みを最大限に削ぎ落すべく立ち回った。
ドローンを潰して手数を封じ、畳みかける事で回避にリソースを割かせて行動を制限した。
その二つが機能しているからこそ、この拮抗した状態が作れていたのだ。
ここで距離を取らされると相手に立て直しの隙を与えてしまう。
つまり、この攻撃から逃れる事は悪手だ。
――どうする?
細かい指示を出している時間も余裕もない。
「下から来ます。 各自の判断で対処!」
同時に味方全機にレーザーの攻撃範囲をマップにマーキング。
後は仲間を信じよう。 ヨシナリは周りを見る事を止め、パンドラのリミッターを解除。
400%。 この攻撃はどう対処しても相手に立て直しの間を与えてしまう。
それを可能な限り防ぐ為に少し無理をしてでも相手のリソースを削る。
エーテルの鎧を纏ったホロスコープが加速。 当然、逃げる為ではない。
敵機へと突っ込む為だ。
「ふ、貴様ならそうすると思っていたぞ」
「……行くぞ」
それに同期して左右からユウヤとベリアルが並ぶ。
レーザーのエネルギー充填が完了し、地面から無数の光が立ち昇った。
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