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ヨシナリの機体にあるエンブレムはデザインも緻密でマルメルから見ても凝ったデザインだった。
聞けば、以前のユニオン対抗戦で皆付けてたので自分も欲しいと思ったからだそうだ。
機体の更新と一緒にそんな事までやってたのかよと思いつつ、デザイン自体は良い感じだったので「いいんじゃないか」と答えておいた。
「まぁ、エンブレムの話は後でするとして、新しいフレームを買ったんやね。 それでどこまで強くなったのか見せて貰おか?」
「少なくとも前と同じ結果にはならないと思いますよ」
試合開始のカウントダウンが始まる。
「言うやん。 ウチ、ヨシナリ君のそういう所、結構気に入ってるから楽しませてな?」
「それは勿論、負け越してるんでそろそろリーダーっぽく実力を見せつけてやりますよ」
こんなやり取りをしているが二人とも声が笑っていた。
楽しいというよりは相手を叩き潰したくて仕方ないといった様子だ。
こういった好戦的な面はよく似ているなと思いながらマルメルは静かに試合開始を待つ。
カウントがゼロになり、試合が開始される。
同時に両者とも動き出す。 ヨシナリはキマイラタイプの特徴ともいえる変形で戦闘機形態になり急上昇。
ふわわは真っ直ぐにダッシュ。 充分な高度を取ったヨシナリは変形してアノマリーを連射。
エネルギー弾はかなりの距離があるにもかかわらず正確にふわわの機体へと向かう。
狙撃の精度がこれまでと段違いだ。 以前までならあんな高速機動を行った直後に狙撃なんて真似は出来なかった。
「上手になったなぁ、でも正確すぎて何処飛んでくるか丸わかりやで?」
「割と練習したのにしれっと躱すんだもんなぁ……」
ふわわもふわわで動きが尋常ではなかった。 エネルギー弾の軌道を完全に見切ってギリギリの位置――要は最小限の動きで回避している。
「ところでいつもみたいに隠れなくてええの? それとも物陰じゃなくてウチの手の届かない所から一方的に攻撃するのが特訓の成果?」
「煽るじゃないですか。 勿論、違いますよ」
それはマルメルも感じていた。
ヨシナリは攻撃の軸を狙撃に置いている関係で、基本的には真っ先に身を隠す印象があったからだ。
それが堂々と姿を晒す。 機体を更新して自信が付いた? それはあるかもしれないが、ヨシナリが無策でそんな真似をするとも思っていなかったのでマルメルはどう動くとヨシナリの動きを注視する。
ヨシナリはそのまま急降下しながらアノマリーを実弾に切り替えて連射。
流石のふわわも叩き落せないのかスラスターを噴かして細かい回避運動で対抗する。
「うわ、動きすっげ」
思わず呟く。 メインのブースターの使用を最低限に各所のスラスターを器用に使って細かく動くと、空から降って来る無数の銃弾を無傷で躱している。
それでも大量にばら撒かれた弾は躱しきれるものではない。 大抵は多少の被弾を覚悟する場面だ。
だが、ふわわというプレイヤーはそんな常識を軽々と踏み越える。
金属音。 抜いた小太刀で命中弾だけを正確に狙って叩き落す。
前々から見せていた技だったので驚きはないが、以前よりも遥かに上手くなっている。
明らかに自分に当たりそうな弾だけを選別しているからだ。
――人間じゃねぇ……。
元々、人間離れした反応だったが、更に磨きがかかっている。
こんな相手にヨシナリは一体どうするんだ? 下手に近寄ると即座にやられる。
それはここ最近、散々模擬戦の相手をしていたマルメルには痛いほどに理解していた。
ヨシナリが地上、ふわわから僅かに離れた位置に。 完全に着地はせずに僅かに浮いている。
「正面からなんてめっちゃ誘ってくるやん!」
そんな位置に降りるなんて飢えた猛獣の目の前に生肉を放り込むような物だった。
ふわわは凄まじい踏み込みで小太刀を鞘に戻して太刀に手をかける。
速い。 本当にソルジャータイプかと疑いたくなるほどに鋭く速い踏み込み。
そのままヨシナリを間合いに捉えて一閃。
両断されるホロスコープを幻視したが、そうはならななった。
「は?」
マルメルは思わず声を漏らす。 驚くべき事にヨシナリはふわわの居合いを躱したのだ。
少なくともこれまで彼女の斬撃、中でも速度の乗った居合いを正面から躱したプレイヤーを見た事がなかった。 振り切ったタイミングでヨシナリが腰の拳銃を抜いて連射。
上手い。 いくらふわわでも攻撃の直後には――マルメルの思考は金属音に掻き消された。
空いた手でいつの間にか小太刀を抜いて銃弾を叩き落としている。
――あぁ、だから小太刀なのか。
恐らくは太刀は攻撃に、小太刀は銃弾を叩き落とすなどの防御に用いているのだろう。
長すぎると叩き落とし辛いので振り易い武器を探した結果、小太刀に落ち着いたとみていい。
ふわわに関しては納得の感情しか浮かばないが、ヨシナリに関しては驚きしかなかった。
明らかに戦い方が変わっている。
遠距離主体だったはずだが、あのふわわ相手に近距離の間合いまで引き付けてカウンターを狙うなんて戦い方はまずしない。 だからこそふわわも虚を突かれたのだろう。
僅かに驚きの声が漏れていた。
戦い方の変化もそうだが、それ以上にふわわの攻撃に反応できている事が信じられない。
あの動きは引き付けて躱している。 その上で狙って銃弾を叩きこんだのだ。
こちらも間合いで武器を切り替えるスタイルのようで拳銃はサイドアームというよりは近距離専用のといった用途で使用しているように見える。
「ヨシナリ君が無策で来るとは思ってなかったから警戒はしてたけど正面から躱すとは思ってなかったわ。 どうしたん? 心眼にでも目覚めたん?」
「どちらかというと第六感って奴ですかね。 ちょっと別の物が見えているだけですよ。 まぁ、この距離でふわわさんとの殴り合いは分が悪いのでほどほどにしておきますが」
「えぇ? もうちょっと付き合ってーな」
「嫌ですよ。 負けるし」
ヨシナリはアノマリーを手放し、両手に拳銃を構えて連射。 特徴的な白と黒の大型拳銃が火を噴く。
銃床についているアタッチメントのお陰で手放したアノマリーは自動で腰の裏に収まる。
撃ちながらビルの陰へ。 ふわわは構わず突っ込む、ヨシナリは拳銃を連射していると不意にガチリと弾が出なくなった。 弾切れだが、即座に反対の手に持った拳銃を連射。
上手い。 弾切れでわざと隙を作って誘い込んだ。
恐らく、左右で使用頻度を変えていたのだ。 片方の弾切れを見せて隙が出来たと見せかけた残りで銃撃。 だが、相手はそんな小細工を容易く乗り越える。
ふわわは当然のように小太刀で叩き落とす。
――凄ぇ。
マルメルはもうそんな感想しか言えなかった。
誤字報告いつもありがとうございます。
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