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婚約破棄? 喜んで♡ 相談女と元婚約者様、どうぞお幸せに!


まさか、こんな日が来るなんて——。


学園の中庭。授業の合間で人が溢れる中、

アレンは突然振り向き、声を張り上げた。


「エマ・ロードネル! お前との婚約を破棄する!」


ざわり、と空気が波立つ。

視線が一斉にこちらへ向いた。


私は震える声で問う。


「ど……どうして……?」


(ここで泣いたら負けよ、エマ……耐えなさい……!)


ニナは涙を拭いながら、肩を震わせた。

「……エマ様が、そこまでお怒りになるなんて……

私、気づかなくて……」


(エマ、絶対に泣くな……!)


アレンはニナを庇うように言い放った。


「お前、ニナを虐めているだろう!」

「ちがっ——」

「言い訳をするな!」


こんな……こんな綺麗に話が進むなんて……!


(計画どおり……!

 笑い泣きしたくても、今は耐えるのよエマ……!!)





——数日前。


「嘘でしょ……婚約破棄って言われたの?」

親友カレンが青ざめて、私の手をぎゅっと握った。


「うん……ジョージ様に呼び出されて。

 理由は……“ニナを虐めたから”って」


「虐めじゃなくて注意だよね?

 あの子、無意味にジョージ様へ近づいたからでしょ……!」


ニナ——

婚約破棄できない身分差を利用し、

“ギリギリ揺らすだけ”を楽しむ女。


「私……気軽に話せる相手がいなくて……

優しく聞いてくださったのが嬉しくて……つい」


そう言って、いつも涙ぐむ。 


既に婚約している男にだけ近寄るという、恐ろしく性質の悪いタイプ。


「婚約していらっしゃる方のほうが、頼りがいがありますもの」

「……あ、でも。わかってますわ」

小さく首を傾げ、困ったように微笑む。


「皆さんだって、

そう思っていらっしゃるでしょう?」


簡単には婚約破棄できない。

それをいいことに、危険なところだけを器用に突く。


胸の奥が熱くなる。


「許せない……」


その時、アレンが迎えに来た。


「エマ、行くぞ」


「わかったわ。カレン、またね」


カレンに手を振って歩き出す。


「何話してた?」


「別に……」


廊下の先で、ニナとすれ違った。


「ごきげんよう、アレン様、エマ様」


その声を聞くだけで、

伏せた睫毛の奥にある計算が伝わってきた。


「やあ、ニナ」


私は一度だけ手を握りしめ、それから言った。


「……あなた、カレンに謝りなさいよ。

 彼女の婚約者を誘惑したでしょ」


ニナは大きく目を見開き、すぐに潤ませた。


「え……? 誘惑だなんて……」

「私、ただ困っているって相談を……」


「嘘つかないで!」


「おい、エマ」


アレンが低い声で割って入る。


「そんな決めつけるなよ」

「ニナは、そんなことする子じゃない」


「……どうして、あなたが庇うの?」


私が問い返すと、

アレンは一瞬だけ言葉に詰まり、肩をすくめた。


「お前、いつも正論振りかざすよな……少しは俺の立場も考えてくれよ」


その日から——

ニナはアレンに露骨にちょっかいをかけ始めた。


「あらアレン様、ネクタイ曲がってますよ」

「私、エマ様の気に障る事をしたのでしょうか……エマ様の視線が怖くて……」


私は二人に向かい、手を握りしめ言い放った。


「アレン様、ニナから離れてください。

 そしてニナ、あなたも!」


「……エマ、重いんだよ。そういうとこ」


ニナは一瞬だけ怯えたように瞬き、

助けを求めるように、そっとアレンの袖を掴んだ。


「エマ様……どうして……

私、何かしてしまいましたか……?」


声を震わせ、涙を滲ませる。


「そうだぞエマ。そんなふうにニナを責めるなんて……可哀想だろ」


アレンは彼女を庇うように、一歩前へ出た。

無意識の仕草だったが、その距離は、私を完全に締め出していた。


——二人は“共通の敵=私”を作り、さらに仲を深めていった。





——そして今。


ニナは、勝ちを疑っていない余裕満々の顔。

“どうせエマは縋りついてくる” と信じきった目。


私は静かに、深く頭を下げた。


「……わかりました。

 婚約破棄を受け入れます」


「!?」


アレンの顔が歪んだ。

ニナも固まる。


私は涙を拭うふりをして、柔らかく微笑んだ。


「今までありがとうございました。

 どうぞ、お二人でお幸せに」


「と、当然だ!」


アレンは一瞬の沈黙のあと、

自分を奮い立たせるように声を張り上げた。


「お前みたいに、いつも正論で追い詰めてくる女とは……

別れられて……正直、ほっとしてるぞ!」


……だが。


その横で、ニナの指先が小さく震えていた。


そもそも——

ニナが他の婚約者たちを揺らしていたのは、

本命にしていた上位家の男性たちに相手にされず、

婚約まで辿り着けなかった“腹いせ”だった。


そして——アレンは伯爵家の三男坊。

ニナは男爵家の娘。


(いつもみたいに“別れられない”って、高をくくってたのよね、ニナは)


私が子爵家の娘だったため、

アレンとの婚約は“家同士の均衡”で決められたもの。

彼とは違い、私から簡単に婚約を解消できる立場ではなかった。


(アレンと別れたかったのよ……

 彼、見目こそ紳士だけれど——

 中身は人の心をすり減らすタイプなのよ)


私は背を向け、中庭を静かに去った。


(ニナ、男の自尊心を満たすのが得意でしょう?

 きっと、ぴったりね。

 ……どうぞ末永く、頑張って♡)





公開婚約破棄の噂は瞬く間に学園中へ広がり——


親友カレンの誤解は解け、

ジョージ様とも無事仲直り。


一方アレンとニナは、

「あなたが余計なこと言うからよ!」

「は? 俺のせいにすんなよ!」

「こんなつもりじゃなかったのに!」

「なんだと!」

と責任転嫁し合い、

勢いのまま婚約する羽目になった。


ニナの望んだ『上位家との婚姻』も、

アレンの『子爵家に婿入りして爵位を得る』という淡い望みも——

その一瞬で、同時に潰えた。


「平民扱いなんて耐えられない!」

「男爵位すら、継げないのか……!」


その悲鳴混じりの声に、

周囲から、堪えきれない失笑が漏れた。


そして私は——


公開婚約破棄の件で、家が私を改めて見直し、

「もっと相応しい相手を探そう」と

縁談そのものを考え直してくれることになった。


(私の人生、ここからが本番ね♡)

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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『転生姫はお飾り正妃候補?愛されないので自力で幸せ掴みます』※ざまぁ系ではありません

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― 新着の感想 ―
相談女が無事に成敗され 大変素晴らしいお話でした!! ありがとうございます (*ФωФ)フフフ…
自業自得な2人が見事に自爆してくれましたね。ありがとうございました!
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