096.援軍と思しきナニカ
突っ込んできていたシェルヴェン先遣隊主力に向かい、ラーゲルレーヴ傭兵団の斬り込み隊もまた真正面から突っ込んでいく。
極めて短時間ではあるが、両軍一歩も引かぬ壮絶な殺し合いが展開される。
だがこれは、本来絶対にやってはならないことであった。シェルヴェン先遣隊にとって。
歩兵同士の激突の最前線に、比類なき武勇を誇る怪物がいた時、その激突は瞬く間に一方的な虐殺へと切り替わっていく。
盾や鎧で守りを固めたとて、怪物には通用せず容易く陣形は突き崩され、崩れた場所に歩兵が雪崩れ込む。
特にどちらも攻撃のつもりであった今回の場合は、守りの姿勢を作らねば一瞬で討たれてしまうような怪物の存在を無視することになり、それは時間と共に加速度的に状況を悪化させていくことになる。
陣形を食い破り、作り直した陣もまた踏み潰す。戦場の各所では陣形を保つ軍とそうできなかった軍との圧倒的差異が損耗率の差となって表れている。
城壁上の戦士たちも、乱戦になってしまうとさっさと弓を投げ捨てる。
「よおおおし俺たちも行くぞ! てめえら遅れんじゃねえぞ!」
もう攻城戦の最中だという意識は誰もが持っていない。
チンピラの出入りのような勢いで血気にはやった戦士たちが、剣を握って相変わらず開けっ放しの正門より飛び出していく。
ラーゲルレーヴ傭兵団副長は、前線を団長アッカに任せ自身は城壁上でもしもに備えている。
だが、そのもしもなんて事態は絶対に起こらないだろうなとも思う。
「気持ちはわかりますけどね、そりゃあんなもん見せられたら血が騒ぐのも無理はありません。とはいえ、いやぁ、なんとも…… こ れ は ひ ど い」
敵軍は五百でこちらは三百。にもかかわらず城門を開け敵を招き寄せた挙げ句、最後はこちらから討って出て外での決戦。こんな馬鹿な戦していたら命が幾つあっても足りはしないだろう。
なのに現状ではこのやり方こそが最善で、敵が戦意を全く失っていない段階から力ずくでごりごりとこれを削り取っていた。それでいてこちらの被害はとても小さい。
そんな無茶がまかり通ってしまうほどに、凪と秋穂の二人が強すぎる。
歩兵同士の乱戦なんて状況を立ち上げられれば、多少の数の差など物ともしないだろう。
またそういった戦士が味方にいる、敵にいる、そんな意識が両軍に伝わっていくことで、軍の威勢に大きな差がつく。
もう敵軍に打つ手はない。勢いよく飛び込んでしまったせいで引き下がるのも難しく、圧倒的兵差で力押しするほどの兵もない。
「……正直、リョータとニナが敵軍を見つけていなければ、ナギとアキホがいなければ、ここまでの戦果はありえなかったでしょう。ホント、敵軍の指揮官には同情しますよ」
勝敗は決しようとしていた。
先頭は秋穂が走ろうと思っていたのだが、傭兵団斬り込み隊の特に活きの良いのが我先にと突っ込んでいく。
自然その後ろに続く形になりながら、敵兵に追いすがり斬って斬って斬りまくる。途上で秋穂はその男に問う。
「ねえ、どこまで追撃する?」
「皆殺しにするまでよ! はっはあ! どいつもこいつも手応えのねえ!」
こりゃ駄目だ、と秋穂は苦笑しつつ周囲を見渡す。
どの兵も皆血気に逸っていて、冷静に対応できそうな人間が一人もいない。
とりあえずこちらが被る被害を最小限にするために、秋穂はできるだけ自身が前へと進むことにした。
そうしていると、面白いことに気付く。
威勢よく声を上げ、殺意の赴くままに暴れ回っているように見える兵たちだが、単身で突っ込む者は存在しないのだ。必ず複数の人間が一緒になって前へと進んでいる。
意識してか無意識かはわからないが、生き残る術は身体に染みついているようだ。そう思うと、この荒くれ共が妙に可愛らしく思えてきた秋穂である。
そんな可愛い連中筆頭であるむくつけき大男が、手にした大斧で敵をなぎ倒しながら逃げ遅れた敵兵を次々と蹴散らしていく。
兵たちの中でも彼は頭一つ抜けている感じがある。
そういえば、一番初めに大声を張り上げ城門から突っ込んできたのも、この声であったなと秋穂は思い出す。
傭兵たちの顔を全てなんてとても覚えてられないが、この大男は秋穂も覚えている。目立つ男であるし、何よりコレで小隊長の一人だ。確か名前はモルテンだったなと。
彼が暴れるとその巨躯も相まって非常に目立つ。それは後続の兵たちの士気を大いに鼓舞することになる。
なら、と秋穂はこの大男モルテンのフォローも考えられる位置で戦うことにした。
「なんだよなんだよ! 今日は俺絶好調じゃねえか! どんだけかかってきてもまるで負ける気がしねえぜ!」
実に調子のよい男であるが、元々の人柄ゆえかそこに嫌味のようなものはなく、秋穂だけでなく他の兵たちも、仕方ねえなあ、と自然と彼のフォローに回ってしまう。そういうところのある男であった。
凪は混戦の最中、気になっていた男を見つける。
「いぃやああああああ!」
裂帛の気合いの声と共に、眼前の敵兵を袈裟に斬り倒す。大した剛剣だ。だが、思い切りよく振り過ぎたせいで側面より接近する敵への対処が遅れている。
仕方のない、と凪がフォローに入ろうとしたのだが、その男は剣ではなく身体を敵兵に叩き付けるようにして敵の間合いを潰して剣撃を防ぎつつ、体当たりで弾き飛ばして再び間合いを開く。その時には男は剣を引き終えており、そのままスパリと首を斬った。
「わお、やるじゃない」
「あ!?」
戦場でいきなり声を掛けられたことに驚き、男、折笠満ことミッツは咄嗟に凄んで返すも、声の主の顔を見て口調を和らげる。
「っと、なんだよ。アンタか」
「ミッツ、でよかったわよね。なによ、全然戦えてるじゃない」
「ははっ、ありがとよ! 俺ぁまだまだこんなもんじゃねえぜ! 見てろよ! どいつもこいつも叩っ斬ってやらあ!」
「せいぜい間抜けな怪我なんてしないようにね」
誰に言ってんだ、と威勢よく返す。やはり戦場では誰もがこうした興奮状態になるものだ。
ただそれを抜きにしても、ミッツは身体も大きいし、体力もありそうだ、そして何より剣を振るう動きに慣れている。凪の目からは彼の綺麗な剣道の動きがよく見えた。学校では随分と真面目に剣道に打ち込んでいたのだろうとよくわかる動きだ。
別の敵に向かって走り出す彼の背中に、凪は一応真面目な忠告のつもりで声を掛けた。
「間違っても打つ部位叫んだりしないでよー」
「するか馬鹿っ! そいつはこっち来て一番最初に直したとこだよ!」
戦場の最中にありながら、剣道出身者による戦場あるあるネタで笑い合い、二人は各々の戦いに向かった。
傭兵という生き物は、煮ても焼いても食えぬすれっからしの集まりではあれど、驚くほどに単純な部分もある。
肩を並べて突撃し、共に血飛沫を浴び血風渦巻く戦場を駆け抜けたとなれば、前後の様々な事情を無視してあっさりと打ち解けてしまう。
共に死地に飛び込み敵を斬った、これに勝る信用はないと彼らは考えているのだろう。
「いやいやすっげぇよなお前ら! 最初は何処の間抜けだと思ったもんだが、まさかあそこまで強ぇとは思ってもみなかったぜ!」
「見たぜおい! アキホが蹴り飛ばした奴が空を吹っ飛んでいくのをよ!」
「ナギ! お前の剣ありゃなんだよ! 剣先ぜんっぜん見えねえじゃねえか!」
「二人で並んで城門開けて立ってるところだよ! かっこよかったわありゃ! あんなことされちゃこっちはたまらんぜおい!」
そして凪も共に戦場にあった相手を、あっさりと戦友として認めてしまうようなところがある。
秋穂は警戒を怠ったりはしないが、それでも戦場に勇んで飛び込む命知らずへの敬意は持っている。
緒戦の快勝に団長アッカはその夜、飲酒許可を出したので砦の中は大騒ぎである。
凪と秋穂は酒は飲まないがあの馬鹿騒ぎの中で一緒になって笑っている。時々傭兵を笑いながらぶん殴っているのは不用意に身体に触ろうとした奴でもいたのだろう。周囲の他の傭兵も笑っているので、あれはあれでそういうコミュニケーションなのだろう。
突撃に参加しなかった涼太は、少し混ざり難いとも思えたので彼らとは距離を置いている。
そこに、まずはニナがちょこちょこと歩いてきた。
「リョータ、どうして私には突撃許可出してくれなかったの?」
「いやだからお前には俺の護衛役頼むって言ってあったろ」
「むー。あんなおいしい戦場、滅多にないのに」
「ニナは戦場によく出るのか?」
「三回。全部どうにもならない負け戦ばっかりで、逃げるので精一杯だった。せっかくのー、勝ち戦だったのにー」
「危ない真似しないで済むならそのほうがいいだろ」
「あの時と違って今は手柄がいる。欲しい」
「たとえば、ここで手柄を立てたとして、傭兵団やドルトレヒトの街に取り立ててほしいのか?」
はた、と気付いて考え込むニナ。
「むむむー。そーいうのはいらない、かな。お金欲しい。いっぱい」
「そいつは俺が幾らでも用意してやるから、大人しく指示に従ってくれよ」
「ならばよしっ」
そんな話をしている横から小さな笑い声が聞こえる。
「戦場らしからぬ微笑ましさですね、リョータ」
ラーゲルレーヴ傭兵団の副長だ。彼もまた突撃不参加組なのと、馬鹿騒ぎは苦手なので避難してきていた。
涼太にとっても彼は比較的話しやすい相手である。
「副長さん、今回の戦で敵の先遣隊引いたから、今のうちに地図完成させちゃいたいんだが、構わないか?」
「地図はもうもらいましたよ?」
「細かいところはまだ不鮮明だったからな。もっと精度あげる。アッカ団長が心配してた場所の調査もしときたいしな」
「……敵はどうやらかなり周辺の土地に精通しているようです。そういう人間が皆今回の戦で死んでてくれればいいのですが……」
「楽観は厳禁だろ。実際に動くのはニナに頼むから、調整のほうよろしく」
副長はニナをまじまじと見た後で、涼太を見て、そして二人の女傑を思い出す。
「君たちは、どうにも見た目と中身が一致しない人ばかりですね。剛勇を誇る戦士が二人、地図の作成が可能な熟練斥候、稀有な魔術を操る高位魔術師、の見た目がコレですからねぇ。これこそが一番の魔術じゃないのかと思えてなりません」
地図はニナが調べたという体で涼太が遠目の魔術を使って記しているのだが。まだ子供にしか見えないニナが軍の斥候として必要十分な働きができていることも事実である。
ああそれと、と副長は言葉を加える。
「リョータ。たとえそれが事実であったとしても、金なんて幾らでも稼げるなんて顔を傭兵の前でするのはやめてください。ソレができない連中が集まるのが傭兵団なんですからね」
こういった時、涼太は自身がまだまだ子供であると自覚する。だが、ここで言い訳せずに赤面しつつも素直に謝れる自分であれば、きっと次は上手くやれると信じられるのだ。
そうできるようになるまでの中学時代を思い出すと、今でも恥ずかしさで泣きそうになるのだが。
人間、自分の悪い点を指摘されると、ついつい言い訳を口にしたくなるものなのである。
敵先遣隊が完全に敗走し、少し余裕ができたところで、サーレヨック砦に変化があった。
なんと総勢二百名の援軍である。
これはドルトレヒトから送り込まれたもので、街で雇える戦士を片っ端からかき集めてきたようだ。
これでサーレヨック砦の兵力は五百に増えた。敵軍は公称三千らしいからそれでも六倍差があるのだが、元より三百で守るつもりだったラーゲルレーヴ傭兵団にとっては緒戦の快勝に続く朗報である。
喜びに沸く傭兵たちとは別に、アッカ団長や副長は渋い顔である。
涼太は思いついたことをアッカ団長に問うてみる。
「指揮権の問題か?」
「ああ。あの援軍、わざわざご丁寧に自分の旗を立ててってことは間違いなく貴族だ。お貴族サマが傭兵風情の指示に従ってくれるものか……」
「俺たちとしては、指揮権はアッカ団長が持っててくれるのが一番だと考えてる。そのために小細工が必要だってんなら協力は惜しまないよ。ウチの二人なら、ドルトレヒトの貴族如きをどう扱おうと街長にも文句なんて言わせないからな」
「頼もしいねえ。とはいえ、援軍二百はちと惜しい。上手くやれそうならそのままで。問題になりそうなら……まあ、その時は、な」
「了解」
傭兵たちの歓迎の声と共に砦に入ってきた兵。そしてその指揮官たる貴族は、二十代前半のまだ若い男で。
嫌な予感しかしない、と涼太もアッカ団長も思っていたが、実際話をしてみると高圧的なわけでもなく、傭兵たちへの敬意がないわけでもない。
とりわけ既に先遣隊を蹴散らしたという話には彼もとても興奮していて、出遅れたか、と口惜しそうにしていた。
彼自身の従軍経験が少ないことから、極自然に傭兵の指揮下に入るつもりでいたようで。貴族ではあるが人懐っこいところもあり、若い故に未熟に見えるところはあれど、指揮官として期待できる水準の人物であると思えた。
思えたのだが、問題は起こるのである。
「な、なんという美貌。女神とは正に彼女たちを指しての言葉であろう」
その若貴族は、案の定というかやっぱりというかですよねーというか、凪と秋穂を見て完全に自らを失ってしまった。
経済的にも社会的にも恵まれた環境で育った若貴族は、平民たちとは比べ物にならないほど良い物に囲まれてきた。それは女性に関してもそうだ。
だからこそ逆に、他に冠絶するほどの逸品にはその価値を理解できぬ者よりもずっと、強く強く心惹かれるのだ。
一切の悪意なく彼は全くの善意で、凪と秋穂の戦士としての活動をこの世の損失だと言い放つ。
その美貌で如何に金を儲けるか、といった話ではない。純粋に、その美しさが失われる可能性をただひたすらに憂いたのである。そしてできればその美を自らのものにしたいとも。
だが彼は、その若さ故に、好ましいと思える相手に格好つけたいという欲求から逃れることはできなかった。
嫌がられながらではなく、相手にも好ましいと思ってもらえる形での占有を望んだのである。
戦場にきたというのに女に浮かれる無様な男だ。初対面での好印象などあっという間に消し飛んでしまった。
涼太とアッカ団長は顔を突きあわせて嘆息する。
「どーするよリョータこれ」
「俺に言わないでくれ。あの貴族、せめても部下たちの前では浮かれてるところを見せないだけの配慮はできるみたいだが……でもアレバレてるよな。まあ連中も実際に口説いてるところ見たわけじゃないだろうから、あんなにもヒドイとは思ってもみないだろうが」
「貴族のガキにしちゃ随分とお行儀の良い口説き方だとは思うぞ。思うが、でもなあ、ありゃ幾らなんでもないわ。初恋に浮かれて周りが見えなくなってる間抜けなガキそのものだ」
「いっそお行儀の悪い口説き方してくれればさっさと見切りがつけられるんだがね」
「やめてくれ、二百の兵は惜しいっつってんだろ。……いや、だが、二百の兵よりナギとアキホのほうがもっと惜しい。二人はどうだ? 殺意が湧くほど苛立っているようにも見えないが」
「困ってる。まあ困るで済んでる、ってところだろうな。あれで二人共、ああいう風につきまとわれる経験はそれなりにしてきたらしいから、問題にならないようにかわす手管も身に付けてるだろ。幸い、あの貴族が一線を越えることは無さそうだし、なら二人も我慢はしてやれるさ」
「そいつは何よりだが。頼むぞ、我慢の限界になる前にこっちに一言報せてくれよ。致命的な決裂の前にあれを遠ざける手を取るから」
三日後、ドルトレヒトからの援軍二百が、サーレヨックの第二砦に向かうことに決まった。
サーレヨックの地には砦がもう一つあり、第一のみでも機能はするが、第二砦と連携できれば、敵に更なる打撃を期待できるような位置に建てられている。
特に第二砦は見晴らしの良い岩山の上に建てられたデカイ監視所のようなもので、水と食料の問題さえ解決できれば第一砦よりも落とすのは困難だ。そして今回の戦には援軍がくるまで持ち堪えればいいという時間制限がある。
この話を聞いた直後、涼太はアッカ団長をじっと見るが、アッカは首を横に振る。
とても陶酔した様子で告げるのは若貴族君である。
「ふっ、君たちほどの英傑だ、その傍に居ては武勲は全て持っていかれてしまうだろう。それを不快と思うほど私は狭量ではないつもりだが、やはりこれでも一角の男子だ。私は私で、君たちに負けぬ武勲を挙げるとここに宣言しよう」
凪と秋穂の美貌に恐るべき武勇が備わっていることを即座に納得できる者は少ないのだが、彼はこれを認めるにさしたる抵抗はなかった模様。或いは本気で女神だとでも思っているのか。
アッカ団長と副長は、一応、止めるだけは止めた。
砦二つが連携して敵軍に当たる。これは双方に相当な練度を要求する。兵の練度ではない、将の練度だ。
作業としては第一砦での仕事のほうが単純であることから、いっそ若貴族をここに残し、ラーゲルレーヴ傭兵団が第二砦に行ってしまえば効率的ではあると思うが、そこまでする気には到底なれない。というか単純なはずの第一砦防衛任務すら、任せようという気にはなれない。
アッカ団長もそれ以外の全員も、もう若貴族がどうなろうと知ったことではなかったが、兵の二百は惜しいと思えるし、惜しいだのなんだのの前に、あんな馬鹿に付き合わせるのはあまりに兵たちが哀れだ。
だから止めたのだし、凪と秋穂さえ、わざわざ戦力減らしてどうするのよ、と若貴族の第二砦移動に否定的な意見を述べたが、若貴族はそう言ってもらえると嬉しそうに笑った。
「ははは、心配してくれるか、嬉しいね。だが、戦地にきた以上危険はどこにいてもつきものだ。ましてや私はドルトレヒトを代表する貴族の一人、率先して危地に赴いてこそ家の名誉も守られよう」
戦略的にはそれほど誤った選択肢ではないのだ。砦はどちらも二百人もいれば運用できるようになっているし、砦二つを同時に完全包囲することは難しく、必ずどちらかの砦に隙ができるというのは戦う上でとても有利な状況と言えよう。
ただ、最低限でも砦としての運用をこなせれば、の話ではあるのだが。
二百の兵の中には若貴族の郎党も含まれている。というか小隊の指揮官級は皆そうだ。なので若貴族から彼らの兵権を奪うのも難しい。となれば、もうどうにもならない。
意気揚々と砦を出ていく若貴族と兵二百。
彼らを見送りながら、涼太はアッカ団長に聞いた。
「なあ、戦場ってなこういうことが当たり前に起こるものなのか?」
「おーよ、世の中ってな何時でも何処でもこんなもんだ。勉強になったか?」




