088.恋の結末
男とディオーナの話し合いは三度行われた。
三度とも、男が怒鳴り、ディオーナが泣く。ひたすらそれが繰り返されるだけだった。
男の希望ははっきりしている。エルフの森を出て街でディオーナと暮らすことだ。当然これはエルフたちにより却下されているので、男が望みを果たすにはディオーナを説得しかつ森のエルフ皆を出し抜かなければならない。
一度そうできたのは、男とディオーナが共にエルフたちの信頼を裏切ったためだ。
二度そうされるほど、エルフたちも間抜けではない。つまり、男の希望はどうしようもなく叶わないものであるということで。
エルフの森で暮らし、男女の営みを行わず、といった条件を守ればいいだけの話だが、男にはどうしてもそれができなかった。
結局、男はエルフの森を去っていった。
森は危ないので、エルフの一人が男を案内してやり、街まで連れていってやった。さんざん迷惑を掛けられてきたエルフたちであったが、だからとこの男を殺してしまえと彼らは考えない。
ただ、この男には二度とエルフの森に立ち入ることを許さないし、ボロースとの取引も全て停止すると伝言を持たせた。
男はエルフたちに、そんな話を持っていったらボロースの領主様に自分が殺されてしまう、と泣きついたが、それは人間同士で解決すべき問題であってエルフが関与することではない、とすげなく返された。
男が森から出ていってすぐ、アルフォンスは酒瓶を持って涼太の部屋を訪れた。
「はーっはっはっはっは! よくやったぞリョータ! 実に見事な策士っぷりよ! この結末が見えていたからこそあの愚か者をここまで遇したという話か! いやいや! これならばディオーナも文句の言いようがあるまい! 八方全て、お前の言う納得を得られたという奴だ! 実に愉快! ボロースの連中にも筋を通すこのやり方は他のエルフたちにもすこぶる好評であったぞ! まったくお前は人間にしておくには惜しい男よな!」
アルフォンス絶好調である。
人間の街よりディオーナと男をさらってしまっているが、先にディオーナの森外への移動を幇助し行先を隠蔽したのはボロースであるし、二人が人間社会で人間のルールに従って生活したというのなら、今度は同じようにエルフの森でエルフのルールに従って生活するのが公平だという言い草も納得のいくものだ。
馬鹿男の馬鹿さ加減をディオーナに知らしめて、両者が納得のうえで別れるという形にもっていけたのだから、アルフォンス含むエルフたちもディオーナに対して負い目を感じることもなく、またボロースや男がどれだけ不誠実であろうとも過剰な仕返しを望まないエルフたちの心を汲んでいる涼太の采配は、彼らに広く受け入れられたのである。
「俺は酒飲まないって言ったろ。どうせなら発酵してないぶどうの絞り汁くれ。それよりアルベルティナのほうはどうだ?」
「じじばば連中が珍しいってんでつきっきりだ。ああいう特異体質が生まれる可能性が高いのは、個体数の圧倒的に多い人間の数少ない利点だからな。そういうのはなかなかエルフの森に顔を出してくれんから皆喜んでるよ」
「……いじめちゃいないよな?」
「彼女に悪影響が残るような真似はせんさ。どの道、制御のためにもきちんと魔術師としての知識を得て訓練を積む必要はあるんだから、あの連中に預けるのが一番だ」
人権の概念が希薄な社会において、どこまでをいじめ、虐待と判ずるかは悩ましいところだ。
涼太にできることは、善意と良識の有無を確認したうえで、かみさまにでも祈るぐらいであろう。善意と良識に従って無慈悲な虐待行為を行なう場合もあるが、それはもう涼太に解決できる範疇ではなかろう。
エルフは音楽や詩作、彫刻に絵画といった芸術にも造詣が深く、きちんとした歌の師を得られそうなアルベルティナはとても興奮した様子であったそうな。
とはいえ、と少し口調が大人しくなるアルフォンス。
「いずれあの娘も老いて死ぬと考えるとな。エルフの森にいつまでも置いておくのがよいのかどうか、私にもわからん」
アルフォンスが涼太の主張を無視して注いだぶどう酒を、ちびちびと飲みながら涼太は答える。
「人間はこれからもっともっと増えるぞ。そして力を増していく。エルフの森に一万の兵を押し返す力があったとしても、百万の兵が相手じゃどうにもならんだろう。そんな戦になる前に、エルフ全体が人間のことをもっとよく、深く、理解しておくべきだと俺は思うけどな」
「おいおい、百万は言い過ぎだろう」
「人間がいまの数なのは、それが今の食糧生産量で賄える人数だからだ。もし、今後食料をよりたくさん生産できるようになったなら、当然だが人口は今よりも増えていく。作物をより効率的に育成するやり方なんてもの、当たり前にどこでも工夫しているんだから、俺の懸念はいつか絶対現実になるぞ」
「仮に、そうなったとして、お前はどうしろと言うんだ?」
「どうするかなんて俺に考え付くわけないだろ。俺はエルフと人間との関係性も戦力差も知らないんだ。だけど、相手を知らない、ってのがとんでもなく不利で、かつ関係性を悪化させる原因であるってことはわかる」
「ボロースとの取引停止は間違いだと?」
「そこは止めとけよ。ただ、エルフの森に少ないながらも人間がいるってのは悪いことじゃないって話だ」
ふむ、と木のコップを傾けるアルフォンス。
「お前の言に聞くべきものがあるのは、私にもわかった。で、人間が手に負えぬまでに増えるとして、それはいつだ?」
「さてな。五十年か、百年かかるか」
「なに? そんなにすぐにか? 百年前の人間も、今の人間たちと大差なかったと聞いているが」
異世界転移者が涼太たちだけならばここで数百年と言えたのだろうが、現代知識でなんとか優位を取ろうと必死になっている連中がいることを涼太は知っている。
「これからの十年、きちんと情報収集していたほうがいいと思う。それがエルフの常識から見てどうなのかは知らないが、アルフォンスがそうするように外に出て外で生活して、人間社会の変化をエルフの森に報せるエルフが一定数必要だと俺は思うぞ」
「何か、そうなるような気配を掴んでいるということか……何故それをエルフである私に言うのだ? お前も人間だろう」
「もし、エルフの森に百万の軍を差し向ける奴がいたとしたら、俺はそれを発案した奴も、実行に移す奴も、命令に従って森を焼き払おうとする奴も、気に食わないと思うからだ。正直、こっちの国にきて、集団としてのあり方で一番好ましいと思えたのはお前らエルフの森のそれだ。他はもう……強引に介入して改善させて、それでようやくって感じなんだよ」
「……お前がエルフの森にきてまだ数日だろう。なにがそんなに気に入ったのだ?」
「エルフってのがどういう集団でこれまでの歴史でどういう決断をしてきたかはきちんと調べてあったさ。エルフはその基準が理性に依っている。それは教育水準が人間と比べて異常に高いのが原因だろう。エルフってさ、全員、人間でいうところの知識階級と同等以上の教育受けてるだろ。そういう集団が理性と良識に基づいて判断する事柄は、俺や凪や秋穂にもとても納得できるものなんだよ」
つまるところエルフの森を褒められてるわけで、アルフォンスはうんうんと頷くが、はたと気付いて問い返す。
「ナギとアキホもか?」
「アイツら別に頭悪いわけじゃないぞ。結果として選択する行動がとんでもなく頭悪いだけで」
「そういう者を指して頭が悪いというのではないか?」
「……そりゃ、まあ、確かに。だ、だけどな、凪も秋穂もあれで本当に愚かな真似はしないぞ」
「ははは、見るに堪えぬといった醜い行動をせぬのは知っている。ただ、そうだな、あくまで私にとってはだ。エルフの中にはお前たちのように同族を無慈悲に殺して回る者を忌避する奴も多い」
「ますますもってエルフを好ましいと思える話だ。戦士がそれじゃ困ったことになるが、一人の人間として、いや、エルフとしてのあり方がそうであるというのは、俺は素晴らしいことだと思うぞ」
くくく、と含むように笑うアルフォンス。
「エルフの森にも色々なエルフがいる。私はそういう連中は苦手なんだが、理屈っぽくて武術を嫌うエルフはお前と同じようなことを言っていた。つくづく思う、やはりリョータはエルフとして生まれるべきであったな」
「そりゃどうも。この後、アルフォンスはどうするんだ?」
「私もさっさと森を出るつもりだったんだが……そうだな、お前の話を聞いて少し思うところもできた。森の者たちと話し合ってみようかと思う。リョータも、何度もやれとは言わんから滞在中に森のエルフに少し話をしてやってはもらえないか」
「おう。ほんの少しだけ森のエルフと話したが、思っていたより排外的じゃないみたいだしな」
「そうでもない。外の人間なぞどうなろうと知ったことかというのが連中の本音だ」
「本音がそうであっても、必要性があると思えば理性で衝動を抑え込める。きちんとそれが期待できる相手ってのはそれだけでも信頼に値するさ。それと、だ」
「それと?」
手に持つ木のコップをくるくると揺らす涼太。
「やっぱり俺、酒キライだ。せっかくのおいしいぶどう汁が酒精のせいで台無しじゃないか」
涼太の渋い顔を見てアルフォンスは大きく破顔する。
「ははははは、賢者の如く世を語っておきながら子供みたいなことを言うのだなお前は」
凪はエルフの森で、エルフ流暗黒格闘術を幾つか見せてもらっている。
アルフォンスをすら凌ぐ戦士も森にはいた。そういった相手と剣を合わせてみて、つくづく世界は広いと凪は思うのだ。
エルフ流暗黒格闘術はエルフという種のために作り上げられた流派であり、エルフの特徴の一つである、エルフは全員一人の例外もなく魔術の素養があるといった点も当然踏まえた武術だ。
つまり魔術を如何に戦闘術として用いるか、といった点において他の流派にはない充実した知識と技を持つ。
というわけで凪がエルフ流暗黒格闘術を学ぼうとしても無駄なのだが、魔術を併用した戦闘なんてものを経験できる稀有な機会であり、エルフ流暗黒格闘術の戦士たちとの手合わせは凪にとっても実に有意義なものである。
そしてこれを眺めながらぶーたれているのは秋穂だ。
「凪ちゃん、たのしそーだねー」
汗をぬぐいながら振り返る凪。
「不覚を取った秋穂が悪いっ」
ぴしゃりと言い放つと秋穂は頬を膨らませる。
先の戦いで凪はかすり傷ていどであったが、秋穂は戦闘終了時点で実に六本の矢が刺さった状態であった。
涼太の魔術で治癒は済ませてあるが、内の一本が胴に刺さっていたため、治りが遅くなってしまっている。
今も腹部が痛いはずなのだが、秋穂はとても混ざりたそうに凪の戦いを見ている。もちろん参加なんてしたら涼太が怒るのが目に見えているので、我慢はしているのだが。
エルフも色々だ。
こうしてすぐに凪や秋穂たち人間と打ち解けるエルフもいる。
ここで凪たちと共にいるエルフの中には人間を好まない者もいたのだが、凪がきちんと技量を示せばこれを認めてもくれるし、六本の矢を受けて尚戦い抜いた秋穂に対しても敬意を払ってくれている。
ただ、あるていど親しくなってくると、エルフたちは皆が揃いも揃って、人間にしておくには惜しい、と言ってくるようになる。
アルフォンスだけの無礼さかと思えば、エルフという種に共通のものであるらしい。凪も秋穂もそこまで考えが及ばなかったが、エルフであれば寿命でその優れた技量や知識が失われることもないのに、といった意味合いもこの言葉にはあった。
悪意なく、本気で惜しいと思ってくれての言葉だとわかっているので、凪も秋穂も苦笑で済ませている。
凪がここで人間の優れた戦士がどれほどのものかをエルフたちに見せたおかげで、この後でエルフの長老たちが森の外に出る者を募った時、エルフ流暗黒格闘術の使い手たちがかなり乗り気になっていたそうな。
男が森を出ていった後、ディオーナがよく一人になりたがるのを、エルフたちは咎めることはしなかった。
監視を付けていなければ森から逃げるかもしれない、とはエルフは考えない。
エルフの重鎮がディオーナときちんと話をした。理と知に重きを置きながら長きを生きたエルフによる情理伴った説得に、ディオーナ如き若造が抗することなど不可能だ。
そして自身がその行動を納得できなければ、とてもではないがエルフたちを裏切って森から逃げるなんて真似はできない。
前回そうできたのは、そもそもエルフたちがディオーナが森から逃げ出すなんてことを想定していなかったせいで、今回したような説得をしていなかったためだ。森から逃げたとして、人間社会で暮らしていくなんて未来をディオーナに想定できるはずがないと。
その辺はボロースによる裏切りと、ディオーナが想定以上に考え無しだったせいでこのような事態になってしまったのだが。
それに、ディオーナもまたエルフなのだ。経験からではあるが、学び成長もしていくのである。
森の木にもたれかかりながら、ディオーナはぼけーっと何も考えず、降り注ぐ木漏れ日を見上げていた。
「おっす」
そんな軽い声でディオーナに話しかけてくるエルフに、ディオーナは心当たりがなかった。
エルフは皆、仲が良かった若いエルフですら、今のディオーナに対し腫物でも触るような態度を取った。
とあるエルフが口にした、ディオーナがあまりにも馬鹿すぎて理解ができない、という言葉が彼らエルフたちの感想を的確に表現していた。
そんなちょっと距離を置かれているディオーナに、こうして気安く声を掛けてくれる相手など、と思いそちらを見る。
ディオーナにとって、今まで出会ったどの人間よりもよくわからない人間、涼太であった。
「あ、コンニチワ」
ディオーナをさらった三人の人間の内、凪と秋穂の二人はとてもわかりやすく恐ろしい相手だ。間違っても逆らってはならない、あのアルフォンスとすら五分に張り合う怪物である。
だがそんな怪物二人を従えているように見えるこの涼太は、ディオーナから見てもこれといって強いだの怖いだのといった印象はない。
旅の途中、事ある毎になにかと声を掛けてくれたり、気を配ったりしてくれた相手で、アルフォンス含む一行の中で一番話しやすい相手でもあった。
今も、これまでに出会った人間とは、何処か雰囲気が違うと思えた。
ディオーナは思いついたことをそのまま口に出す。
「……ねえ、リョータって、エルフなの?」
「いや、どこから出てきたその発想は」
「んー、リョータって見た目以外、全然人間っぽくない。うん、そうよ。ほら、逃げてる時も、イライラしてる感じだったのに、全部自分の内に収めてるっていうか。人間の男ってもっとこう……そう、落ち着きがないって、そんな感じするのに。あのアルフォンスを相手にしてるのに、まるでエルフの大人みたいに落ち着いてた」
そんなもんかねえ、と涼太はディオーナの正面に立つ木に寄り掛かる。
「俺は人間だよ。だから、森から出ていったアイツの考えてることも、なんとなくわかる」
びくり、とディオーナが震えた。
「……知りたいかな、と思って来た。どうする?」
ディオーナは、涼太を強く睨み付ける。
「どうして……どうして貴方にわかるのよ! 私のほうが! 私のほうがあの人とずっと一緒にいたのに! 私がエルフだから!? 人間じゃないと人間のことはわからないってこと!?」
「そういう部分もあるだろうな。だがどちらかといえば、種族というより性別のほうが大きいだろう。女の子に、アイツの焦りは理解できないと思うよ」
激したままのディオーナに、涼太は静かに、言い聞かせるように、語り出す。涼太は、男が置かれていた環境がどんなものだったのか、ドルトレヒトについてからの調査で理解していた。
そもそも男に、工房の親方をやるほどの技術はない。しかも年齢も若いことから経験すら少ない。
それでも一度上の立場になってしまえば、下の立場に戻るというのもなかなかに難しくなる。人には自尊心というものがあるのだ。
挙げ句、仕事はオッテル騎士団に言われた街長が回してくれて、納期が遅れようが品質が劣化しようが何処からも文句は出ない。この環境でまっとうに人が育つはずがなかろう。
同業者同士の繋がりなんてものも希薄であったろう。もしあったとしたらもっと悪い。以上の環境にある男を他の同業者がどんな目で見るかは想像に難くない。
ディオーナもエルフだ。木彫りに関してならばその良し悪しを判別するぐらいはできる。
だからこそ、涼太の言葉に効果的な反論ができなかった。
「でも、あの人きちんと毎日働いていたわ。一生懸命、やっていたのよ」
「だろうな。アイツは根が真面目に見えたし。だからこの件、誰が悪いかっていえばアレを親方なんて立場にしたボロースのアホ共が悪い。人をまとめるってのは真面目なだけじゃどーにもならん。それを親方の下できちんと学ばせてからそうすればよかったんだ。そいつをすっとばしても上手くいく奴もいるが、根が真面目な人間には逆にそういうのはよくない」
それだけ真面目でも男の性欲って奴はどうにもならんものなんだが、と心の中だけで付け加える楠木涼太君十六才。酸いも甘いも男女の機微も、彼岸の彼方より眺めているかのようである。
或いは子供の頃からコネで優遇されることに慣れている人間なら、もっとうまくやれたかもしれない。いずれ無意味な仮定であろうが。
「エルフの森で、アイツは自分の仕事を見つけることができないと思ったんだろうな。それを恥ずかしいと思うような自尊心が、きっと街での生活で生まれちゃってたんだろう。そしてそれが森を出ていくって選択に繋がったんだと思う。ディオーナが悪かったわけじゃない」
ディオーナは何度も首を横に振る。
「……あの人、一緒にいるためなら、仕事が変わってもいいって、言ってくれたもの。エルフの森もね、良い木が育つ素晴らしい森だって。……誰も信じてくれないけど、いつかエルフの森で暮らしてみたいって、そう、言ってたのに……」
「信じるさ」
「え?」
「アイツ、好奇心が強くて、新しいことに挑戦するのに抵抗のない奴だろ。なら、新しい仕事も新しい暮らしも、怖がるよりも楽しみに思うだろうよ」
「そ、そう、そうなの。それだけじゃなくて、木がどうやって育つのかとか、川の流れる理由とか、なんでも知りたがる人なの。それで教えてくれた相手がエルフでも、子供相手でもきちんと感謝できる人で、それがすっごく綺麗に見えて……」
涼太はディオーナが勢いのままに語るのをじっと聞いていた。
しばらく話した後でディオーナは、嬉しいような、悲しいような、どっちともつかぬ複雑な顔で涼太を見る。
「やっぱり、人間同士ならあの人のこともわかってくれるのね」
「人間だからな、俺も。人間ってな、きっとエルフよりもずっと変わりやすい生き物なんだろうよ。だからこそ、変わる前は良い奴だったって話も理解できる。何度も言うが、変わったのはお前のせいじゃないし、きっとあの男のせいでもない。そりゃな、凪や秋穂やアルフォンスぐらい確固とした自分を持ってる奴なら環境がどうあれきっと変わらずに済んだだろうが、あーいうのには普通はなれないもんだ。あまり気に病むなよ」
「……うん」
ディオーナは、ほんの少しだけ、大人びた顔になって言う。
「ねえ、リョータはエルフの味方、してくれる?」
「ん? ああ、ボロースなんぞよりエルフの森のほうがよっぽど共感できる」
「そっか、良かった。なら、お願いするわね。きっと、エルフみたいな人間のリョータの言うことなら、エルフの森のみんなも信じてくれると思うから。人間っていうのがどういうものなのかみんなに教えてあげてね」
恋にイカレていても、最後の最後ではエルフの森のことを心配する。そうできるのがきっとエルフという種族で、彼らが施してきた教育の成果なのだろうと涼太は思った。




