055.橘拓海の価値
凪と秋穂が大量のバッグを抱えて学校へと帰還した。
同行者は総勢四十人ていど。彼らはとてもバツが悪そうであったが、高見雫も橘拓海もこれを責めるようなことはせず、他の生徒もあまり気分はよくなかったが彼らを受け入れることを否定はしなかった。
それは単純に、人を見捨てる、見殺しにするといった選択を選べないだけだったのかもしれないが、戻ってきた者にとってはありがたい話である。
この四十人は今後の不安要素となりうるのだが、生徒たちは一刻も早くリネスタードとの交易を成立させる必要があり、そしてその交渉のための人材には、高見雫と橘拓海の二人を当てるのが学校側としては最善だ。
生徒たちの柱とも言うべき二人だ。これを外に出すのに抵抗がなかったわけではないが、一応高見雫のお眼鏡に適う留守居役の生徒もいることで、高見と橘に加え十人の人員でリネスタードの街に向かうことになった。
ボロースの商人たちはそれはもうこてんぱんにしてやったのですぐに再襲撃は難しいだろうが、それでも不安はある。なので高見は凪か秋穂のどちらかに学校に残ってもらえないか頼んだ。のだが。
「嫌よ」
「やだよー」
にべもない。
涼太も率直に自分の望みを口にする。
「できるだけ俺たち三人はバラけていたくないんだよ。学校側の問題もわかるけど、悪いがここは譲れないんでね」
あくまで涼太たち三人は、学校側と歩調を共にすることはない、ということでもある。
高見は仕方なく哨戒シフトを作成し、いざという時のための迎撃、逃走のためのプランを説明し、後を生徒たちに任せた。
リネスタードへの帰り道は、川沿いまでの道を凪と秋穂が木々を蹴倒しながら切り開き、川沿いを下っていき、時折通れない場所は森側の木を蹴り折って道を作り、進んでいった。
途中、大猪が二匹と大トカゲが三匹、それと火吹き鳥が一匹出たが、凪と秋穂に全て嬉々として狩られた。
そしてこの中で一番美味い大猪を捌くことにした。それほど大きい個体でもなかったが、とんでもなく手慣れた様子で凪と秋穂は猪を捌いていき、切った肉を生徒たちに運ばせた。
捌いた後の肉部だけでもかなりの重量になる。生徒たちはこれら全てを分担して背負うことになったが、凪はといえばとても機嫌が良さそうであった。
「良かったわね、涼太がいいって言ってくれたから、それ全部アンタたちのモノよ。これだけあれば、結構なお金になるんじゃない」
学校に来た時はあれだけの大荷物を持っていたのだから、彼女たちがこれを運んでくれるのでは、なんて希望も持っていたのだが凪も秋穂も持ってやるつもりは一切なく。
生徒たちももしこれを口にして、だったら捨ててけば、とか言われたら悲しいので言われるがままにしていた。
そして学校を出てから二日と少しほど。
一行はリネスタードの街に着いたのだ。
涼太がまずギュルディと面会し状況説明を行なっている間に、凪と秋穂の案内で生徒たちはリネスタードの街を見て回ることに。
街の城壁を見た段階で既にかなり驚いていたのだが、街並みにも道行く人たちにも、皆とても驚いた様子だった。
生徒たちは彼ら同士で興奮した様子で語り合っていたが、それは街の人間から見れば未知の言語である。
それも男と女とで同じ服を着た黒髪だらけの集団とかいう、やたらめったら目立つ連中だ。
それでも誰も声を掛けたりしないのは、この集団を率いているのが凪と秋穂の二人であるからだ。
この二人がやることに文句をつける馬鹿はいない。気安く声を掛ける者もいない。幾人かは凪に対し好意的な姿勢も見せるがそれも怯えない、といったていどでしかない。
そんなわけでこのやたら目立つ一行のリネスタード探索は順調に進んだのである。
その必要性が発生したため、涼太は自身の出自を全てギュルディに説明してやった。
証明証言云々は説明を終えたうえでダインの工房に行ってからまとめてやったほうが効率的だと涼太は考えたのである。
案の定ギュルディは頭を抱えてしまった。
「お前……お前、さあ……もうちょっと……さあ、こう、な……せめて、私の一般常識で理解も対応もできる事柄だけにしてくれないか……」
建設的でもなんでもないギュルディのそんな愚痴は、彼の心からの台詞であると理解できるだけのしっぶーい口調であった。
「ソレを食らっちまった当人に言う台詞じゃねえよ。我ながら、よくもまあここまでなんとかできたもんだと思うんだから」
「異世界、異世界、いーせーかーいーなー。んで、その異世界から来たのはお前ら三人だけじゃなくて他に百人以上いると。お前らみたいなのが百人以上いると。お前らみたいなのを百人以上私に抱えろと。できるか!? 絶対に私の目も手も届かんぞそんなもの!」
「心配ない。凪と秋穂が異常なだけで他は普通だ。てかあの二人並を要求されても困る。今連れてきてるのは連中の中でも相当に優秀な二人とこういう場所に連れてきても対応できそうなのを十人だ。そいつら見て厄介度は判断してくれ」
大きく大きくため息をついた後、ギュルディはちろっと涼太を見る。
「……で、そいつらも工場のことわかるのか?」
「無理だ。言ったろ、俺が工場のこと詳しいのは特異な環境が理由だったって。けど高見さんも橘さんも俺たちとは違ってむしろ武力行使を嫌がる連中だから、そういう意味じゃギュルディの意に沿う面々だと思うぞ」
「役に立たなきゃ意に沿ったところで意味などなかろうが」
「使い方次第かな。連中の衣食住と立場を保障してやれば、異世界の技術も知識も経験も、それなりにだが譲ってはもらえると思うぞ」
「そいつはそんなに価値のあるものなのか?」
「あっちは魔術がない世界だからな、単純比較は難しいが、俺が見たところ特定分野においてはかなりの金になると思う」
「どれだ?」
「魔術抜きで物を作る技術が滅茶苦茶高いから、そのやり方はきっとこっちの世界でも参考にできるはず。他にも……」
涼太がずらずらと心当たりを並べると、ギュルディは興を惹かれたようだ。
「一応聞くぞ。お前が連中を私に紹介するのは同郷の誼か?」
「それもある。けど、アイツらをギュルディが上手く利用できれば、すげぇ有利になるとも思ってる。この後でダインのじいさんにも協力してもらうつもりだし」
「ダインに? 何故だ?」
「魔術の理論とか色々学んだけどな、幾つか俺の世界の技術の理論に通じるものがあった。そういうことが書かれた本が山ほどあるから、それを翻訳していけば、ダインのじいさんも喜ぶんじゃないかなってさ」
「異世界なんて話を聞かせれば、確かに喜んで飛びつきそうではあるが。今ダインのところでは鉱石の安定供給が可能になったことで作業量が増えたんでな、人員を増やすかどうか考えていたんだが……どうだ?」
「ダインの様子を見てからのほうが確実だろ。これから工房に行って話をして、んで学校のほうにまで来てもらおうかと思ってる」
「ん、なるほど。その様子を見て増やす人員の数を決めるとするか」
ダインの工房の人員を決めるのは別にギュルディの仕事ではないのだが、ダインとその弟子たちにそういった事務的なあれこれをさせるのは人材の無駄なので、ギュルディが面倒見てやっているのだ。
部下に言って魔術師をどのぐらい集められそうかの目星だけつけさせて、ギュルディと涼太は途中で生徒たちを拾いつつダインの工房に向かうことに。
道中、ギュルディは高見雫に食料の取引条件を説明し、学校までの運搬も請け負ってやる。これには当然学校までの護衛も含まれる。
この会話は涼太が通訳として間に入っており、双方の事情をよく知る涼太がそうしたことで、お互いの条件のすり合わせは実にスムーズに進んだ。
そして一行はダインの工房につく。
ダインの弟子に来訪を告げると、彼はとても困った顔をしていた。
「その……師匠は、連日ベネディクト様との議論と検証に夢中でして……」
今も資料室に籠って二人でああでもないこうでもないと騒いでいる最中らしい。
怪訝そうな顔で涼太。
「ダインってこの国でも有数の魔術師なんだろう? そんな人と延々議論するほどベネって凄いのか?」
「……いやそれベネディクト様の弟子の貴方が言いますか。正直、知識という点では我々ではまるで歯が立ちません。分野によっては師匠をすら超えていますからね。驚くべき知識量ですよ」
あれまあ、と涼太は皆を連れて資料室へと。部屋に入るとダインとベネディクトが一緒に睨んできた。もちろん生徒組はベネディクトのネズミな姿に心底驚いている。
「なんだ! ワシは忙しいと言っただろうが!」
「リョータ? 急ぎでなければ後にしてほしいんだが」
「急いだほうがいいと思ってな。俺たちの出自が異世界だって情報解禁だ」
「なに?」
「異世界から呼ばれた、俺たち以外の人間連れてきた。向こうの技術に詳しい人らしいから、アンタらとも話が合うだろうと思ってな」
「でかしたリョータ! 正直お前の知識は中途半端なものばかりでわかりづらくてな! かといってナギもアキホもそういった部分では全く頼りにならんし!」
「わーるかったな中途半端で。橘さん、悪いけどちょっと説明頼む」
ベネディクトは初期条件を整えるため、これまで開示制限してきた異世界の話をダインにも聞かせてやる。
この間に涼太は拓海に説明してほしい技術や理論を伝え、どう説明するのがわかりやすいかなんて話をしている。
そして双方の条件が整ったところで、まずは涼太による説明から始まる。
これに対して疑問をダインとベネディクトがぶつけ、疑問を聞いた涼太が拓海に問うて答えを得る、といった形で話は進む。
そういった技術に関して興味のある生徒が四人ほど、拓海の傍にいって一緒に話をしている。
そして話の内容が興味深いものであるとわかった案内役のダインの弟子も、ギュルディの質問に対し上の空になっていく。
ギュルディは凪と秋穂に向かって言う。
「まいったな。ダインのいつものに加えて他の連中も面倒なことになってきた。どうするナギ、アキホ、そっちの興味無さそうなの連れて、何処か他のところでも見て回るか? あれは相当時間かかりそうだぞ」
「そうね、私はそうしたいわ。秋穂は、なんか別の意見ありそうだけど」
「んー、高見さんがなにかもっと話したそうにしてるんだよね。ねえギュルディ、もうちょっと高見さんに付き合ってあげる時間ある?」
「ああ構わないぞ。アキホ、通訳頼めるか?」
「うん、いいよー。んじゃナギちゃんには他の生徒たちお願いしていい」
「いいわよー。んじゃみんなはこっちねー」
それぞれに分かれ、ギュルディと秋穂と雫に加えて、交渉や社会情勢に興味のある生徒がもう三人で別室へ、残りは凪と共に外へと向かった。
そして残された資料室の面々だ。
「あー! もう面倒じゃ! ベネディクト! やれい!」
「おう!」
いきなりダインが喚きだした。
そして涼太が止める間もなく頷いたベネディクトによる呪文の詠唱。
「え? おいそれちょっ……」
ご丁寧に永久化までかけてあるのは、効果時間内に話を終えるつもりが欠片もないせいだろう。
魔術の対象は橘拓海。そう、通訳を介するのが面倒になったダインが、ベネディクトに翻訳の魔術をかけさせたのである。
「え? は? もしかしてこれ、翻訳の魔法?」
めっちゃくちゃ驚いてる拓海を他所に、ダインもベネディクトもここぞとばかりに質問を直接ぶつけ始めた。
いきなり話が通るようになったことに驚いてはいたのだが、聞かれれば答えるに吝かではない拓海もすらすらと問われたことに応えだす。
そうなると速い。今は電気というものに関する話であったのだが、そこから化学や科学に飛んだと思ったら物理学の話が飛び出して、もう正直涼太にはついていけなくなっていた。
だが、ばっちりついていっていた優秀なダインの弟子はたまらず口を挟んできた。
「し、師匠! ちょっと待っててください! 今みんな呼んできますから! これみんなに話さなかったら絶対後で恨まれますって!」
「知るか! それで、その電流の向きを変える方法は他には……」
弟子は大急ぎで部屋を飛び出していった。
「おおおおい! みんな資料室に集まれ! リョータがまたすっごいの連れてきたぞ! 手の空いてる奴はもちろん! 空いてない奴も無理やり空けてこっちに来い! 師匠とベネディクト様の議論より洒落になんない話になってる!」
うん、面倒だし逃げよう、と考えた涼太は部屋を出ようとするが、それを目敏く見つけたベネディクトに止められた。
「リョータ! 以前の君の意見とは正反対の話が出ているぞ! その矛盾を君は今すぐここで説明しなさい!」
ダインにも睨まれ怒鳴られる。
「さっさとこっちに来て貴様の意見を述べぬかベネディクトの弟子! 異世界の知識と魔術師の知識と! 双方を持っておるのは貴様しかおらんのだぞ!」
やはり逃げられそうにないようだ。
ちらと学校組を見てみると、拓海は拓海で必死ではあるが物凄く楽しそうな顔をしているし、残った四人も魔術と科学との話に興味深げに参加している。そう、もののついでとばかりに彼らにもベネディクトは翻訳の魔術をかけてしまったのだ。
「……ひでぇ、ここまで馬鹿みたいな話になるとは……」
翻訳の魔術はそれなりに貴重な魔術だ。ましてやこれに永久化をかけ、この先もずっと他言語との会話が可能になるようしてやるなぞ、相当な代価が必要となるはずなのだが。
秋穂、そして涼太と凪の時は、ベネディクトの生命の危機ということもあったのだが、今回はなんと議論が楽になるから、という理由だけだ。
魔術の価値を貶めるような行為はできない、と気を使っていたのがアホらしくなってきた涼太である。
雫との話が一段落ついたギュルディは、相変わらず賑やかにやっている資料室に顔を出す。
「……なんだこれは」
工房の魔術師がほぼ全員集まってしまっていた。
その中心に、ダイン、ベネディクト、拓海、そして何故か涼太がいる。
部屋の入口で、ギュルディに声を掛けてきたのはギュルディがこの工房に手配した事務員だ。
「ギュルディ様。人員補充の件ですが」
「あ、ああ。てかあれ、タクミたちに翻訳の魔術かかってないか?」
「そんなことはどうでもよろしい。それよりも、魔術師の補充が急務です」
「それはあの話が終わって、ダインから具体的な研究計画を聞いてからと思っていたのだが……」
事務員が指差す先。そこには議論の周りにいて紙になにかを記し続けている魔術師がいる。
「議論が進むたび研究検証項目が馬鹿みたいに増えていってるんですよ。あの調子だと今までの作業全部放り投げてそっちにかかりきりになってしまいます。ただでさえ鉱物確保で項目増えているのに、この上更に爆発的に項目増やすような人間連れてきておいて補充も無しとかどーいう了見ですか。もちろん、魔術師増やした分事務員も増やしてもらいますよっ」
「あ、あー、あーうん、今のところ、君の見立てではどれぐらいいると思う?」
「倍ください」
「は?」
「現在の人数の倍揃えてください。意味、わかってますよね? つまり総人員三倍にしてくれって言ってるんですよ?」
「はあ!?」
「それでも多分、危ない、ですね。ダイン様はもうこれまでの作業全部ぶん投げるつもりですし、同じこと考えてるお弟子さんも山ほどいます。せめても引継ぎはしてくれるでしょうから、引き継いでくれる人員が必要です。しかもこれ、今現在も項目増え続けてるんですよ。このままだと新規項目だけでウチの工房の年間作業量超えてしまいます」
「異世界というのは、そこまでのものか」
「他のイセカイを知らないからなんとも言えませんが、あのタクミの話はとんでもないモノばかりです。ああ、情報管理に関しては……甘くなりますねえ。衛兵も回してください。彼らには炊事洗濯等の雑事と共に、付近の見回りもしてもらいましょう」
「まてまてまてまて。一度ダインに直接聞いてくる」
白熱する議論のまっただ中に、ギュルディは人をかきわけ突き進む。
「ダイン! おいダイン!」
議論をぶった斬るその登場に、参加者全員から睨み付けられるギュルディ。それでも彼は怯まず言った。
「工房の人数増やすのかどうか! それだけ教えろ! こっちにも手配の準備がいるんだよ!」
口汚く罵ろうとしたダインであったが、その重要性に思い至るときちんと返事をしてやる。
「うむ、是非欲しいぞ。何人でも構わん。来たいという奴は全て連れてこい。やらせる作業は山ほどあるからな」
「まてまてまて。使えんボンクラや窃盗目的のアホなんぞに来られても手間が増えるだけだろう。具体的な人数を言ってくれ」
「この内容を聞いて研究以外に力を入れる魔術師がいるものか。人数は……ふむ。おい、お前たち、どんな感じだ」
紙に記述を続けている弟子たちに向かって問うと、彼らは順に必要となる人数を口にする。
「五人、ですね」
「十三人欲しいです」
「こっちは……今のところは七人ですが、後二人、いるかもしれません」
「三人ですが、鉄作業の知識がないとちょっと処理しきれませんね」
「あー、それならこっちは農耕専門の奴で四人くれ」
キリがない。後、とんでもない人数が必要なことはわかった。
なのでギュルディは具体的にどういう人間がどれだけ欲しいのか、話し合いが終わったらきちんと数をあげるように言って一度引き上げることに。
「ダイン! これだけの数だ! お前の名前を出さなきゃ始まらないし使える奴は弟子にするって話でないと集まらんぞ!」
「おう! それでいいぞ! もうがんがん集めてくれい!」
国営工房じゃないんだから、とぶつぶつ言いながらギュルディは、不意に思い出したように振り返る。
「そうだダイン! リョータは返せ! こっちで使うんだった!」
「は!? ふざけるな! リョータはワシらのだぞ!」
「……俺は誰のものでもねーよ」
「タクミの仲間たちとの交渉に必須なんだよそいつは! 用事が終わったら渡すからとりあえず返せ!」
「ぐぬう……だっ、だがな! タクミは駄目だぞ! タクミは絶対に譲らんからな!」
言われた橘拓海君はちらっと人垣の向こうの高見雫さんに目を向ける。肩をすくめながらも彼女が頷いたことで、心置きなく話を続けられることとなった。
小声で涼太は拓海に問う。
「どうする? 逃げたいんなら手を貸すけど」
「なあ楠木、俺やっばいわ」
「はあ」
「すっげぇ楽しい。楽しくて楽しくてしょうがないっ」
目をきらっきらさせながらそう言う拓海に、ああコイツもダインやベネディクトと同じ人種だと理解した涼太は、この場にほっぽっとくことに大決定した。
ついでに、と今度はダインに問う。
「なあダイン。拓海さんなら他所も欲しがると思うんだが、そっちのほうが良い条件出してきたらどうする?」
「ふざけるな! 絶対に渡してなるものか! いいなギュルディ! 条件は白札で構わん! なんとしてでもタクミはこちらに繋ぎとめておくのだぞ! もし手を出す馬鹿がおったら構わん! ワシが許す! 決して生かして帰すな!」
「だーから拓海さんもアンタのじゃねーって」
とか言いながらも、欲しい言葉を引き出せたので人の群れを抜け、涼太はギュルディのもとへ。
「ということだ。あの人一人だけでも、結構な価値になってくれただろ」
「お前、さあ。こんな騒ぎになるとわかっていたのなら予め……」
「わかってなかったから俺も巻き込まれたんだっての」
「……おう、そうだな」
他の四人の生徒たちも話し合いの真ん中にはいないが、少し外れたところで別の魔術師たちに囲まれており、彼らとの話し合いをとても楽しんでいるように見えた。
なので憂いのなくなった一行はこの熱気に満ち溢れたダイン工房から逃げるように引き上げるのだった。




