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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第十五章 ラグナロク
262/272

262.カゾヤバイ



 黒竜ニーズヘッグたちが二手に分かれたのは、基本的に空を飛ぶニーズヘッグと大地を進むヨルムンガンドとで、足並みが揃わないからだ。

 それに、両者が共にあるというのはあまりに攻撃力過多であるとの判断もある。

 また事前情報として、リネスタードのカゾのことも伝え聞いている。

 地表近くを浮いて移動する巨大な城塞、とのことだが、その大きさは決してヨルムンガンドに対応できぬものではない。

 質量勝負であってもそうそう後れは取らぬだろうし、ヨルムンガンドが全身より放つ猛毒は一度の接触で容易くこの城塞内部へと浸透していくだろう。

 如何に強力な魔術具であろうと、使う人間が死ねば動かなくなる道理だ。

 ニーズヘッグは考える。


『こちらは機動力を活かし各地を襲撃することで敵の戦力の集中を阻む。人の社会のことは、随分と学ばせてもらっているからな』


 知能の高い魔獣というのはこういうものだ。

 知能が高い故にこそ工夫をこらすし、知能が高いからこそ事前に知識を得ておくこともする。

 自身がこの世に唯一の竜である、と随分前に諦めはついている。だからこそ、オージン王と共に生き、この今の竜のいない世を如何に生き抜くかを考えているのだ。

 そしてカゾの相手は、質量だけならばニーズヘッグより上のヨルムンガンドが相応しい。

 お互いの長所を生かした配置を魔獣が自ら判断できるというのが、この黒竜ニーズヘッグの最も恐るべきところだろう。

 実際に、ヨルムンガンドが森を抜けるようだ。

 その光景はまるでカゾが初めてリネスタードを訪れた時、森を切り裂き進んだ姿そのもので。

 決してヨルムンガンドの突破力がカゾに劣っていないという証左であろう。その上で猛毒を持つヨルムンガンドの戦闘力には、ニーズヘッグだけでなくアーサの事情を知る全ての者が絶大なる信頼を寄せている。

 空にてニーズヘッグが、大地にてヨルムンガンドが、そして海にてヘルとナグルファルが、それぞれ無敵を誇る最強の戦力、アーサの厄災となるのだ。






 リネスタード合議会議員にして加須高校生のまとめ役、高見雫は部下に指示を出した上で自身は一足先にダイン魔術研究所に馬車で向かう。

 移動するとなれば常にこの馬車を使うようになってそれなりに経つが、貴族だの大商人だののおえらいさんがこうする理由を雫もその立場に立ってようやく理解できた。


『私たちみたいな立場の人間が道を歩くなんてすると、それだけで悪いのを招き寄せる原因にもなるのよね』


 馬車には、矢での即死がありえない、いざとなれば馬の速さで駆け抜けることができる、余計な人間と顔を合わせずに済む、などなど様々な利点が存在する。


『護衛をつけなきゃならない人間だったら、馬車使っちゃうのが一番効率が良いのね』


 何事にも理由はあるものだ、と一人納得しているとすぐに目的地に着く。

 そこはリネスタードでも合議会議員官舎と同じかそれ以上に重要な場所であり、警備も極めて厳重だ。

 広大な土地であるが、この一帯全てを多数の人員を配置して警備している。

 各研究施設毎に専用の建物が建ち、希少なはずの魔術師が多数働いている王都の王立魔術学院にも最早その規模でも研究内容でも劣りはしない国内最大の研究所、ダイン魔術研究所である。

 雫が到着すると、魔術師の一人が待ち構えておりすぐに状況の説明を始める。

 これを移動しながら聞き、雫はそのまま巨大な建物の一つに入る。

 廊下を抜け、その目的の部屋に入るとそこには、スキールニルと橘拓海と幾人かの魔術師が待っていた。

 雫は特に意識せぬまま真っ先に拓海に目を向ける。それは拓海の方もそうで。


「来たわよ」

「おう」


 そのたった一言に、お互いこれでもかと感情を込めている。

 またこの時の二人の表情を見るだけで、ああこいつら付き合ってんな、というのが即座にバレるよーな顔をしている。

 魔術師は、半数が微笑ましい顔で、半数がけっやってらんねーよ顔でこれを見守っている。ここにいる魔術師たちは全員が元加須高校生だ。

 その辺の空気を読んでいるのか読んでいないのか、スキールニルがさっさと本題に入る。


「では早速今後の予定を」


 侵入してきた魔獣は二匹、黒竜と毒大蛇だ。空を飛ぶ黒竜はイングが対処するので、残る毒大蛇をカゾが担当することになる。

 毒大蛇の現在地を確認し、上空より見下ろす視点を得たことで完成した極めて精緻な地図を参照に、カゾの移動予定を組む。

 またスキールニルにはここリネスタードに残ってもらい、想定外の事態に対する備えとする。これを当たり前に受け入れてくれるぐらい、スキールニルはこの地に馴染んでいる。


「では魔術による印付けはタクミに……」

「私がやるわ。そっちのが色々便利でしょ」


 スキールニルの魔術による印付けは、対象の現在地を常にスキールニルが知ることができるため、この術を悪用すれば対象のプライバシーも何もなくなってしまうものだ。

 なのでスキールニルはこの魔術の使用には極めて慎重であるのだが、今回はこれを使うことで得られる常時の連絡手段が必要との判断である。

 そして口を挟んできたのは雫である。よほど拓海のプライベートを知られるのが嫌なようだ。もしくは、両者のみのホットラインというのが気に食わないのか。

 加須高校生魔術師たちがひそひそと話し合う中、とりたてて思うところもないスキールニルは即座にこれを了承した。

 そして、この件に下手に口を出すと藪蛇になるだろうと思った拓海は、即座に次の話題に切り替えるのである。


「じゃ、リネスタード周辺の索敵に関して……」


 彼は自身の知能の高さを、こうしたことに用いることに一切躊躇をしないのである。


 そうこうしている間にリネスタードからの馬車が到着すると、にわかに建物中が騒がしくなる。


「お、来たか」

「んー、この間の訓練より遅くなってない?」


 これにはエルフ版遠目遠耳の術によって状況を把握していたスキールニルが答える。


「隠密性を優先した、とのことです。妥当な判断でしょう」

「あ」


 と、ぼけたことを抜かすのは、隠密性を優先しろ、という指示を出した当人であるところの雫さんである。

 ちょっと赤面しながら雫は周囲の皆に告げる。


「んじゃ、みんなも配置について。スキールニルさん、後はよろしく」


 この部屋に残る者は残り、出る者は出て、そして以前の訓練から導き出されたおおよその時間を経た後で、雫は眼前の伝声管を全て開く。


「配置についた部署から連絡を」


 即座に返事がきたのは、既に配置を完了し待ち構えていたせいだろう。


「中央ダイソンスフィア配置完了、いつでもどーぞ」

「右方制御機配置おっけー」

「左方制御機配置完了」

「下部浮遊ユニット配置かんりょーしましたー」

「屋上観測班配置完了」

「城内警備室、人員の移動は完了だ」

「外部接続ユニット配置完了だけど、王都の役人で乗せろってうるさいの追い出したけどいいんだよね?」


 即座に雫が反応する。


「よくやったわ。後でその役人の名前こっちに回しなさい、デカイ口きいた報いをくれてやるわ」

「おー、さすが我らがドン、頼れるー」


 これにて全部署の確認が取れた。

 雫は自身の胸元に下げてあったメダルを取り出し、これを目の前の机にはめ、そして四分の一ほど回す。

 途端に、机が光り出し、幾本もの光の筋が机を走り、床を走り、各部へと伸びていく。


「機動要塞カゾ、ロック解除! 全部署運転を開始しなさい!」


 同時に、各部署から歓声がかえってくる。

 訓練の時はそうでもないが、実際に動かすとなると皆こうなのだ。何度言ってもこれだけは直ってくれない。

 雫は、どういうこと、という視線を隣の拓海に送るが、拓海は苦笑するしかない。


「だから言ってるだろ。ロマンだよロマン」

「そ、れ、が、私にはわかんないってこっちも何度も言ってるでしょっ」


 少しすると、他に先んじて外部接続ユニット配置の人間から声が聞こえる。


「こちら外部接続ユニット。全回路切断確認。いつまでもつかはダイソンスフィアの連中に聞いてねー、多分今日の調子だと半日ぐらい保つと思うけど」

「了解。悪いけど発進までそこで待機ね、回路が残ってて引っ掛かった時はそっちで即座に対応してもらうから」

「わかってるよー、まっかせてー」


 外部接続ユニットとは、ダイソンスフィアから常時発せられる恐るべき量の魔力をカゾの外に送り出すためのものだ。

 カゾを起動すると研究施設で使われていたこれらが失われてしまうため、大規模実験の予定を延期させられた研究者たちはとても悲しそうにさめざめと泣いていた。

 送られる魔力量が魔力量なもので、この接続ユニットの管理には専門に人をつけなければならないほど難しいものとなっている。

 雫は少し考えた後で、他の伝声管の蓋全部を閉めた上で警備室の蓋だけ開く。


「警備室、もしかしたら無理矢理外壁にひっつこうとする馬鹿が出るかもしれない。発進が済むまでは絶対に警戒を怠らないでちょうだい」

「了解しました。不法侵入者への対処は事前の協議通りで?」

「そう、それこそ相手がギュルディ王だろうと完全拘束して牢に閉じ込めておいて。この件に関しては一切の忖度はありえないからそのつもりで」

「そうやってはっきりとしてくれた方がこちらとしてはありがたいですね。では、そのように」


 すぐに次の問題が今度は屋上観測班から。


「こちら屋上観測班。あまりに見え見えすぎる偵察がいる。それも複数。どーすんだこれ?」

「そこから直接外の警備隊に連絡して全員とっ捕まえるように言って」

「あいよー。必死になるのもわかるが、それにしたってお前、もうちょっと隠れてくれないとこっちも見逃してやることもできねーって」

「馬鹿なこと言ってないでさっさと連絡する」

「はいはい」


 とても残念なことだが、屋上観測班が常備している望遠鏡は、一般には一切出回っていないのである。

 拓海の方を振り返る雫。


「機体の方は随分と楽できるようになったけど、今度はこういう問題が出てくるのね」

「横着しないで、一つ一つ隠しようのない部品から丁寧にあらっていけば、カゾの構造なんてあっという間に丸裸なんだがなあ。どうして誰もそういうことしないんだか」

「ソレを理解できない人間がカゾの回路見たところでどーにもならないだろうにねえ」


 あるていどの知識は諜報員も学んでいるが、専門的にすぎるものに手を出す者はほとんどいない。そしてカゾに関しては、その専門的すぎる知識の持ち主ですら理解に時間と手間がかかるシロモノである。

 そして雫が予想していたよりほんの少し早く、主機である魔核炉、ダイソンスフィアから連絡がきた。


「こちらダイソンスフィア、左右制御機との試験同調完了。出力臨界までは三時間ってところかな」

「……外部接続ユニットからの連絡とはちょーっとズレてない?」

「うえっ、あちゃー、そっちから行ってたかー。まあ、ね、ちょっと出力上げちゃったから、さ。ほら、前も全開運転出来てなかったし、上限値を知りたいって、思うでしょ」

「勝手なことすんなって何度言わせればわかるのよ! アンタ魔術研究所入りして連中に染まり過ぎよ! ここで馬鹿やらかすようなら研究所からも追い出すわよ!」

「うげっ! わかった! 真面目にやるよ! やるからそんなこと言わないでよー」


 まったくもう、とぼやく雫に、拓海も少し深刻な顔だ。


「まいったな、やっぱりみんな、戦争って感覚がない。カゾの運用要員交代制にしたの失敗だったか」

「交代制にしなかった場合のデメリットが大きすぎる。何度も話したでしょ、この体制でどうにかしてかなきゃ」

「だなぁ」


 そんな話をしていると、ダイソンスフィアの伝声管の向こうから声が聞こえた。


「やっぱりダメだったじゃない! アンタ今日はもう魔術だけ使ってなさい! 指示は私が引き継ぐ!」

「なんとおおおおお! 下剋上だとおおおおおおお!」

「皆の衆、この不届きものに天罰を加えるべきか否か」

「やれ」

「ギルティ」

「何度も言ったのに聞かないアホが悪い」

「シメろ」


 満場一致でダイソンスフィア部の指揮官交代と相成った。

 一部始終を聞いていた雫は首をかしげる。


「一応、自浄作用はある、ってことでいいのかしら」

「……これから俺たちせんそーしにいくんだけどなー」


 かくして、様々問題もあったが、全部署の準備が完了する。

 問題ばかり起こす連中であったが、いざ足並みを揃えろと言われればぴたりと揃えてくるのだから、雫もなかなかに文句を言いづらかったりもするのだ。

 深呼吸を一つ。

 雫は全伝声管に問う。


「各部最終確認」

「中央ダイソンスフィア、出力三割。問題は無し」

「右方制御機、おっけー」

「左方制御機、全て問題無し」

「下部浮遊ユニット、振動も誤差の範疇」

「屋上観測班、外の警備隊が動くまでは確認した。それ以外は特になし」

「城内警備室、捕縛者二名。他、外部警備隊が取り押さえたのが六名。現状では危険域に人間はおらず」

「外部接続ユニット、全回路確認済み。後は発進後に」


 よろしい、と雫は頷き、机に埋め込んだメダルを更に回す。


「第二鍵解放。機動要塞カゾ、起動」


 ダイソンスフィアから各部署へ莫大な魔力が流れ出す。

 以前のソレとは、流れの滑らかさもその流れる量も桁違いだ。

 それらが一気に各部署へ、右方制御機へ、左方制御機へ、下部浮遊ユニットへ、送り込まれるとカゾが振動を始める。

 だがそれも、立っていられなくなるようなものではなく、床の上の小石が小さく跳ねるていどでしかない。

 そしてここまできたなら雫も各部署を確認すらしない。

 後するべきはただ一つのみ。


「機動要塞カゾ! 発進!」


 雫の号令に合わせ、カゾが飛んだ。

 そう、跳んだではない、浮いたでもない、飛んだのだ。

 音もなく、学校の校舎丸一つ分の体積が、ふわりと浮かび上がったかと思うとそのまま直上に向かって浮き続けているのだ。

 すぐに外部接続ユニットから連絡が。


「切断問題無し。前みたいに引っ掛かって引き千切れるなんてことにはなってないよ。いやいや、ほっとしたよ」


 また警備室からも連絡がくる。


「問題、ありません。落下する人間もなし、現在のところは張り付いている人間の姿も確認されていないそうです」


 そこに注意していた理由は正にこれだ。

 今のカゾの高度は何と何と、地上百メートルを超えている。こんなところに人が張り付いていたら間違いなく死ぬだろう。

 以前のカゾとはもう全くの別物である。

 これぞ、カゾ改、ダイソンスフィアバージョンである。

 これが正式名称なのだが、あまりにもかっこ悪すぎるため誰もこの名で呼んではおらず、それまでと同じように機動要塞カゾの名で通っている。

 魔核による爆発的な魔力の奔流は、ダインの魔術理論を用いればカゾほどの質量を容易く空に浮かべ、更にこれを自在に操作することを可能とする。

 左右の制御機は空中での機動を可能とするもので、これのおかげで空を行くカゾはまるで鳥のように自在に飛び回ることができてしまっているのだ。

 一人拓海が呟く。


「とはいえ、どれだけ技術が進んでも着陸が怖いのは何処も一緒なんだよなあ」

「機械制御が元の世界より高度になるまではどーにもならないわね、そこは」


 二人がぼやいている間にも、カゾは空を飛び進む。その速度は、ともすれば黒竜ニーズヘッグと伍するほどのものであった。

 屋上観測班より切羽詰まった声の連絡が入る。


「目標、発見。予定位置より奥まった場所にて静止中」


 潜望鏡の応用で、指令室にいながらにして外、それも屋上からの景色を見ることができるようになっている。

 これを覗き込んだ雫は、すぐに拓海と場所を代わる。


「んー、ここ、だと。うん、悪くない。少し戻って、山の斜面でいいか」


 ここらは一帯森であるが地面の起伏がないわけではなく、また山にまで戻れば標的を一望できる場所も確保可能だ。

 屋上観測班から着陸に向いた場所の指定がなされ、下部浮遊ユニット班が緊張で強張った顔のまま、どうにか制御しつつ着陸を決める。

 山中でもあり、どうしてもカゾ全体が斜めに傾いてしまうのだが、着陸と同時にアンカーを打ち込み固定すると、それで十分と次なる動きを始める。

 ここで指揮は雫から拓海へと代わっている。


「よーっしやるぞ! 主砲! 砲身出せ!」


 カゾの屋上中央部に、蓋が横にスライドすることで大きな穴が開く。

 中から聞こえるは機械の駆動音。下方より伸びあがるようにして、細長い砲塔が直上に向け姿を現す。

 長い。

 明らかに砲身の端が屋上からはみ出してしまうだろうほどに長い。

 これが全て露出を完了すると、上に伸びた砲塔は真横に倒れていく。

 この時、その下方から、男子生徒たちの掛け声が聞こえる。

 彼らは一斉に握ったハンドルを回しているのだ。この回転に合わせ、砲塔はゆっくりゆっくりと倒れていく。


「早く自動化ぷりーず!」

「うっせえ文句言うな!」

「細かい制動はどーしてもなー」

「これもこれで浪漫!」


 そんな砲塔が狙うはもちろん、遥か彼方で休息中の大毒蛇。

 照準を任された男子生徒は、それほど緊張しているようにも見えない。


「外れたら撃ち直せばいいしな」


 確かにその通りで。こういう役目は浪漫を解さぬ者の方が適任であろう。

 またこの砲の特性で、余計な計算が必要ない、というのも彼が緊張しない理由でもある。

 魔力、つまりエネルギーが尽きるまでひたすらまっすぐ飛ぶ。それだけだ。

 そして下で必死にハンドル回す者の苦労なぞ知らぬとばかりに次々指示を出す。


「ちょい左、あー行き過ぎだ馬鹿、目盛り二つ分戻せ。よし、いいぞ、そこで固定。あ、身じろぎした。もういっぺんやり直しな」


 ふざけんなてめー、なんて声が聞こえてくるが、やはり彼は綺麗に無視した。

 そして照準が定まると、彼は指令室に繋げる。


「標的捕捉」


 ロマンを解する拓海ではあれど、無駄にリスクを負う気は毛頭なく、溜めも何もなく即座に命じる。


「よろしい! 主砲タキオンランス! 撃て!」


 光の槍の名の通り、タキオンランスはまっすぐ標的へと伸びていく。

 その威力があれば大毒蛇であろうとなんだろうと、それこそこの大地の上に存在するあらゆるものを焼き溶かす強烈無比なビーム砲である。

 後は当たるかどうかであったが、照準手や外部望遠鏡にて司令部より見ていた雫は、その輝きが黒大蛇に吸い込まれていくのを見た。

 が、その後は確認できない。何故なら、着弾した周辺一帯が大爆発を起こしたからだ。


「は?」

「へ?」


 両者が同時にそんな言葉を漏らす。その直後に、爆発の閃光が、数秒後に音が、そして衝撃が、カゾへと届いた。

 さすがにカゾの乗組員全員が混乱した。

 カゾの主砲タキオンランスは言うなればビーム兵器だ。燃える溶けるは理解できるが、爆発するなんて現象は誰も想像すらしていない。

 とりあえず雫は、誰に言うでもなく呟いた。


「私、ビームが当たって爆発するのってアニメの中だけだと思ってた」


 少しして状況を把握した拓海が、何とも要領を得ないような顔で言う。


「んー、ビームで蒸発した土や木々やらが細かい粉塵になって周囲に飛び散って、んでもってこれらがビームを火種にどっかーん、ってのはどう?」

「そうなの?」

「いいや、着弾地点に可燃性ガスなり液体なりがたまたまあった、って方がよほど説得力あると思う」

「何よそれ」

「つまり、理由の特定なんて今の状況で即断できないって話。後でこれ、タキオンランス森に撃つの試してみよう。うっかり森に当たったら即座に爆発なんて言われたらもう、おっかないなんてもんじゃない」


 タキオンランスの試射は何度かしているが、森に撃ちこむなんて真似は一度もしていない。

 これは後にの話になるが、結局ビーム撃って爆発した、という現象が確認されたのはこの時のみで、よほど何がしかの条件が整ったせいであろうと。

 そして遠目の術にてこれを確認できたスキールニルがイングに対し、とてもとても楽しそうに自慢をすることになる。


 タキオンランスで爆発という興味深い事象はさておき、爆煙が薄れるのを待って戦果を確認すると、周辺に飛び散った大毒蛇の破片を発見することができた。

 また大毒蛇が垂れ流してきた毒液を浄化する為、という名目で拓海がもう一度タキオンランスの発射許可をもぎ取り、再発射を行なったが、今度は爆発なんてことにはならず普通に周辺が焼き抉られていった。

 砲塔ハンドル応援隊の汗と貢献により、細かな微調整をしつつタキオンランスを放ち続け毒地帯を可能な限り焼き払うことにも成功したカゾは、これにて任務完了と帰還する。

 帰路、雫は拓海のみに聞こえる声で呟いた。


「カゾ、やっぱこれまっずいわ。強すぎる」

「だな。で、どうする?」

「エルフとの共同管理にする。双方の同意が無ければ起動できないように」


 驚きに目を見張る拓海。


「随分と思い切ったな」

「王都の連中が全力のタキオンランス見たら、絶対に手を出してくる。それで王都に預けたら、多分次世代かその次ぐらいには、これあればエルフにも勝てるとか言い出す馬鹿が出てくる」

「あー、それはありえる。けど、エルフだよ? さすがにその話を通してしまうほど馬鹿だらけにはならないんじゃ……」

「この国に魔核はもう一つあるのよ。カゾをもう一つ作ればもう負けない、なんてなるわよ、絶対に。だからその前に、エルフとの共同管理の話を通しておくの。最初にそうやって作った、って話にしておけば、後からごちゃごちゃ言ってきてもエルフと交渉してねって話にできるでしょ」

「エルフ、というよりイングさんとスキールニルさんの二人がかりで封印かければ、きっと人間の魔術師にはどうにもならないものは作れるけど、これってエルフにカゾを譲るようなもんだよ」

「今のようにイングさんたちと協力関係にあって、なおかつ二人がリネスタードにいる間は全く問題にならない。問題になるのはその先、エルフにとって興味深い研究を維持できなくなった時、エルフがこの地を離れてからのカゾの運用が滅茶苦茶難しくなることだけど、エルフ抜きでコレ作れるぐらいの技術がないんならこんなもの振り回すべきじゃないのよ」

「そんなもんかねえ。イングさんやスキールニルさんが信用できるってのはわかるけど」

「種としての信頼度でいうんなら、人間なんて比べ物にならないぐらいエルフは信用できるわよ。歴史ってこういう時の指標にはもってこいだと思うわ。ましてやエルフたちはほとんどがその歴史の当事者なんだから」


 うーん、と考えた後で、拓海は思考を切り替える。


「よし、その話はこの後で何日かかけて考えよう。で、それで考えがまとまったらイングさんたちに話通して判断を仰ごう」

「そうね、今全てを決める必要もないわ。けど、この話し合いにリネスタードの重鎮は、招けないわねぇ」

「ギュルディさんがいてくれりゃな。あの人が自分で使うって言うんなら後始末も含めて全部投げちゃえるんだけど」

「王をつけなさい、癖にしとかないとつい出ちゃうわよ。ま、王様になったあの人にこれ以上負担かけるのも申し訳ないしね」


 ちなみに、現状ではこのままイングへの援軍、とは考えていない。

 空を飛ぶ敵に対しタキオンランスを命中させるのは至難の業であり、これ以外の攻撃手段が体当たりのみであるカゾとしては、対黒竜で出るのならば相応の準備が必要になるためだ。



次回投稿は10/18です

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― 新着の感想 ―
ああ、エネルギー充填120%か!!
力に酔わない雫は凄いと思います。
ヨルムンガンドさんが薄い描写であっさり消し飛ばされちゃった…… カゾやばすぎるな
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