240.硬骨のスラーイン
かつてアールブは、土中深くを忌み嫌っていた。
アールブの英雄の一人が洞窟の中の竜に戦いを挑んだ後、洞窟が崩れ英雄も竜も諸共生き埋めになった逸話から、そういう風潮になっていた。
だが、エルフとスヴァルトアールブに分かたれて、スヴァルトアールブは魔術を制限する分、何か別のものを得なければならなくなった。
皆で一斉に魔術を制限したのならばいい。だが、分かたれたエルフの方はこれからも躊躇なく強大な魔術を研究していくだろうし、それは時間と共に大きな差となっていくだろうことはスヴァルトアールブの誰しもが理解していた。
そこで考えたのが、忌み地である土中の可能性だ。
当時既に各種金属は人間の手によって利用されてきていたが、これをアールブの知恵と知識で活用せんとしたのだ。
もちろんこれ以外にも様々なものに手を出し、魔術以外を用いた発展の可能性を模索したが、結局スヴァルトアールブが最も頼りとしたのはこれら土中の鉱物たちであった。
故に彼らが真っ先に、エルフよりも人間よりも先に、鉛の魔術阻害効果を実証できたのは当然の帰結であった。
「これこそがエルフたちに対する絶対の優位を約束してくれるものだ」
なんて調子の良いことを当時のスヴァルトアールブの一人は言っていたものだが、同じ効果を魔術で再現することが可能な時点で決して絶対ではない。
魔術を行使せずに魔術を防ぐ、という通常の魔術理論からはかけ離れた行為が可能、という意味では有為な鉱物であるが、まあそのていどである。
とはいえ、様々な金属加工技術を、スヴァルトアールブは磨いていった。それは魔術を用いるものであるだけに、人間にも再現不能なものばかりで。
そうした鉱物たちの中で最も価値のあるもの、希少性と有用性を備えたものが、生物を変質させてしまう力を持つ魔核であったのは如何なる皮肉か。
「論外なのだが」
魔核の利用に、古いスヴァルトアールブの大半が反対した。当然だろう、魔術による体への影響を良しとしないが故に彼らは今スヴァルトアールブなのだから。
だが、スヴァルトアールブが頼りにできるほどの大きな力に危険がないわけがないだろう、という意見もまた道理ではあった。
これもまた揉めに揉めたのだが、結論として、少数の積極派が慎重に研究を進める、ということで妥協が成立した。
後にこの積極派が人間と結託し、スヴァルトアールブの倫理に抵触するような実験を数多行なうようになるのだが、少なくともこの時点ではそんなことにはなっていない。
スラーインは所謂積極派と呼ばれる派閥のスヴァルトアールブだ。
連綿と続く進歩のみが、未来のスヴァルトアールブを救う手立てとなる、と信じている。
こういう部分はどちらかといえばエルフの思考に近いのかもしれない。スヴァルトアールブ全体は、どちらかといえば保守的な思考によりがちであるのだから。
人間や動物を魔核の影響下に晒し、変質させることでより強力な生物を作り出す、といった実験の、彼はスヴァルトアールブ側の責任者でもあった。
昨今はアーサ国の人間に優れた研究者が多数生まれているため、研究自体は彼らに任せてしまっていることが多いが、いざとなった時、他のスヴァルトアールブに対しこの実験の責任を負うのはスラーインである。
スラーインは古くからいるスヴァルトアールブであり、長きにわたり積極派であり続けたからこそ数多の経験と広範な知識を持つ。
スヴァルトアールブはそんな彼を信頼し、様々な権限を預けている。だが、そんな彼にも自他共に認める大きな大きな欠点があった。
言っても無駄だとはわかっているが、それでも言わずにおれぬスラーインの側近が口を開く。
「スラーイン様、ここは洞窟ではありません。ですので、体力を使い切るほどの鍛錬はお控えいただきたいのですが」
「それでは鍛錬にならんだろう」
「だからしないでくださいと言っています」
「嫌だ」
もう何百回と繰り返してきた問答だ。それでも側近は言わずにはおれない。
鍛錬をするのはいい。だが、出先で、人間の領域で、スヴァルトアールブの重鎮が、疲労から地べたにぶっ倒れてしまうぐらいの鍛錬をし、周囲に無防備な様を晒してしまうのはどう考えても問題しかない。
スラーインは、お前らがいるんだからいいだろう、と言うわけだが、そういう問題ではないのだ。
もう何百年もそうしていることだ。
スラーインは、常に己を研ぎ澄ましておかねば納得できないのだ。
最早スラーインの肉体は、スヴァルトアールブに許される限界値とまで言われているほどだ。
実際には、魔力や生命力といった力や、それ以外の数多の要素も影響してくるため、単純な肉体の性能のみで戦闘力を語れるわけではないが、それでも素の肉体が優れている方が良いことに変わりはない。
スヴァルトアールブの洞窟には、ここまでしていなくてもスラーインと同等の戦士もいるし、決してスラーインが無条件に最強だというわけではない。
だが、そんなことはスラーインが鍛錬を怠る理由にはならない。
スラーインが睨むはただ一つ。かつての戦において、スラーインの矜持をこれでもかと砕き嘲笑ったにくいあんちくしょうの顔のみだ。
「たとえ親の顔を忘れても、奴の顔だけは絶対に忘れぬ。イェルハルドのクソジジイを八つ裂きにするまでは絶対に鍛錬はやめんぞ」
魔術研究の一部門を丸々預かるほどの研究者であり、対人間の交渉役として全権を預けられている者であり、多くのスヴァルトアールブより慕われている人格者でもあるスラーインが、唯一絶対に譲らぬわがままがコレなのである。
なのでこの側近も、これまで数百年の間数多のスヴァルトアールブが漏らした呟きと同じ言葉を口にするのだ。
「この方の、これさえなければ……」
リネスタードにいるエルフのスキールニルは、その魔術により、捕らえられているアルベルティナと、これを追っているマグヌス、双方をリネスタードに居ながらにして見ることができる。
そのスキールニルがアルベルティナの様子を見ていると、スヴァルトアールブのアールとヴィースの二人が、遂にアーサ国内の都市に到着したことを知る。
それは当然歓迎すべきことではないが、同時に二人がようやく足を止めるであろうことから、スキールニルが待っていた瞬間でもあった。
「アルフォンスたちはどうにか国境を抜けられそうではありますが、連中がこの街に宿泊しないようですとかなり厳しいことになりそうですね」
街の入り口でアールとヴィースがスヴァルトアールブであることを明かすと、彼らは街中に案内され、そしてそこでスキールニルは眉根を寄せることになる。
なんと二人の行く先にはスヴァルトアールブが更に三人もいたのだ。
しかもこの様子だと、更に多くのスヴァルトアールブがこの都市にいるようだ。
「……不可解すぎます。アルベルティナ一人にスヴァルトアールブがこれほど?」
遠回しのエルフへの宣戦布告、という可能性はない。エルフとスヴァルトアールブ双方にとって人間の価値というものは低い。エルフやスヴァルトアールブに被害が出る可能性を、たかが人間一人の去就で認めるわけがないし、お互いがそう考えていることを知っている。
もっとも思慮の浅いエルフはこんな挑発にもあっさりと乗ってしまっているようだが、それはあくまで極一部の話だし、その極一部にエルフの最重要人物が含まれているなぞスヴァルトアールブにはわかるまい。
イング、つまりスヴァルトアールブが認識するところのユグドラシルが馬鹿だという耐えがたい事実は、エルフにとっての最重要機密なのである。
スキールニルの視界には、アールとヴィース以外にも、全部で六人のスヴァルトアールブが見える。
だがスキールニルの目が注視したのは内の一人。
どう見ても、古いスヴァルトアールブだ。
スヴァルトアールブもエルフと似ている。なので、古くからいるスヴァルトアールブの雰囲気は、同じく古くからいるエルフの雰囲気に酷似している。
そういった古いエルフ、スヴァルトアールブが恐るべき相手であるというのは、どちらにとっても共通のことだ。
「武の気配が相当に濃い。これは……」
スキールニルは人に頼んで、イングを呼んでもらう。
イングがくると、スキールニルは自身の視界をイングと共有する。これは簡単にやっているが、魔術としてはエルフの中でも最先端のソレに近く、相当な難度のものだ。
そしてスキールニルが警戒したスヴァルトアールブを見たイングが、目をつむって天を仰ぐ。
「さいっ、あくっ。アイツ、スラーインだ」
その名を聞いたスキールニルもイングと同じことをしそうになって何とか堪える。
「硬骨のスラーイン、ですか」
「そ、イェルハルドにぼっこぼこにされときながら、結局あのじいさんでも殺せなかった相手。まーずいよ、さすがにアレはアルフォンスじゃ無理だ」
「だからアルフォンスをスヴァルトアールブとぶつけるわけにはいかないと何度言わせるつもりですか。ナギとアキホが協力してくれているそうですが……」
「殺し合いなら、ナギとアキホだったらスヴァルトアールブ相手でも十分勝ち目はある。けど、スラーインはさすがになあ。うー、やっぱり私が行っとけば良かったー」
「スラーインとイング様がぶつかるなんてなったら、それもう開戦の合図ですよ。人間一人が原因でそんなことになったなんて言ったら、森の者も洞窟の者も誰一人納得なんてしません」
「うぎぎぎぎ。じゃあ、じゃあ、いっそアーサの王様でもさらい返すとか?」
「それ、イング様がアーサ国内に突っ込むって話ですよね? 絶対許可なんて出ませんよ。向こうがアルベルティナをどう考えてさらったのかがわからない内は、何処までやり返していいのかの判断もつきません。正直、この判断は私たちの手にあまります」
「そ、れ、で、どうするっての? 森に聞くなんてしたら絶対にアルベルティナ見捨てろ、で終わるよ」
「終わりません。イング様の面目を保つよう交渉することになります」
「アルベルティナを放置するってところは一緒でしょ。私はっ、アルベルティナをっ、取り返したいのっ」
「無理です。今向こうにいるマグヌス、アルフォンス、ナギ、アキホの四人が死ぬまで戦ってもスラーイン含むスヴァルトアールブ八人はどうにもなりませんし、死ねと命じることもできません」
「やだっ! 何とかするのっ!」
「ほんとにもう、イング様は何処まで人間大好きなんですか」
「じゃあスキールニルはどうなのよっ。もし工房の主要魔術師がスヴァルトアールブにさらわれたら?」
「…………もちろん見捨てます」
「あー、少し迷ったー、スキールニルは迷いましたー、うそついてもわかりますー。ていうかー、魔術師どころか街鍛冶屋の職人がさらわれてもスキールニル怒って追いかけるでしょー」
「あの稀有な腕前を持つ職人たちに対し、そのような愚かな真似をする者を生かしておく理由がわかりません」
「いやそりゃ鉄の職人なんてエルフにはいないけど、そこまで言うほどかなあ」
「言うほどです。向こうの連中には作戦の中止と即時撤退を指示します」
「やー! だー!」
「アルベルティナだけでなく、あの者たちも犠牲にすることになりますよ」
「うむぎぐぎぎぎぎぎぎぎぎ」
反論できず、しかし全く納得していないイングが馬鹿をやらかさぬよう監視しながら、スキールニルはマグヌスに魔術を繋ぐのであった。
人の足での走破は絶望的としか思えぬような急峻な山岳地帯を騎馬隊に並んで、というか先導しながら国境を突破した凪と秋穂はマグヌスとアルフォンスを伴って、そのまま峠道へのフレードリク率いる偵察隊に同行する。
この間に、騎馬隊の隊員がひそひそと話をしている。
「いやだから人の足じゃ突破できねーって言ってんじゃん」
「つまり人じゃねえってことだろ言わせんなよ」
「俺の馬さ、あの二人の傍寄せようとすると滅茶苦茶嫌がるんだよな」
「危機意識の強い良い馬じゃん。俺の馬なんか美人大好きだからほっとくと近寄りやがるぞ」
「てかあの崖抜けた後だってのに全く疲れた様子がないのはなんなん?」
「あの二人より狼顔やエルフの方がよっぽど人間味あるよな……」
もちろん、二人からは絶対に聞こえない場所での会話である。
カテガット峡谷を抜けた先の峠道は、ランドスカープ側ほど通りにくいわけではない。
ただ今はここをアーサ軍の兵士が、まるで死人のような顔をしてぞろぞろと後退している最中で。
騎馬隊隊長フレードリクなぞはこの哀れなアーサ兵を見ても、弱った獲物だよりどりみどり、ぐらいしか思わないのだが、それほど戦の経験のないアルフォンスやマグヌスなぞは、これを襲うのか? と同情的になっている。
で、当然凪と秋穂はよりどりみどり側である。
「この数でもアレが相手なら好き放題できるんじゃない?」
凪の言葉にフレードリクが、そういう行き当たりばったりで戦ったりしないから敵国に少数で乗り込むなんて真似をしても生き残れるんだ、と返すと、凪もむにゅうと黙り込む。
そんなわけで手出しはせぬまま、峠道を更に先まで偵察を進める。
途中、開けた場所に陣が敷いてあり、そこで退却してきた兵士たちへの手当や補給、休息場所を提供していた。
とはいえ規模としては本当に最低限のものでしかなく、生気を失ったアーサ兵の行進は更に続く。
そして街まで半日、といったところで、ソレを見つけた。
秋穂はソレを巨人だと思った。
凪はソレを怪人だと思った。
峠道のど真ん中に、一体の巨大な人影が屹立している。
コレの側には兵士が数人おり、逃げてきたアーサ兵に対し、この巨人は味方だから心配するな、と語り掛けている。
実際、アーサの敗残兵が傍を通っても巨人はそちらには目もくれない。
これの正体に気付けたのはアルフォンスであった。
「……信じられん。スヴァルトアールブは魔術による変異を忌避していたのではなかったのか」
呆然としてそう呟くアルフォンスにマグヌスが問う。
「アレはスヴァルトアールブのものか?」
「人間にあの魔術は難度が高すぎる。いや、あの大きさとなると、エルフでも難しいかもしれん。ああ、クソッ、つまり、スヴァルトアールブはエルフと違ってコレを目的に魔術を研鑽してきているということで。馬鹿な、人間よりよほど無慈悲なこの魔術を、スヴァルトアールブが使っているというのか」
魔術に関心のある凪がより詳しい話をとせがむと、アルフォンスはわかりやすいよう説明してくれた。
「人間の子供を使う魔術だ。術者の指示に従うよう躾けた子供を魔術により変異させていくもので、色々な変異があるがこうした単純に大きくするという形が一番安定しやすい。ただ、変異には予期せぬ変化が伴うものだし、急速な成育は脳に著しく負担がかかる。どんなに上手くいったとしても知能の低い個体しかできない」
一同、一斉に渋い顔に。
古いエルフはともかく、戦争をしていないアルフォンスやスキールニルといった若いエルフにとって、スヴァルトアールブは同族であるという認識がある。
肌の色という点で相容れず二つに分かれはしたものの、文化や規範を共有している同じ価値観を持つ者、という認識だ。
だからこそ、この所業にアルフォンスは驚き戸惑っているのだ。
凪が目で問う、エルフもやってるのかと。
「誰がやるか、そんな愚かな真似を。……生体実験が無いとは言わんがな、その場合当然知能の低い動物を用いることになっている」
生体実験、という字面だけでフレードリクやマグヌスはちょっと引いていたが、その単語からマウス実験を連想した凪と秋穂は特に嫌悪感なくアルフォンスの言葉を受け入れた。
そしてその反応を見たアルフォンスも内心で感心するのだ。
『武侠そのもののような二人だが、時折こうして教養のあるところを見せるのがな』
アルフォンスはじっくりとあの巨人を観察する。
見れば見るほど、様々な箇所に創意工夫の跡が見られる。
『クソッ、大きいだけじゃない。皮膚の強化、骨格の強化、五感は……実際にやってみなければわからんか。スヴァルトアールブの姿はない。指示に従うという点において不安はないということか。エルフでは再現不可能だな、これは。数十年単位での研究差があるか』
フレードリクが口を挟んできた。
「育てるということは、何年もかかるのか?」
「何年もかけていいというのなら人間でもできるだろう。当然、既に躾けてある子供に術をかければ即成長する。とはいえ、スヴァルトアールブなら誰でもできるというわけではない、はずだ」
「……ソレと知っていれば、対応の術はあると受け取っても構わないのか?」
「そうだ。だが、知らなければ力押しに突っ込んで甚大な被害を出す。私が言わなければきっとお前もそうしたのだろう?」
肩をすくめるフレードリク。
「アンタが居てくれて良かったと思ってるよ」
「ここまでやる奴らだ、恐らく子供に精神操作術をかけてもいるだろう。子供であることを利用はできるが、口先で寝返らせるというのは不可能だろうから気を付けろよ」
「大人にもできるのか?」
「大人にやったら得た力で反撃してくるだろう。子供の幼い精神相手だからこそ、魔術やら躾けやらであるていど操作が可能になるのだから」
この後、街までの道を確認した後で、偵察隊は撤収した。
偵察隊とは別の焚火を囲み、凪、秋穂、マグヌス、アルフォンスの四人が車座になって座っている。
四人は既にスキールニルと連絡済みで、アルベルティナのいる街には硬骨のスラーインと七人のスヴァルトアールブがいることがはっきりしている。
まず、誰よりも先にマグヌスが自身の意見を告げる。
「強奪ではなくなったとしても、俺一人になったとしても、俺は絶対にやる」
小さく嘆息する凪。
「スラーインっての抜きにしても、残る七人のスヴァルトアールブが全部アルフォンスだったらさすがに無理よ」
「エルフの森のエルフが全員私と同等の戦士だなんて話はなかっただろう」
「あの二人のスヴァルトアールブは結構強かったわよ」
「……まあ、な。私もスヴァルトアールブの武の水準がどれほどかは知らん。アキホはどうだ?」
「どうもこうも。それにどの道アルフォンスは参戦できないでしょ。てかしちゃダメだよ。エルフとスヴァルトアールブの戦争は絶対にマズイって」
「わかっている。が」
凪と秋穂の返答から、アルフォンスは戦いたがっているという気配を感じ取った。
ならば、とアルフォンスは策を提示する。
「こちらも、エルフには手出しできぬ、という状況を逆手に取る」
アルフォンスが単騎であの、恐らくはアーサ国内にまで追撃がきた時のために用意されたと思しき巨人に仕掛ける。
スヴァルトアールブはこの巨人を遠目の術で監視していると思われ、これをエルフが攻撃したとなれば、対応のためにスヴァルトアールブが出てくるだろう。
この時、例のスラーインが出てくればよし。その間に凪と秋穂とマグヌスの三人で襲撃してアルベルティナを取り戻す。
エルフとスヴァルトアールブの接触だ、連中も一人二人での接触ということはあるまい、というのがアルフォンスの読みだ。
それでも少数で、しかもスラーインが出てこなかったのならその時点で作戦は失敗だ。
アルフォンスは出張ってきたスヴァルトアールブとアルベルティナの件を話し合い、また別の機会を窺う。
考え深げに顎に手を当てる秋穂。
「うん、うん、悪くない。エルフのアルフォンスがアーサ国にまで出てきてるってなれば、スヴァルトアールブ側も大きく警戒するだろうし、自分たちが用意した魔術とぶつかってるってなれば焦りもすると思う」
凪は隣のマグヌスを見て苦笑する。
「その場合、踏み込むかどうかの判断を私たちがすることになるんだけど。私とこの調子のマグヌスだと、相当不利な状況でもつっこんじゃいそうなのがねー」
とても渋い顔をしたアルフォンスは秋穂を見て言う。
「お前が止めろよ。いいな、この馬鹿二人を殴ってでも止めろ。お前が本気で殴れば周囲に知れ渡って襲撃どころじゃなくなるからな、絶対そうしろよ」
任せといてよー、なんてのんきな顔で言う秋穂に、アルフォンスはこの策を伝えるべきではなかったか、と後悔するのだが、もう遅いのである。




