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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第十四章 黄昏前
239/272

239.そして凪と秋穂によりエッベ将軍は討ち取られた



 楠木涼太がカテガット奥砦に入ったのは、アーサ軍による包囲が解けた後のことだ。

 同行者にエルフのアルフォンスと狼顔のマグヌスがいるので、涼太は何処に行くにも不安はない。

 凪と秋穂抜きでこの安心感というのは、ちょっと経験がないと思えた涼太だ。

 そして凪と秋穂には言えぬことだが、男同士だからこその気安さというものも確かにあった。

 そんな三人がカテガット奥砦に入ると、ほとんどの兵は出兵中であったが、総大将であるヴェイセルは砦に残っていた。

 そいつはありがたい、と思っていた涼太がヴェイセルに会うと、ヴェイセルの愚痴の相手をさせられることとなった。


「如何に敵将を仕留めたとはいえ、まだまだ敵は多い。ならば、私が出ても十分に仕事はあると思わないか? 普通はあるよな? むしろここで手柄をと勇む部下を諌めるのは総大将たる私の仕事だろう。そー思うよな?」

「お、おう」


 ヴェイセルの話を聞くに、どうやら凪と秋穂はまた、敵本陣に特攻をかましたらしい。

 それが何と投石機によってなされたと聞くと、アルフォンスは盛大に笑い転げていた。窓からその投石機を見たマグヌスは、首を何度も横に振っている。


「魔術もなしでっ、投石機で空を飛ぶとかやはりアイツら頭おかしいな。うははははははは、是非私も見たかったものよ、もう一度やってくれんかな」

「いや、無理。絶対無理だ。あんなもんで吹っ飛んだ日にゃ、外皮が無事でも中身が潰れるって」


 面白そうだし私もやってみるか、なんて言い出したアルフォンスを放置で、涼太は話を続ける。


「なんでヴェイセル止めてくれなかったんだよ……」

「お前以外の誰にアレらを止められるというんだ。しかもあの投石機吶喊でも二人共ロクに傷を負わなかったそうだぞ。あの様子だと、投石機で飛んでいくのはあの二人の中では手段の一つとして選択肢に入ってしまっていそうだ」

「……なんで止めてくれなかったんだよお……」

「止められるもんなら止めている。それにあそこまで完璧に成功させてるんだぞ、文句なんて言いようがなかろう」


 本陣に突入したのが、この戦における凪と秋穂の尋常ならざる戦力初披露であったのだ。

 その異常さ、千人殺しの威力をエッベ将軍が認識した時にはもう、本陣深くにまで斬り込まれていた。これではどうにもならないだろう。

 騎馬隊の側面よりの乱入により、アーサ軍前衛部隊は大きく陣を崩し、ここにランドスカープ中央部隊、西側部隊が攻め込み散々に打ち据えた。

 アーサ軍本陣は二人の斬り込みにより混乱しており、それぞれへの援軍も効果的なものとはならず。

 ここで東側のシェル将軍も、縄を使って城壁の外に兵を出し、全面攻勢となった。

 アーサ軍は大軍だからこそ、不利な戦況にあっても数に物を言わせての攻撃もありえたし、逆に大軍を後方に待ち構えさせての退却もありえた。

 故に各部隊は迷い、混乱し、ランドスカープの中央、西部、東部の三軍により幾つもに分断包囲され、順に磨り潰されていった。


「ほんっとうに、楽しそうだったよな、アイツら」


 不謹慎であろうが、これがヴェイセルの偽らざる本音である。

 籠城戦から一転、野戦となったところで、シェル将軍、オーヴェ将軍、エーギル将軍の三人はもう、その時その時の自身の判断で好きに動きだしていた。

 エーギルなんかは余裕のない様子で必死に指揮をとっていたが、確かにシェル将軍やオーヴェ将軍は勇ましく笑いながら指揮をしていたそうな。

 これらの後方、城壁上に陣取っていた参謀ベッティルは、三人が自由に動くのを制するどころか、三人が動きやすいよう城壁上から確認できる情報を随時各部隊に連絡し、刻一刻と変化する戦場に、逐一対応していっていた。

 そしてやはり仕事がなかった総大将ヴェイセルである。

 とはいえ、他将軍たちや隊長たちからすれば、ヴェイセルは最も大きな仕事を果たし終えた後だ、と考えている。

 予想されるアーサ侵攻軍は一万から二万。これを時間的余裕の全くない状況で迎撃しなければならない。

 通常通りの兵の運用をしたのでは絶対に間に合わなかっただろう。これをヴェイセル指示のもと、将と兵とを完全に分けた上で、兵は最も速く集められる兵をありったけかき集め、即応可能な将に先行させ下調べをさせつつ、兵が集まり次第籠城のための物資の搬入やカテガット奥砦の改修を進める。

 カテガット奥砦を抜けられればもう野戦しか手はなくなる。そうなる前に、どうにかこうにか籠城の備えを整えてみせたのだ。

 そしていざ敵が来てみれば、敵の総数は五万ときた。

 そんな想定外にすら対応できる兵一万を、ヴェイセルはアーサ軍襲来の前に集めきっていたのである。

 そして戦略的に見てみれば、カテガット砦で止められた時点でもうアーサの勝ちの目はとんでもなく薄いものとなっている。

 よしんばカテガット奥砦を突破されたとしてもその損失は無視しえぬものであろうし、当たり前に籠城して稼いだ時間でもランドスカープ側の援軍が期待できよう。

 アーサ軍の目的は、ランドスカープ国内に侵入し、略奪や焼き討ちによって国力の低下と新国王の面目を潰すことにある。それはもう、望むべくもない。

 つまり、戦いが始まる前に、ヴェイセルはもうアーサ軍に勝利していたのだ。

 そして将軍たちからすれば、ここまでお膳立てされておいて更に総大将に負担をかけるような無様ができるか、と思う部分もあった。

 そんな将軍隊長たちの一人であるユルキが、涼太が来たと聞いて砦の執務室に顔を出してきた。


「おお、やはりリョータもきていたか」


 ユルキやクスターたち剣士隊も追撃には参加せず砦にてお留守番だ。

 剣士隊の攻撃力、突破力はあまりにも非常識なものであるが、彼らは何処ぞの魔獣だのガルムだのではなく人間であるので、戦術的勝敗を個人の技量にてひっくり返すような戦い方をしてしまえば、その後は疲労困憊でまともに身動き取れなくなるほどに消耗してしまうのだ。

 剣士隊は城門から飛び出していく歩兵隊を見送った後、のたのたと城門の内に戻り、入ってすぐのところで皆がぶっ倒れてしまったのである。

 ユルキもまだ身体がしんどくはあるのだが、涼太が来たと聞いて無理をして出てきたのだ。クスターなどはベッドから出てこようともしない。


「それに、随分と豪勢な顔ぶれだな」


 アルフォンス、マグヌス、いずれも鬼哭血戦十番勝負の戦士である。

 この二人をまるで護衛のように引き連れているのだから、ユルキにも多少の驚きはある。

 苦笑する涼太。


「これからしなきゃならん仕事考えれば、これでも不足かもしれないんだよ」


 え、と真顔になるユルキだ。

 だが、そこで引き下がらぬ、引き下がれない。ユルキは涼太から受けた恩を忘れてはいない。


「……ヴェイセル将軍に言って軍を抜けさせてもらう。俺も付き合うぞ、断るなよ」

「必要なら頼む。そうでなかったら大人しくしててくれ。仕事の中身も聞かずそう言ってくれたのは、本当に嬉しいよ」


 そういうことなら仕事がはっきりするまでに身体を回復させておく、とユルキはヴェイセルに一言断ってから早々に退席した。

 ユルキが下がるのと入れ違いに部屋のヴェイセルのもとに報告が届く。

 凪と秋穂が二人のみで前線から戻ってきたとの話であった。






 狼顔のマグヌスは、リネスタードのスキールニルと魔術で繋がっており、相互に会話が可能である。

 またこの時の会話に周囲の者も加わることができる。そして一行が追っているさらわれたアルベルティナの所在はこのスキールニルが魔術で位置を知ることができる。

 この位置を知る魔術をスキールニルはマグヌスにもかけており、マグヌスから東西南北の方角とおおまかな距離、といった形でアルベルティナの現在位置を特定することができる。

 その位置と地図とを照らし合わせ出た結論は、アルベルティナは既にカテガット峡谷を越え、アーサ領内に入っている、ということだ。

 そして今、カテガット峡谷を抜けてアーサに入る道は、撤退するアーサ軍で溢れており、これに対しランドスカープ軍があちらこちらから様々な手で追撃をかけている真っ最中というわけだ。当然、ここを抜けてその先に行くのはほぼ不可能である。

 散々に討ち減らされたとはいえいまだ数万の規模を誇るアーサ軍だ。総大将エッベ将軍と本陣の幕僚たちは討ち取られ全軍の統制は取れていないが、各軍独自で全く動けぬというわけでもなく。

 もちろん故にこそ連携が取れず、カテガット峡谷で詰まってしまって、引くも進むもできなくなった部隊が追撃隊に無慈悲に狩り取られているのではあるが、それでも、兵が詰まって進めない場所を抜けていくというのは、それこそ投石機を使ったところでどうにもなるまい。

 そして凪がしたり顔で言う。


「そこで、騎馬隊の連中の作戦よ」


 他の人間の立てた作戦であろうと、凪が得意げに言っているというだけで、涼太はどうせロクでもない作戦だろうと身構えてしまう。

 騎馬隊は追撃を行なうために、他部隊に先行してアーサ領内に入ってしまおうという計画である。

 騎馬隊にいる地元の兵曰く、熟練の騎兵であれば辛うじて突破できる山中の道があるそうで、これに凪と秋穂も混ざろうという話だ。

 涼太は疑問を即座に口にした。


「え? 騎馬隊だけでアーサ国内侵入する気か?」

「隊長曰く、準備しとけばどうにでもなる、だって。ま、そっちはそっちでやってもらって、私たちはアルベルティナ探しに行くけどね」


 いいのかそれ、といった目で涼太がヴェイセルに問うと、奴なら問題ない、と頷いて返す。

 というわけだから、と話を秋穂が引き継ぐ。


「アルフォンス、マグヌス」

「うむ」

「おう」

「で、りょーたくんはおるすばーん」

「ああ……って俺だけ?」

「涼太くんの騎乗技術だと、まだまだ、ね」


 敵であるアーサ国内に侵入するのだから、足のない者ではどうにもならない、というのもわかる話だ。

 こういう時、涼太は変に同行することにこだわったりはしない。凪と秋穂にはできるが涼太にはできないことが、この世には山とあることを涼太はよく知っている。

 なので涼太は別の話をする。


「ユルキがいる。一緒に行きたがっていたがどうだ?」

「へー、あの人、本当に義理堅いねえ。でもそれなら、是非とも残っててほしいかなー」


 秋穂の言葉に凪も頷く。その意図を察した涼太は苦笑する。


「過保護って言わないかそれ?」

「いいんだもーん。私たちの心の平穏がゆーせんでーす」

「そーだそーだー」


 ユルキなら、涼太の護衛として頼みにできる、という話である。

 カテガット砦に残る涼太に護衛が必要かどうかという問題に対し、戦争云々関係なく、凪と秋穂が離れている間の涼太の護衛に頼れる誰かについていてほしい、と二人は思うのだ。

 それが二人からの要望だ、とユルキに伝えるということで話はまとまった。


「んじゃ、行ってくるわ」

「いってきまーす」


 そんな緊張感の欠片もない言葉と共に、凪たちは砦を出立していった。

 前線から一度戻ってきて、涼太やヴェイセルと少し話したあと、アルフォンスとマグヌスを引き連れ慌ただしく出ていったのである。

 そして執務室には涼太とヴェイセルのみが残る。

 また愚痴を聞くことになるのか、と思った涼太であったが、ヴェイセルが出したのは別の話題だ。


「なあ、その話にあったスヴァルトアールブってのは、いったい何者なんだ? エルフの話は資料にも残っているが、スヴァルトアールブというのは聞いたことがないぞ」

「こっちだと邪精霊って形で、ほら、エルフと揉めている種族がいるって文献、見たことないか?」

「あー、なるほど邪精霊のことか。…………実在、したのか、そいつら」

「そうだな、アーサと戦を続けるのなら何処かでぶつかるかもしれんし、お前も知っておいたほうがいいかもな」


 そう言って涼太は、エルフより聞いたスヴァルトアールブの話をするのだった。




 まだエルフなんて言葉すらなかった頃。

 アールブという種族は、地域一帯の中で最も強力な集団であった。

 もちろん彼らに抗する術を持つ優れた種族は他にもいたが、他種族より高い知能を持つアールブたちは知恵と工夫で様々な困難を乗り越え、地域の覇権を得るに至ったのだ。

 この頃の彼らは同種族間で争うなんてことはほとんどなかったのだが、この覇権を得るまでに生まれた世代と、覇権を得てから生まれた世代とで物事への認識に差が生じてしまっていた。

 そしてアールブには寿命というものがなく死ぬ時は病か怪我かのどちらかであり、故に世代間の認識の差というものは、人間同士のそれよりずっと重い意味を持った。


「何故、そこまで無慈悲な真似ができるんだ」


 古い世代のアールブに対し、新しい世代のアールブは、他種族を虐げる行為を見てそう非難した。

 特に知能の高い生命に対し、新しい世代のアールブは同情的であり、それが狂暴な魔獣であろうと、寿命が虫並に短いニンゲンであろうと、知能があるのならば進歩交流の可能性があると彼らは主張するのだ。

 若い世代のアールブたちにとって他種族とはアールブには絶対に敵わぬ相手でしかなく、古い世代のアールブにとって他種族とは敵以外のなにものでもなかったのだ。

 この時は、双方がお互いに歩み寄り、語り合い、そしてわかりあうことができた。

 一時的な情動に身を任せることを良しとしない、理知的であることこそが優れた存在である証だ、と考えるアールブなればこその解決方法だろう。

 だがこれが最初のきっかけとなった。

 アールブは、同じアールブ内でも異なった意見を持つことを受容するようになったのだ。


「人間との接触は避けるべきだ、影響が大きすぎる」

「こちらの思惑がどうあれ不自然な形で進歩を促すことになるのだから、その意見には同意する」

「だが断る。俺はもう人間の幼子以外には興奮しなく……」

「こやつを永久牢獄へ収監せよ」

「「「同意する」」」

「やめろー」

「……最近、特異な嗜好を持つ者がアールブにも増えてきたな」


 何はともあれ、異なる意見を持つ者同士でも、話し合いで妥協点を見出す、なんてやり方にも慣れてきた頃、アールブにとって極めて重大な問題が発生した。

 元々褐色の肌であったアールブの中から、真っ白な肌で生まれる者が出始めたのだ。

 それは極一部の例外などではなく、明らかに白い肌の者が生まれる割合が増えていき、そして遂にある時、元々褐色肌であったアールブの肌が白く変化するといった事態まで起こるようになった。

 最初の白い肌の赤子が生まれた時点で、アールブたちは研究を開始していた。

 そしてその頃から漠然と、そうではないのか、という意見は出てはいたのだ。

 それが確定的となったのが、初めて白い赤子が生まれてから二百年後のこと。


「長年に渡る魔術の行使がその原因である」


 この頃には既に魔核の存在は認知されていて、これの影響下にある生物は魔獣へと変化する、という結論も出ていた。

 ここで、アールブたちの中で決定的に意見が二つに割れてしまったのである。


「これ以上種としての変質は許容できない。ただちに魔術の使用を禁止、はさすがに無理だろうから、大きく制限すべきである」

「白い肌への変化は決して退化などではなく、魔術を使用することに適応した結果である。不利益も極めて限定的であり、許容すべきである」


 今回ばかりは両者共に一切譲らず。

 白い肌への変化を受け入れるべし、との意見は若い世代が中心であり、古い世代の旧来の在り方を変えるべきではない、という主張にも一切耳を傾けなかった。

 それは、一番初めの意見の相違の時の意趣返しだったのかもしれない。

 話し合いで妥協点を見出してきた、なんて話ではあったが、古い世代が重ねてきた知識と経験によって新しい世代が丸め込まれるなんて話も多かったのだ。

 そしてこればかりは新しい世代の主張にも一定の理があった。

 アールブが他種族を押さえ地域に覇権を築けたのは、魔術の力によるところが大きかったためだ。これを手離すのは容易なことではなかった。

 結局、アールブ同士の殺し合いにまで発展したこの争いの結果、アールブは完全に二派に分かれ、一つは当時の現代語でアールブという意味であるエルフを名乗り、残る一方は黒いアールブ、という意味でスヴァルトアールブ、と名乗るようになった。




 ヴェイセルは問うた。


「で、スヴァルトアールブってのは結局魔術は捨てたのか?」

「いいや、できなかった。人間でいうなれば火を捨てるようなもんだ。できないだろ、さすがに」

「まあ、な」

「ただ、魔術の使用を限定的にすることで、また白い肌への変化の理由を研究することで、彼らは褐色の肌を維持し続けているって話だ」


 種の保存って意味ではこっちのがまっとうだとは思うけどな、と涼太は付け加えた。


「んで、昔の争いを今に引きずってるってのか?」

「今の最も新しい世代のエルフ曰く、その争いから後に生まれたエルフはもう特にスヴァルトアールブに悪印象はない、だそうだ。むしろ、理知的で理性的であるべき、とこれまでさんざ教えてきた連中がスヴァルトアールブの話になるとまるで感情的な判断ばかりするので、見ていて気持ちが悪い、だそうだ」

「……もうちょっと種族の古老を敬ってやろーぜ、エルフさんたちよー」


 ヴェイセルのどうでもいい意見はさておき、涼太は考える。

 魔術の行使を限定的にする、とした上でもエルフのアルフォンスすら驚く「疾走」の魔術を行使でき、何よりもあのイングが、競う相手として認識するほどの相手であるのだ、スヴァルトアールブは。


『魔術の発展を捨てた世捨て人共、って印象は捨てた方がいいだろうな。恐らくは連中もエルフたち同様、馬鹿みたいに研究と実験を繰り返してるんだろうよ』






 スヴァルトアールブのスラーインは、アーサのオージン王とも気安く話せる間柄であり、スヴァルトアールブの中でも指導者的立場にある者の一人だ。

 そんな彼が配下の中でも腕利き二人を送り出しての任務である。

 それもこれまでただの一度もやっていなかった、ランドスカープ国内での任務だ。それまではエルフとの万一の接触の可能性を考え、絶対に許可は出されなかったものだ。

 これに、スラーインの一存で許可を出したのだ。

 それでもスラーイン自身が動くというのは滅多にないことなのだが、スラーインの下に不穏な報せが届いたのである。


「ハーニンゲからの報せです」


 スヴァルトアールブを派遣できる最も遠い場所が、ハーニンゲ独立領である。

 ここにはオージン王にすら秘密でスヴァルトアールブを常時数人派遣しており、ここよりの報せが届いたのだ。

 これはスヴァルトアールブ同士、というより高位の魔術師同士でこそ可能な、相互通信によって行なわれる。

 曰く、アルベルティナ誘拐作戦のためのアーサ国諜報員が全員捕まった、と。

 幸いそこにスヴァルトアールブの姿は無かった。そして二人は恐らくハーニンゲ方面ではなく、カテガット峡谷より帰還するつもりであろうと。

 スラーインは側近である、スヴァルトアールブの部下をちら、っと見る。


「ダメですよ」


 さらにちらちらっと見る。


「絶対にダメです。他の者に行けというのならばさておき、ご自身がランドスカープ国内に入るのは、絶対に認められません」

「……では、国境付近で待つ。それぐらいは認めてくれ」


 じとーっと配下はスラーインを見た後で、これみよがしに大きく嘆息した。


「では、我らも同行します。五人全員で。仕事が止まってしまいますが、それでも五人で行きます、いいですね」

「う、うむ」


 かくして、スヴァルトアールブの重鎮にしてオージン王の古くからの友、スラーインはカテガット峡谷を抜けた先、すぐの国境都市にて待ち構えることとなったのである。

 この時はさしものスラーインも、隠密任務を命じたアールとヴィースの二人が、まさかエルフの最重要人物であるイングと接触しかけていたなどと想像だにしていなかったのである。

 ましてやその助力を受けた者が、アーサ国内にまで追跡してくるなどと。



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― 新着の感想 ―
[一言] エッベ将軍の御冥福をお祈りしますwww
[気になる点] だが断る。俺はもう人間の幼子以外には興奮しなく…… もしかしてこれって「80歳の生き物とかロリもいい所だろうハァハァ(5000歳)」 とかそういうアレなんじゃ…?
[一言] 俺はもう人間の幼子以外には興奮しなく 永久牢獄から出さないで下さい。
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