227.王都の方々
鬼哭血戦十番勝負が終わったランドスカープ王都には、辺境のリネスタードから精兵が送り込まれていた。
それは王都での暗殺組織壊滅作戦を指揮するための人員で、彼らは王都圏の各地に散っていき、それぞれの土地の兵員を用いて各地の暗殺組織攻撃を指揮した。
そしてそれぞれの標的とする組織を打倒した後も、その地に残って徴兵した兵たちの掌握に努めるよう指示されていた。
「なるほど。これあるを見越しての指示だったか」
王都に招集されたことで再会した友人にそう呟くのは、リネスタードで機動要塞カゾと相対した時、騎馬隊を率いて誰より先にこれに吶喊した勇者の中の勇者、フレードリクだ。
彼はリネスタードよりヴェイセルに呼ばれ、王都圏にて暗殺者組織の壊滅作戦に従事していた。
フレードリクの対面に座るのは、別の土地で同じ任務についていた友、剣士エーギルである。
「ボロース戦の時もそうだったが、ウチの軍は一々やることに無駄がないな」
コンラードとの一騎打ちに敗れリネスタードに寝返ったエーギルは、自身が剣士であると認識しているが、実は指揮官としての能力も高いためそちらの仕事を回されることの方が多い。
エーギルの隣に座っているのはベッティルという男だ。
彼はフレードリクとエーギルをリネスタードに寝返るよう説得した人物で、この三人は現在リネスタード軍の出世頭となっている。
「何を呑気なことを言ってやがる。王都圏の兵を指揮するのに、俺たちを使うつもりだって話だぞ、これは」
フレードリクとエーギルは顔を見合わせ、同時に言った。
「「いやそりゃ無茶だろ」」
「しかも相手は、王都圏でギュルディ王に反旗を翻すだろう貴族たちだ。兵数では恐らくこちらが上になるだろうが、軍としての強さでは不利な条件ばかりになる」
うーむ、と顎に手を当てるフレードリク。
「ヴェイセル様の考えか? いずれにせよ、よほど王都圏が信用ならんと見える」
渋い顔のエーギルも言う。
「俺たちが叩き潰した連中を見ればそうなるのも無理はないと思うが、しかし、多少練兵したていどでは強兵なんてものは望むべくもない」
ベッティルはフレードリクとエーギルを順に見る。
「その多少の練兵時間でどこまでやれた?」
「最低限だな」
「同じく」
「それができていれば、ヴェイセル様の指揮を活かすことができる。だがそれすら、俺たち三人以外では厳しいだろうよ。…………発想を、変えるべきということか」
フレードリクとエーギルはじっとベッティルを見る。
「兵の精強さでは戦わぬ、ということだ。兵にはただ指揮に従うことのみに注力させ、これを運用する者の采配で勝つ。なるほど、そういう想定ならば、将軍以下の指揮官級に慣れた人員を配置したいというのもわかる」
王都にきて、ベッティルたち三人にはそれぞれ一隊を預けられると説明をされている。
そしてこの立場になるのは他にも、ギュルディ王が王都圏で信用できる優れた将を集めていた。
この将もまた、自身が指揮し慣れている地元の兵を用いるわけではない。
三人は同時に嘆息する。
正に大抜擢である。だが、肩を並べる立場にいるのは、それこそ王都圏で名の知れた将ばかりだ。そこに、対ボロース戦で多少名を売ったていどの三人が混ざろうというのだ。
だが、溜息こそつくものの、三人は誰一人として、できぬ、とは言わないのである。
ヴェイセルは、王都圏で考え得る最強の軍を作るのではなく、ヴェイセルにとって現状で最も強い軍を作ることを考えた。
元より、ヴェイセルの軍才を頼りに戦をしようというのだから、これこそが最良の選択であろう。
オッテル騎士団にいた頃は、その軍才より商才を活かすよう求められていた。
それがギュルディ配下となってからはずっと、ヴェイセル自身が最も得意とする軍の仕事をやれているのだ。
その上今回の戦では、最高権力者となったギュルディより軍の最高指揮官たる権限を与えられ、金も人も物も好きに使っていいと言われ、何もかもを自分の思う通りにやることができる。
軍人としての栄達を求めていたヴェイセルにとってはもう、我が世の春としか言いようのない状態だ。
「うむ、本懐だ」
こうして戦う準備を整えていたところに届いたのがアーサ軍の話である。そりゃヴェイセルも笑ってしまうだろうて。
楠木涼太の護衛として自身を規定していた、鬼哭血戦十番勝負参戦剣士であるユルキは、さりとて涼太たち三人についていくことを許されず。
その身柄は涼太からギュルディへと預けられる。この辺は狼人マグヌスと似たようなものだ。
だがユルキはマグヌスのように命を狙われていたわけではないし、護衛の兵士の中に信用できる優れた剣士がいることはどの場合においても有益であるので、彼は王都に留め置かれていた。
それも、ギュルディが商人時代から重要人物の保護と歓待を目的として利用していたギュルディの宿に泊まる形でだ。
「さすがにこれは、厚遇がすぎるだろう」
こちらもマグヌスと一緒だが、エルフにしても涼太たち一行にしても、ギュルディが最大限の配慮をしなければならない相手だ。
そこから頼まれたとなればギュルディの側からすればさほど厚遇なんて扱いでもないのだが、当人たちがそれをどう受け止めるかはまた別の話である。
ただユルキに関しては、ギュルディが何やら仕事を考えているらしく、それがはっきりするまではのんびりしていてくれとの話だったので、ありがたく厚遇を受けることにした。
そんなユルキのもとに、客人が一人訪れたのである。
「おお、久しいなユルキ」
ギュルディの宿の戦士たちに睨まれながら、そんな呑気な声をかけてきたのはかつてユルキが鬼哭血戦十番勝負にて戦い敗北した相手、剣士クスターであった。
「……いや、お前、よくもここに顔を出せたものだな」
クスターは彼の主の命令に従い、少し前にこのギュルディの宿を襲撃しているのだ。
その主は既に、一族の者により当主の地位を剥奪され、首になってギュルディのもとへ届けられている。
だが、ギュルディの宿襲撃において、この愚かな判断をした当主をお互い死者が出る前に退出させ、一族に窮地を報せることができたのはこのクスターのおかげであるはずだ。
ご機嫌伺いか何かか、と思いその辺を問うたところ、クスターはあっけらかんとした顔で答えてきた。
「いやな、ご主君をお止めできなかったと責められ、追放処分を受けることになってしまったわ」
はっはっは、と笑うクスター。
ギュルディの宿に、その危険性を理解せぬままに仕掛けるような馬鹿な主君であった。故にその一族も鬼哭血戦十番勝負勝利剣士であるクスターを追放するような愚かな一族なのか、とユルキは思ったが、よくよく聞いてみればそれだけが理由ではなかった。
「ご主君の命に従い過ごしてきた日々を、臣下の責務を果たしていないなどと言われてな。ひどい話であろう」
つまり、愚かな主君を窘めることもなく、一緒になって馬鹿をやらかしてきたこれまでの日々を、真面目に主君の行状を改めようとしてきた者たちに責められたという話だ。
クスターなぞは、その支援を受け自身の流派を大きくすることができていたのだし、クスターの流派の門下生が愚かな主君の手足となって暴力を盾に好き勝手してきたということでもある。
「……よく殺されずに済んだな、お前」
「はっはっは、最後の最後でお主の助言に従ったおかげよ。いやはや、さしもの私も肝が冷えたわ」
残った一族の者たちに恨まれてはいたが、最後の最後でギュルディ王に対しとんでもない不義理をせずに済んだのはクスターのおかげでもあるので、功罪合わせて追放処分で済んだという話だ。
でだ、とクスターは自身の不遇を笑い話にしながら話を続ける。
「共に鬼哭血戦を戦った誼でな、私をギュルディ陛下に売り込んではくれぬか」
遠巻きに話を聞いていたギュルディの宿の戦士たちの表情が更に悪化する。
今ユルキが彼らに合図を出せば、瞬く間にクスターはなます切りにされてしまうだろう。
クスターがいかに鬼哭血戦剣士であるとはいえ、ギュルディの宿の剣士も当然だが優れた剣士が集められているのだ。
そんな剣呑な気配を感じ取ったユルキは、敢えて呑気な様子を崩さぬままに話を続ける。
「ソレがあの方の機嫌を損ねるような行為であるというのなら、私は絶対に受け入れたりはせんぞ」
「……やはり、ギュルディ陛下は、怒っておられるか?」
「最早陛下となったあの方がこのていどのことに関わるものか。……お前の流派全てを受け入れろということか?」
「さすがにそこまでは言えぬ。言えぬというか。既にあれらは私の流派ではなくなったというか」
「何?」
どうやら領地を追放される際、クスターの流派は後継の者に譲らされたらしい。前の主と共に馬鹿をやらかしてきた者たちは皆追放なり恨みを晴らすなりされていたが、それ以外の者たちで流派を継ぐ、という話になったようだ。
そこでクスターは真顔になる。
「いやかなり真剣に身の危険が迫っていてな。領地の主流の方々は追放で納得してくださったのだが、その、これまでのことの責任を取らせろという者も多く。ついでにいうと流派を継いだ連中は私が生きていると技の継承云々で不都合になるので……」
ユルキの目から見たこれまでのクスターは、天才肌でありながら上との交流も上手く、流派の創始者としてはかなりのやり手であるといったものであったのだが、どうやら人望に関してはさほどでもなかったようだ。
そしてユルキはこの天才剣士の才を、惜しいとも思っているのだ。
「……わかった。話だけはしておこう。それまでの間は私が責任を持つ。だが、上の判断次第で即座の処分もありうることは理解していてくれよ」
「おお! お主ならそう言ってくれると思っていたぞ! なに心配はいらん! この私の剣の術理ならばギュルディ様とて価値を認めてくれよう!」
調子の良いことを言うクスターを他所に、ユルキは視線で宿の戦士たちに詫びる。彼らは弁えた者たちでもあるので、客人と認められているユルキの判断に異を唱えることもなかったし、自らの意思を表に出すこともなかった。
そんな戦士たちの忍耐に気付いているのかいないのか、クスターは上機嫌で笑っていた。
「いやー、やはり持つべき者は戦友か。なあユルキ、お主の技量ならば申し分はない、私の流派で師範代をしてみないか?」
どうやらこの男、流派を追い出された後でも流派創始者であると言い張り道場でもやるつもりのようだ。
ユルキは知らなかった、クスターがかなりのお調子者であるという事実を前に、コイツが本当に懲りているのかどうかユルキにも判断はつかなかった。
だがユルキは、どうにもこの男を憎めそうになかったのである。
エルフ流暗黒格闘術の達人イェルハルドは、同じエルフであるアルフォンスをリネスタードに追い出した後も、ランドスカープ王都の見物を楽しんでいた。
特に、鉄や銅といった金属は、エルフの森にはほとんどないもので、これらの加工品が当たり前にそこらにあることに驚き、喜び、あちらこちらと見て回っているのだ。
もちろん特に気に入った物は購入している。そのための代金はギュルディからもらっているのだが、イェルハルドは代わりに相応のもの、知識であったり技術であったりを提供している。
その一環として、イェルハルドはギュルディに頼まれ、先王ゲイルロズの不老の魔術を見ることになった。
ギュルディはイェルハルドに言ったものだ。
「王立魔術学院が言うには、不老の魔術の成功例はいまだ二例のみだ。にもかかわらず、王の不老の魔術は万全だと奴らは言う。正直、これを何処まで信じたものか判断がつかん」
判断がつかない、と口に出している段階で、信用していないと言っているに等しい。
どの道、エルフの魔術の方が圧倒的に優れているのははっきりとしているので、この機会にこれを確認してもらおうという話だ。
イェルハルドも人間の作った不老の魔術には興味があったので、エルフの森に見たものを漏らす許可を得た上で、これを了承する。
『……いやー、まさか、なー、ここまでヒドイとは思わなんだわ』
先王ゲイルロズの許可を得て、魔術を行使しその状態を見るなり、イェルハルドは内心で天を仰いだ。
室内にはゲイルロズとイェルハルドの二人に、従者が数名。イェルハルドは少し考えた後、ゲイルロズに小声で言う。
「まずは人払いを頼めるか?」
「……よかろう」
ゲイルロズが手を一振りすると、従者たちは少し戸惑った顔を見せるも、再度そうすると彼らは退室していった。
そしてゲイルロズはイェルハルドに問う。
「そんなにひどいか?」
「うむ。むしろ今生きて動いておるのが不思議でならん。苦しくないのか?」
「人間、年を取れば相応に身体は衰えるものと思っていたからな」
「年取ったら不老じゃないじゃろ。ともかくっ、この不老の術じゃがな、外見を維持し身体の劣化を防ぐ効果は確かにある。だが、そもそもの問題である身体が老化を指示する命令そのものを放置しとるんじゃから、『不老』の名付けはおこがましいというもんじゃ」
「なるほど、エルフから見れば我ら人間の魔術なぞ、という話か」
「挑んだ内容が悪すぎるわい。わしらエルフとて人間を不老にする魔術なんぞ知らんわ」
ふむ、と納得するゲイルロズ。
「そも、不老の研究なぞエルフがするはずもないか」
「そういうことでもある。いきなり難度の高すぎるものに手を出したところで、無為に時間と手間だけが浪費されるというものよ。それに、成功例は二つしかない、ということは、研究自体を極めて狭い範囲でやっているか、そもそも以後の研究を行なっていないという証拠であろう。これではお話にならんわ」
「正に道理であるな。私はいつ死ぬ?」
「いつ死んでもおかしくはない。とはいえ、この状態で生きていられるのじゃから、まだ当分はもつ、という見方もないではない」
「つまり、わからんということか」
「そういうことじゃ。しばらく経過観察しとってええかの。コレ、極めて珍しい状態じゃし、記録とっておいたら森の皆が喜ぶ」
「何がしかの役に立つといのであれば構わぬ。ふむ、だが、ここ最近はめっきり力が入らぬようになっていてな、お迎えは近いということか」
「だとしたら良かったではないか。王位、継いでもらえたのじゃろ」
「これあるを想定していた、というわけではなさそうだが。私の死後も混乱は無いというのであれば、やっておかねばならぬ仕事もそれほど多くはない」
ゲイルロズの表情は、会話の間一切変化がなかったが、その口調より何かを感じ取ったイェルハルドが問う。
「なんじゃ、仕事多い方が良かったか?」
そこでゲイルロズの言葉が止まる。少し考えこんだ後で、ゲイルロズはほんの少し表情を動かしながら問うた。
「時に、イェルハルド。お主は娯楽というものの楽しみ方を、知っておるか?」
何を言っているんだコイツは、といった顔のイェルハルドに、ゲイルロズは自身の心境を正直に語る。
曰く、一般に娯楽と言われている様々なもの全ては、ゲイルロズにとってはどちらかといえば苦痛であると。
苦痛の理由は、それだけの時間と労力があればどれほどの仕事がこなせたか、と考えてしまうせいだ。
「自分なりに考えた結果、娯楽を行なうことにより被る損失を考えれば、仕事をしている方がより私にとって利益になる、となったのだが」
その言い方にぴんときたイェルハルドが幾つか質問を重ねると、ゲイルロズにとっての利益とは、ランドスカープという国にとっての利益であるとわかる。
本気で、心底から、そう思っているのだ、このゲイルロズという男は。
『なるほど。周囲の者がコレを気にかけるのも道理じゃ。真顔でこんなことを言われては、あまりにも哀れすぎて正視に耐えんわ』
王都で随一の娼婦であるリナは、友人である椿と二人っきりで、娼館の外にある高級食堂の個室にて勝利の雄叫びをあげていた。
「我が世の春が来たああああああああああ!!」
喚くリナと嬉しさはどっこいである椿であったが、賭けていたものの額がリナとは桁が一つほど違うこともあり、また目の前でリナがそりゃあもうな有様を見せてくれているので、比較的冷静な態度をとることができている。
「あんま騒ぐと店の人出てくるわよ。ま、こうして外で会えるようになったんだし、今日ぐらいは大目に見るけどさ」
「そうでしょ! この店ずーーーーーっと気になってたけど来られなかったのよ! それが! 遂に! 私にも! 何ならここ以外も行き放題! うっひゃほう!」
鬼哭血戦十番勝負における賭けで圧倒的大勝利を収めたリナは、ギュルディ配下の商人たちと繋ぎを取り、自身が勤める娼館を買い上げて自らがオーナーになったのである。
オーナー特権ということで、リナは娼館の持ち物である娼婦でありながら、外出も自由にできるようになったというわけだ。
「アンタも行けるようになったってんなら、私も遠慮せずに他の店の話ができるってものよ」
「いやー、気を使わせちゃってたわねー。椿も愛人は止めて商売に専念するの?」
「あー、んー、それもちょっと悩んだけど。子爵様、さ、家族のこととか、仕事のこととか、大変そうだしほっとけないっていうか、ね。だからもうちょっとこうしてよっかなーって」
あー、そー、ふーん、勝手にすればー、とのろけなんて聞きたくないリナはスルーした。
賭けの決着がついてから実際に支払いやらの話がまとまるまでには、実は結構な時間が経ってしまっている。
何せ鬼哭血戦十番勝負の後には、王都中を巻き込んだ大暗殺合戦が行なわれていたのだから。
三侯爵派閥全てを巻き込んだ史上類を見ない特異な市街戦の正式名称は、王都大暗殺合戦で決まってしまっている。
暗殺という単語の上に大を付けたり下に合戦を付けたりすることの異常さを含めて、この戦いが如何なるものかを如実に表している、とのことだ。
ただ幸いなことに、貴族同士は、それこそどんな下級貴族であろうと死を考えざるを得ないほどの騒乱であったが、そうでない者にとっては、自ら危地に踏み込むような馬鹿でもない限りは巻き込まれることもなかったし、以後の生活もさほど変化があるわけでもなく、今までそうであったように仕事を続けている。
少し真顔になって椿が問う。
「で、客層に変化は?」
「ある。教会関係者はもう壊滅に近いし、貴族間でもかなり勢力図に変化が出てる。何より、商人がかなりの数増えてきた」
「当分の間は、王都で一番の客層はその商人たちになりそうって話でいいわね。いいわよね? ここ大事よ? 私の投資が大ゴケしたら恨むわよ?」
「自己責任でよろ。ま、この辺はちょっと考えれば誰でもわかることよ。んでここからがヤバイ話、教会を取り込みにかかってる商人がいる。没落待ったなしな貴族家を領地郎党ごと買い取ろうって剛毅な商人も。王都の老舗じゃない、外から来たイキの良いのが動いてる。多分、揉めると思う」
にたー、と笑う椿。
「それ、子爵様が喜ぶわ。商人に持っていかれるぐらいなら同じ貴族に、ってのは順当な流れでしょうし」
肩をすくめるリナ。
「どうするかはご自由に。子爵様って賭けで負けたとか言ってなかった?」
「当人のお小遣いと領主としての資産は別よ。そこをきちんと分けられる方だからこそ、私と会うまで愛人の一人も作れなかったんだし」
「はっ、ご立派。で、傘下娼館のとりまとめ、進んでる?」
「王都で三店目と話がついてる。規模でいうんなら全部で娼婦百ちょいってところ。貴族専門の店はどう? 外から見える分じゃ崩れる気配欠片も見えないけど」
「貴族より教会に強い店の方が危ないわね。ウチの店にも娼婦を数人買い取るよう依頼きてる。椿の方には?」
愚痴るよう溢す椿。
「それが聞いてよ。娼館連合作ろうって話なのに、何故か来るのは殺し屋やら剣士やら用心棒ばーっか。ギュルディさんはそういうの全部叩き潰すつもりだってのに、王都から出たくない人多すぎ。みんなそういう問題はぜーんぶ私に持ってくるし」
「表向きはギュルディ陛下直下の商人集団の一人でしょアンタ。その手の荒くれが手を出せる相手じゃないんだから、そりゃ頼ろうって話にもなるわよ。てかアンタも陛下付けなさい」
「ああ、あれは嬉しかったなー。何度思い出してもちょっと涙ぐんじゃう」
「それはもう何度も聞いた」
椿は賭けでの大勝利とその後にリナとの取引を持ち込んだこと、リナと組んで王都にて娼館連合を作ろうとしていること、それとは別に新たにツバキ商会を立ち上げたこと、これらを評価され、ギュルディ配下の商人集団の一人として正式に認められることとなっていた。
ちなみにこれらの手柄には、子爵の助言がかなりの力になっている。椿は、自身の手持ちのありったけを使って戦っているのだ。
しかし、とリナは声を潜めて言う。
「あの連中がいなくなった途端、状況が落ち着いていくんだから、ねえ」
「悪い奴らじゃないのはわかるけど、ねえ」
あの連中とやらが誰なのか、少なくともこの二人の間で口に出す必要はないのである。




