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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第十二章 王都血戦
194/272

194.ギュルディの野望PK全国版


 王城での仕事はほぼギュルディの想定通り。放逐されてからこれまでの集大成の確認であったが、どうにか、ギュルディは王の眼鏡にかなうことができた。

 宿への帰路、心中に渦巻くは涙ぐみそうなほどの達成感。

 馬車での帰りで同じ馬車にシーラも乗っているが、ギュルディの心ここにあらずな様子に、声を掛けるのを控えている。長く仕事にも付き添ってきたので、辺境の悪夢らしからぬこういった気配りもできるようになっていた。

 報告すべき事項もあるのだがそれすら控えているぐらいなのだ。


『まー、言わなくても見ればわかるしねー』


 いじわるではない。満願成就の日ぐらいは浸らせてやろうという心遣いである。決していじわるではないのである。




 宿に帰還する頃には自身を取り戻していたギュルディは、何よりも先に、面会すべき人物に面通しをさせられる。


「……な、に? すまない、もう一度言ってくれるか?」


 面会のための部屋に向かう途中、面会相手である、窮地より脱出し丸一日休息をとって回復したベルガメント侯爵の話を聞いたギュルディは、共に歩く従者に問い返した。


「ベルガメント侯爵がお待ちです。いつもの、応接室に。ナギとアキホが窮地にあるというオーヴェ千人長を助けにいった時、護衛の月光イラリと一緒に助けて連れ帰ってきました。ルンダール侯爵は初撃でベルガメント侯爵を仕留め損なっており、その後包囲網の中にあった三人を、偶然ナギとアキホが助け出してきたのです」

「待て。待て。待て待て待て待て待て。色々とおかしい」

「ベルガメント侯爵は、とてもとてもご立腹です。……いえ、ご自身の立場は理解しておられますが、殺されることになろうとも文句の一つも言ってやらねば気が済まぬ、だそうです」


 絶句している間に応接室の前へと。さほど広くもない部屋だが、それこそ侯爵を迎えることになっても見劣りせぬ品格のある部屋になっている。

 ギュルディが部屋に入ると、その応接室のソファーに深々と座り、偉そうにふんぞり返っているのは確かにベルガメント侯爵であった。


「ギュルディ、まずは、座れ」

「はい」


 この宿の主はギュルディであり、侯爵の生死を握っているのは間違いなくギュルディの方である。だが、怒り顔で出迎え命じているのはベルガメント侯爵の方であり、これに委縮しながら従っているのはギュルディの方だ。

 椅子に座ると、すぐにベルガメント侯爵は口を開く。


「実に、実ににくたらしきことながら、見事この私を騙しおおせたことは天晴と言ってよかろう。ここまで状況が進んでいても、この騒ぎの仕掛け人がギュルディであると考えている者はおらん」

「……仕掛け人、というほど大したことはしておりませんがー」

「ほほう、ルンダール侯爵に資金援助をしたのであろう? その額はいかほどだ? その大したことではないていどの金額を、この王都で他に誰が払えるというのだ?」

「あれはー、オージン王が用意したものでー」

「うむうむ。それで理屈は通るし、王都の混乱が落ち着く頃には本当にオージン王の援助を引き出す算段があったのであろう。それでよい。だ、が」


 ぎろりとベルガメント侯爵はギュルディを睨む。


「何故、私が生きている? しかも、何をどうしたら窮地にあった私が助かってしまった挙げ句ギュルディの宿にいることになっているのだ? ナギもアキホも、イラリの必死の献身を見てあれ本気で私のこと守るつもりになっておるぞ。どーするつもりだ馬鹿者め」

「ひ、ひとこともございません」

「バカモン! 手抜かりにも程があるわ! この後始末どうつけるつもりだ! 私にもこれどーしていいのかわからんぞ!」


 おそるおそる、といった風でギュルディは口を開く。


「えー、つきましては、ベルガメント侯爵にも今後の協力をお願いしたく……」

「どの面下げて抜かすかこの大馬鹿者があああああああああ!」


 といった調子で、さんざっぱらお説教されるギュルディである。

 ちなみに、凪と秋穂も同様に説教を受けた後だ。「お前ら、俺は危なかったら引けって言ったよな? なのにどうして二十メートルの塔で決死の曲芸とかやらかしてんだ?」だそうである。


「わかるか!? 追い詰められ追い込まれた時、壁をぶちやぶってナギが現れた時の私の気持ちが!? ここまで念入りに殺すつもりとはどれだけ恨まれていたのかと怖気が走ったわ! 恐怖のあまり硬直しておればナギは味方顔してついでで助けてやるだの援軍はどうだなどと聞いてくるし、私がどれだけ混乱したか貴様にわかるか!?」


 途中から説教ではなく恨み言に変わってしまっているが、ギュルディにはもう粛々とこれを聞くしか選択肢がない。

 一通り文句を聞いた後で、ベルガメント侯爵は深いため息をついた。


「……こんな馬鹿馬鹿しい理由で生き延びるのも実にやるせない話であるが、とはいえ、生き残ったのであれば為すべきことは為さねばならぬ。だが、協力だと? 我が派閥の者たちが、私が無事だというのにギュルディに従うことはありえんぞ」


 こほん、とギュルディも気を取り直す。


「問題ありません。つい先ほど、内々にですが私の立太子を王は納得してくれました」


 がたん、と音を立てたのはベルガメント侯爵がギュルディの言葉に、思わず立ち上がりかけたせいだ。

 驚愕の目でギュルディを見るベルガメント侯爵。ギュルディはこれを真剣な目で見返す。


「馬鹿、な。王が、ゲイルロズ王が、次の王を? いや待て。そんな気の長い話ではない。立太子後すぐに即位か。ああ、そうか、だが待て。いや待てそれではよろしくない。そもそも、王が納得した? ありえるのかそのようなことが」

「王の性質を侯爵もよくご存知のはずだ。ならば、条件さえ成立しているのであれば決して成らぬ話ではない。そうでしょう」

「そのとてつもなく厳しい条件を整えてまで王の退位を促すなんてことを、普通は誰も考えん。しかし、そうか、は、ははっ、だが、動機はなんだ。何故、お前は王になる。復讐か? 違うだろう、お前は王を恨んではおるまい」


 ギュルディはじっと黙っている。ベルガメント侯爵は、信じられぬと首を横に振り、呆れ声で言った。


「まさか、親孝行、か」


 変化しないギュルディの表情にも、ベルガメント侯爵は何かを感じ取れたらしい。今度は苦笑いを見せる。

 ギュルディにとっての父親は、生物学的なソレではなく、ゲイルロズ王であろう。それはギュルディに限らずゲイルロズ王に引き取られ育てられた子供たち全てに共通するものだ。

 彼らは皆優秀な官吏となったが、ゲイルロズ王に取って代われるほどの人物はいない。いなかった。


「我らが生まれる以前より国をまとめてきた偉大なるランドスカープの王を、遂に退位に追い込む者が現れたか。正気の判断とは到底思えぬが、王が認めたのであれば相応の納得のいく話であるのだろう。いいだろう、聞かせてみろ」


 そしてギュルディの計画と段取りを聞いたベルガメント侯爵は、静かに俯き、そして頭を抱えた。


「……そー来たか。なるほど、そもそもからして、私が死にかけたこと自体がついでであったと」

「そこまでは言ってませんよ。私が王になるのなら各派閥の切り崩しは必須ですし、ベルガメント侯爵のところの貴族たちは私と相性が良いですからね」

「よく言うわ。ルンダール侯爵を煽ったそもそもの理由は、王都圏の殺し屋や剣術道場を名乗る暴力集団を、一度に処分するための策であったと。なるほど、市街での戦であれば軍ではなくあれらが使われるし、王都で、それも私とルンダール侯爵との対決となればここで出し惜しむ者はおるまい」

「結局のところ王都圏の一番の問題の根は、暗殺をちらつかせ実際にその脅しが効力を発揮するほどの暗殺者たちがいることです。数十年の間、暗殺業に従事し続けているような一族がぞろぞろいるというのは絶対に異常です。それだけの数の暗殺が実行されているからこそ、彼らはそれを生業とできているのですから」

「それがわかっていてもなかなか解決できるものではなかったからな。で、私のところとルンダール侯爵のところで争っているのを監視し、ギュルディ配下の諜報員たちは殺し屋たちの情報を調べ上げ、生き延びた奴らを狩ろうというわけか。まったく、よくできておる。連中に手を出し恨まれ狙われるのは、我ら三侯爵ですら無視しえぬ脅威であったからな」

「それもこれも、王都圏と一切繋がりのない戦力を確保できてこそですよ。王都圏の戦力をこの件で使うのは恐ろしすぎます」


 それよ、と苦々しく言うベルガメント侯爵。


「辺境の戦力を使うのは良い。それだけの戦士を集められたのならば上出来だ。だがな、下手をすればこちらが食われかねないような化け物を、最初から制御を諦め被る不利益の軽減を図りながら使っていくというのは、実際に成功している貴様の現状を見てすら正気を疑うわ」

「いえ、連中あれで案外気の良い奴らで」

「気の良いだけの奴が何百もの人間殺して平気でいられるものか!」

「敵に回しこれを潰す労力と危険を考えれば、懐柔し味方につけた方が…………多分、マシです」

「多分を抜け馬鹿者。その辺りの機微はシーラで学んだか。ナギやアキホにしてもエルフにしても、随分と危うい真似をすると思ったものだが」


 この辺は世界随一の対人対エルフ緩衝材楠木涼太君によるところが大きいのだが、それはさすがに外には漏らせない。


「使いどころがある分、愚かな貴族子弟の尻拭いをしているよりは経済的だと思いますがね」


 ギュルディと話し合わなければならない最重要課題を話題に出され、あー、と肩を落とすベルガメント侯爵。


「それでも貴族は一族の残りが役に立ってくれるだろう」

「きちんと言い含めて見捨てさせればよろしい。損切りを覚えさせないことには、いつまで経っても馬鹿はいなくなりません。馬鹿は一度で懲りないから馬鹿なんですよ」


 そうしても問題ないくらい、平民出で優秀な人員を揃えているギュルディだからこそ言える言葉である。

 平民人員の良いところは、貴族ほどに身内優遇をこちらに強要してこないことだ。

 ベルガメント侯爵もギュルディの部下の階級構成は把握しているし、ギュルディが何を目指しているのかも理解している。

 それが辺境内で済む話ならば咎めるつもりもなかったが、王位を考えていたと聞けばギュルディの目指すところが何処までなのかを誤解していたと理解する。


「貴族を滅ぼすか」

「そこまで大それた話にはなりません。貴族平民問わず、劣った者が淘汰されていくという当たり前の話です。貴族ほどに優位な立場、教育環境を確保しておきながら、平民以下でしかない人間なぞを許容するのは、そもそも貴族という階級が存在する意義にかかわるのでは」


 ギュルディの視点は、加須高校の書物を多数読むことにより飛躍的に拡大している。

 そんなギュルディが発する言葉は意外性に満ちたものでありながら、ベルガメント侯爵に対して抜群の説得力を持つものでもあった。元よりベルガメント侯爵も、優れた人員を見出し、育て、より効果的で効率的な国家運営を考えている人間なのだ。

 ただ、ベルガメント侯爵は貴族の代表でもありその立場を覆すことはできない。年齢を重ねているということは、義理やしがらみも増えているということだ。


「少しでも多くの貴族を助けたくば私に調整役になれと、そういうことか」

「侯爵がそうしてくださるのなら、私が単独でそうするよりは救われる貴族は増えることでしょう。正直に申しますが、それがランドスカープという国全体の利益に繋がる行為とは到底思えませんが」


 ギュルディの目指すところを知り、これを受け入れた上で自身の役割を了解する。

 その策略により命を落としかけたことは事実であるが、貴族同士の覇権争いに殺意がどうこういう余地はない。陰謀策略を主な戦闘手段とする貴族同士の暗闘においては、剣士や戦士の理屈は通用しないのだ。

 そしてその逆もまた真であるという事は、これまでの凪と秋穂の大暴れを見れば誰にでもよくわかることであろう。



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― 新着の感想 ―
[一言] ギュルディ、急変する事態に乗じて「リネスタードの再現」を謀ったのか。 今回の対象はチンピラでなく国内最強の暗殺者達だけど、凪達には同じなんだろな。
[一言] 成り行きで敵対派閥のトップ助けたら怒られるのは当然でしょうねw
[一言] そう言えば、シェルヴェンの領主はナギとアキホに 息子を殺され没した地ドルトレヒトを咎めようとしたら サーレヨック砦攻略を決定的に妨害されさらに妻と諜報員の長を殺され 外征では結局ボロースに敗…
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