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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第十一章 王都への浸透
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164.戦士たち


 鬼哭血戦十番勝負。

 これはギュルディと、今回凪と秋穂に邪魔された鬼哭血戦のそれぞれの代表である若貴族と老貴族の二人が、新たな形式の鬼哭血戦にて対決するというものだ。

 ギュルディ側は、負けた時は辺境と王都圏との取引量を増加すること、勝った場合はギュルディの伯爵位への陞爵を貴族たちは認める、という条件だ。

 鬼哭血戦の新たな形式とは、王都にある収容人数三万人の大規模闘技場にて、双方十人ずつの代表戦士が一対一を十度繰り返し決着をつけるというものだ。

 引き分けになった場合はギュルディ側の敗北とする、という条件を一つつけるため、若貴族と老貴族側は結構な条件を譲ることとなった。

 これだけ見れば、経済的にも立場的にもギュルディ側圧倒的有利であるのだが、若貴族の後ろにはベルガメント侯爵が、老貴族の後ろにはルンダール侯爵が、それぞれランドスカープ三大侯爵がついているのだ。

 またルンダール侯爵には三人目の三大侯爵であるカルネウス侯爵もついており、これらの勢力を総合すると、王都圏の貴族の大半がギュルディとは反目に回ることになる。

 涼太は眉根を寄せながらギュルディに言う。


「いやそれ大丈夫なのか?」

「あくまで賭け事の話だ。実際に敵に回るという話ではない。それに、その、な、リネスタードでアホほど生み出されている新技術たちのせいで、私はちょっとありえないほどに利益を出し過ぎていてな。王都圏の貴族たちにも利益配分を行なわなければ、それこそ一致団結してこちらに向かってくるなんて話にもなりかねん」

「……ん? それはつまり、むしろ負けにいくって話か?」

「賭けに勝ったとて、あるていどの妥協をするつもりはある、という話だ。負けたら負けたで、儲けに儲けている私をへこませ連中の溜飲を下げさせられれば、嫉妬の視線も収まるだろうよ」


 この辺はベルガメント侯爵の発想と一緒である。有利すぎるのも、貴族同士の付き合いとしてはあまりよろしくないのだ。

 けどなあ、と涼太は視線を部屋の奥で歓談している、凪、秋穂、シーラの三人娘に向ける。


「王都じゃ随分と殺し合いしたもんだけど、闘技場で戦うって私初めてなんだよねー。ちょっと楽しみかも」

「えー、シーラは決闘なんてものよりもっとやらなきゃならないことあるんじゃないかなー、お嫁さん的に」

「ぎゃー、なんでそれ今ここで言うかなー」

「そうそう、いつでも傍にいたいのよねー、お嫁さん的に」

「ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー、やーめーてー」


 ギュルディに視線を戻して涼太は言う。


「アイツら全員参加する気満々だぞ。てか三人で十戦やるつもりだぞアレ絶対」

「そんな話通るものか。ああ、いや、交渉次第ではあるが、十人ずつを揃えるというのもこの戦いの前提ではあるしな。アイツら三人が出ても勝てるのは三つだけだろうし、アイツらでも負けるかもしれない敵にぶつけるつもりもないぞ」

「いやー、そんな危ない真似はさせないぞー、なんて話、それこそあの三人に通るとは思えんけどなー。というか、俺が思うに、恐らく出てくる王都圏最強と誰がやるかでまず揉めると思うんだよなー」


 涼太の言葉に、凪と秋穂とシーラの三人がぴくりと反応する。

 まずはシーラが。


「王都の剣士に一番慣れてるのは私だよねー」


 次に秋穂が。


「いやいやいやいや、王都圏のやばそーなのとはついこの間やったばかりの私のほーが、ねえ」


 最後に凪が。


「うん、こうなると思った。表に出なさい二人共」


 そしてぞろぞろと三人は屋敷の外に向かっていった。

 それを見送った後で涼太が言う。


「ギュルディ。お前、あの三人に、強い奴には他の雑魚をあてるから弱い奴と戦え、なんて言えるか? いや、言ったところで絶対言うこと聞かないぞ、アイツら」

「……そうだったな、そういう奴らだった……」


 そこでふと思い出したようにギュルディは言う。


「っと、そうだ。コンラードは呼んでやらんと」

「……ギュルディお前、負けたいんじゃなかったのか?」

「コンラードはずっと前から、凪や秋穂やシーラにリネスタードを守ってもらった借りを返したいって思ってるんだよ。それでな、コンラードの言う借りを返すってのは、そいつらのために死ぬって意味でもあってな」

「あー、なるほど。今回の十番勝負なら、命懸けではあれどギュルディがあるていど対戦相手を操作できる、と」

「そういうことだ。聖都シムリスハムン吶喊の話を聞いたコンラードは今頃、どうして俺を呼ばなかったって怒っているだろうからな。教会とお前らの揉め事みたいな件にコンラードを行かせるわけにはいかんし、こういう機会に是非とも借りを返させておかんと」


 コンラードの規範は自身の寿命を著しく縮めるものだ。

 これあってこそのコンラードだとわかっているギュルディも涼太も、そういうコンラードのあり方を否定はしないが、それを認めた上で、コンラードを生かす方法を探すのである。もちろんそれでも危険はあるが、少なくとも聖地やら聖都やらに乗り込むよりはよっぽどマシであろう。

 これで、全部勝っても四勝だ。

 涼太は、ギュルディの意見に対して否定的な考えを持っている。


「個人が勝てば、団体で負けても個人の名誉は守られる、そういう見方が普通、というか理性ある考え方だとは思う。だが、団体が負けて尚生き永らえた、命を惜しんだ負け犬、なんて考える奴もいると思う。っていうか、そういう奴多いんじゃないかなーって俺は思うんだが」

「多いか? そんな馬鹿が?」

「ギュルディが普段接する相手には少ないだろう。けど、剣振り回してる腕自慢なんてのは大抵がそーいう奴じゃねーかなーと。正直、聖都での千人殺しで馬鹿を押さえ込むに十分な実力を証明したすぐ後だってのに、負けを付けさせるのはあまり気が進まないな」


 涼太の意見を聞いたギュルディも、これを述べた涼太も、このお互いの見解の差異は、話し合いで埋まるものではないと思った。

 立場の違いというものから生じる部分もあるのだから、全部を一緒に、ということも難しかろう。

 そこで涼太から一つ意見を。


「エルフ、呼んじゃまずいか?」

「以前に同行していたという腕の立つエルフか?」

「ああ、頼めば来てくれると思うんだが、エルフがこういうのに顔を出すことに関して、お前の意見を聞きたくてな」


 ふむ、ふむ、と少し考える。実は即断できていたのだが、ギュルディはそういう時でも一歩踏みとどまってゆっくり考える癖をつけるようにしている。


「本当に来てもらえるのなら望むところだ。だが、エルフを死なせるわけにはいかんぞ」

「凪も秋穂も、一騎打ちをしたら自分を殺せるかもしれない、と言っていた相手だ。俺も戦うところを見たが、正直化け物みたいにつえーぞアイツ」

「そうか。涼太の考えもわからんでもないし、エルフが私の側で参戦するというのは実に良い話だ。そこまでなら、許可を出そう」

「いいのか? 残る五枠は博打になるんだろう? 博打なんだから可能性は低くても勝っちまう可能性は残ってるぞ」

「必ず負けなければならない、というものでもない。勝った場合でも伯爵位への陞爵がなされたのなら、その礼ということで利権をばらまくことも、一応は可能であるしな」


 ただ負けた時の方が、周囲に権益をばらまくための労力やら金やらが圧倒的に少なく済むので、そちらの方が好ましいのである。

 また、ギュルディ個人の望みとして、伯爵位を得られれば王との謁見を貴族の反対を押し切って強行するだけの理由付けになってくれる、というものもある。これは絶対に他人には漏らさぬ話であるが。

 残る五枠、これの手配をせねばならぬギュルディであったが、この辺は放っておいても問題はない。

 鬼哭血戦、それも王都の闘技場を用いる表の舞台ともなれば、売り込みたい剣士を抱えている貴族たちが動かぬわけはないのだから。






 ベルガメント侯爵はやりきった顔でソファーに腰掛けている。

 彼の対面にあるソファーに座るフランソン伯は、そんなベルガメント侯爵から渡された手紙を読んでいる。

 手紙にはベルガメント侯爵が抱える優れた戦士たちの中から、誰を鬼哭血戦に出すべきかが書かれていた。侯爵配下の剣術眼に長けた者の見立てであろう。

 今回の鬼哭血戦、それまでの暗殺者が強い戦いではなく、剣技に長け一騎打ちに強い戦士が求められる。

 それは、鬼哭血戦がそれまでは優れた暗殺者を抱えるルンダール侯爵優位であったものからベルガメント侯爵優位へと切り替わったという話でもある。

 この話を通す好機を掴み取り、見事押し切ることのできたベルガメント侯爵は上機嫌である。フランソン伯は懸念を口にする。


「これ、ルンダール侯爵、相当頭に来ていますよ?」

「構わん。ギュルディというルンダール侯爵の矛先となりうる者が新たに王都に来たのだ。そういう調整も済んでおる」

「……やはりまだ、ギュルディをみくびってはおりませんか?」

「とはいえこの好機は見逃せん。……実際、鬼哭血戦十番勝負も、ギュルディには著しく不利であるし、ここで勝てれば多少なりとルンダール侯爵の機嫌も直ろう」


 フランソン伯はまだ不満があるようだ。


「ですが、シーラとアキホの相手をルンダール侯爵に押し付けたのは、いささか……」

「あれは押し付けたのではない。ルンダール侯爵がそう望んだのよ。どうもそれぞれに恨みを持つ相手を引っ張り出してきたようでな」


 それは、と絶句するフランソン伯。ルンダール侯爵の持つ枠は三つ。内の二つで勝敗定かならぬ戦いをしようとは。

 侮蔑の表情を隠しもしないベルガメント侯爵だ。


「勝つ自信はある、と断言しておったがな。あの男のああいう思慮が足りぬにもかかわらず無根拠に自信満々なところはどーにも好きになれん。人が必死に整えている準備を馬鹿にされておるような気がしてな」

「あの方はそもそも、自分以外の全ての存在を馬鹿だと思っているのでしょう。気にしてもこちらが無駄に疲れるだけですよ」

「さっさと代替わりしてくれぬものか。アレとは話をするだけで気分が悪くなる。ああ、もうアレのことはいい、鬼哭血戦の話をするぞ」


 苦笑しつつフランソン伯も話題の切り替えに乗っかる。


「では。最終戦とその前をベルガメント侯爵のところで引き受ける、という話ですが、ギュルディと話はついているので?」

「最終戦はナギでほぼ決まりだそうだ。シーラとアキホは初戦と次戦でそれぞれルンダール侯爵が受ける。となれば、後は有象無象だな。辺境の腕利きに関して、何か聞いていることはないか?」

「……アクセルソン伯のところの、実戦では最強だと言われていた剣士が、どうもリネスタードにいるようです。コレが出てきたのなら王都の精兵でも警戒が必要かもしれません」


 彼の口にした不安要素にも、ベルガメント侯爵は動じる様子はない。


「ランヴァルトとミーケルの二人を出す。一騎打ちならば絶対的な強さを持つ二人だ、最終戦とその前と、どちらも問題はなかろう。もう一人は、実は珍しいところから要望があがっていてな」


 そう言ってベルガメント侯爵が口にしたのは、彼の抱える暗殺者組織の名前であった。そこの一人が、どうしても表の舞台に出ていきたいと言っているそうだ。


「それほどで?」

「アレがバーリフェルトを無理押ししていなければ貸してやる予定の組織だったのだがな。その男、鬼哭血戦に勝ち残ったら表舞台に出ることを許してほしい、と申し出て、そのまま牢に入れられたそうだ。結局鬼哭血戦にも参加できず、しかし意見を翻そうとはせぬままなのだとか」

「ちょうどいいと言えばいいのでしょうか」

「長が言うには、確かに影に潜むより表に出て堂々と相対するのが向いている男なのだそうだ。シーラ、アキホ、ナギにぶつけても構わん、と言っておった。あれは捨て駒としてではなく、自信があるのであろうな」


 くすり、とフランソン伯が笑う。


「いいですね、そういう先の読めぬ楽しみがあるというのも」

「まったくだ。そしてランヴァルトとミーケルを王都中の者たちに披露するのが楽しみでならんよ。特にミーケルはあの技量でありながらランヴァルトの陰に隠れてこれまで不遇であった部分もあろう。それもこれも、闘技場で目にすれば誰もがその腕を認めよう。実に楽しみなことよ」


 そのまましばしベルガメント侯爵の上機嫌に合わせて話をしていたフランソン伯だが、最後になって一つ注意喚起を行なう。


「ナギ、アキホ、共にまだランヴァルトは見ておりません。もしも、を常に忘れぬよう」

「……ランヴァルトが負けるところが想像つかぬ、が、確かに、千の兵を二人で殺す戦士もまた想像できぬ。とはいえ、ここで出さぬという選択もまた選べぬ」

「一応、ナギとアキホはシーラとは同格であると扱われており、当人たちもそうであると振る舞っている、という情報はあります。ですから、シーラにより勝るランヴァルト、そしてこれと五分に打ち合えるミーケルならば勝算も高いでしょう。それでも、もしもに備えねばならぬ強敵である、と私は考えます」

「『王都の頂にランヴァルトあり』とまで謳われた男を、疑いたくはないのだがな。ソレに備えるのも私の役目か」


 案外にあっさりと戦士の選択は決まる。もとより、自身に有利である取り決めへと変更させたのだから、この余裕も当然であろう。






 狼の顔を持ち、それ以外は多少けむくじゃらであること以外は人間と大差ない。

 そんな化け物のような者は、ルンダール侯爵ですら見たこともない。

 何度もまばたきをしながら、興味深げにこれを見ている侯爵だ。


「うぬう、異形、ではある。だが、この異形には何処か美しさすら感じられるな。……魔核か?」


 魔核より発せられる魔力を用いた人体改造術、なんてものの存在は、ランドスカープでも極々一部の人間にしか伝わっていないもので。

 それを一目で言い当てたルンダール侯爵に、この狼人間を持ち込んだ青年、ロッキーは素直に驚愕と称賛の目を向ける。


「おお、お見事。狼人マグヌスは正にその手法にて作り上げられております。嬉しいですな、これの美しさを理解していただけるとは」

「異形は幾人か見た。だが、あれらはイカン。成り果てた、としか言いようがない歪さがある。だがこの男は違う。成り立ちに意思を感じる。とはいえ、私が欲しいのは美しさではなく強さなのだがな」

「お任せを。アキホの武勇伝、全て聞き及んでおりますが、その上で尚、必殺必勝を期しての人選なれば」


 ルンダール侯爵は準備させていた十人の戦士との手合わせを行なわせる。

 その結果を見ると、背後に控えていた戦士にマグヌスがどれほどの戦士かを問う。


「申し訳ありません。私では、強さの底が見切れませぬ。これは最早、ランヴァルトとすら張り合えるような逸材である、としか」

「ほう、ほう、ほほう。かのランヴァルトすら、か」

「いずれも私には届かぬ頂にある者たちですので、どちらがより優れているとの返事はできませぬが……」

「よいよい、十分だ。さて、ロッキーとやら。わざわざアーサ国から出張ってきてまでこれほどの戦士を貸そうというのだ。代わりに何を望む?」


 ロッキーと呼ばれた青年は、アキホへの恨みを晴らすこと、そして、もう一つ、と告げる。


「もしその機会があるのでしたら、ギュルディ・リードホルムの首、是非このわたくしめに取らせていただきたく」





 郊外は土地が安いので、広い敷地を持つ平屋なんてものを、それほど金回りがよくなくても維持することができる。

 この平屋建ての屋敷は、広い道場と部屋数の多い居住部分を持つ。

 ここに、一人の男が駆け込んできた。


「おおい! おおい! ルンダール侯爵様からお許しが出たぞ!」


 道場の入口に駆け込みそう叫ぶと、道場で木剣を振るっていた者たちが一斉に集まってくる。

 彼らは口々に男の報告を喜び、盛り上がる。

 その中で一人、男の言葉を聞くなり身を引き締めている者がいる。


「……そうか、遂に、その時が来たか」


 彼の呟きに、道場にいた男たちが彼を見る。

 その目には、期待と、ほんの僅かの嫉妬と、溢れんばかりの信頼が籠っていた。


「ラルフ! 我らが誇り! 貴様に託すぞ!」

「怨敵シーラを打ち滅ぼす! ようやく好機が巡ってきた!」

「場所は闘技場! 晴れの舞台として申し分なし!」

「あれからひたすらに積み上げてきた重み! あの女に思い知らせてやれい!」


 かつて、シーラ・ルキュレが王都圏の貴族たちを相手に行なった戦の残滓である。

 対シーラに駆り出され、壊滅状態にまで追い込まれた数多の剣術集団、暗殺者たち、そしてお家が断絶させられた貴族家。

 それらの生き残りが集まり、いつかシーラに復讐を、そんな夢想を何年も本気で追い続けていたのだ。

 そんな中でも一人飛び抜けて才を発揮した男、誰しもが遠すぎるシーラとの距離を埋め得ぬ中、たった一人その域にまで至れた者が、ラルフであった。


「俺に、任せろ。皆の無念、全てこの俺が背負っていく」


 鬼哭血戦十番勝負にて、第二戦、対シーラの枠を得たのは彼ら復讐者であった。






 各陣営にて、剣士選びが行なわれている。優れた剣士を抱えていることには経済的な優位が伴うため、これもまた利権となっている。

 実際に優れた剣士であることと、世間から見て優れていると認められている剣士とでは、この利権という面でみれば大きな差がある。

 これを、埋めうる最大の好機であろう。何せ数万人が見物する国内最大級の闘技場にて、ランドスカープ最強と呼ばれるような戦士たちが相対するのだ。

 ここに参加し、腕を見せつければその後の栄達は思いのままだ。剣士の側からも、剣士を抱える貴族の側からも、この好機を逃す手はない。

 なのでギュルディが余計なことをしなくても、残る五人の枠はどうとでもなる。むしろ、枠を譲ることでギュルディは相応の対価を得る、ぐらいの価値があるのだ。

 同時に対戦相手の調整も行なわれるので、実際の戦いにはまだまだ時間がかかる。

 この間に、ギュルディと涼太は手紙を出し、リネスタードのコンラードとエルフのアルフォンスを王都へ招く。




 エルフの森にて、久しぶりにエルフ流暗黒格闘術を基礎より学び直していたアルフォンスに、とても珍しい、人間たちからの手紙が届けられた。

 通常、エルフの森に人間からの手紙なぞ絶対に届かないものだが、新たな体制となったボロースとエルフとの交易が行なわれていて、その上で送り主がリョータである、ということで特別にこれが届けられたのだ。

 これをアルフォンスに渡したエルフは興味深げに中身を問う。


「急ぎの報せか?」


 アルフォンスは、とても獰猛な、しかしとても楽しそうでもある、笑みを浮かべていた。


「ああ、人間同士の決闘に、是非私にも参加してほしい、とある。くくくくくっ、人間の国の、王都にて、人間たちの中でも特に優れた剣士とやれる、とある。くっくっくくはっはっは、さすがリョータだ。人間でありながら、エルフの戦士の気持ちをようく理解してくれているものよ」


 俺は理解できんよ、と肩をすくめるエルフ。

 アルフォンスはすぐに荷物を用意し、旅の準備を始める。

 そんなアルフォンスを他所に、手紙を持ってきたエルフはアルフォンスの家から外に出ようとして、驚きのあまり声を出してしまった。


「あ」





 リネスタードのコンラードは、凪と秋穂が教会を相手に大暴れをしているという話を聞くたびに、どんどんと不機嫌になっていっていた。


「……何故、俺を呼ばん」


 なんて言葉を外で口にしないのは、コンラードの実力ではあの二人と共に戦い抜くにはあまりに不足しているからだと理解しているせいだ。

 リネスタードでも様々な仕事をこなさねばならぬし、シーラに言われた鍛錬も真面目にこなしていることから、コンラードは決して暇ではないのだが、それでも、そういった仕事やら責任やらを全部投げ捨てて、あの二人のもとに馳せ参じたい、なんてことをかなり本気で考えていたりする。

 そんなコンラードの鬱屈は、凪と秋穂の千人殺しの話を聞いた時、ある種の諦観にも似た感情へと変わっていく。


「コレは、さすがに、俺の出る幕ではないな……」


 共に突入して死ぬのが怖い、という話ではない。共に突っ込んだところで足手まといにしかならない、と即座に理解できたからだ。

 アイツらのために死ぬ、なんて形では決して借りは返せそうにない。何か別のことを考えなければ、と思っていた矢先、コンラードに手紙が届く。

 鬼哭血戦十番勝負。この方式ならば、コンラードが命を張ることで凪と秋穂とシーラの勝利に貢献することができる。

 これを待っていた、とばかりに即座に出立の準備を整え、最近よく共に鍛錬をする友人にリネスタードを託す。


「後は頼んだ」


 頼まれた男、剣士エーギルはとてもとてもとてもとても、羨ましそうな顔をしていた。


「くそう、何故そこに俺の名がない。もっとギュルディ様に手柄を見せられていれば……」

「今はシーラもいないし、留守を任せられるのお前ぐらいしかいないんだから、そう言ってくれるな。それにギュルディはお前の名を覚えているぞ。いずれ機会はあるからそれを待て」


 恨みがましい目で見送られながら、コンラードは王都へと旅立っていった。そして、これを陰から見ている二対の目が。




 抜き足差し足忍び足、といった様子でこっそりと歩くは、現在リネスタードで修行中の子供剣士シグルズである。

 目的地である厩の前に辿り着くと、中を覗き見る。問題はない。

 その後ろで特に気を付ける様子もないのに、シグルズより音も気配も残さぬよう歩いている少女ニナが呆れた声で言う。


「アンタが行っても、なんにもすることないんじゃない?」


 しー、と小声で答えるシグルズ。


「国で一番の戦士を決める戦いなんだろ。そこにナギやアキホやシーラが出るってんなら、絶対に見てみたいじゃん。後コンラードもいるし」

「おまけみたいに言われるほどあの人弱くないよ。で、王都まで結構かかるけど、途中の寝床とか食べるものとかどーするの?」

「大丈夫だって。ニナがいるんだから何とかなんだろ」


 思いっきりシグルズの頭を殴りつけるニナ。竜の血の引くというシグルズの鉄の肌にはこれでも通用しないが、殴られることは嫌なので抗議の視線を向けてくる。


「なにすんだよっ」

「アンタが馬鹿すぎるから思わず手が出ちゃったの。はぁ、私一人で行くつもりだったのに」

「そういうズルイことばーっかするからお前はダメなんだよ。お前は他の人の気持ち、特に俺の気持ちを考えるべきだ。うん、そうするべきだ」


 シグルズはどこかで聞いてきた言葉をすぐに使いたがる。それを一々相手するのも面倒なのでニナはコレの同行を認めてやることに。

 下手なところに話が行って、うっかりエーギルあたりに話が聞かれてしまったなら、きっと彼は嫉妬心全開で二人を止めにかかることだろう。というか、今のリネスタードでこの子供二人を止められるのはエーギルの他にはほんの数名(研究所のエルフ二人は居ることが関係者以外知られていないため含まず)しかいないのだ。


「まあいっか。見つかる前にさっさと行くよ」


 二人は子供ならではの小柄な体もまるで苦ともせず、厩の馬にそれぞれ飛び乗る。

 鐙の位置まで足が届かないような身長であるのに、跳躍一つでそうできてしまうのだから、並の大人では手に負えないのも当然であろう。

 馬を走らせる二人の背後から、あー、という厩番の叫び声が聞こえてきたが、ニナは無視、シグルズはこれ借りてくぜー、と叫び、そのまま走り去ってしまった。


「よーっし待ってろよきこくけっせん!」

「……いやアンタのことは待たないでしょ、その戦いは」



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― 新着の感想 ―
[一言] コンラード、漸く再登場。 好きなキャラなので活躍期待してます。
[一言] 殺る気満々負ける気無し!なメンバーしか出てこなさそう。 ギュルディは負けることがどんどん難しくなっていく
[気になる点] 毎度おもうが、何故あの化け物たちがしてきたことを知ってなお張り合えるなどと思えるのか不思議 [一言] ギュルもわかってるようでわかってない  シーラとあの二人は基本的に別物なのに 理性…
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