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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第十章 神も仏もありゃしない(仏はある)
161/272

161.Wもげろ


 高見雫、リネスタード合議会議員にして、異世界転移してきた加須高校組のリーダー。

 そんな彼女は今、議会棟の廊下をどすどすと歩きながら、とても、とてもとても、焦っていた。


『不覚っ! 不覚不覚不覚ふーかーっく!』


 元々、加須高校生の中でも、その発想力と知識と行動力で、誰よりも多くの敬意を勝ち取っていたのが橘拓海である。

 それでも加須高校生だけでいた時は、逆に知識と発想力が卓越しすぎていたせいで、少し距離を置かれていた部分もある。

 下手な真似をして拓海の思考が乱れるようなことになったら、加須高校生全員の生存に関わると、皆が本気で恐れていたのだ。

 だが今は、生存に関してどころか、衣食住に加えて未来のことまで考えられるようになった。それだけの余裕が皆に生まれていた。

 そうなってくると、敬意が思慕へと変わっていく者も出てくる。


『そうなるのもわかってたんだけどさっ! 私も忙しすぎてそこまで手が回らなかったのよっ!』


 雫が危ういと目を付けていた女子、ほぼ全員が、拓海狙いに動き出していた。

 拓海自身もそういった恋愛沙汰にあまり興味がない、といった様子であるせいで、皆が皆、意識さえさせてしまえば獲れる、と考えてしまったのだ。

 そうなる前に動かねばならなかったのだが、雫は自分の忙しさにかまけて初動で後れを取ってしまった。

 それでも、女子たちが動き始めるなり即座に反応できる態勢を整えていたことは、彼女の優秀さと用心深さと、本気度を示しているだろう。


「もう、一刻の猶予もない。今日、ヤるわ」




 橘拓海も高見雫も、リネスタードではもうそれなりの有名人になっている。極力不用心な真似は避けるようになるぐらいには。

 なのでその日の夕食を外で一緒に取る、という話になった時、二人で高級食堂の個室を予約しておく、というのはそれほど不自然な話でもない。両者共、相応に高給取りでもあることだし。

 そんな店で二人っきりで食事をとりながらお互いの近況の話をする。

 それだけでお互いにとって楽しい時間になるのだから、加須高校でずっと二人で必死にやってきたことの残滓はまだ残っているのだろう。

 最近はお互い全く別の仕事をするようになったせいで、こうして用事を作らなければ顔を合わせることも難しくなっていた。


「高見は相変わらずだなー。前に言ってたアホな畜産農家ってのはその後どうなったんだ?」


 前にした雫の話をこうして覚えていてくれているのが嬉しい。

 そんな思いが漏れてしまわないよう、意識して表情を固定しながら、雫は話を続ける。

 そして食事が終わり、デザートを運んできてもらうと、これで邪魔者のことはもう考えなくてもよくなった。やはり、それと悟られぬように緊張を覆い隠し、決戦の時を迎える。

 テーブルの下、膝の上に置いた手が、指先が震えている。

 その緊張のせいか、二人の話が少し途切れる。

 雫は、覚悟を決めてその言葉を発した。


「ねえ、橘。前から聞こうと思ってたんだけどさ」

「ん?」


 心の中で深呼吸。


「貴方、私のこと好きでしょ」

「んなっ!?」


 変な声をあげる拓海。

 まっすぐ雫を見つめ返した後、きょどった様子で左右を見回し、右に視線を逸らしたままテーブルの上で手が変に動いている。

 とん、とん、とん、と拓海の指先がテーブルを叩く。

 そして意を決したように拓海はそれを口にした。


「そ、そうだ、よ。なんだよ、バレてたのか」


 できるだけ普段通りっぽくしようとしているのがわかる。だが、そこを突っ込む余裕は雫にはない。

 深く深く息を吐く雫。

 勝算はあった。十中八九ではなく、99.9%ぐらいの勝算があったからこそ、こんな踏み込みができたのだ。

 それでも怖いものは怖いし、失敗した時のネガティブな想像は何度も何度もしてきた。

 けど、もう大丈夫だ。拓海の様子から、先の発言が冗談ではないこともわかっている。


『良かったああああああああ、もう、本当、心臓破裂するかと思ったわよ』


 ちらっと拓海の顔を見ると、拓海も雫を見ていて、思わず目をそらしてしまった。顔が火照ってしまってどうしようもない。

 でも照れと同時に、この上ない安堵感があった。高校受験の結果を見た時の百倍は安堵している。


「高見っ」


 テーブルの向こうから声が聞こえた。

 逸らしていた目を再び拓海へと向ける。


「俺は言ったんだし、お前はどうなんだよ」


 雫はそこで初めて自らの失策に気付く。安堵のあまりに、自分の意思表明をしていなかったと。

 ごめんっ、と咄嗟に心の中で謝りつつ、自分の一番の笑みで返してやる。のがかっこいいと後になって思ったのだが、この時はもうそんなこと思いつきもせず。


「ご、ごめん。私も、私も好きよ、橘のこと」


 と慌てて返す、なんとも締まらないものになってしまった。


「そ、そっかー。うわ、やっべ、何これ。すげぇ照れる」

「うん、こんなに照れるとは思わなかった」


 二人で顔を真っ赤にしながら、照れた笑いを交わし合う。居心地が悪いような、ふわふわと落ち着かないような、とても不思議な気分であった。




 晴れて両想いな恋人同士となった拓海は、部屋に戻って浮かれたままの頭でここ数日を振り返る。


『エルフなんていう知識の塊が研究に加わってくれて、俺も魔術師にしてもらって、そんでもって今度は高見と両想いになって、と。……俺、明日死ぬかもしんないなこれ』


 幸せすぎて不安さえ覚えるほどであるのだが、この世の運不運はゼロサムである、なんていう法則は存在しないので、昨日とても幸運だったからなんて理由で不運な目に遭うようなことはないのである。






 リネスタード領主ギュルディ・リードホルムは、ボロースもその版図に加え、辺境区のほぼ全てを支配下に収めた。

 そんなギュルディは現在、旧ボロース領領都にて、新たなリネスタード式の統治方法を浸透させるべくお仕事の真っ最中である。

 リネスタード式とボロース領民からは呼ばれているこの方式であるが、これ自体はリネスタードでのやり方を踏襲しつつ、ボロースに合った方法を考えた結果作られたものだ。

 押しつけがましく新しいやり方を強要してくるリネスタード側に対し、ボロース領側も抵抗の構えを見せるも、各地の勢力毎に細かな利益誘導を積み重ねリネスタード側の要求を通させるその手腕に、ボロース側抵抗勢力は一つの大きな力となることができず、リネスタードの出す条件を呑まされていく。

 各地の細かな情報を高い精度で手にしているギュルディ側の硬軟織り交ぜた交渉に、ボロース各地の有力者たちは各個に懐柔されていく。

 ギュルディはテーブルに座って昼食をとりながら、同じ献立のものを食べている目の前のシーラに言う。


「人ってのは、予想もしない成長をするもんだな」

「ん? ヴェイセルのこと?」

「アレもそうだが、リネスタードから連れてきた三人だ。対外折衝には絶対に向かないと思ったからこそ情報分析官やらせてたんだが、いざやらなきゃならんとなれば凄まじい勢いで対応していったなと」

「あはは、あれ、ギュルディも予想してなかったんだ。もうボロースは三人に任せちゃっても回るんじゃない?」

「この調子で伸びていけば、きっと一人でもなんとかするだろーな。うーむ、ボロース代官、か。ただなぁ、ボロース代官なんて役職作ってしまうと、どーしても利権が偏るし、ボロースの連中が勘違いしそうなんだよなぁ」

「なら前にセーデルマンランドの商会でやったアレでいいんじゃない? 名目は別で実質的にはボロース代官の仕事させておいて、んで後で名と実を揃えるってアレ」


 ちょっと驚いた顔のギュルディだ。


「よく覚えてたな。今の状況ならソレも一つの手だ。表向きはレギンが仕切ってるって形にすれば綺麗に収まる」


 でしょー、と嬉しそうに笑うシーラ。

 えらいえらいと褒めてやって、たわいのない話を続け、食事を終える。

 食事後はギュルディは執務に戻り、シーラは鍛錬に向かう。既にギュルディの護衛の仕事は別の人間に任せてある。もちろん護衛はシーラの眼鏡に適った恐るべき達人である。

 執務室にて書類を前に、シーラの前では口にできない、ここ最近考えていることに意識を向ける。


『明らかにシーラの様子がおかしい』


 ギュルディが王都圏から戻ってきてからだ。

 どうにもシーラの反応がおかしい。全然怒らないどころか、機嫌を損ねることもなくなってしまったのだ。

 王都圏に出る前はよく、シーラの機嫌を取るのに色々と面倒な手間をかけさせられていたギュルディであるからして、シーラの機嫌の変化には敏感なのだ。

 シーラとも長い付き合いであるし、不機嫌な雰囲気を見逃す、ということもないと思っていたのだが、今は全くといっていいほど不機嫌さが見られない。

 それどころか、何もしていないのに上機嫌絶好調である。常に。


『変と言えば、王都圏に出る前も変といえば変だったか』


 そもそも、シーラに対し、ギュルディにも色々と都合がある、という説教をするつもりで、王都圏にギュルディが行くのだがシーラはリネスタードで留守番していてくれないか、と話をしたのだ。

 これに文句を言うシーラに対し、ギュルディ的説教にて少しずつ教育を進めよう、といった意図であったのだが、まるっきり機嫌を損ねた様子もなくむしろ、任せてー、とばかりに気分よく引きうけてくれたのだ。

 いいのか、と問うと、シーラは自信満々に、任せといてよ、と胸を叩いたものだ。

 シーラなりに、ギュルディの事業に対し理解を示してくれるようになった、と思って喜んでいたのだが、王都圏から戻ってきて色々と仕事を頼んでもシーラは全然機嫌が悪くならないし、物分かりが良すぎて逆に怖くなってくるぐらいだ。


『…………いや、まあ、自分を誤魔化しても仕方がないんだがな』


 額に手を当て、目をつむるギュルディ。

 思い出されるのはシーラの顔だ。

 王都圏から戻って以来、シーラの表情が違うのだ。とてもわかりやすく、ギュルディのやることなすこと全てに好意を向けてくれている。

 ギュルディ・リードホルムは人の感情や思考を読み取ることに長けている。貴族やら商人やらをやろうというのだ、これの出来がその成果に直結すると言ってもいい。

 なので、今はもう確証を得てしまっている。


『アイツ、私に惚れているのか……なんで今更』


 そういうのは出会ってからしばらくの間の内にお互いを恋愛対象と意識していて初めて成立するものだ、とギュルディは思っていた。

 ギュルディの見たところ、シーラはギュルディを全くそういった対象として見てはいなかったはずだ。一体何がきっかけになったやら、と嘆息する。

 そして、そこまで考えたところで思考を止める。

 とん、とん、とん、と自分の頬を指先で叩く。


『いかん。浮かれてないか? 私?』


 シーラは、それこそナギとアキホが出てくるまでは、世に二人といない美人であると思っていた。貴族として美人を山ほど見ていたギュルディですらそう思うほどであるのだ。


『あの青みがかった髪が綺麗なんだ。それと、興味ないものを目にした時の、あの、適当に投げやりに無視するあの表情。アレだ。シーラはあの顔してる時が特に可愛い……』


 はたと正気に戻って手の平で何度も自分の頭を叩くギュルディ。


『落ち着け私っ! とにかく、考えておくべきことは山ほどある。そもそも、仮に私がシーラと一緒になったとして、今後の展開にどう影響していくのか……』


 額ど真ん中を強く殴打するギュルディ。


『だからなんで結婚なんて話が出てくる! 初恋に浮かれる小僧か私は!?』


 内心で自分を罵倒した後で、今度こそきちっと正気に戻る。


『……いや、シーラとそういった関係になるというのなら、先々まできちんと考えなきゃマズイか。アイツ絶対にそういうところまで考えてないだろうしな』


 そもそもギュルディ・リードホルム君は、己の目指す場所を考えれば、女性関係に関しては極めて慎重な対応が求められる。

 はずなのだが、思考は度々脱線し、その都度頭を叩いて思考を整える。

 ギュルディの立場の難しさと同じぐらい、シーラ・ルキュレが恋愛をするということにも問題がある。そしてこの二人が、となると、更に問題が増えることになる。

 その辺を如何に解決していくか。

 それを考えるのは、案外に、楽しい時間でもあった。






 それと意識して見るようになると、さしものギュルディも平静なままではいられないもので。


『いかん。やたらシーラのことが気になる。細かな動き一つ一つがめっちゃくちゃ可愛く見えて仕方がないんだが』


 とはいえそこは貴族として育てられてきたギュルディだ。感情を表に出さぬ、と決めれば表向きはそう行動することもできる。

 気を抜くとシーラの方に目が行ってしまいそうになるのを強靭な意思の力で我慢しながら、いつも通りに一日を終え、そして夕食は少し豪勢にしよう、とシーラを誘って二人で食事を取ることに。

 そう誘った時のシーラの嬉しそうな顔がまた、ギュルディの心を刺激してやまないもので。


『意識してしまうとどーにもならんなこれは。……そうやって考えると、よくもシーラはこのていどの動揺で収められているものだ』


 自制に長けているのだな、と感心しているギュルディであったが、シーラが恋心を自覚してから落ち着くまでの間の奇行の数々とコンラードの気苦労は、ギュルディには全く見えていないのである。

 シーラとの会話は、今日あったことがほとんどだ。

 取るに足らない、内容はそれほどいつもと変わらない、それでいてこの日々を送っている者にとってはほんのちょこっとだけ変化のある内容。

 そんな話を聞きながら、ギュルディは王都圏から戻っての自分を振り返る。


『これも、つまらん話とは全く思わなかったな。シーラとこうしている時間が無駄な時間だとも。案外に、私も以前からその気になっていたのかもしれない、な』


 そう思うと、続く言葉を自然と口にすることができた。


「シーラ、少し真剣な話をするが、いいか?」

「ん? なになに? 聞くよー」

「お前、私の妻になる気はあるか?」

「んー、つまー、つまね、知ってる……私が、誰の?」

「シーラが、私の妻に、だ」

「……………………」


 ものっすごい怪訝そうな顔になるシーラ。あまりに意外すぎたのだろう。そういった顔をするシーラは久しぶりに見た。

 確認するようにシーラが問う。


「シーラ・ルキュレが、ギュルディ・リードホルムの妻に、お嫁さんに、なるって話?」

「そう、それだ」


 直後、シーラが取り戻していたはずの自制の心が、何処かへと吹っ飛んでしまった。

 顔中真っ赤にしながら、謎の身振り手振りを見せつつ、全く意味が聞き取れない言葉を発し続ける。

 とりあえず聞き取れたのは、どうしたの、何があったの、どういうこと、ギュルディが、私はお嫁さんに、といった部分ぐらいで、どう組み合わせてもシーラの意図をくみ取ることはできそうにない。

 ほんの少しの不安から、ギュルディは改めて問うた。


「嫌、か?」


 シーラはものすごい勢いで首を横に振る。

 ついでにやっぱり意味の分からない言葉を発しているが、そちらはもうスルーすることにしたギュルディだ。


「嫌じゃないんなら、考えておいてくれないか。急いで結論を出せなんて言うつもりも……」


 そんなギュルディの言葉に被せるようにシーラが言う。


「ヤじゃないよっ! 全然ヤじゃないっ! 私はぜんっぜん嫌じゃないんだよっ!」

「お、おう」

「で、ででででも、ギュルディ、貴族でしょ。その場合、妻、っていうのは違う、んじゃ、ない、かなーって」

「違わない。お前には是非私の正妻に収まってもらいたい。というか、相手がお前なんだし私の本音を、言わせてもらう」

「う、うん」

「……正直に言って、私はずっと、女は面倒くさいと思っていた。嫌いとは言わないが、かかる手間を考えれば好んで側に置こうとは思わない、なんてな。だが、私の認識は見当違いであった。妻に迎えたい女性というものは、そういった面倒だと感じる心はそのままに、より以上に側に置きたいと思うものなのだと。私にとっては、それがシーラだったという話だ」


 えーっと、とちょっと考えた後で口を開くシーラ。


「私、めんどーくさい、よね?」

「うむ、きちんと自覚があるようで何より。だが、それでもお前を妻にしたい。そういう話だ」

「な、なんで?」


 そこで、ギュルディは少し顔を逸らす。額に手を当て、言い難そうにしながら。


「……わからん、の、だが。面倒に感じるよりもずっと、お前が側にいると、嬉しい、んだ」


 その一言でシーラの顔中が再び真っ赤に染まってしまう。

 だが、赤面したシーラがギュルディの顔をちらと見た時、シーラの羞恥が吹っ飛ぶぐらいの衝撃があった。

 ギュルディの顔が赤くなって、その表情はまるで、あのギュルディ・リードホルムが、照れているかのようで。

 そんな見たこともない表情を見て、シーラはギュルディの本気を理解した。

 そしてそうなると、嬉しさと、照れくささとで色々とはちきれそうで、全く身動き取れなくなってしまう。またそれはギュルディも同じようで、シーラを時折横目に見ながらも照れすぎてずっと見続けることができず、二人の間に客観的には静かな時間が過ぎる。

 両者にとって、なんと評していいのかわからない時間が流れた後、最初に口を開いたのはシーラであった。


「え、えっと、ね。私、ギュルディのお嫁さんに、なる。なりたい、よ」

「お、おう。そう、か。じゃ、じゃじゃあ、その、よろしく、頼む」

「こ、こちらこそっ、よろしくおねがいしますっ」


 そんな不格好なやりとりでお互いの気持ちを確認した二人は、照れながらではあったが、すぐに確認すべきことに思い至る。

 何度かこういった妄想をしたことのあるシーラは、その問題点にも気付いていた。


「ね、ねえ。でも、私を正妻にってのは、さすがにマズイんじゃないかな。だって、ギュルディ、辺境から王都に、貴族として勢力を広げていくんでしょ? だったら絶対に正妻の座は空けておかないと。誰を迎えるにしても、一勢力丸々味方にできるんだから」


 そういった話をシーラが振ると、ギュルディはいつもの表情に戻る。


「血筋の話なら、私に新たな血は必要ない。味方を増やすというのなら、婚姻は逆に特定の貴族のみを優遇する形になり、今の様々な貴族たちと交易で繋がっている現状に相応しいものではない」

「そうなの?」

「……今の状況で妻を貴族から取るとなれば、一勢力だけからそうする、というわけにはいかなくなる。順番にだが、三人……いや、五人は、いるか。これもまた正直に私の本音を言わせてくれ。妻が五人もいるなど、面倒だから絶対に嫌だ」

「そ、そうなんだ。ギュルディって、そういう部分はがっつり貴族っぽかったからちょっと意外かも」

「そこは好みの問題だ。で、だ。シーラを妻に迎えるとなると、逆に妾なんて話にはできなくなる」

「そう? 立場を考えればむしろ正妻の方が無理筋じゃないの?」

「ま、他の貴族もそう考えるだろうな。そんな彼らに私は言うわけだ。『で、もしシーラが嫉妬深かったら、どうする気だ』と」

「…………う、それは、どう、だろ。あんま、考えたく、ないかな」

「どっちでもいい、私はシーラ以外迎えるつもりはないからな。で、シーラがもし嫉妬深かったら、新たに来た正妻とやらはどうなる? 正妻と妾の立場の違いとやらを押し付けるのか? シーラ・ルキュレを相手に? もし正妻が実家の権力を嵩にきるようなら、シーラお前、その実家の親族皆殺しにするぐらいどーにかなるだろ」

「そこってギュルディの後見してくれる家だよね? できてもしないよ、さすがにそこまでは……」

「お前がどうするかじゃない、連中がどう思うかだ。女の嫉妬は理屈じゃない、それがわかっている人間ならば、そんな簡単にシーラと同じ家に娘を入れようなんて思わんだろうな。もちろん、連中は私に言うだろうさ、シーラを抑えろと。で私は返すわけだ。シーラを止める? この世の誰にそんな真似ができるんだ、と」


 ギュルディが何をする気か理解したシーラは、さすがに呆れ顔である。


「ギュルディ、ほんっとにお嫁さんもらいたくないんだね」

「貴族も、商人も、商売女も、王都の最高級娼婦も色々と見てきたが、妻に迎えたいって思えたのお前しかいなかったんだよ。もしそれ以外の女性を妻に迎えたとしても、きちんと大切にはするだろうが、その、こんなにも嬉しくはならないと思うんだよ。だから、な」

「うぎゃあああ、照れるからそれ以上言わないでええええ」

「わかった、言っておいてなんだが私も恐ろしく照れ臭い」


 話すべきは話した。少なくともお互いの気持ちを確認できて、この先の展望らしきものも立った。

 なので今日のところはこのぐらいにしておくか、とギュルディは満足気に言う。

 席を立ちかけたギュルディだったが、シーラはといえば席に座ったまま、ギュルディではなく下をじっと見つめている。


「シーラ?」


 声を掛けるも反応がない。もう一度そうしようと思った時、シーラから、とてもか細い声が聞こえた。


「お、お嫁さんに、なるんだし、さ。ねえ、ギュルディ。今日、一緒に、寝る?」


 ギュルディにとって、今日一の衝撃台詞であった。






 横になっていたギュルディが目を覚ますと、隣にいるはずのシーラに目を向ける。


「あ、起きた。おはよー」


 シーラは既に起きていたが、寝転がった姿勢のままでギュルディを見ていた。


「起きてたのか。なんでまた起きたのにベッドの中にいるんだ?」

「んふふ、なんかねー、ギュルディの顔見てたー」

「そ、うか。……そうしたくなる気持ちは、私にも、わかるが」


 そう言ってギュルディもじっとシーラを見つめる。が、すぐに顔ごと目をそらしてしまう。


「えー、なんで余所見するのー」


 そっぽを向いたままで、とても言い難そうにギュルディは答える。


「……いつもより顔が近すぎて、ちょっとまだ慣れないだけだ」


 途端に嬉しそうに声を上げるシーラ。


「あれあれー? ギュルディ照れてる? てーれーてーるー?」

「やかましい。それより、シーラは今日中にボロース領都でのやり残しがあるんなら片付けておけよ」

「ん? 今日中? どっか行くの?」

「ああ、今日から数日かけて近隣を回って、私が移動する準備を整える。それが終わったら、王都に入る」


 ちょっと驚いた顔のシーラ。


「王都圏、じゃなくて王都でいいの?」

「ああ」

「……ふーん、ギュルディが言うんだから勝算はあるんだろうけど。王都に入ったら面倒なのがきっと動き出す。真正面からぶつかったらきっと戦力が足りないよ」

「さすがに王都の殺し屋共と事を構えようという気はない。そして、今の私を殺したら、辺境の利権が全て吹っ飛ぶことは皆理解しているだろうさ。辺境の足場固めは思ったよりずっと早く終わった。さあ、捲土重来。王都に殴り込みといこうか」


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[一言] 『不覚っ! 不覚不覚不覚ふーかーっく!』 「もう、一刻の猶予もない。今日、ヤるわ」 雫さん、男前すぎる!
[一言] 他3人はともかくギュルディがウブなのホント面白いw
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