109.後でするべき始末を付ける
幾つもの松明が暗闇を照らす中、片腕を切り落とされ真っ青な顔で跪く小隊長と縛り上げられて地面に寝転がる性格の悪い小隊長。
その周囲には兵たちの死体が散らばっている。
そして二人の捕虜の傍に立つは、不知火凪である。
この時には秋穂とニナも凪の傍に移動しており、これらを取り囲むように、オーヴェ千人長率いる兵たちが集まっていた。
凪はオーヴェ千人長に問うた。
「で、どうする? やる?」
凪の問いにも、オーヴェ千人長は即答ができない。当たり前だが、彼はこの襲撃にはかかわっておらず、そもそも襲撃計画があることにすら気付いていなかった。それは他の小隊長たちにしてもそうだ。
くすくすと笑いながら凪は片腕を切り落とされた小隊長の後ろ頭を剣先で小突く。
それは発言を許すという意味で。彼はすぐにオーヴェ千人長に向かって口惜しそうにしながら詫び始めた。
「すまねえ、千人長。アンタの決定がなくても、殺しちまえば問題はねえって仕掛けたがしくじっちまった」
縛り転がされている性格の悪い小隊長がふがふが言っている。口にも縄をかまされていてしゃべれないのである。
彼の発言は、オーヴェ千人長がこの惨状を見た時真っ先に思い至った可能性であり、オーヴェ千人長は苦い表情を隠せない。
オーヴェ千人長は凪を見据えて問う。
「……話し合いに応じてくれる余地がある。そう考えていいんだな?」
「まあね。てかこれ、アンタの差し金じゃないでしょ。だから、コレはコレで話を付ける。それを飲み込むかどうかだけ答えをちょうだいな」
片腕の小隊長に、凪が問う。
「アンタともう一人の首で勘弁したげるわ。それでいい?」
「……かなり譲歩してもらってることは、理解している。だが、そのうえで、頼む。この話はここだけで収めちゃくれねえか」
一瞬、意味がわからずきょとんとした顔に。だがすぐに気付いたのでオーヴェ千人長に言う。
「ああ、もしかして、もう一人の千人長にこの件言わないでって話? それなら……」
初老の千人長に襲撃のことが知れたらオーヴェ千人長はまた不利な立場になろう。
あっさりと即答しようとして後ろのニナに背中をつつかれ言葉を止める。
凪は振り返ってニナを見て、え、マズイの? という顔をすると、ニナが呆れ顔で首を横に振る。
にゃはは、と照れ笑いを浮かべた後、凪は片腕の小隊長に向き直る。後ろではニナの肩に秋穂が手を置いてニナを労っている。
「えっと、そ、それでいいわよ、うん。そっちもそれでいい?」
捕まえた時、凄まじい勢いで喚き散らしていたので口に縄を噛ませた性格の悪い小隊長の、口の縄を剣先で切る。
彼は発言が許されたとわかるや、やはり先と同じ勢いで喚き始めた。
「いいわきゃねえだろ! 千人長! コイツらは敵の回し者だ! 見ろよ! こんなにも仲間を殺っちまった! こんな女の口車に乗せられてねえで今すぐやっちまってくれ!」
片腕の彼と比べてこの往生際の悪さよ。
びっくりしてる凪を他所に、包囲側の小隊長たち、もっと言えば兵士たちも、ああ、この人ならそうするよなー的顔をしていた。
「仲間の仇だコイツらはよ! 今なら俺たちが弱らせてある! 絶対に殺れる! なあお前ら! 砦でさんざっぱらてこずらせてくれたコイツを! 仕留めるこれが最後の機会だぞ!」
誰一人乗ってこない。それでも彼は口を止めない。
「大体だな! ケジメならもうつけてるだろ! 襲撃を仕切った奴はほら! 片腕くれてやってるじゃねえか! 兵もみんな殺られちまってる! コイツで十分だ! 千人長! 交渉事で手を抜くのはアンタの悪い癖だ! ここはまだまだ押していけるところだぜ! なんたってコイツらの生死は俺たちが握ってるんだからな!」
そこからも他の人間が口を挟むこともできないほどしゃべり続ける。
各小隊長たちにこれまでの貸しを返せと言ってみたり、千人長が以前に部下を守るために尽力した時の話を持ち出してみたり、これまで自分がどれだけ隊に貢献したかを語ってみたり、生かしておけば儲け話を生み出せると仄めかしたり。
また彼は話の仕方が上手くて、思わず引き込まれてしまうような、聞き入ってしまうような、聞き逃すのはよくないのではないか、なんて空気を作り出してくる。
必死なのは誰しもにわかるが、必死なだけでなく、同情したり、絆されたりしてしまうような、話し方、話の内容を選び組み立ててくる。
それらは話しながら頭の中で組み立てているのだろう。基本的に頭の回転の速い男だと思われる。
だがそんな足掻きは、少なくとも不知火凪には通用しない。
これ以上は無駄だ、と誰よりも先に彼を見切ると、喚き声を聞きながら片腕の小隊長に言う。
「じゃ、やるわ」
「……おう。お前ら! 千人長を頼むぞ!」
彼の怒鳴り声でオーヴェ千人長や小隊長たちがこちらを見る。すぐに、片腕の男の首が落ちた。
状況の変化を察した性格の悪い小隊長は話の矛先をそこでようやく凪に向ける。
「おい待て! シェルヴェン領にはまだどれだけの兵がいるかわかって……」
「どうせならもっと価値のある遺言にしとけばよかったのに。まあ、これがアンタの生き方で、死に方ってことなんでしょうね」
凪に首を斬り飛ばされた直後も、彼は数言は言葉を発していたが、首が地面に落着するまでにはもう口は意味もなく開閉するのみになり、落下の衝撃と共にこれも失われた。
剣は抜いたまま刀身を肩に乗せ、凪は包囲の一角に向かって足を進める。
「じゃ、私たちは行くわ。邪魔、する?」
オーヴェ千人長が手を振ると、凪が足を向けた先に居た兵士たちは一斉に道を空ける。
「大変、結構。離脱後はシェルヴェン軍と合流する気ないから、そっちはそっちで適当に話しといていいわよ」
責任の有無を厳密に問うのならオーヴェ千人長の首も必要になるだろう。だが凪にとっては意志の有無も重要になってくるらしい。
実際に動いた小隊長二人を斬っておけば後はオーヴェ千人長が抑えきれるだろうという楽観入っている読みもある。そも、オーヴェ千人長の配下を斬っておいて、彼が味方であり続けると考えているのだから、やっぱりどっかがイカれていると言われても仕方があるまい。
ニナが呆れ、涼太や秋穂に、凪は機嫌で生きている、と言われる所以である。
ただ、今、この場での全ての決定権を持つのは凪だ。
この状況。最悪、秋穂とニナが殺されることになっても、凪だけは生き残ることができる。そして、凪が生き残ってしまったのならばもう、オーヴェ千人長隊の誰一人、生き永らえることはできない。不知火凪とはそれができる戦士だ。
またオーヴェ千人長隊に無理を強いる形であってもそれなりの納得が得られるのであれば、この場での決裂の可能性は著しく下がるし、それは秋穂とニナの生存に繋がるものであろう。
凪は凪で、これはこれで一応考えてはいるのである。
ラーゲルレーヴ傭兵団団長アッカは、傭兵団の解散を決意した。
いきなりそんなことを公表すれば団員たちが右往左往するのは目に見えているので、団長は以後も傭兵稼業を続けそうな者の中で、団長を張れそうな者を探す。
小隊長をしていた者の内二人がこれに該当した。ではどちらに、となったがそれは当人たちが話し合って決めろ、とアッカ団長は二人にぶん投げる。団長の予想通り、二人の話し合いは決裂し傭兵団は二つに分かれることになった。
この二人はそれぞれ自らを団長とした新たな傭兵団を立ち上げ、ラーゲルレーヴ傭兵団の団員を自分の団へと招く。
特に血の気の多いのや傭兵としての生き方以外ができない者の他は、どちらの誘いにも乗らなかった。
ラーゲルレーヴ傭兵団には、ドルトレヒトの街からとても幸運な誘いがあったのだ。とある大きな戦闘で激減したドルトレヒトの兵士にならないか、という話である。
アッカ団長たちは寡兵をもってサーレヨック砦をよく守り、それは信用に値する行為だと認めてもらえたのだ。
傭兵ならではの稼ぎの良さというものは確かにある。だが、いっぱしの兵士として都市に雇われることに比べれば、リスクとリターンの割合を考えるに傭兵なぞ比べ物にならない好待遇といえよう。
ドルトレヒトの生命線であるサーレヨック砦での戦いを経験しているアッカ団長たちは、まさに今のドルトレヒトが欲する人材であった。
傭兵稼業が長かったため、街での生活に慣れるのに時間はかかるだろうが、それは努力と工夫でどうにかなるものだ。アッカ団長、そして副長はどちらもドルトレヒトに骨を埋める覚悟を決めた。
そして、そうなってくるとサーレヨックの裾野で行われているボロース軍とシェルヴェン軍の会戦にも無関係ではいられない。
ボロースがよっぽどヘボな真似をしなければ、会戦後にそのままサーレヨック砦を抜かれるなんてことにはならないだろうとは思っていたが、情報収集は怠りなく行なっていた。
その集まってきた情報を見て、副長は目を見開きながら言う。
「お見事ですね。まさかこれあるを予測していたとは……」
その報せの中には、つい先ごろ砦を出た涼太たち一行が、シェルヴェン軍に参陣したなんて話も含まれていた。
涼太には、もし敵に回ってもこちらに話は通すよう言ってあると、副長には伝えてあったので、これが早速役に立つことになるかもしれないと副長は驚いたのである。
だが当の団長はといえば、机に突っ伏して頭を抱えている。
「……俺は敵になったらって言ったんだ。速攻で敵に回れなんて一言も言ってねえだろあのアホ共が……」
幸い、ボロースはシェルヴェン軍の撃退に成功したので、アレと戦うなんてハメにはならずに済んだのであるが。
もし今度何処かで出会ったら、今回のことはいつまでも根に持って絶対に文句を言ってやる、とアッカ団長は心に決めたのである。
凪、秋穂、ニナの三人が涼太と合流したのは、王都圏にある街の一つだ。
ここを指定したのはニナで、戦場であった土地から多少離れた場所にあるのだが、涼太たちは全員王都圏内を自由に移動できる身分証明書を手に入れていたので移動に問題はなかった。
この身分証明書、案外に入手が困難なものである。これを持つ者の行動を発行した者が保証しなければならないので、その土地の信頼のおける商人等でもなくばそうそう発行されることはない。
これを人数分シェルヴェン領主の名のもとに確保できたのは、涼太たちがシェルヴェン軍に参陣する条件の一つであったからだ。
シェルヴェン側は、涼太たちの身元保証をギュルディがしているからこそ認めたという部分もある。なので二重の意味で、涼太たちは王都圏での無茶は封じられることとなる。
宿の一室に秋穂は横になる。その隣には涼太がいて、秋穂の服を脱がせている。
色気なんてものはもちろんない。全身に大怪我を負った秋穂の治療である。涼太はこれまでに何度も秋穂や凪の肌を見ているし、とても女性的な部分も余計な布無しで目にしている。
涼太もこれを全く意識していないわけではない。それは秋穂も一緒だ。だが、口にしてしまうとどちらも引っ込みがつかなくなりそうなので、双方必死になって気にしてないフリを続けるのだ。
こういう可愛げは秋穂だけでなく凪にもあるのだが、全身を晒さなきゃならないような大怪我を負う頻度は秋穂の方が圧倒的に高く、自然涼太がその肌を見る機会も増える。
奥歯を強く噛みしめながら魔術による治療を続ける涼太。だが今回は、少し秋穂の様子が違っていた。
「ねえ、涼太くん」
普段は治療中あまり口を開かない秋穂が、声を掛けてきた。
ここ数か月で、俺はそんなこと全然気にしていないぜ、って顔を作ることにも慣れた涼太であるが、口を開いたらバレそうなので最低限の返事で済ませる。
「ん?」
「私ね、あの、ミーメってのと、戦ったんだよ」
「ああ、そう聞いてる」
「私は戦いたくてそうしたし、殺したことも全然後悔はしてない。でもね、どうしてかな、あの人と、もしかしたら仲良くなれたかも、って、ずっとあれから、思ってるんだ」
「……そうか」
「剣を交えるとね、なんとなくその人がどんな人かわかるんだ。きっとあの人、一生懸命練習して、一生懸命勉強して、それでいて剣だけじゃなくて、仲間のこと大切にしてて、そんな人だと思う。それって、すっごく良い人だよね」
「ああ」
「……なんでかなぁ、そういう人だって途中からわかってたのに、私あの人を絶対に殺したくて仕方がなかったんだ。あそこは、そういう場所なんだよね。それが全ての大前提なの。だから、殺した直後も今思い返しても、やっぱり殺すしかなかったって思う。けど……」
秋穂の目は、今ここにあるなにものをも見てはいない。虚空をじっと見つめたままで。
それはミーメの件だけではない。モルテンやミッツ、ラーゲルレーヴ傭兵団のこと、そしてオーヴェ千人長たちとの交流と決別とを思い出していた。
「もう、戦争は、いいかな」
「そっか」
「しなきゃならない戦争はするけど、自分からやりたいとは思わないよ、もう」
「わかった。凪もそうかな」
「多分ね」
それ以上は何も言わず、二人共じっと黙ったままで治療を終えた。
シェルヴェン領の領主館にて、領主の正妻が死んでいた。
使用人は多数いたが、誰一人これを見ていた者もなく、悲鳴一つ聞くことはなかったという。
妻の亡骸の傍には、領主に長年仕えている諜報機関の長の首が転がっていた。
ここは貴族家であるからして、命を狙われる心当たりも多数あるが、この館の中で敢えて妻を、そして諜報の長を殺した理由を考えればその犯人の目星はつく。
「おのれ、ギュルディめが……」
領主はそう漏らすが、対外的にそれを口にすることはない。表向き妻は病死したとして処理をする。
領主の妻が、領主に内緒で諜報員を動かし、三男の仇に向けて暗殺者を差し向けていたこと、領主も把握はしていた。
既にギュルディとの手打ちもまとまった後であり、妻は手打ちの内容が気に食わないからこそ動いたのだろう。ただ、暗殺の背後を確実に探るなんて真似はそう易々とできるものでもなく、ならば成功するにせよ失敗するにせよ好きにさせてやる、と妻の暴走を黙認した。
そして死んだのが妻とこれを手配した諜報員の長である。ならば相手は、ギュルディ一党とみて間違いあるまい。
とはいえギュルディ側よりのメッセージもきちんと領主には届いている。
首謀者と実行責任者にはケジメをつけるべく殺すが、友好関係を損なうつもりもない、だから公にならぬような配慮がなされているのだ。
領主としても、ギュルディが仕切っている辺境との交易を手離すつもりはない。これから大きく伸びていくだろう辺境との交易路を確保できるのならば、息子一人分ていど笑って差し出すつもりだ。なんなら親族をもう一人二人なら目をつむるつもりさえある。
それだけ大きな利益を生む相手なのだから、これと率先して揉めようという妻に対しても領主は極めて冷淡である。
きちんと面目を保ってくれたうえで利益を約束してくれる相手に、わざわざ揉め事を起こそうなんて妻を見て、領主は足を引っ張る愚か者という感想しか持っていない。
「しかし、王都圏から店を引き上げておいて尚、こんな真似ができるか……」
商売から手を引いておきながら諜報の手はまるで緩めていない。敵に回したのならばちょっとどころではない厄介な相手だ。だが、これを味方にできるのなら、頼もしいことこのうえなかろうて。
領主は、領主の側からそれとなく儲け話の有無を問う手紙を出すことにした。
これは今後も付き合いを続けていくつもりがあるという領主の側からの意思表明にもなる。もう少ししたら、ギュルディは窮地を迎えるだろう。だからこそ今ここで、領主はギュルディとの繋がりを強化しておくべし、と考える。
ギュルディ潰しが本格化した状況で王都で下手に動けば、ギュルディのついでに領主にも目が向けられかねない。そうされぬよう立ち回りながら、ギュルディとの繋がりを確保する、今が最後の機会なのである。
「だというのに、面倒な問題を起こしおって」
領主は何処までいっても家の、自身の利益を最優先にする。それこそが領主として、貴族家の主としてのあるべき姿であると信じているのである。
ニナは、本当に心底から呆れに呆れた顔と声で、しみじみと言った。
「こんなにも馬鹿げた段取りの暗殺、見たことも聞いたこともない」
王都圏での暗殺を成功させるため、暗殺対象の夫が領主をする軍への協力と引き換えに王都圏での自由活動の保証を得て、王都圏の奥にあるその領地に密かに乗り込み暗殺を決行する。
そんなアホみたいな作戦を立案する方も立案する方だが、実現させ完璧に成立させてしまうほうも絶対におかしい。とニナは何度も口にしたものである。
挙げ句、ギュルディにもシェルヴェン領領主にも配慮して、目標以外には一切手を出さなかったし目撃者もなし。そしてこちらの道理の正しさもきちんと提示しておいた、と胸を張るわけだ。
そう、これこそが涼太がシェルヴェン軍に協力した理由だ。ニナたちを使って暗殺を仕掛けてきた奴をきっちり仕留めるために、涼太はシェルヴェン軍に参加するなんて話に乗ったのである。
もう、ニナは何を言ったらいいのかわからない。後、ギュルディとかいうコイツらの保護者らしき人物に、何を考えてコレを外に出したのかを丸々一晩かけて問い質したくなった。
戦争はともかく暗殺はニナの領分だ。そこでデタラメをやらかされるとさすがにもにょる部分があるようだ。
そんな悩めるニナはさておき、涼太はせっかくの王都圏であるので、ここに腰を据えてじっくりと情報収集に時間をかけるつもりでいる。
凪と秋穂も、辺境とはまた違った雰囲気の王都圏の街を回ってみるつもりのようだ。
涼太はとても穏やかな顔で、ニナに言った。
「頼んだぞ、ニナ」
「やだああああああ! ナギもアキホも絶対問題起こすし! 私のせいにされたらたまんないよ!」
「大丈夫だ。二人には一切金は持たせないから。お金は全部ニナが管理してくれ」
はあ!? と凪と秋穂が驚き振り向くが涼太は無視。
「というわけだからお前ら、外で動きたかったら懐の金、全部出せ。文句はないよな? ソルナの街で何しでかしたか、まさか忘れたとは言わせないぞ?」
ぎゃーぎゃーと喚いて抗議する二人にも涼太は一切取り合わない。さすがに王都圏での揉め事は現状では大変よろしくないと涼太も理解しているのだ。
王都圏に入ってみてわかったが、この土地、かなり治安が良い。それは翻せば、治安維持担当者にかなりの権限と武力が与えられているということだ。
シーラ・ルキュレすら暴れ回った後はこの地を離れているのだから、アレが相手でも長く居座ることはできないような何かのある土地なのだろう。そう考えれば涼太の懸念も当然だ。
その必要性を説明し、涼太が強く言えば凪と秋穂は基本コレに逆らわない。
そして問題を起こしそうになったらニナは躊躇なく財布の紐を堅結びで締め付けるだろう。
それでは二人の一番の目的である、王都圏にしか売ってないという超高級下着が買えなくなるので、凪も秋穂も、仕方なく大人しくすることにしたのである。
涼太が情報収集を進めると、程なくその情報が耳に入るようになる。
ギュルディを叩くべし。そんな話だ。ギュルディは既に王都圏を出てリネスタードに帰還している。これを叩くというのはつまりリネスタードを叩くということだ。
そのための手段は、当然隠して進行しているが相手は遠目遠耳の術である。涼太は王都圏にある魔術学院を警戒し、魔術に長けているであろう場所にこれを用いることはしなかったが、それでも十分情報は手に入る。
多数の軍勢を用い、リネスタードを一息に飲み込む。そんな段取りが着々と進んでいると聞き、涼太はこれを確認することに集中した。
これを何処が先導しているのかがわからぬまま噂のみを追っていたため、情報の確信に至るまでにかなりの時間がかかった。
そして得た情報を精査したところ、涼太は天を仰ぐ。
「いかん、今からじゃもう間に合わない」
これにて七章は終了となります。次回より八章になるのですが、この八章では主人公たちの出番がほとんどありません。
時折そういうシーンが混ざる、とかではなく丸々一章そうである、というような物語の構成は大変よろしくないものだとは思うのですが。
ごめん、やりたいからやる。勘弁っ




