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それぞれの進路 バッハ平均律1番フーガ

僕は、コーヒーを無理やり飲み込んで、山崎浩之に聞いた。

「看護師って看護婦さんの事?ナースキャップかぶった?」

浩之は、プっと吹き出して、笑い出した。

「裕一、なんか変な画像でも見すぎはねえか?いまどきの病院は、男性も

かなり増えてるだぜ。もちろん、パンツスタイルだ。

ナースキャップは衛生上の問題から、被らない病院も多いらしいぞ」


浩之は、週末には、母親の入院してる病院に行くので、看護婦さん、

今は看護師というそうだけど、そこらへんの事情に

詳しくなったのかもな。


「看護師の資格はどこへいっても通用するし、第一、人手不足で

常に欠員の状態でやってる所も多いらしい。俺の母の入院先の

看護師もこぼしてた。仕事が増えるのに、人手がいつもたりないって」


「でも、適性の問題も考えた?」

この質問にスルーされた。安定していて収入もたしか。確かに浩之の望どおり。

でも、資格をとる学校へは?疑問はのこるけど、浩之のイキイキとした顔を見て、

そのままにしておくことにした・・

ー・-・-・-・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-

あくる日、後藤さんと話した。

それぞれ、忙しかったので、すれ違いだった。

後藤さんは、美術のデッサンの特訓だとかで、運動部のように、

夏休みは、毎日、学校に来てたそうだ。勉強も始めてるので、忙しいよう。


「両親に、もう一度”一生のお願い”って、私立の美大への進学をお願いしたのね。

でも、だめだった。”お前は、美大に行くのはなんのためだ?””画家で食べて

いけるのか?””絵を続けたいなら、働きながらでもできるだろう”って。


グーの音もでなかった。確かに美大に行ったから画家で食べていけるって

わけじゃないもの」


そうなんだよな。僕も音大へ行ったからといって、演奏家で食べていける

保障は、ほとんどない。でも、美大や音大で優れた先生から指導を受ける

事で、もっと上手になれる。自分のめざしたものを表現できる。

&そっち方面の人間関係を築くことで、将来、何かにつながるかもしれない。


「ウチの親はさ、私が釧路教育大に行くのは乗り気なんだけどね。

私には、難関。無理。絶対無理。中学の時からの、”勉強をしてない積み重ね”

があるから、基礎でとまどっちゃう。」


こっちの大学の難易度はよくわからないな~。

僕も、教育大という選択肢も考えたんだけど、釧路だから祖父ろ母から遠く

離れないですむし。


「ところで、裕一君は、音大へ行くのは演奏家になるため?」

おっと、直球できましたか・・”じゃあ、後藤さんは、画家になるため?”

と反論したいところだ。


「僕は、父が指揮者で母がバイオリン奏者で、音小の時は、なるのが当然で

音中になって、意地でも演奏家になって、両親を見返してやしたかったんだ。

今は、ちょっと謙虚になったから、演奏家でも、そこそこやっていければと

思ってる。まず、音大に入ってからかな・・」


僕の答えに、後藤さんは、”よくわからない”って顔だ。

確かに、音小・音中・ってのは、想像つかないだろうな。

”受験の事なら、脇坂のほうが詳し情報や勉強法をしってると思う

今度、相談してみるといい”と、後藤さんに言った。


「私、前に裕一君ってピアノの事ばかりで、冷たいなって思った事

あったけど、今はわかる。今の私は、デッサンデッサン。そればっかり」

後藤さんは、ため息をつき、美術室へ部活兼デッサンの勉強に行った。

僕も、陸上部の練習だ。もう寒くなる前に、ジョギングで体力つけたいし。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・--・-・-・・--・

今夜のピアノ練習は、バッハの平均律1番のフーガと2番の前奏曲。

フーガは、どれも練習が必要。前奏曲は、復習くらいかな。

1番のフーガは、4声(ソプラノ、アルト、テノール、バスってとこか)

内声部が難しい。例えば、アルトならずっと右手で弾けるといいけど、

途中で左手に代わる時も多いので、うっかりすると独立して聞こえない。

僕は、中学で練習したように、4つの旋律を二つ組み合わせながら練習。

弾けてはいる・・はず。


2番の前奏曲は、実は簡単なのだけど、いろんな人のCDを聞くと、

弾き方がそれぞれ違うんだよ。

超高速で最後までいく奏者。最初からゆっくり弾く奏者。

これは、八重子先生に聞いてみよう。


バッハが終わったあとは、ショパンのエチュード、ダメダシくらった25-3

しつこく練習。

バートーベンは、ソナタの1楽章のみ譜読み。難しくはない気がしたけど。

後に、西師匠から猛特訓を受け、自分の譜読みの雑さに、自己嫌悪に陥った

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