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父とレッスン、「悲愴」第2楽章

夕食後、父は当然、音楽室で、ソファーでゴロ寝してた。


「父、申し訳ないけど、ピアノの練習の時間なんだ。3時間で終わるから。」

「どうぞ。僕は邪魔はしないし・・」


いや、僕の気が散るだ。これから、悲愴の第2,3楽章を弾くのに。


「大勢の知らないお客さんの前で演奏するのが、プロだ。一人くらいでビビってたら

どうにもならない。」

父の言葉で、意地になった僕は、構わずに練習を始める事にした。

僕が、同じソナタでも「ワルトシュタイン」でも弾けるなら大音響で、追い出す

のだろうけど。


「悲愴」の第2楽章は、静かな曲と思っていたけど、僕が思うほどでないようだ。

西師匠のCDでは、師匠は、普通のpで演奏し、ことさら遅くもしていない。

右手はクセモノの音形だよな。右手の比較的力の弱い薬指と小指で旋律。

親指と人差し指で、伴奏。

右手の旋律は、大きくだせばいいってもんじゃない。ここもpあそこもp。

全体にpの曲なのだ。

しかも、旋律にスラーがかかってるし・・まず、右手だけリズム練習で。

途中出てくる 左手の和音は、ツブをそろえてと。。。

途中、creseがでてきて、rf rf ときてやっとfp。

すぐ、pに落とさないと。

僕は、部分練習を途中入れながら、弾いていく、そこで父の横槍が入った。

・・だから、イヤだったんだよ・・・


「裕一、そこ、creseが急すぎ、fもこの曲にしたら強い。ロマン派じゃないんだから」

「ああ、44小節のところ」

僕は、数小節前から弾きなおした。


「pに落ちきってない。。ppの所だけど、左の三連符は聞こえるように出す」

「・・・はい・・」

うん、教えてもらってるのだから、ありがたく思うようにしよう・・


「そこ、右手のリズムがあざとい。もっと軽く」

三連符にスタッカートがついて、かつ、最初の二つの音はスラーでつながってる。

・・ベンちゃんも、面倒な事考えるよな。まったく。


「最後の4小節は、物語が終わるのだから、もっと説得力のある音で」

「それって、どう弾きゃいいんだよ?」僕は、ちょっとキレた。

「そんなの自分で工夫する。とにかく今の終わりじゃだめだな」


うmmm。ちょっとritかけようか。音の大きさを変えて、

ちょっとオーバーに抑揚をつけてみた。

「だから、ロマン派の弾き方じゃないって。あまりオーバーにしない」

・・参った。もう一度弾いて OKが出た。

教えてもらったのには、感謝だけど、何か符に落ちない。

「じゃあ、最初から」


(あんたは、俺のピアノの先生か!!と心の中で毒づきながら最初から弾く)

今度はダメダシされなかったけど、曲が終わったあと、”こことここと、

ここがよくない”と楽譜を指しながら注意された。

”よくない”って言われた所には、自分でも何が悪いかわかった。


そんなやり取りを、3度やりながら、途中で止められながら、僕も父に反抗

した。僕はこう弾きたいってね。

結果、2時間練習に父をつきあわせた格好だ。

10分休憩する事にした。父はあいかわらずソファでゴロ寝してる。

ダボダボのジャージにTシャツ。頭はボサボサ。家にいる父親って、こんな格好

してるのかな。友達には見せられない父の姿だ。


父にもコーヒーを入れながら、僕は聞いた。

「父は、指揮者で、専攻した楽器はフルートだけど、ベートーヴェンのピアノソナタ

よく知ってるんだ。ちょっと意外」

ゴロ寝から起き上がった父は、頭をかきながら

「あのね、指揮者をなんだと思ってる?ベートーヴェンは、いろんな曲を楽譜を

みながらCDで勉強した。なんたって楽聖だ。それにかぎらず、いろんな作曲家

の曲を聴く。アナライズする。そうしないと、いざ指揮のスコアを見て、

面食らうからな。作曲者についての研究本も読んだぞ。作曲者の家族や本人の手紙とかな。

棒ふってりゃいいってもんじゃない」


僕は指揮者の事は、よく知らない。自分のピアノの事でせいっぱいだったから。

さて、練習に戻る前に父を音楽室から追い出すか。

練習を見て欲しいきもするけど、東京から帰ってきた父も、さすがに疲れてるだろう。


「父、そろそろ寝たほうがいい。疲れてるでしょう?」

”僕を何歳だと思ってるんだ”って顔してるけど、頭に花のさいたようだけど、顔は、

疲れて、ちょっと目がへこんでる。


「かあさんとの知床旅行。楽しかったよ。見て、ツーショットで写真も撮ったんだ」

それは、フレペの滝を後ろに撮った写真で、滝はあまり写らず、青い海と空だけ

と僕とかあさんが映った写真だ。

それを父にみせびらかした。


「お前、こんなうらやましい事を、父親をさしおいて・・その写真、寄越せ」

この写真、あげるよ。だから、お休みなさい。まあ、レッスン代のかわり。

僕は父親を寝室に追い立てた。父も疲れてはいたのだろう。すぐ、いびきが聞こえた。


レッスン形式で教えてくれるのなら、音楽室の取り合いにもならないな。

でも休暇できてる父は、”休み”にはならないか。

どうしたもんか。さて三楽章の練習だ。

1時間はあっという間だ。祖母に言われる前に僕も引き上げた。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-





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