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ピアノソナタ「悲愴」

次の週末は、又、釧路に行く事になる。

八重子先生のレッスンがあるから。山のような課題は、まだ、さらいきれてない。


まずは、暗譜。ベートーヴェンソナタ七番。

リピートありで、もう一度確認。2度目の時は、若干、弱めに。

1楽章のfとp、スタッカートとレガート。


最後のチェックポイントは、1,34 と2 楽章の明暗の差だ。

気分をキッチリ変えないといけない。


次は、モーツァアルトソナタ19番。

ショパンのエチュードに比べると、断然、テクニックは易しい。

思ってる通りに音が進んでいくけど、でもどうも自信がない。



次は、ショパンのエチュード「エオリアンハープ」

僕の楽譜には、曲の前に練習方法が丁寧に書いてあった。

この曲を弾くための練習パッセージが、いくつか書いてあった。

どのパッセージも、ひとつずつこなしていく。

そんな練習をしてるうち、本体の曲の方は、出来ずに終わった


夜の練習時間は3時間にしている

それ以上は、手に負担がかかる。もちろん、1時間毎に5分休憩を入れる

朝は、なるべく1時間。学校から帰ってきて、夕飯までの間は、1時間出来るかどうか・・

部活が少し、スケジュールが楽になったので、最近はなんとかなってるけど。

ただ、これは僕の理想であって、実際は、寝坊したり、勉強に時間をとられたりで

5時間、きっちり、毎日出来てるわけじゃないけど。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

あっという間にレッスンの日。結局、ソナタ「悲愴」の譜読みは1楽章だけで

終わった。全道大会の日の夜、夏風邪にかかり、

僕は、熱を出して寝込んでしまった。次の日も風邪が治らなくて学校を休んだ。


今回のレッスンは、不出来と言われても、しょうがない。

ソナタ七番の暗譜は出来ていたので、この曲は終了となった。


モーツァルトのソナタは、八重子先生は微妙な顔で聞いていた。


「うmmモーツァルトって、易しいから、かえって難しいもんなのよ。

譜面は易しく見えるから、パっと終わらせてしまう人もいるけど、そうすると

底の浅い演奏になりがちなのよね。

裕一君、試しに、もう少しこの曲を弾いてきてみて」



「エチュードは、後一歩ね。テクニックは出来ているし、手に余分な力も

入ってないようだから。気をつけてテンポアップしてきて。ロマン派の曲だから

もうちょっと自由でいいよ」


悲愴は譜読みは1楽章だけですと、先生に断ってから弾いた。


「1楽章が、難しいのよ。どんな曲でも。例えば交響曲でもそう。

だから、譜読み終わって、基礎練習で弾けない所をクリアしながら、

1楽章をしっかり練習してきて」


その後、それぞれの曲に、くわしい注意とアドバイスをもらった。

エチュードは自信がなかってけど、それほど注意をうけなかったな。

その後、東京の西師匠の話で盛り上がった。


「2週間後だっけ?東京へ行くんだよね。先生に「悲愴」を弾いてもらうといい。

先生の「悲愴」は、すごいのよ。びっくりすると思う」

八重子先生の言葉でその事を思い出した。

飛行機のチケットとらないと、ウッカリしてた。


八重子先生とのレッスンは、規定の1時間を30分ほどオーバーし、

僕は、ダッシュで停留所へ向かった。列車の中で、「悲愴」の1楽章を頭の中で

さらいながら、東京でのレッスンに間に合うように考える。

2週間で全部仕上げるのは無理だな。1,2楽章をみてもらうか。。

・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

家に戻ると、ばあちゃんが、僕には嬉しいのかウザいのかわからないニュースを

聞かせてくれた。

かあさんと父が、8月にこの家に休暇で帰ってくるそうだ。

きっと父と音楽室の取り合いになる。ちょっと、そこは憂鬱だ。

父からは、かあさんの事を細かく聞かれるだろう。

知床に旅行に行った時の自慢をして、写真をみせびらかそう。ふふふ


家に戻ると、気が緩んだのか、夕食前にうたた寝をしてたようだ。

また、風邪がなおりきってないのかな。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

体調今一の時なので、1曲集中。今夜は、「悲愴」の2楽章。

前に、ネットで、この2楽章を ”明るく元気よく”弾いていた人の動画をみた。

2楽章は、ひたすら静かに、あきらめの境地 っぽい演奏が多いので、

僕は、びっくりした事がある。

考えてみれば、初期・中期・後期とベートーヴェンの人生をわけると、

まだ初期の最後のほうの作品だから、まだベートーヴェンは若い。

どういう気持ちの2楽章なんだろう。

練習が終わり、僕は、俊一叔父のチェロと一緒に弾きたくなった。


「聞こえる?俊一叔父さん。サン・サーンスの「白鳥」の伴奏を弾くから

チェロを弾いて。叔父さんのチェロの音が聞きたい。

僕は何もない空間に向かって話し、すぐ、楽譜をとりだし、「白鳥」を引き始めた。

チェロの音が聞こえてきた。静かな曲は、夜の練習の最後の曲、歩美ちゃんへの曲に

ふさわしい と思った。


叔父の音はやはりいい。あっさりしているけど、優しい音で、クライマックスでも

派手にはならない。控えめだ。

途中から叔父のチェロの音と一緒に、若干音程のずれた音がはいってきた。

歩美ちゃんが、一緒に弾いていた。嬉しそうに。曲の終わりは名残惜しそうに。

曲が終わる一歩前、ピアノ伴奏だけになった時、見ると歩美ちゃんの姿は、

なくなっていた。

今回は、空に上がる所を見なかったけど、俊一叔父の本当に嬉しそうな顔を見ると

すぐ、彼女が天に帰ったんだとわかった。


その夜、夢の中にベンちゃんでなく、俊一叔父が出てきた。夢の中で叔父は

”「白鳥」の伴奏を弾いて、歩美ちゃんを送ってくれてありがとう” と僕に言っていた。

”叔父さんは?僕に他に出来ることは?”と話そうとしても声がでない。

「叔父さん」という自分の大声で目が覚めた。目が覚めるとピアノ室の床で転がって

寝ていた。ちょっと寒さを感じた。さすが北海道。夏も油断ならない。


ソファに座りなおし、俊一叔父の望みはなんだろう。

なんて考えてるうちにまた寝てしまった。で、朝、ばあちゃんに怒られた。


「まったく、また夏風邪を引くじゃないか。お前はやっぱり父親似の馬鹿なのかね。

今度、寝る時間になったら、強制的連行だよ」

「ごめん。ばあちゃん。昨日、歩美ちゃんが天に帰ったみたいだよ。」


ばあちゃんは、ニッコリ笑って

「そのようだね。あの子は本当にチェロ好きのようだから、天国に楽器を持って

いったかもしらんね。

でも、それとこれとは別、ピアノ練習時間と寝る時間、きっちりわけないと

どっちも中途半端なままになるよ。」


ほんとにばあちゃんの言うとおりだ。

僕は、二度も夏風邪を引く馬鹿だった。その日一日、学校で鼻をグスグスさせてた。

教室で、寒いので厚着してた。

休み時間、白井先輩がやってきて、そんな僕を見た早々爆笑した。


笑いをとるための厚着じゃあないんだけどな・・









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