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練習、練習、また練習

ロンドンから東京、釧路と飛行機を乗り継ぎ、車できた母は、かなり疲れてるだろう。

僕は、夕方、町内の摩周温泉へ行くことを母に提案した。

母の荷物は客間に、そして大切なバイオリン、アマーティは、この音楽室のチェロの隣に。

母は祖母と一緒に庭にでている。庭の花の説明をしてるようだ。指さしながらオシャベリしてる。庭は決して広くはないけど、曲がった小道に途中アーチが置かれ、小さなベンチもある。アーチは、朝顔に覆われてる。母には見えてないらしいが、僕はピアノを弾いてる時、偶然、外を見、庭で 何かぼーっとした人影のようなものがベンチに座っていたり、木の上に人が座っていたり、ホラーチックな人々(?)を見たことがある。祖母の庭に癒しを求めてきた人々(?)らしい。放っておいても、自然に溶け込むようにいなくなるそうだ。


温泉に入って体の疲れが少しはとれたかな?

夕食は、先日、釧路の伯父くれた魚や貝などの海の幸に、地元の野菜を取り入れた、考えようによっては、豪華な食事になった。母は大満足のようだった。体重、もとに戻るといいね。次の日、祖父が母を摩周湖に案内した。ちょうど観光シーズンなので、摩周湖へは、途中から専用のバスに乗り換えないといけない。部活は、部長に携帯で、「僕、まだ摩周湖みてないんです(泣)」と、泣き落としで休みをとった。

摩周湖は、美しかった。本当に。母も喜んで何枚も写真を撮っていた。それと、札幌からここまでは、3時間もあれば、つくと母は地図を見て思っていたらしい。


母に一日中つきあったのは、この二日間だけ。

僕は部活だ。母は、せっかくの休みなのに なんて言って来て、ちょっとだけウザイ。

そう感じたのが、実は、初めてで、やっと級友達の ”親がうるさくってウザイ”ってのがわかった。ウチは東京では、放任もいいとこだったから。

部活は、いろいろ仕事が溜まっていた。青野著、他の部員の練習記録は、まだ暗号のまま溜まっていた。(うちでパソにいれなおさないと。)部員の体調と、足の調子とかもチェック。障害で使うハードルなどの器具類もチェック。普段出来てない仕事を夏休みにしておかないと。夕方、遅く家に帰ると、祖母が困り顔で僕を迎えた。

「春香さんが、昼ごはんも食べないで、音楽室に篭もったままなんだよ。庭からチラっとみるとバイオリンを練習しててね。ちょっと声をかけてくれるかい。どうも私には声がかけづらい雰囲気で」祖母はそういうと夕食作りにもどった。


母はまだ練習していた。横には祖母が差し入れたらしいお握りがお皿に置いてあったけど、手つかずだった。僕は声をかけたけど、母は気がつかない。そこで、練習してる母の前に立ち「母さん、夕食の時間!」と大きな声で言った。

やっと、あ!という顔で練習をやめた母は、同時に倒れこむようにヘタった。楽器だけは、ちゃんと保持してあるが。いくらなんでもやりすぎだろう?何時間練習したんだ。母に練習のしすぎで腱鞘炎になったらどうするんだとつめよると、母は、どうしてもバッハのシャコンヌで上手く弾けない所があってと、言った。

バッハのシャコンヌは左手だけで3つの旋律を弾きこなさないといけない。ピアノでもバッハは難しい。奥が深いのだ。母さんは、奥に入り込んで、ぬかるみにはまったってとこか。

「裕一、ここの所、ちょっと聞いてくれる?」

「やだよ、お母さん、もう夕食の時間、いい加減切り上げないと」

「あとちょっとなのよ、ちょっと」

「だめだよ。体、壊しちゃうよ。さあ、行くよ」

そんなやりとりをして 僕はバイオリンを片付け、母の背中を押して居間に行った。

夕食のを食べる前に、母の凝った肩を揉んだ。斜めに構えるせいか、バイオリンは肩がこる楽器なんだそうだ。

母は、肩の凝りがとれてやっと夕食に手をつけた。今度は食べだしたら止まらなくなった。

やれやれ、一度に多く食べ過ぎて、具合が悪くならなきゃいいけど。

「裕一、夕食がすんだら、ちょっとあの部分を聞いてみて」母さん、休暇なのに、練習は休まないのは当然としても、そこまでするのか。「母さん、バイオリンは、僕が聞いてもわからないよ。でも母さんなら、こんな有名な曲、弾けてるだろう。そんなに根つめたら休暇じゃないじゃん」僕は母を説得にかかったけど

「そう、前は弾けてたけど、今、弾けるとは限らないじゃない。ちょっと間があいてしまった曲だし」母さんの”死ぬほど練習”を、ちょっとかいまみたような。それでも、

「だめだよ。明日また練習すればいい、でも今度は時間を決めてそれをちゃんと守って。休暇中だからその練習も控えめに。そうでないと体重、もとに戻らないよ。コンサートにむけて体力補強しないと。後で練習メニュー見せてね。僕も参考にするから」と、

僕はすっかり陸上部のマネージャーモードだ。

やっと母は納得して、そして急に疲れがきたのか、僕より先に、休んだ。

やれやれ、僕は、”鬼のマネージャー裕一”には、なれるかもしれない。


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