よびだし
白井先輩のくれた曲集(伴奏譜)は、初心者用の聞き覚えのある曲ばかりだった。
僕は、ピアノで伴奏部分を練習しながら、時にはメロディ部分も弾いたりしてみた。
どれでもいいと言っていたけど、先輩は、全部、やりたそうな雰囲気だった気がする。
白井先輩との噂はそのままだった。僕はクラスの男子の厳しい視線に耐え、授業中、時々頭にあたる紙屑に耐えながら、授業を受ける毎日だった。
そんな時、3年の知らない先輩から呼び出しを受けた。きっと白井先輩の事だ。何かイチャモンをつけてくるか、いきなりボコられるか・・・脇坂と青野が心配してついてきてくれた。まあ、逃げ足なら3人とも自信はあるが。
その3年は森田先輩とそのほか数名。最初から険悪な雰囲気で彼らはやってきた。
「よう、上野君。1年のくせに俺達のマドンナの恋人だって?信じられない。何か、汚い手を使ったんじゃねぇ?親の借金のカタに恋人になれとかなんとか・・」
・・・先輩、古すぎ、時代劇じゃあるまいし。僕は気をわず事実を淡々と説明した。ジョギングコースで何度かで会った事、白井先輩は僕がピアノを弾けるのを知って、伴奏を頼んできたこと。言ってみると、本当にそれだけなのだ。それが、なんで”恋人”にまで噂が昇格したのだろうか。
森田先輩ら一同は、本当にそれだけなのかとしつこく聞いてくるので、それじゃあ、一緒にジョギングしましょう。白井先輩と一緒に走りましょう。と僕が誘うと、なにやら急に先輩らはもじもじして、黙ってしまった。ああそうか、彼らは白井さんファン倶楽部の面々で、直接話すのも恥ずかしい純情君たちだ。僕はホっとした。ヤンキーでなくてよかった。そこへ、陸上部を引退した3年生の三井先輩と安部先輩だ。話しを聞いて心配してきてくれたんだ。
「だから言ったべ、このヤマは実はすごいヘタレなんだ。きっとスタートの合図でビビって、こけたりしたんだろう。白井先輩をくどくほどの度胸も勇気もない。」と二人の先輩が口々に釈明してくれた。その釈明、僕には嬉しすぎて涙がでるよ・・・はい、僕は緊張症のヘタレです。どうせなら、そっちのほうが噂になって広まってくれたほうが、僕は気が楽だ。森田先輩らは、「言われてみれば本当にそういう顔だしな」と納得顔。
僕の学校内での評価は、決まったな・・




