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僕のピアノ・・受験日

いよいよ実技試験当日。僕は午後の一番最初のグループ。


朝起きたときから、もう僕の緊張は、始まってた。

曇り空の天気だけど、雪は降らないだろう。暖かいし。

それでも、早めに行くとつもりだ、


朝食は、山崎特製。といっても、お味噌汁と目玉焼きだけ。

おなかがすいてるはずなのに、食べることができなかった。

もう、ドキドキ、心臓が速くなりだした。

「大丈夫だ。試験で殺されることはない。朝、食べられないなら、ほら、

お握り作ったから、いま、一個食べて。」


おにぎりがきいたのか、僕の心臓は、少し落ち着いてくれた。


「この調子で緊張してたら、かならず、エネルギー切れになる。なんとしてでも、

お昼は食べろ。一気に食べなくていいから」

と、おにぎりを2個くれた。ありがたい。

僕、一人だったら、朝は抜きで、昼はコンビニのおにぎりを食べることができるかどうか。

山崎がいてくれたおかげで、僕は少し緊張もやわらいでるききがする。


大学へ向かう電車の中では、いやなことばかり、想像してしまった。

中学生の時、コンクールで緊張のあまり倒れてしまった事。

これを、大学受験でもやらかすと、笑いのレジェンド決定かも。

あまりに情けないだろう?


実技試験を待つ間の控室は、手が冷えないようにと、暖かかった。

おにぎりを、一個食べる。お茶はペットボトルのを買って持参した。

おなかに食べ物がはいったせいか、少し落ち着いた。

周りを見てみると、緊張してるのは、僕だけじゃなかった。

楽譜を見直してる子、モデル演奏を聴いてるらしい子。ただ、頭を抱えてるだけの子。

中には、具合が悪くなり吐きにいった子もいた。

みんな同じなんだな。


僕は、陸上の林先輩の言っていた”緊張してる自分を楽しむ”って芸当は、

試したけど、とうとうできなかった。

ただ、”ああ、僕、いま、緊張してるんだな。脈がはやい”って冷静に認めることだけは

出来てる。林先輩の言葉を思い出すと、高校のいろんな思い出が頭に浮かぶ。

”あの時、猛練習していたら”・・とは思わない。あの時間も僕には必要だった。

陸上部は、マネージャーを必要としてくれたけど、僕にも陸上部が必要だった。

そこで僕は、ピアノのテクニックじゃなくて、人付き合いのイロハのイの部分を

教わったと思う。


ピアノを始めてすぐのころは、人外のいわゆる”幽霊”が見えてた。

そうだ。最初に会った若菜ちゃんには、「キラキラ星変奏曲」を弾いたっけ。

俊一叔父(幽霊)の伴奏もした。

天に帰れない魂のためと思って弾いてたけど、満足してくれると、僕もうれしかった。


唐突に思いついた。

ピアノの練習は孤独でつらいときもあったけど、いつもささえてくれる人がいたんだ。

祖父母、山崎や脇坂、八重子先生はもちろんの事、陸上の先生・先輩方、クラスメート。

アドバイスをくれた釧路5人会。認めるのはシャクだけど、父さんと母さん。


僕のピアノは、いろんな人に支えられてるんだ。

僕はもっと僕のピアノを信じよう。


ああなんて、こんなに摩周での3年間の思い出が 次から次と出てくるんだ?

もしかして、これって、”死ぬ前の人生の走馬燈”ってやつ?

ふと、父が、悪霊になりかけた男の反対方向を向いて、説教をつづけたことを、

思い出した。僕はピアノを弾かないと見えなかったけど、祖母は”見える人”で、

腹をかかえて、笑ったっけ。あの父の姿は、何度思い浮かべても笑える。


僕の心臓は、僕が高校のときの事を思い出す間に、すっかりおちついてくれた。


僕を含めて5人呼ばれた。この5人の中で僕は3番目。

もう、何番目でもいい。僕は僕のピアノを演奏しよう。

それしか出来ない。自分のいつもの演奏ができるように。それだけ考えて。



「51番、上野祐一君」


係の若い女性が、僕の名前を呼んだ。






ご愛読、ありがとうございました。続編・番外編を考えておりますが、いま、資料を準備中ですので^^;しばし、お待ちくださいませ。また、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  読みました。  一年近くかかったと思います。  ゆっくりで申し訳なく思っております。  大作でした。  私にとってはほんとに素晴らしい作品で、自分もこういう作品が書けたらと、読みながら…
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