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横田君の悩み その2

僕は、横田君の話で、自分の過去の事をふりかえってみた。

自分と少し似てるところもあったから。


横田君はノイローゼ一歩手前のようだけど。


”僕はちょっとした事で本番でピアノを弾くのが怖くなった。

周囲の人の陰口に、自信喪失して学校へ行けなくなった。

死んだ俊一叔父の姿が見えるようになって、おじいさまを怒らせた”


今、考えると、”部屋に引きこもるほどか?”って思うけど、当時はつらかったんだ。

同級生や周りの生徒に笑われてるようで。

そこを、おじいさまは、病院へ入れるっていう提案。おじいさまは、

病気を心配していてくれたんだ。

父は自分の父母、つまり摩周の祖父母の元に僕を預けることになったけど。

そこでも、僕は転校先の中学校に行けず、あいかわらず引きこもってた。


さすがに、横田君は引きこもりまでいってないけど、自信喪失は僕より

ショックの度合いは大きいかも。芸大確実って自分でも思ってたんだろうから。


「横田君、僕も一時、ピアノをやめてた時期があって、その時は学校へも行けなかった。

あの時、つまづかなければ、僕は順当に音高にいき、大学進学も今より楽だったかも。

あの時期の事を思い出すと、ウワーって叫びたくなるくらい恥ずかしい。

でも、今は、”あの時は、僕に必要な時間だったんだ”っとも思える」


言葉では易しいけど、僕は落ち込んでる時には、誰のアドバイスも耳に届かなかった。

そんな僕の経験だけど、横田君に少しでもやくにたつといいけどな。


「裕一君は、なんのためにピアノを弾いてる?」

横田君の質問を僕は逆に横田君に聞いて見た。

「僕は、ただピアノがちょっと好きかなって思ってたら、あれよあれよという間に、

母親がピアノのレッスンをいれて、それからは練習一筋。

中学校の時も高校の時も、練習ばかりさ」


英才教育か・・・ピアノは指を使うから、いろいろ制限がある。

例えばバスケなどの球技は、僕も見学してた。指を怪我するのは致命的だから。

その分、部活では陸上部のマネージャーで、楽しくやってたけど。


「横田君は、中学・高校とピアノ以外にどんな事をしたかったんだ?」

僕は、その時にしたい事、もしくはしなければいけない事を

してただけだった気がする。


「僕は、それが、自分でもハッキリしないのは、残念。部活でも入っていれば、

もっと楽しかったかなって。」


横田君は、ピアノ一筋。そして才能もあった。だからこそ、芸大に合格できると

言われてるんだ。ましてや演奏家として活動するためには、高校生の時から

コンクールに出て、実力をつけていかないといけない。

もちろん、学生時代、いろんな活動を楽しみ、なおかつ、演奏家としても売り出し中

って人もいるけど、例外中の例外だ。


受験勉強、頑張ったけど、途中、ピアノを休んだ僕は、例えば、国際コンクールとか出る事は

ないかもしれない。それでも、上をめざしてやっていく。


「横田君、少し、ピアノを休んでみる?大学にはいっても休学して。

ピアノから離れたら、少し楽になるかもしれない。」


と、言いつつも、彼は辞めないだろうという確信が僕にはある。

弾かずにはいられない。弾くからには上をめざしたい。

そういう生活をしてきたんだろうと思うし。


横田君は、顔が細くなった。ちょっと文学青年っぽい。

湯飲みを置き、苦笑いしながら

「案外、裕一君も意地が悪いな。僕が辞められないってわかってるんだ。」

「そこはね、バレバレだよ横田君。お互いさまさ。”ヘタクソね”とか”ヘボね”と面と向かって

言われても、はいそうですか って辞められるもんじゃないだろう?」

「はい、その通りでございます。ははは」

横田君は、初めて声を出して笑った。ちょっと自嘲気味だけど、今日みた顔の中で

一番明るい顔だ。


自分を批判・中傷する声が、実際に聞こえるようになったら、病院へ行ったほうがいい

と、横田君に一応、念をおした。

演奏家になってから、心を病み、苦しむ人も少なくない。

そういう事を僕が知ってるのは、音楽関係の雑誌のインタビュー記事で 見たりするからだ。

心の病を克服して、音楽に復帰する。そうやめられない。


なぜかって、音楽が大好きだからに決まってる。


横田君が少し落ち着いた所で、僕はお願いを聞いてもらった。

お互い、5人会では、お互い、演奏して聴きあって勉強してたけど、

今回は、受験曲を弾くので、横田君に試験官役をお願いした。

よろこんで、引き受けてくれた。


「ところで、飛行機の時間は?」

「いや、今日はホテル泊まり。母親も一緒さ。方向音痴のクセに一緒に来ても

しょうがないって言っても。心配だからって聞かなかったんだ」


そういえば、うちの母さんも、並外れた方向音痴だ。羽田空港で迷うくらい・・

方向音痴は女性に多いのかな。


その後、僕は本番のつもりで受験曲を弾いた。







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