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不眠気味の脇坂

夜、僕はさっそく、練習時間の半分を使って、自分の演奏の録音を聞いてみた。

一人なのに恥ずかしくて、手で顔を覆った。


ひどい演奏だ。特に高2の時のは、タイムマシンで、その時に戻って

演奏中の自分をポカってやりたいくらいだ。何考えてたんだ?って弾き方。

無造作に和音をひいたり、ニュアンスをつけないで棒弾きの所があったり。

それでも、今年の春くらいからか、すこしずつ よくなってる気はするけど。


それにしても、レッスンの録音して聞いて復習するのは、毎回の事だったのに。

なんで今まで、この”ヘタヘタ演奏”に気がつかなかったんだろう。


いつの間にか、山崎が入ってきていた。練習しないでヘッドホンで音楽を聞いてる

僕を(時々、おかしな行動をとる)見て、


「何してるんだ?ばい菌が頭にでも入ったのか」

「いや、自分の演奏を聞いて、恥ずかしくて死にそうになってるところ」


そんなもんかって不思議な顔をする山崎。

そういえば、最近、英会話の勉強をしてるので、山崎にテキストの会話文を一人で読ませ、

録音してみた。もちろん、役になりきって会話らしくないとダメだよと、念を押して。

実際に似たような体験をしてもらうのが一番だ。

山崎に自分の一人二役の英会話の録音を聞かせると、

案の定、頭をかかえて、もだえてた。


「うぉ~まじこれ・・俺、もっと上手だと思ったけど、はずすぎだ」


そう、自分の思ってるよりヘタなんだよ。恥ずかしさは共有しような、山崎。


自分の演奏が、思ったよりヘタなのは、たぶん、頭の中で理想とする音を

イメージしながら弾くので、バイアスかかって、自分には上手に聞こえるんだ。

僕は、もっと冷静に自分の音を聞かなければいけないんだ。


練習で疲れたというより、精神的なダメージ大きすぎで、ダウンしてしまった。

夢ばっかり見て、朝、起きてもボーっとしてた。

夢の中で、ひさびさに、3頭身のベートーヴェンことベンちゃんが出て来た。

{ふん、若造が・・何度も言ったのに}と 僕は襟首をつまで、

ピアノの譜面台に座らせ、僕は練習を続ける。ベンちゃんはそこで文句を言い続ける

 という変な夢だ。

ー・-・-・-・--・-・-・-・--・-・-・--・-・-・--・・-・-

「おや、今朝は二人そろって、さえない顔をしてるね。ほら、特製のドリンク

ホットにしたよ」

ドリンクって、ばあちゃん、これ青汁じゃん。ホットでなんか無理。

”飲むまでは家を出さないよ”と脅され、山崎とトホホな顔で飲んだ。

う・・抹茶だこれは、飲めないはずはない と自己暗示をかけ、なんとかクリア。


学校で、今朝飲んだ ホット青汁について青野と話した。

これからの季節、陸上部ペナルティドリンクにぴったりだと、青野は喜んだ。

「あまりの飲みづらさに、部活をサボル部員続出間違いなしだよ」

「いやいや。テストの結果が悪かった奴用のドリンクだ。少しか、

必死になるだろうさ」


「そのホット青汁、目が冴えますか?」

脇坂も興味あるらしい。目が冴えるし後味も悪いし、しばらく眠気はこないだろう。

でも、今の脇坂には必要じゃないきがする。顔色が悪い。

「脇坂、その顔色じゃ、寝不足じゃない?ホット青汁はおすすめしないよ。

ホットミルクか何かで、ゆっくり寝た方がいいと思うけど」


脇坂はうなだれて「眠れればいいんですけどね。最近、寝付きが悪いんです。

眠れない時間、もったいないです。いっそ起きて勉強しようかと・・」

ノッポの脇坂が小さく見える。

また、何か考えすぎてんじゃないか?


「今日、放課後、陸上部の練習にちょっと参加してみようか。

引退したけど、いっしょにランニングするくらいなら、かまわないだろう」

疲れてるし。。と渋っていた脇坂を、強引に連れていった。青野も途中で合流。

ひさびさの3人揃ってのトレーニングは楽しかった。

でも脇坂は、やっぱり本人の言う通り、体調が最悪だったんだ。ランニングも最後尾で

しかも、途中でリタイヤした。意地っぱりな脇坂が、途中で根をあげるなんて、

よっぽどの体調だったんだ。


「悪い、ごめん、無理強いしちゃって。少し体を動かせば、熟睡できるかと

思って・・おわびに、今日、ウチで晩御飯食べてけよ。

心を込めて、ばあちゃんが作るからさ」

脇坂は、何か言いたそうだったけど、もう強引にひっぱっていった。


「すみません、急にお邪魔しちゃって。」

縮こまる脇坂に、ばあちゃんは、脇坂の顔を見て、ちょっと心配顔だ。

夕食は、高3男子にとっては、物足りないおかずだった。

サンマの塩焼き、ほうれん草のおひたし。煮物に味噌汁。

男子の好物のから揚げのような肉がなかった。

でも、脇坂はおいしそうに食べてる。食欲は落ちてないってことは、

ノイローゼとかでもなさそう。ちょっとだけ安心した。

夕食後は、僕はピアノの練習。脇坂は少し山崎と英語の勉強をしてから帰るはず

だったが、よっぽど疲れてたんだろう。勉強の途中で脇坂は寝てしまったそうだ。


あわてて、脇坂父に電話するも通じず、不眠気味だという脇坂を起こすのも、

忍びなかったか困った祖父は勤め先に伝言を頼んだそうだ。



朝、脇坂と 山崎も巻き込んで、3人で軽くジョグ。

風はないけど空気が冷たい。顔と手が冷たくなっていく。

もう外でのジョグは無理か。


次の日、

「おかげで昨日もグッスリ眠れました。

運動不足が、不眠気味の原因だったのかもしれません。

すみません、裕一のところには、迷惑かけっぱなしで」

謝る脇坂は、それでも晴れ晴れとした顔だった。


「すぐ、治ってよかったよ。まあ、僕も前の日は睡眠不足でさ。」

と、その原因になった 自分の演奏を聴く事から、山崎の英会話の件まで

話して、盛り上がった。

「英会話もいいですね。受験勉強には関係なくもない微妙な所ですが。

今度、僕も山崎と一緒に練習します。裕一は?」


僕は無理無理。今ちょっと練習も停滞気味で進まないんだ。

譜読みが遅くなった。”ここはこういう音でいいんだろうか”

って考えながらの試行錯誤が多くなったのだ。




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