黒歴史を振り返ることができるか
明日は八重子先生のレッスン。
ベートーヴェン ピアノソナタ 「告別」の練習とショパン エチュード
25-10、
「ヴァルトシュタイン」は、まだ1楽章の譜面読み。
どうしても、あせってしまうんだ。メトロノームをかけて練習してるけど。
意欲と活気に満ちた曲、音形のせいもあるだろうけど、先を急いでしまう。
山崎が来た。
使いすぎた目をコスリながら、コーヒーを持ってきてくれた。
山崎に、”僕の黒歴史” 今日、話そうと思う。
正直に告白すると、山崎は僕を軽蔑するかもな。
精神的ショックで引きこもりしてたとはいえ、食事も暖かい部屋も衣服も不自由なかった。
そういう点では、お坊ちゃま だった。”甘えてる”といわれてもしょうがない。
山崎はもう僕にとって家族同然。
彼に、僕の”引きこもり時代”を知っていてほしい。
このままだと何か、秘密を抱えてるきがして、少し後ろめたいんだ。
で、山崎に話を切り出した、実はと。。
「僕さ、中学3年の後半くらいから学校へ行ってないんだ。
行けなくなった。クラスや学校中の人が、僕を嘲笑ってる気がして。
で、年があけて、こっちの中学校に転校してきた。
それでも、保健室登校ってやつ?それでなんとか卒業だけはさせてもらった。
本当にヘタレだったんだ」
経緯だけ簡単に話したんだけど、僕は、あの時のつらい気持ちや状況を思い出し、
知らず知らずのうちに頭がうなだれてたらしい。
山崎が、手をあげて僕の話をとめた。
「ストップ。裕一。顔色が悪い。その話はもうするな。
話し出した途端の、裕一のこの落ち込み様。2年以上たつのに。
そんな事は、受験前は、心のどこかに棚上げしておいたほうがいい」
山崎に知っておいてほしい反面、思い出したくないんだ。まだ・・・
思い出すと、ドツボにはまるかもしれない。
飲みかけのコーヒーをおいて、僕は音楽室を片づけた。
「裕一が俺と同じ中学の出身ってわかっただけでも、うれしいさ」
山崎が、お盆をもってドアを閉め、その夜は、それでおしまいにした。
ー・-・-・--・-・-・-・--・-・-・-・--・-・-・-
八重子先生とのレッスンは、まず、ベートーヴェンのソナタ22番について
どう仕上げたが、報告した。父に”腑抜けたベートーヴェン”と酷評された曲だ。
西師匠とのレッスンでは、”いろんな解釈があるけれども、受験前だから
一般的でオーソドックスな解釈のほうがいいと思う”
という意見で、1楽章は、ちょっとリズミックに活気をつけて弾いた。
「私もね。大学時代、この曲で迷った事あったのよ。
演奏家によって、全然、雰囲気や弾き方が違ったりして。
この演奏がいいと思ってマネして、ダメダシされたりね。
頼りない先生で、ごめんなさいね。私もまだまだ勉強不足だわ」
ソファーに肘をつき、あれ?なんだか先生、ちょっと憂鬱そうだ。
落ちこませてしまった?
「先生すみません。何もわかってないのに、口だけ一人前の生徒で・・」
「あらあら。違うのよ。こういう音楽の解釈について話すのって、
卒業してから今まであまりなかったので、新鮮で楽しかったわ。
勉強はするつもり。講習会とか、西師匠の所へいったりとか。
ただ、今、旦那が体調悪いのよ。ちょっと心配。講習会に出たくても
今は無理、それが残念なのよ」
世間話が長くなったけど、レッスンが始まった。
ショパンのエチュード25-10.
最初、なんだこれ?ってオクターヴのみの進行の曲で、めまいがした。
プロの演奏を聞き、自分でも何度も確かめリズムと旋律を出すよう努力した。
「うんうん、いい。中間部、あまり遅くならない。
遅くなっても、たるんで聞こえるのでは困しね。」
「この中間部からのツナギの部分、最初の主題にもどる2小節前ですけど
ここから、盛り上げていきたいんです」
「それは、かっこいいけど、気持ち前のめりで、でも乱暴にならないように」
うん、問題は曲の最後の部分なんだよな。音形がまるっきり違う。なんだろう。
”一時棚上げ”したのかな。曲の主題は解決せずに。
ベートーヴェン ピアノソナタ26番「告別」は、八重子先生の弾き方は、
僕の思ってるより、抒情的だった。
「最初の3つの音、書いてあるように、歌詞がついてるのよ。”告別”って単語の
最初の三文字。それが、繰り返しでてくる。かくれてる時もあるから、そこを
自分で注意して弾いてみて」
最初こそ、テヌートがついていたけど、他の箇所を見つけては、
”ここだ”と思って弾く。へんにアクセントとかつけるとかえって、浮いてしまう
時もあるので、そこは注意深くだ。
2,3楽章は、連続して弾くようになってる。
2楽章は、不思議な音の展開は”悲しみ”というより”不安”と”孤独”
だろう。題名が「不在」だからだ。
「もう少し、テンポをゆらしたほうがいいかな。この小節」
「淡々と弾くほうが、孤独っぽくないですか?」
「そういうのもありね。ただここは2楽章の山場だし」
「3楽章とのつなぎ目、気を付けて。3楽章にはいったら、気分一新。
でも、音楽はとぎれない。」
符捲りの関係で、2楽章の最後で間があくクセがついたのかな。
きをつけないと。
最後は、ショパンの夜想曲「20番」
西師匠に”ひと皮ある”と微妙な表現をされた曲だ。
「ショパンは、恋多き人だったのよ。リストのような派手さじゃなくてね。
実らない恋 が多かったのかな。」
僕は なぜ自分が恋愛出来ないのか、この間から少し考えてる。
わかるのは、2年の時も受験勉強中の今も ピアノが一番だったんだ。僕にとっては。
そのせいもあるかもしれない




