新学期のクラスで 東京の家で
学校が始まった。
"まだ”休みぼけがつづいてるぞ”と、そうそうに、
数学の教師から説教をくらった。
僕は、”休みぼけ”ではないけど、授業中に半分寝てたかも。。
夜、晩くまで英語と国語とついでに楽典の勉強。
もちろん、勉強の前は、ミッチリピアノの練習だ。
クラスの三分の一くらいは、まじめに授業は聴いている。
大学受験をする脇坂は、もちろん、真剣だ。
後、医療看護系の専門学校受験するやつも。
で、後藤さんとは・・・僕は、きまずくて、挨拶だけになっていて、
今の彼女の勉強の進度具合は、わからない。
前は、英語を教えたりしてたのに、(数学は一緒に勉強か)
ただ、”後藤さんと話せないのが死ぬほどつらいとか、悲しいとか”
そういうのは、まったくないんだ。
その寂しいって感じるだけで。僕は恋愛が出来ない体質とか?
ショパン夜想曲20番は、ショパンが作曲当時、片思いしていて、その苦しさ
や悲しさを曲にしたんだ。僕は、実感できないな。
それっぽく弾けるだろうけど、何かピンとこない。
退屈な数学が終わり、脇坂に僕は声をかけた。
僕の父なみにヒョロっとしたノッポの脇坂。夏バテのせいか、痩せてた。
「脇坂、ちょっと痩せた?勉強のし過ぎとか」
脇坂は、若干曇りのある明るさで
「違いますよ。夏バテもしてませんし、しいていえば、又、身長が伸びました。
だから、痩せてみえるのでしょう。
そうそう、夏休みに父と一緒に、真里亜に会いに行ってきました。
ほら、真里亜もすっかり変わってしまって・・」
携帯の画像を見ると、うん。真里亜ちゃん変わった。
変な言い方だけど、”男らしく”なった。ショートヘアで筋肉のついた手足、
日焼けした顔、体。高校生にしてはりっぱすぎるアスリートだ。
「もともと、負けず嫌いの上に集中力は無駄にありますから、相当、鍛錬
したんじゃないかと思います。
真里亜と、腕相撲勝負をしたんですが、互角でした。」
脇坂父は、”医者は腕と手が命”と、腕相撲勝負をけしかける彼女
から逃げ回ってたそうだ。
青野が、携帯の画像を覗きこんで、真里亜ちゃんだとわかると、びっくり
そして、ちょっとがっかりしてた。
「俺の憧れのお嬢様。名門女子高校生、長い黒髪に ほっそりした体。
この肉体改造は、誰がたくらんだんだ?脇坂、お前か?」
「青野、思い違いです。妹は前から見た目こそ、しおらしかったですけど、
中身は、この姿そのものでしたよ」
「青野、幻想を追うのはやめよう。白井先輩だって、マドンナだけど、性格
男子だったろう?かよわくておしとやかな女子は、絶滅したんだよ」
「いや俺は、おとなしくて優しくて、控えめな子を探す。
”あなたについていきます”みたいな」
うmm。そういえば青野は見事に失恋して、ひどく落ち込んだ時期があったけど、
それ以来、彼女は出来なかった。こういう理想があったんだ。
「青野は推薦、大丈夫ですか?いくら”跡取り”でも、あまりにも内申書が悪いと
学校で推薦してもらえなくなりますよ」
脇坂に言われて、青野は思い出したように、
「脇坂、お願いがあるんだ。夏に数学の課題がでたんだけど、まだ出来てない
部分があって、手伝ってくれないか?」
「推薦入学目指す人のために、学校は”課題”を出したんだ。
まあ、補習でないだけいいけど、青野もノンビリでいいな。」
「裕一、青野君の場合は、大学4年で卒業後すぐ酪農家と
して働く事になります。
しかも酪農をとりまく情勢は、今、危機的状況です。
おそらく、自転車操業どころか、莫大な借金をかける酪農家も多いと思いますよ。」
脇坂の言葉に青野の顔が一瞬、真面目になった(わかってはいるんだな)
クラスの中で、農家・酪農家の跡を継ぐものは、耳をそばだててる。
若干、クラス内の空気が痛いような。。
「まあさ、そこらへんは、なんとかなるべ。今、正直、苦しい経営だけど
大学へ行ってそのあたりの解決策を勉強するんだからな。
農協青年会や婦人会でいろいろ地場産業の掘り起しに必死だ。
副業で収入が増えれば農家もらくだしな」
進路の話をしてるうちに、昼休みも終わり午後の授業がはじまった。
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8月の西師匠のレッスンに東京にいくと、家では、父母と亜里沙さんが
音楽室で、荷造りしていた。
いよいよ、事務所をNYに移すんだ。
「裕一、レッスンは明日だったね。
業者が4時に来ることになっている。練習はそれからなら出来る。」
「で?母さん、身の回りのものは送ったの?」
「全部、ってわけじゃない。少しかは残していくわ。日本でも仕事
が多いしね。向こうでは雅之さんの家は、郊外だから、ちょっと事務所から
遠くなって不便かもしれない」
父の家は郊外にあるんだ。都心のマンションとかだと思った。
父も母さんもちょっとウキウキしてる。新婚さんだな。
亜里沙さん、ちなみに独身、はぁ~とため息をつくと、クビを振りながら
作業を続ける。指定の時間通りにトラックがやっていきて荷物を積んで行った。
音楽室は広くなったような感じだ。本棚の楽譜などがなくなっただけなのに。
夕食は、やっぱりデリバリーで。
いつも寿司だったけど、若い僕のためにピザも追加してくれた。
引っ越し完了慰労会 かな はは。
父母は、北海道を自動車での旅が余程楽しかったのか、
二人で笑ったり、思いで話に花が咲いてた。
そんな二人を見て、僕と亜里沙さんは、シラケて、黙々と食べるほうに専念した。




