上靴の行方
身の回りの物を隠されたり、捨てられたりは、よく聞くイジメのパターンだ。
でも美里ちゃんは、小学校2年生で、暗くなるまで探すのは、どうなんだろう。
暗くなる前に、上級生の女の子に”早く帰って、おかあさんに言いなさい”と
言われたそうだ。美里ちゃんは、僕の祖父母に気兼ねしたのだろ
担任の先生に連絡と報告。
先生も慌てて、美里ちゃんを探してくれていた。
あけて月曜日には、学校内で”犯人捜し”がはじまったようだ。
美里ちゃんの上靴を、奪ったのはすぐわかった。
最近、学校内でも問題になってる”ヤンチャ3人組”の5年生で
低学年をからかったり、いじめたりして、最近、問題になってたそうだ。
「誠に申し訳ない。こちらの責任です。悪い子達じゃないんですけど、
3人、それぞれ家庭内でいろいろある子達で、憂さ晴らしにやった事
のようです。担任も気づき次第、指導はしてましたが、こちらの
力不足でした。申し訳ありませんでした」
祖父は、小学校へ行き校長先生から平謝りされたそうだ。
もちろん、向こうが来て謝るべきところを、祖父が学校内の様子も
みたいしと、出向いたのだ。
3人組とその親も謝りに来たが、それでも上靴は、もどってこなかった。
3人がいうには、”上靴は、玄関の所に置いた” と言い張ってる。
主任の先生が、個別にカマをかけながら聞いても、答えは一致。
答えがでないまま、数日が立った。
上靴の行方は、意外な所からわかった。
水曜日の夜、突然、青野のお父さんがウチに来た。
見知らぬ男の子を連れて。
「いやすみません。姉さん。会合があってね、帰り道で橋にさしかかった
所、この坊主が川を覗きこんでるんでね。暗くなってきてるし、危ないので
注意しようとしたら、橋を乗り越えようとした。慌ててとめて、強引に
車に乗せたけど、何にも喋らないんだ。
姉さんの力でなんとかわかりませんかね」
青野の父さん、ちょっと拉致監禁に間違われないか?
「口をまったくきかないね・・話せないってわけじゃないんだね」
青野の父さんが、この子を止めた時、やめろとか、はなせ とか叫んだらしい。
「仕方ない。警察に行って事情を説明するしかないね」
祖母がそういった途端、その子は、家の中から飛び出そうとした。
僕が、とっさにとめたけど。
「栄子さん、温かい飲み物と、何か食べるもの。おにぎりがいい。
作ってきてくれるかい」と、祖父がリクエストした。
そういえば、この子、顔色も悪いし、痩せてる。着ている服も薄汚れてるような。
最初は警戒してたその子も、お腹の虫には勝てなかったようで、おにぎりに
食べだした。満腹になった頃には顔色も少しよくなっていた。
「喧嘩して家出してきたのかな?」祖父が、そっと聞いた。
「家出じゃない。家を追い出されたんだ。もうお前はウチの子じゃないって」
その子は、即座に答えた。
「名前がないと呼びづらいから、下の名前だけ教えてくれるかな」
「健吾」
「そうか。ありがとう。健吾君。親もね、ついカっとなって、
言ったのかもしれない。今、心配してるだろうから、連絡だけ
したほうがいいよ。遅くなって帰りづらいなら、おじさんが送って
一緒に、謝ってあげるから。ね」
健吾君は、黙っていた。祖父も周りの皆も、美里ちゃんも、沈黙した。
しばらくして、やっと健吾君は口を開いた。
「僕は、・・・僕は川に飛び込んで死ぬつもりだったんだ。
このおじさんに邪魔されなければ、死んだばあちゃんの所に
いけたのに」
と恨みがましい目で青野の父さんを見た。
「思いつきじゃない、何度か、物を落として試したんだ。
一度、上靴も落として、それが学校で大騒ぎになった。」
おっと、それって美里ちゃんの上靴の事?
「花の模様のついた上靴の袋が川に流されてるのを見て、きれいと
思ったけど、そのうち、それがだんだん沈んでいき怖くなった。
夜なら、水が見えないから飛び込めると思った」
事の深刻さで、空気が重い。
じいちゃん、どうしたらいい?この子、家に無理やり帰したとしても
また、飛び出すかもしれない。
とうの健吾君は、話してホっとしたのか、満腹になったせいか、
ウツラウツラしだした。
「今日の所は、青野さんから、迷子をウチで保護してるって事で
警察に事情を説明しておいてくれないかい?
捜索願が出てたら、警察ですぐわかるだろう。
どうも、この子を起こすのが不憫なきがするんだよ」
もちろん、子供の思い込みでとっさの自殺願望であってほしい。
ただ祖父は、何か、違う事を疑ってるみたいだ。
育児放棄、虐待の類だ。さっきから、健吾君の手足を見てる。
青野父さんは、心配しつつも帰っていった。
警察には捜索願も出てないそうだ。
祖父は、困った末に、この間、親しくなった学校の主任の先生に
電話をかけた。親が独自で捜索してるって事もある。
主任の先生は、ちょうど、用事もあったからと、ウチによってくれた。
そこで、健吾君のフルネームがわかった。
「これは、6年3組の小林健吾君だ」
そこからが、大騒動だった




