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有意義で残酷な父の手紙

月曜日、父と柿沢さんは、楽譜をたずさえて、帰っていった。

途中、東京の事務所でアリサさんと打ち合わせするそうだ。

事務所の拡大と事務員の補充は、やっぱり母を入れるためか・・

楽譜のリテイク分は、山崎がなんとか終わらせたようだ。

夜遅くまで作業したのか、朝、目が充血していた。


「やれやれだね。雅之が来ると台風なみに家の中が

ゴタゴタするんだよ、昔からね。

まったく、空気が読めないっていうの?KY?っていうのかい?

あれに近いね。」

それでいて、憎めないのは父が”天然”だからか?

オケでは、KYで団員と上手くいくのか?


父の事より自分の事だ。

次の日曜日は、八重子先生のレッスンだ。しっかりしないと。

ー・-・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-・--・-・-・


学校ではそろそろ定期テストの話が出てる。

僕は、やばい。ピアノの練習ばかりで、勉強をしてない。

今頃になって、休み時間とか、あわてて復習したりしてる。


脇坂は、あせってない。さすがだ。

と思ったら違った。

「模試の結果が下がったです。旭川の医大を第一希望としてる

のですが、前回はA判定だったのが、今回マイナスA判定。

下がりました。サボっていたつもりはないのですが・・

他の受験者がスパートをかけてきて、それに僕が追いついてない

って事でしょう」


脇坂は落ち込んではいない。イラついてるのか、考えこんでるのか

成績のレベルが違いすぎて。ちょっと相談には乗れないけど

「テスト範囲の得手不得手とか、あるんじゃない?

僕も苦手な作曲家っているし」


「ええ、たぶん、それだとは思います。

が、ちょっと勉強量が足りないのでしょう。」

「脇坂は、家事もこなしてるからな、時間がとれないのはしょうがない」


脇坂は、なぜか照れながら、

「いえ、家事はいい気分転換になりますから大丈夫なのですが。

最近、妹のメール責めにあってます」と苦笑いした。

嬉しい気持ち90㌫、心配9.9㌫だろうな。


青野がテストの話題ではいってきた。

「裕一、今回、英語、やばいんだ。特訓用のプリント作ってくれよ

お願いだ。推薦取り消されたら、路頭に迷う」

路頭に迷うのは大げさとしても、推薦取り消されるくらいひどい点数では

まずいだろう。でも特訓用って・・


廊下で話してたのを山崎が聞きつけて、”裕一俺も英語特訓よろしく”

山崎は大丈夫だろう・・・

3年生になり、さすがにテストに対して皆、敏感になってるようだ。


ー・-・-・-・-・-・--・-・-・-・--・-・-・-・-

家で、練習をしようとすると、父の僕宛の手紙がピアノの上に

置いてあった。きっと昨日のコンクールについてだ。

きっと批判しか書いてないだろう手紙を、僕は勇気をだして読む


裕一へ

エチュードは、問題なかったね。可もなく不可もなく。

もう少し自分の考えを出してもいいと思ったけど、大学受験のため

練習中だし、今はこれで十分だろう。

ベートーヴェンは、正直、いまいちだった。

Largo-Allegro-Adagio-Largo-Allegro 、の最初の部分が

難しいんだ、この曲は。テンポとかタイミングとか。

教科書通りに弾いてるって感じだった。ただ、自分のものになってない。

問題は、作曲家が、最初のAllegroと次のAllgdroと計ったように

同じ速さを望んだかどうか、自分で考えてみた事はあるかどうかだ。


受験のための勉強だから、ある程度は先生の言う通りに弾くのがいい。

ただ、レッスンへ行く前に、自分なりに”こう曲を作ろう”と

深く研究したか事があるかい?

言われた通りの弾き方だと、問題なく曲は進むが、面白くないけどね。

よく考えたほうがいいよ。


まあ頑張って。落ちても心配いらないよ。事務所で使ってあげる。


PS 優勝の横田君はダントツだったね。裕一もわかるだろう?

残念だけど、これが”才能の差”ってやつかもしれない。

彼は、海外で勉強したほうが伸びるだろう。日本だと窮屈にちがいない。




むう・・なんといったらいいだろう・・。

父のアドバイスには非常に感謝しないといけない。癪にだけど。

言う通りにすれば、八重子先生の言っていた”僕の足りないものの解明”

に近づくかもしれない


PS部分は、僕には余分だ。わかってる。横田君のほうがすごかったのは。

でも、”これが才能の差”ってズバって言われると、若干、傷つく。

僕の才能のなさは知ってるけど、そこを練習で補えると思ってた。

でも、それだけじゃダメなのだろう。


かあさんも、七転八倒して「シャコンヌ」ただ1曲のため、練習

しっぱなしで、だめだった。

きっとそういう事だ


練習はじめに、後ろ向きな気分になってしまった。


もういい。ラヴェルのソナチネ、練習しよう。

ちょっと課題から離れたい


1楽章を少しだけさらうと、そのメインの旋律が、3楽章でも形を

変えて出てくる。3楽章をさらうと、そこの音を出すのが効果的なのが

わかった。こんな調子でいいのだろうか?

まあいいか。この曲を弾くのはいい。水で心が流されるように浄化されてく。

まあ、慌てて理性を取り戻して、もう一度、弾きなおす。

音色がキラキラしてるのがいいな。僕の音は地味だ。


もちろん、ベートーヴェンのソナタも練習した。

自分でどうしたいか、先に研究するのか。

この曲、最初から見直してみようか。何かでてくるかも


結局、ピアノの練習だけで、その日は終わってしまった



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