釧路でのレッスン、コンクール
脇坂妹は、いったん、帰ることに。一方、裕一は八重子先生の指示にびっくり
次の日は、日曜日で僕は、釧路の八重子先生のレッスンのあと、
例の”音大受験4人の会”がある。今回の話題は、ベートーヴェンのソナタ、
や課題の自由曲について、(というかたぶん、雑談になるかな)
「裕一、今日は帰りが遅いんだろ?」
「ごめん。”4人会”で勉強なんだ。最終で帰ってくる」
「じゃあ、その時間に駅に迎にいくよ」
ありがたい、祖父の申し出に感謝しながら、僕は朝食を急いで食べた。
脇坂の妹は、僕と一緒の列車で行き、そこから札幌に帰る予定だ。
”帰りたくないのよ”なんて、ブツブツいいながら、ごはんをお替りしてた。
”う~~ん、まじおいしい。太ってもいいか。”
いつもは、真理亜ちゃん。朝食はトースト一枚にコーヒーだそうだ。
さすがの山崎もその食欲にびっくりしてる。
(ちなみに、気を使って、”準備してる祖母を手伝う”なんて事は、
真理亜ちゃんには、その気は微塵もないようだ。
ウチは旅館でもレストランでもないんだけどね。
家を出るとき、一応”お世話になりました”って頭を下げたので
許してあげようか。僕が兄なら説教だ。
駅では脇坂が待っていた。
「裕一、妹がお世話になりっぱなしで、大変、申し訳なかったです。
後で父が改めて挨拶に伺うと言ってました。
今日は、妹を釧路まで送ります。」
脇坂は、妹に説教をしながらも、心配してるのがよくわかった。
真理亜ちゃんの、事情はわかってるだけに、”そんなに居づらいのなら・・”
と、言い出しそうなのを、我慢してるのだろう。
卒業のために、真理亜ちゃんは、帰っていったけど、こっちに
転入してる可能性大だ。”女医はいらない”って言われたようなもんだし、
女医目指して頑張った自分の居場所が、ないのは目に見えてる。
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八重子先生のレッスンでは、ショパンのエチュードの練習不足を指摘された。
うん、当然かもしれない。。ベートーヴェンにかかりきりだったし。
エチュードの25-9は、なんとかOKをもらった。
”エチュードだから、終わったといっても、何度も練習してね”の
指示つきで、新しく10-11が課題にでた。
この曲は、人によっては、”なんだこりゃ”の形だろう。
手を大きく広げてアルペジをを延々と弾かなければいけない。
手の小さい人には、苦手だろう。
平均律は、1集の17番から残り全部。
「本当はフーガだけもっと練習しないといけないのだけど」
それは僕も感じてる。フーガの部分は練習すればするほど、
わからなくなったり、迷ったりする。
ベートーヴェンのソナタは、八重子先生は、顔をしかめながら
「この曲、私も最初、苦労したのよ。昔は弾けたけど、
今は、弾けても昔ほどの”パワー”をもって弾けるかどうか。
この曲は、体力・気力勝負ね」
つまりは、ffで弾く所は、パワー全開で、ppの所は、
細心の注意力をもって、次につなげないといけない。
何度か指示と注意をもらって、レッスンは終わった。
僕は先生にザルツブルグの話とお土産のモーツァルトチョコを渡した。
ザルツブルグで聞いたモーツァルトのピアノ曲の話になった。
「僕は、演奏者のシュトルツのモーツァルトは、少し感情的というか、
ロマン派っぽい弾き方で、へ~~って思いましたけど、友達は
感動してました。聴衆も反応が千差万別っていう感じでした。」
いろいろ勉強になったザルツブルグの一番の思い出は、
弦楽四重奏曲で爆睡した事かな・・
八重子先生は、爆睡の話で大笑いして、
「ありがち・・あの曲はヤバイのよ。ははは。
それにしても、モーツァルトはやっぱり難しいのね。
実際の演奏を聴くのと、CDでは全然違うもんだしね」
「あ、そうそう。今度の6月にちょっとしたコンクールに
エントリーしておいたから。曲はベートーヴェンのソナタでもいいし
なんでもいいわ。後、バッハの平均律から1曲と
ショパンのエチュードから1曲ね。」
・・爆弾発言だ・・そういう事はもっと早くしらせてほしい・・
6月って、もう3か月もないかも。
それは、ピアノ教師の全国的な組織は開くコンクールで、八重子
先生も、その組織につい最近入ったとか。
で、度胸試しにコンクールに出てみよう との配慮だ。
考えてみればありがたい事だけど、コンクールと聞くだけで
僕はもう緊張してきた。
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八重子先生の爆弾発言をかかえながら、僕は4人会に行った。
それぞれ近況を話し合い、僕は、サルツブルグの話とコンクールの
話をした。驚くべきことに他の3人もエントリーしてる。
「ああ、あのコンクールね。緊張する事ないのよ。子供から高校生まで。
グレードは違うけど。去年は、やっぱり音大受験生が出たわ。
やっぱり度胸試しにでる受験生がほとんどね。
地元主催者もわかってるみたいだけど」
「でも、本命は5人目よね・・うちらの中じゃ」
湯川恵美ちゃんが、ポテチを食べながら、当然のように言って、他の2人もうなづく。
「5人目って・・あの発表会ではウチらしかいなかったけど、
本当は、横田 正って、めちゃ上手い人がいるのよ。
当日、風邪で高熱だして出られなかったけどね。」
「へ~横田君、出るんだ。珍しいね。こういうの興味ないと思ったけど
彼が出るのなら、僕も辞退しないで、出てみるかな。
芸大も受かるという彼のピアノを聞いてみたいしね」
河野純一君は、旭川教育大音楽家志望。本人は音大に進みたいけど、
両親の猛反対で、諦めた。
結局、河野の家の音楽室でお菓子を食べ炭酸飲料のみ それで終わった。
勉強はしなかったけど、楽しい会だった。
コンクールも”本命”決まりなら、そう負担にならずにすみそうだ。
最終列車で帰ろうとすると、駅に脇坂が立ってた。
「裕一、奇遇ですねとはいいません。ちょっと相談があったので、待ってました」




