キツネ君騒動
”かかしゃま、かかしゃま”と泣きじゃくる、キツネ縫いぐるみもどきは、
泣き止まない。
「裕一、この声,今まで気づかなかったのかい?」
「旅行中は、移動、観光、移動、アトラクションとヒマがなかったから。
友達ともだいぶ騒いでたし」
「裕一が、見えて声が聞こえるってことは、いわゆる幽霊の類ではないかもしれない。
そういえば、お前、京都に行ったんだっけ。その時についてきたんのかも。
お前、伏見稲荷神社にでもよったのかい?」
京都・奈良は修学旅行の定番で、お寺めぐりはしたけど、
特に稲荷神社に行った覚えがないけ。
とりあえず、踏んだら困るので、テーブルのの上に座ってもらった。
音楽室のテーブルには、ラベンダーのドライフラワーが花瓶に入れてあり、
キツネ君(キツネのぬいぐるみもどき じゃ、長いので名前をつけた)は、
その花の香りをかいで、ちょっと気分が落ち着いたようだ。
やっと泣き止んだけ。
僕は、いろいろ質問してみた。
どこにいたか?どこから僕についてきたか?名前、年齢、性別、・・
全部、わからないと、困り顔でキツネ君は言った。
キツネ君は、”気がつくと、母親もいなくなっていた。
どこか薄暗い所にいて、遠くに明かりが見えたので必死についてきた”とのこと。
その明かりの元が僕か・・意味わからん。自室にもどりPCで調べてみた。
こういう世界は、調べてもよくわからないな。
とりあえず、伏見稲荷神社というのが、大元。
キツネはその神社の祭神のお使いをするんだそうだ、パシリみたいなもんだな。
音楽室に戻ると、少しだけ機嫌をよくしてた。
祖母が お茶をあげたそうだ。飲むことはできないようだけど、
キツネ君曰く、お茶を入れてくれる”気持ち”が大事みたいだと。
まあ、とりあえず、害はなさそうだし、音楽室のテーブルの上をいてもらおう。
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ピアノの練習を始めて、そういえば、西師匠の所で、バッハの平均律を
見てもらわなかった事を思い出した。
今回は、ベートーヴェンだけで終わったものな。
僕は、疲れてもいたので、譜読みではなく、今、復習してるバッハの曲を
弾きだした。バッハは教会のオルガニスト兼音楽監督で、終生、その仕事
を全うした人だ。マタイ受難曲のような大きな宗教曲や、教会で歌われる曲も、
多く書いている。一方で、子供のための小作品も多く作曲した人だ。
曲を弾きだすと、キツネ君が、ピアノの上にのってきた。
「われ、何か思い出しそう。われのために弾いたのか?」
「残念だけど、違うよ。」
キツネ君、言葉もしっかりしてきた。じゃあ、この曲を聞いたら
もっと思い出すかも。僕は、「主よ、人の望みよ、喜びよ」という
有名な曲を弾いた。
お。目がしっかりしてきた。思い出したかな?
「これ、なんて名前の歌じゃ?」
「〝主よ、人の望みよ、喜びよ”って曲、外国の讃美歌?かな
外国で、主っていうのが、神様の事なんだ。」
キツネ君、また、しばらく考えてる。その姿がかわいい。
他の人に見えたら、女子には大うけするだろう、可愛さだ。
「思い出した、少しだけど。われ、主様のお使いで、
どこかに出かける途中だったのかも。いつもは、もっと明るい所。
気づいたら暗い。きっと迷ったのじゃ」
僕は、わかったような、わからないような・・
系列の稲荷神社にいけば、わかるだろうか?面倒なんで、
京都の伏見神社にいったほうが、早いのだろうけど。。
練習は、バッハだけで早めに終わりにした。さすがに疲れた。
寝室に行く僕をキツネ君は追ってきた。寂しいらしい。
しょうがないので、机の上にタオルを重ねて、横になれるようにした。
って、お使いキツネって、寝るもんなのか?いまいち疑問だけど。
本人の希望だから・・
朝、起きたら、キツネ君は、小さなキツネになって寝ていた。
(本当に寝るんだ)
そっとそばを離れたのに、起きて昨夜のような人の姿に変わった。
とにかく、僕の傍を離れない。学校も無理やりくっついてきた。
人の形(キツネ耳尻尾つき)になってるのは、疲れるというので、キツネの姿
のまま、制服の胸ポケットに入ってる
クラスの皆は誰も気づかない。当然かな
ただ、キツネの姿になっても、元気がなくなっていくのは、わかる。
ふmm僕は、しばらく考えて、じゃあ、今日は町内の神社めぐりを
してみる事にした。神主さんなら、何かいい方法をしってるかも。
とりあえず、町内で一番大きな神社(僕は神社はここしか知らないけど)
へ、行くことにした。
神社の境内は鬱蒼とした森に囲まれ、いかにもって雰囲気だ。
入ろうとしたとき、狛犬がこちらを向いた。
僕は、あっけにとらた
(これ以上の立ち入りを禁ず。お前の主様は、ここにはおらず)
(早々に立ち去り、主のもとに戻れ)
(我、道に迷ったようで、主様がどこにおられるか、わからぬ)
狛犬が、ため息をついたような仕草をした。
(しかたない、少し力をわけよう。早く主様の元に戻らぬと消えてしまうぞ)
信じられない会話だ。でも、最後 ”消えるとかなんとか”




