戻って来た非日常の日常
「シエラちゃん! ずっと待ってたんだからねっ!」
「ごめんね早矢香、心配させて」
「帰って来て良かったよぉ」
翌日のお昼前、シエラちゃんが帰って来た事を伝えてから三十分も経たない内に赤井さんは我が家へ訪れ、再開したシエラちゃんを思いっきり抱き締めた。
「早矢香様、この度はご心配をおかけしました」
「シルフィーナさんも一緒に戻って来たんですね、本当に良かったです」
「ありがとうございます」
「もう黙って居なくなっちゃ嫌だよ?」
「うん」
「困った時は何でも相談していいんだからね?」
「ありがとう早矢香、これからはそうするね」
「うん! ところで先生、倒れたって聞きましたけど、具合は大丈夫なんですか?」
シエラちゃんの返答にとても安心した表情を見せると、赤井さんは抱き締めていた手を放し、今度は俺に向けて心配そうな表情を見せた。
「ああ、ちょっと疲れが出ただけさ、しばらく寝てれば治るよ」
シエラちゃんと再会したクリスマスイヴの夜、倒れた俺はシエラちゃんとシルフィーナさんによって家まで運ばれ、ベッドに寝かされたと聞いた。そして俺の体力はシエラちゃんを捜す事に使い過ぎていたからか、一気にその反動が体を襲い、こうして熱を出して寝込む事になってしまった。
「先生ってば、毎日シエラちゃんを捜してあちこち回ってましたからね、疲れちゃったのも無理はないですよ」
「先生、本当にごめんなさい……」
「いや、謝らなくていいんだよ、俺がシエラちゃんを捜してたのは、俺がそうしたかったからしてただけだからさ」
「そうそう、先生はシエラちゃんが居なくて寂しかったから、シエラちゃんを捜してないと落ち着かなかったんだよ」
「赤井さん、その通りだとは思うけど、本人を前にして言うのは止めてくれないか? 俺としては結構恥ずかしいんだからさ」
「えー? どうしてですかぁ? 純愛っ! って感じでいいじゃないですか」
「そういうのを他人の口から聞くと、思ってる百倍くらい恥ずかしいんだよ」
「あははっ、先生は大人のくせに初心ですねぇ」
「こらっ、大人をからかうもんじゃないぞ?」
「はーい」
赤井さんはペロッと小さく舌を出すと、悪びれる様子もなくシエラちゃんの背後に回って再びシエラちゃんを抱き締めた。
「ねえ、シエラちゃんはまた学校に来るよね?」
「うん、また行きたい。でも、沢山休んだから戻れるかな?」
「それについては大丈夫だよ、事情もよく分からなかったし、俺が休学って事にしておいたからね、いつでも戻って来られるように」
「流石は早乙女様、抜かりがございませんね」
「ありがとう先生、私の居場所を守ってくれて」
そう言うとシエラちゃんは俺の手を握り、にっこりと笑みを見せてくれた。
「う、うん、これくらいは当然だよ」
愛しい人の笑顔が目の前にある、ただそれだけの事がこんなに嬉しくて温かいなんて、これまで知らなかった。だからこそこの笑顔をずっと見ていたいと思えた。
「さあ、それじゃあシエラちゃんも帰ってきましたから、今日はパーッとお祝いをしましょう」
「それはいい考えですね、早矢香様」
「でしょ? そうとなったらさっそく準備をしましょう! 先生、シエラちゃんを借りていきますね」
「えっ? あ、うん……」
赤井さんのテンションと勢いに押され、俺は思わず了承の意を示してしまった。
「それじゃあシエラちゃん、一緒に行こう」
「うん、先生、行って来るね」
「二人とも、気をつけるんだよ?」
「はーい!」
赤井さんは久しぶりの明るい返事を聞かせると、シエラちゃんと手を繋いで部屋を出て行った。
「シルフィーナさんは行かないんですか?」
「久しぶりのご友人との再会なのです、シエラ様も早矢香様も、積もる話があるでしょう。ですから今回はこのまま早乙女様のご様子を見させていただきます」
「シルフィーナさんは本当に優しいですね、シエラちゃんがシルフィーナさんを好きだと言っていた気持ちがよく分かります」
「シエラ様がそんな事を!? ああ、シエラ様、私はどこまでもシエラ様について行きます!」
俺の言葉に感極まった様子のシルフィーナさんは、そこからしばらくの間、感動で体を震わせながら感涙していた。




