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君と僕の出会い

 シエラちゃんが魔界に帰ってから一ヶ月以上が経ち、もう十二月二十四日のクリスマスイヴを迎えていた。

 未だに俺は休日や空いた時間を使ってシエラちゃんが住む魔界の入口を探しているが、オカルト話に詳しくなっていくだけで、目的の魔界への入口は未だに見つけられないでいた。諦めが悪いと言われればそれまでかもしれないが、簡単に諦められるくらいなら最初から魔界の入口など探しはしない。


「先生、大丈夫ですか? 少しは休んだ方がいいと思いますよ?」


 二学期の終業式が終わったあと、頭がぼーっとしている俺に心配そうな表情で赤井さんが話し掛けて来た。


「ああ、大丈夫大丈夫、これくらい仕事の残業に比べたら大した事ないから」

「でも凄く顔色が悪いですよ? それに足もフラフラしてますし……」

「本当に大丈夫だって」

「……シエラちゃんの事が心配なのは分かりますけど、本当に無理しないで下さいね? 私も一生懸命シエラちゃんが住む魔界を探してますから」

「ありがとう、赤井さん、頼りにしてるよ。それじゃあ、気を付けて帰るんだよ?」

「はい、さようなら」


 赤井さんは心配そうな表情を崩さず、そのままトボトボと廊下を歩いて階段を下りて行った。


「……生徒に心配をかけるなんて駄目な先生だな、しっかりしないと」


 そう思って気合を入れ直そうとしたが、急に凄まじい立ち眩みと共に視界が歪み、俺の視界は闇に包まれた。


× × × ×


「んんっ……」


 重く感じるまぶたを開けると、俺は自分が横たわっている事が分かって辺りを見回した。


「保健室か……」


 軽く辺りを見回してそう呟くと、突然ベッドがある場所を区切っている薄い肌色をしたカーテンがシャッと開いた。


「目が覚めましたか? 大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です、宮下先生」

「何があったかは知りませんが、生徒に心配をかけてはいけませんよ?」

「生徒が宮下先生に伝えてくれたんですか?」

「ええ、早乙女先生のクラスの赤井さんが倒れている先生を見つけて、職員室に知らせに来てくれたんです」

「そうだったんですか……赤井さんはまだ居るんですか?」

「先生が心配だからってほんの少し前まで居ましたけど、さすがに遅い時間なので保護者に迎えに来てもらってさきほど帰りました」

「そうですか……」

「明日から冬休みになりますから、元気になったら赤井さんに連絡してあげて下さいね?」

「はい、そうします」

「私はそろそろ帰宅しますが、先生はどうしますか? まだ体調が優れない様でしたらタクシーを呼びますが」

「いえ、だいぶスッキリしたので歩いて帰ります」

「本当に大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「途中で具合が悪くなったら、迷わず救急車を呼んで下さいね? この時期に外で倒れたら凍死しちゃいますから」

「はい、気を付けます」


 俺はベッドからゆっくりと起き上がり、職員室に置いていたリュックを背負って学校を出た。


「やっぱり寒いな……」


 完全に陽が落ちている事もあるが、今日の風はいつもよりも冷たく感じ、俺の体温を容赦なく奪っていく。そして寒さに身を震わせながら帰路を歩き、電車に乗って自宅の最寄り駅へ着いて外へ出ると、いつの間にか小さな雪が降っていて、辺りを白く染め始めていた。

 そして俺は止む事なく降り続く雪を眺めながら歩き、シエラちゃんと初めて出会った公園にやって来た。


「やっぱり居ないか……」


 今日こそはシエラちゃんがあのベンチに座っているんじゃないかと思い続けて毎日この公園に来ているが、今日もベンチには誰の姿もなかった。


「今日はクリスマスイヴだってのに、奇跡は起きないもんだな……」


 俺はそんな事を口にしながらベンチに座り、見上げていた空から頭を下げて顔を俯かせた。

 俯いているから姿は見えないが、公園の外を歩く人の気配は時折感じるし、公園の出入口付近で足を止める人が居るのもなんとなく分かるが、誰一人としてこちらに来る気配はない。まあ雪が降るクリスマスイヴの寒空の下、こんなオッサンがベンチに座って俯いていれば気になるのも分かるし、不気味で近付きたくないのも当然だろう。

 しかし言い知れない寂しさを感じているのも確かだった。


「あの時のシエラちゃんもこんな気持ちだったのかな……」


 そんな事を呟いてしばらく座り込んでいると、徐々に俺の身体は寒さを感じなくなり、代わりにゆったりとした眠気が俺を包み始めていた。

 そして俺が押し寄せる眠気に意識を奪われ様としていたその時、誰かが俺に近付いて来る足音がし、その人物が近付くにつれて俺の鼻に食べ物のいい匂いがしてきた。


「……肉まんの匂い?」

「あっ、やっぱり先生だ、こんな所で何してるの?」


 香しい肉まんの匂いに俯かせていた顔を上げると、そこにはコンビニの袋を持ったシエラちゃんが真っ白な息を吐きながら、きょとんとした表情でそんな事を言った。


「シ、シエラちゃん!? 本当にシエラちゃんなのか!?」


 俺は突然の事に驚き、冷えて固まった身体を無理に動かして立ち上がった。


「えっ? うん、そうだよ」

「シエラちゃん……戻って来たんだ……本当に良かった……」

「ど、どうしたの先生? 何で泣いてるの?」


 俺は心配そうな表情をしているシエラちゃんの両肩に手を乗せ、このシエラちゃんが幻ではない事を確かめた。


「幻じゃない……本当にシエラちゃんだ……良かった、もう会えないと思ってた……」


 目の前に居る人が本当にシエラちゃんだと分かった瞬間、俺の意識は急速になくなり、そのままシエラちゃんの方へと倒れ込んでしまった。

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