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どうしても会いたい人

 シエラちゃんが魔界へ帰ってから三週間が経ち、そろそろ十二月を迎えようとしていたが、あれからシエラちゃんが戻って来る様子は微塵も無かった。


「先生、お疲れ様でした」

「ああ、赤井さんも気を付けて帰ってくれよ?」

「はい、お姉ちゃんが迎えに来てくれますから大丈夫です。また来週頑張りましょう」

「ああ、そうだね。それじゃあまた明日学校で」


 陽が沈むのが早くなった夕刻、俺は駅前で赤井さんと別れて一人電車に乗った。


「今日も疲れたな……家に帰る前に銭湯に行って、帰ったらすぐに寝よう……」


 俺は凄まじく疲れた身体から力を絞り出す様にしてそう言い、電車の背もたれに身体を預けた。

 シエラちゃんが居なくなって一週間が経った頃から、俺は赤井さんと一緒にシエラちゃんが住む魔界への入口を探してあちこちを回っていた。探す場所は赤井さんが集めていたオカルト話や都市伝説などを扱った話に出て来る場所だが、そのどれもが魔界どころか異世界にすら通じていなかった。まあそんな物が簡単に見つかれば、この世の中はとっくにパニックに陥っているだろう。

 だけど俺はどうしてもシエラちゃんに会いたかった。だから眉唾な噂であろうと飛びつき、その噂が本当かどうかをその都度確かめに行った。時には赤井さんを連れずに一人で。

 しかしそんな慣れない生活が続くと、やはり身体にも心にもガタがくる。そして銭湯で今日の疲れを癒やして家に戻って来た俺は、持っていた荷物を雑に玄関に置いてベッドに向かい、その上に身体を横たわらせた。


「はあっ……」


 シエラちゃんが居なくなって三週間も経つと、もうこの部屋にシエラちゃんが居た時の匂いは完全に感じなくなっていた。唯一シエラちゃんの匂いが残っていたイルカのぬいぐるみでさえ、今や完全に俺の匂いに変わっているくらいだ。


「シエラちゃん、もう帰って来ないのかな……」


 魔界に住むお父さんに帰って来るように言われたから帰ったということ以外の情報を知らない俺は、帰った理由すら分からなかった。もしも何かしらの理由を聞かされていたなら少しは違ったかもしれないが、どちらにしても俺はこんな事にはなっていたのかもしれない。


「……そういえば今日はあそこに行ってなかったな」


 本当ならこのまま眠る予定だったが、俺はシエラちゃんが居なくなってから毎日行っている場所があった。さすがに今日は疲れたからこのまま寝てしまおうかと思ったりもしたが、習慣というのは一度根付くと身体が勝手に動くらしく、俺はいつの間にか厚手の上着を着て冷えた空気が支配する外に出ていた。

 そしてあまり人気の無い外へ出た俺はそのまま歩き続け、シエラちゃんと始めて出会った公園のベンチへとやって来た。


「……やっぱり居ないか」


 シエラちゃんが居なくなってからの俺の日課、それはこの公園へやって来る事。それは単純にここへ来ればシエラちゃんが居るのではないかという期待からだったが、そんなのは俺の幻想だとすぐに思い知った。 

 現実はどこまでも残酷で冷酷だと、これまで歩んで来た人生の中で嫌というほど体験して来たはずなのに。


「何やってんだろ、俺……」


 シエラちゃんが膝を抱えて座っていたベンチに座り、俺は白い吐息と共にそんな言葉を漏らした。

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