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悪魔少女は頑張りたい

 お互いに素直な気持ちを言い合った日から三週間ほどが経ったが、あれから俺達の関係に何か進展があったのかと言えば何もない。だけど前みたいにお互いぎこちなくなるとか、シエラちゃんが俺を避ける様な事はなくなっていった。


「シエラちゃん、飾り付けはこんな感じでどうかな?」

「いいと思う」

「OK! それじゃあ次に行こー♪」

「うん」


 そろそろ十月も終わろうかという頃の放課後、我らが学校の生徒達は文化祭の準備を行っていた。学内の至る所から生徒達の楽しそうな声と準備の音が聞こえ、その雰囲気が十数年前に終わった自分の青春時代を思い起こさせる。

 そして俺はそんな楽しげな雰囲気を感じつつ、不思議研究会の部室で文化祭用の飾り付けをしているシエラちゃんと赤井さんの様子を椅子に座って眺めていた。


「シエラちゃん、そっちの飾り付けをお願いしてもいいかな?」

「うん」


 未だに二人だけの部活だが、新入部員が来たら来たで面倒そうだし、男子生徒が来たらシエラちゃんの事が心配になるから、今はこのままでいいと思う。


「先生、こんな感じでいいかな?」

「うん、いいと思うよ」

「良かった」


 返答を聞いてにっこりと微笑むシエラちゃん。そんなシエラちゃんを見ていると、俺も自然と笑みが溢れてしまう。


「おやおや~? 先生ってばニヤついますよぉ? 見せつけてくれますねぇ~」

「こ、こら! 大人をからかうんじゃない」

「あっ、シエラちゃんは赤くなってる、もぉー、可愛いなぁ~♪」

「さ、早矢香苦しいよ」


 俺の言葉など全く気にしていないらしく、赤井さんは標的をシエラちゃんに変えてから思いっきり抱き付いた。

 その様子は仲の良い女の子の可愛らしい戯れで、見ている俺としてはいい目の保養になる。しかしそんな戯れをしている赤井さんにその場を代わってほしいという思いもあった。


「あっ、先生そろそろ職員会議があるから、気を付けて準備を進めるんだよ?」

「お任せでーす♪」

「うん、分かった。いってらっしゃい」

「いって来ます」


 まるで家に居る時の様なやり取りにニンマリしつつ、俺は職員室へと向かった。


× × × ×


「先生、活動報告書を持って来ました」

「ご苦労様、飾り付けはもう終わった?」

「シエラちゃんが頑張ったおかげで終わりました」

「そっか、それなら良かったよ」

「最近の先生とシエラちゃん、なんだかいい感じですね」

「いい感じ?」

「前はどことなく他人行儀だったのに、最近は初々しい恋人みたいに見えるので」

「そうなのか?」

「はい、だからついからかいたくなっちゃうんですよ♪」

「それだけは勘弁してくれ。それでもうシエラちゃんは帰ったのか?」

「いいえ、今はクラス準備の手伝いをしてると思います。本当は私もシエラちゃんと一緒に手伝いをしたいんですけど、ちょっと用事があるので」

「そっか、気を付けて帰るんだぞ?」

「了解でっす♪」


 赤井さんは左手を使って敬礼をすると、軽やかな足取りで職員室を出て行った。


 ――あとで様子を見に行ってみるか。


 頑張っているシエラちゃんの姿を見る事が出来ればいいなと思いつつ、俺は自分のやるべき事を進めた。


「――さてと、ちょっと行ってみるか」


 赤井さんが帰ってから約二時間、俺は切が良い所で席を立ち一組へと向かった。すると一年生のクラスがある階は既に静まり返っていて、人が残っている様な気配を感じなかった。

 しかし俺が担当する一組の教室の扉は開いていたので、俺はそこからそっと中を覗いてみた。


 ――あれっ? シエラちゃん一人だけか?


 教室内には椅子を使って高い所の飾り付けをしているシエラちゃんの姿しかなく、他のクラスメイトが残っている感じもない。

 そんな様子を見た俺は、作業をしているシエラちゃんを驚かさない様に教室内へ入ってシエラちゃんに近付いた。


「お疲れ、シエラちゃん」

「先生、まだ仕事してたの? 頑張ってるね」

「そう言うシエラちゃんも頑張ってるじゃないか」

「みんなでこういう事をやるのは初めてだから、みんなの役に立ちたいの」

「そっか、他のみんなはどうしたの?」

「ついさっきみんな帰った」

「それじゃあ一人で飾り付けをしてたの?」

「うん、みんな喜んでくれるかな?」

「そりゃあ喜んでくれるとは思うけど、みんなで一緒にやった方がもっと楽しいし喜ぶと思うよ?」

「そうなの?」

「うん、シエラちゃんだってみんなと一緒にやった方が楽しいしでしょ?」

「そっか……うん、そうだね」


 椅子の上に立って作業をしていたシエラちゃんはその手を止め、俺の言葉に柔らかく微笑んだ。


「さあ、今日はもう遅いし一緒に帰ろう、残りは明日みんなでやればいいからさ」

「うん、そうする、あっ!」

「危ないっ!!」


 頷いて椅子から下りようとした瞬間、シエラちゃんは椅子の上で足を滑らせた。

 それを見た俺は咄嗟に両手を開き、シエラちゃんをしっかりと抱き止めた。


「大丈夫!?」

「う、うん、大丈夫……ありがとう、先生……」

「い、いや、どういたしまして……ん?」


 シエラちゃんに何事も無かった事に安堵したのも束の間、俺は抱き止めたシエラちゃんの背中にくすぐったい肌触りを感じて少しだけ身体を離した。


「く、黒い羽!?」


 向けた視線の先には見事な漆黒の羽があり、その後ろには蛇の様ににょろにょろと動く悪魔の尻尾があった。

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