二人で一緒にやりたい事
シルフィーナさんと協力して一つの大きなテントを張ったあと、俺はベンチで談笑をしている二人のもとへ向かい、テントを張り終わった事を告げた。すると二人は張り終わったテントに興味津々だったらしく、早足でテントがある方へと向かって行った。
「すっごーい! おおきーい! ねえシエラちゃん! 見て見て!」
「これがテント?」
「そう! 今日はこの中で色々な事をするんだよ?」
「色々な事? 何をするの?」
「そりゃあもう、シエラちゃんとシルフィーナさんから恋バナを聞いてみたりとか、ちょっとエッチな話をしてみたりとか、とにかく色々だよ!」
赤井さんは張られたテントを前にテンション高くそんな事を言っているが、恋バナはまあいいとして、赤井さんにはあとで倫理に基づいたお話をじっくりとしておく必要があるだろう、シエラちゃんが妙な事に興味を持たない様に。
「先生、中に入っても大丈夫?」
「大丈夫だよ、でも中に入って騒がない様ね? テントが崩れたら危ないし、周りの人達にも迷惑になるから」
「うん、分かった」
「赤井さんも分かった?」
「もちろん分かってますよ! シエラちゃん早く行こう!」
シエラちゃんはともかくとして、赤井さんは更にテンションを上げながらシエラちゃんを引き連れてテントの中へと入って行く。
――ホントに分かってんのかな……。
テントの中から聞こえてくる赤井さんの黄色い声に不安を感じつつも、その声に混じって聞こえてくるシエラちゃんの楽しそうな声に、俺は思わず頬を緩ませていた。
× × × ×
テントの中に持って来た荷物を置き、シルフィーナさんが作ってくれていたお弁当を食べたあと、俺達は荷物番を買って出てくれたシルフィーナさんを残して不思議研究会の活動を始め、パワースポットと言われている場所を片っ端から回った。その時間はだいたい二時間ちょっとだったが、その中にはパワースポットとしてご利益がありそうな感じの場所から、何でここがパワースポットなんだろうか? ――と言った感じの訳の分からん場所まで様々だった。
結果としてはパワースポットのご利益があるかどうかは分からなかったが、シエラちゃんが言うには、『いくつかの場所にはパワーが集まってる場所があったよ』との事だった。それを聞いた俺はシエラちゃんの中二設定がまた始まったと思ったわけだが、その話を聞いた赤井さんはとても喜んだ感じでその話を聞いていた。
ちなみにシエラちゃんが言っていたパワーの集まる場所は赤井さんが集約をし、そのあとで更なる検証を兼ねて三人でその場所を回る事になってしまったわけだが、もしもシエラちゃんのその発言が無ければ、おそらく一時間も経たずにパワースポット巡りは終了していただろう。
「シエラ様、早矢香様、これから夕飯作りに入りますが、包丁を使う際は十分にお気を付け下さい」
「うん」
「了解です!」
「ではまず私が包丁の使い方をお見せ致しますので、シエラ様と早矢香様は私の両隣へおいで下さい」
料理ができないシエラちゃんに頼まれて調理を教える事になったシルフィーナさんは、とても張り切った様子で材料のジャガイモを掴んで皮を剥き始め、綺麗に皮を剥いたジャガイモをこれまた綺麗にイチョウ切りにして見せた。ちなみに赤井さんは、シエラちゃんに便乗する形で料理を教わる事にしたらしい。
それにしても、シルフィーナさんが料理をする様子は何度か見た事があるけど、その手際や出来栄えは毎回とても素晴らしく、これで料理の経験があまり無いとはとても信じられないほどだ。なんでもいくつかの料理本を見て作り方や調理の仕方は色々と知っていたらしいのだが、それをしっかりと再現できるのはやはり才能なのだろうか。
「あっちは任せておいて大丈夫そうだな」
真剣な様子でシルフィーナさんから包丁の使い方を習うシエラちゃんを見たあと、俺はご飯を炊く為に三つの飯盒を持って別の調理場へと向かった。そして小さな頃の記憶と携帯の力を使い、約一時間後には無事にご飯を炊き上げる事ができた。
「さてと、あっちはどうなってるかな?」
焚き上げた飯盒を持って一度テントまで戻ったあと、俺はキャンプでは定番のカレー作りをしている三人のもとへと向かい始め、頑張っているシエラちゃんや赤井さんの集中を乱さないよう、二人の視界に入らない位置から近付いてその様子を眺め始めた。
「シ、シルフィー、変な灰色の泡がいっぱい出て来たけど、これはどうしたらいいの? 失敗しちゃったの?」
「シエラ様、落ち着いて下さい。これは灰汁というもので、このお玉を使って丁寧にその灰汁を取り除いて下さい」
「わ、分かった」
シエラちゃんと赤井さんに気付かれない様に近付くと、シルフィーナさんだけはすぐに俺に気付いた。そしてそんなシルフィーナさんに向けて右手の人差し指を口に当てて見せると、シルフィーナさんは小さく頷いてから再びシエラちゃん達へと視線を向け直した。
「シルフィー、こんな感じでいいの?」
「はい、その調子で大丈夫です」
「シルフィーナさん! こっちもお願いしまーす!」
「はい、すぐに参ります」
少し離れた位置で別の事をしている赤井さんの所へシルフィーナさんが向かったあと、俺はすぐにシエラちゃんの隣へと向かった。
「調子はどう? シエラちゃん」
「あっ、先生、シルフィーに教えてもらってるから、きっと美味しくできると思う」
「そっか、それは良かったよ」
「うん。私ね、先生が料理を作ってる時に食器を出したりとかのお手伝いしかできなかったけど、これからは料理も作ってみたいんだ」
「それでシルフィーナさんに料理を教えてって頼んだの?」
「うん、私も料理が出来る様になって、先生と一緒に料理がしたいから」
そう言って柔和な笑みを浮かべるシエラちゃんは本当に可愛らしく、つい胸がドキドキと高鳴ってしまう。
「……それじゃあさ、これからは一緒に料理を作ってみる? 俺が教えられる事は教えてあげるからさ」
「いいの?」
「もちろんだよ」
「それじゃあ先生、このアク取りっていつまでやればいいの?」
「放っておいても灰汁がほとんど出なくなるまでだよ」
「なるほど」
こうしてカレーが出来上がるまでの間、俺は初々しいシエラちゃんと一緒に料理作りを楽しんだ。




