60空棺の帰還と新たな出発
P7反乱軍戦の後始末がある程度終了し、カリスティア率いる五隻の星守と星守専用艦は先んじて帰還した。
ダグワーレン銀河帝国直轄領グラード星系。
同国首都星ダグランツ。
この日、銀河帝国皇帝ベサリウス・ダグワーレンはリリーン宮殿で五人の星守と、二つの棺を出迎える。
「カリスティア・ファーラ・ダグワーレン、バルバ・ローツ・バルバロン、ミーテッシャ・ユグラン、サンファン・ジン、テララ・テトラ。以上五名、主命を終えて帰還致しました」
「ご苦労である」
ベサリウスはそう答えた後、二つの棺に目をやった。
「報告を」
「はっ! 呼称P7反乱軍の起こしたD事件の調査はほぼ終了致しました。その詳細は後ほど、書面にて提出いたします。そして……」
カリスティアは一度、言葉を切る。
「P7反乱軍が卑劣にも大義名分として利用するために誘拐したリリスミア・ファーラ・ダグワーレンと、その捜索を行なっていた星守No.38フォクサ・アンヘインは、反乱の最中に敵兵器を身を持って止めるために星守専用艦にて突貫を行い、敵兵器もろとも死亡致しました」
カリスティアがそう呟くとともに、謁見の間の隅で声が上がった。
そちらに視線をやると、リリスミアとカリスティアの母である第二皇妃イザミアが嗚咽を漏らしてその場に崩れ、共にいた正妃が彼女の肩に手を置いている。
「汚名を自らの命で濯いだか、見事。そしてフォクサもよく主命を全うした」
皇帝はわずかに表情を動かした後、そう呟いた。
「はっ! リリスミアの棺には残された私物を、フォクサの棺には奴の結晶刃を納めてあります」
「うむ。世が乱れれば人の血が流れる。そこには貴族も民も関係ない。平和とはなんと手の届かぬ存在か」
皇帝はそんな感想を漏らした後、カリスティアたちの労を労った。
リリスミアの棺の前にいる父と母、そしてそれを遠巻きに見守る他の母と兄弟たち。カリスティアはその輪からも離れて様子を眺めていた。
「お疲れ様。大変だったようだね」
「む、兄上か」
カリスティアは物思いを止めて、近寄ってきた第一王子に目を向けた。
たおやかな母親譲りの容姿を持つ兄は、そこらの女性よりも女性らしく見えてしまう。
「僕のデートコースをバラしてくれた妹は帰ってこなかったか」
「怒っているのか?」
「ははっ、まさか。むしろ、あんな方法を考えた策士の方が気になるよ。どうだった、彼は?」
「うむ、いい男だ」
「そうか、それはよかった」
「なにがいい?」
「妹想いの君が託すに足る男だと判断したということだろう? 君たち五人全員、なにやら体の動きが悪いようだけれど? 医療ポッドに入るのが惜しかったのかな?」
前半の真実は棺の中にあるリリスミアの手紙を読んでいる皇帝と第二皇妃しか、いまだ知らないはずだ。
だが、すでにこの男はそのことを知っている。
そして、後者の事実にも気付いてる。
「さすがは星守No.01だ。アリステル兄上」
「ふうん。素直に褒めて誤魔化そうって魂胆かい?」
「なんのことかな?」
「面白くないなぁ。僕も、会ってみたくなるじゃないか」
「兄上はダメだ」
「なんでだい?」
「デートコースを雑誌頼りにするような兄上が、この星を抜け出せるわけがない」
「そんなことはないよ。ちゃんと『スパイの秘密百選』っていう本も読んだから。しかもデータブックスじゃない。本物の紙の本だよ!」
「……つまり、時代遅れ、ということではないのか?」
「……は⁉︎」
「ともかく、政務に忙しい兄上は首都星で大人しくしてくれていればいい」
「ええ」
不満気にするアリステルから離れ、カリスティアは両親のところに向かう。
手紙を読み終えた二人がどういうことかと説明を求めるだろう。
カリスティアはそれに答えなければならない。
そういう約束をしたのだから。
「やれやれ、手がかかる妹だ」
リリスミアからミーシャへの変身が終わった。
工房艦グランダラのリビングで、新しい彼女のお披露目が行われる。
とはいっても顔貌が変化したわけではない。
ただ、特徴的だったアルビノ因子がなくなり、肌から雪のような白さが失われた。
それだけでも大きな変化だ。
特にアルビノは皇帝直系には必ず出現する特質なだけあり、それがないだけでリリスミアであるという雰囲気が消えている。
「ううん、見慣れませんね」
「そのうち慣れるさ」
鏡を見て唸るミーシャを、イオが慰める。
イオも地球人だった時の肉体を捨てていまの肉体になっている。
それに比べれば肌の色が変わった程度、たいしたことではない。
「それにしても、どうしてあんなに悪者みたいな態度だったんですか?」
ミーシャがカリスティアたちと戦った時のことを引っ張り出し、問いかける。
あの戦いの時、ミーシャやヴィルダたちは近くの部屋で様子を伺っていた。
「……向こうが事情を知っていたら、やりにくいだろう」
リリスミアが表向きに死んだことになるという決定は、カリスティア以外の星守たちも知っていたかもしれない。
知っていなかったとしても、リリスミアの救出に関わっていたのだから、そこでいきなり死んだことになるとしれば、その裏にある流れを推測することはできるだろう。
そんなことに頭を回らせて、本気を出せないという状態にイオはしたくなかった。
「わざと怒らせていたんですか?」
「後は、あの四人を問答無用で倒せば、カリスティアも上位者としての意地を出さないといけないだろう?」
妹可愛さでわざと負けたなんていう言い訳もされたくはなかったと、イオは呟く。
「あっ、イオさんの意地もあったんですね」
「それはそう。全部がミーシャのためなわけないし!」
ヴィルダがヌッと顔を出して、ミーシャを威嚇する。
「そうね。イオさんだもんね。《《妹の》》ヴィルダちゃん」
「むきぃぃぃぃっ‼︎」
ミーシャにやり返されて、ヴィルダが猿になる。
「変な癖になってるぞ」
「ぐぐぐぅ……」
イオがヴィルダの頭に手を乗せて抑える。
「それで、これからどうするんだ?」
ミーシャの新たな姿も出来上がった。
次の問題はこれからのことだと、イオはセンダナルに問いかける。
「とりあえず、本社に顔を出して色々と安心させないとねぇ」
やれやれという様子でマニピュレーターを動かし、センダナルがため息を吐いた。
「親離れを済ませた人の横で、子離ればできない大人の話はしたくないものだけどね」
「あははは……」
ミーシャが困った笑みを浮かべる。
「まぁ、本社星系までは時間もあるから、その間にミーシャを正社員にするための教育を終わらせることもできるだろうし、まぁ悪くない選択だとは思うよ?」
「がんばります」
うんと拳を握るミーシャを皆で見る。
「なら、次はそこか。俺は、なにをするかな?」
時間があるというのならと、イオもなにをするかと考える。
「どうせなら、俺もなにか資格の勉強でもするか」
「はい、一緒に勉強しましょう!」
「むうっ! イオには私が教えるし!」
腕を引っ張られながら、イオは決闘をした時といまの空気感の違いに思いを馳せた。
随分と違う場所に来たものだ。
悪くないと、イオはかすかに微笑んだ。




